妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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戦争は終りぬ

 全軍の到着を待って攻撃開始。白紗奪還戦が始まった。

戦況とダメージ交換レートはあまりよろしくない。当たり前だが魔物の方が圧倒的に強いからだ。相手が籠っている場所へ突入すればこうなろう。

 

出撃前に八千居た海路側の兵は現在その半分である。もちろん負傷兵はサッサと療養に下げたからではあるが、散々手を尽くして有利だったのにこの有様。他の部隊がどうなるかは想像に難くはない。

 

「国軍……下がりませんね」

「攻め立てたまま疲弊させようというのだろう。どちらを苦しませる為か知らぬが」

 夏朝総軍二万予は激しく攻め立てて下がっては来ない。

戦闘力の高い魔物に対して持久戦ではなく一歩も引かないのは愚策な気もするのだが……。紅家の将から見て妥当な戦術ではあるようだ。後で聞くと強力な魔族に率いられた魔物は集団行動が可能なので、個の強さを活かした少数突撃で突き抜けて来る時があるらしい。そのまま城の内外で連携し始めると厄介だとのこと。

 

前世の歴史で近いのは三国志で呂布が採用しなかったとされる戦術だろうか。これは城を使って相手を受け止めて、外から強力な騎兵がひっかきまわす掎角の計というものだ。鹿を捕まえるのに角を持って足を払うから付けた名前らしいが、確かに今の僕らを苦しめるには最適だろう。

 

「いずれにせよ、西領勢まで出て居ますのでこちらも下がるわけにはいきませんね。このままでは侯爵さまや悌さまも危険になってしまいます」

「うむ。こちらからも少し回すとしよう。包囲網に穴を空けてしまうゆえ、本来ならばせぬ事だが……」

 大公はここに来て他領の兵を使い潰そうとする行為をやめた。

手元の西領兵や協力する中央の兵も含めて前面に出し、本陣もそれなりの位置へ前進。全軍に攻撃させ続ければ、おのずと他領の兵も消耗するし、批判を受けずに戦えるという訳だ。持久戦も打撃戦も危険度は変わらないということであれば、極端な強攻だけは避けてこのままジリジリと敵味方を削ろうとするつもりに違いない。諸侯も遊牧民の危険性を聞いており、仕方ないと判断するのだから。

 

そして国軍全体が攻勢に出て下がらないのであれば、別動隊である我々が連動しない訳にはいかない。南領の陸路方面は人数が少ない事もあり、危険性も増しているのが何より大きい理由であった。

 

「急な陣形変更は混乱の元だ。前衛は固定し、後衛を少しずつ東側に寄せて援護するとしよう。どこが危ういのか銀殿ならば承知であろう?」

「問題になるのは昼よりも夜から朝にかけて。相対的に手薄になる西側ですね。待機している遊撃隊に伝令を出します。本来であれば、こちらを手当に使うべきなのでしょうけどね」

 フリーに投入する為の予備隊を侯爵さんや悌さまの援護に投入すべきだが、今回は出番がある。

だが手持ちの部隊から割いて移動させると時間が掛かる上、まんべんなく薄くなるので何処に突撃して来るか判らない。かといって放置すると悌さま達が危なくなるので、どちらにしても動くべきだ。それに陸路組がうちの直ぐ東に布陣している事を考えると、大公も僕の報告くらいは読んでいるらしい。

 

そう。遊撃隊を温存するのは、まさに手薄になる場所を魔族が急襲し、突破しようとするところを横から追撃する為なのだから。

 

「魔族は夜目が効きますし、中には空から見ている者も居るかもしれません。こちらが陣容を変更したのに何処かで気が付くでしょう。中央の兵は東からきておりますし、薄い部分の連結を保とうとするのは不自然ではないと思います」

「追い出せれば十分と言えなくもない。それは向こうも知っているだろうが……」

「だが大公の事だ。追撃戦で全滅させられなかったら、不満を申す気であろうな」

 真面目な話、僕ら南領勢からすると魔族を殲滅する必要はない。

国軍からみても本来、遊牧民との戦いを控えていると考えれば無理する必要は無いと考える筈だ。しかし今後に魔族の脅威を感じており、かつ、僕らの失敗を探している大公からすればソレは不手際だと映るだろう。他の貴族は流動的なので平均的であるが……大公はここで少し失敗をした。どうせ最後の戦いであると無理に戦い続けているのだ。

 

そこで生じる反感は名目上の司令官である皇太子殿下に押し付けて、何処かで処刑するつもりだから気にもしていないのだと思われる。実際に大公が中央集権を確定したら、諸侯の不満は仕方なくとはいえそこに落ち着くのだから間違ってはいない。

 

(だけど僕らにとっては好都合だ。大公から見てベストであっても、ここはベターで流すべきだった)

 良くある話だがベストを追い求めることは理念でしかない。

大公からみるとやらないのが嘘なくらいの選択かもしれないが、諸侯からみれば無理に攻める必要はなかったのだ。強襲こそしてないものの戦い続けては被害が甚大になるし、こちらの方が五倍以上なのだから無理せず持久戦で魔族の強さを封じ込めるべきだと思うだろう。

 

とはいえ遊牧民の件と、その後の政変を考えれば大公からすればベスト。暗殺を行い、カウンタークーデターで政権を取り換えず僕らからみれば悪手にしか写らなかった。

 

 そしてその日の夜は特に何もなく、三日後に変化が訪れた。

戦闘そのものは昼のみながら交代で延々と戦い続けている。こちらが夜を徹して篝火を焚き牽制と警戒を続けていたのだが、三日も変化が無ければ段々と弛緩する。しかも昼間は戦っているので猶更であろう。

 

そしてこちらが馴れた頃に、戦力を集中して西側を突破して来たのである。

 

「夜襲です! しかも……殿は巨人族とのこと!!」

「まだ残っておったのか。おのれ、この機会を狙っておったな!」

(演技が上手いな。知ってたくせに)

 先行して潜り込んでいる者たちから、最後の巨人族が残っている事だけは知っていた。

ただし一族が全滅してからはやる気を持っておらず、魔王軍の宿老としてご意見番の様な事だけをしていたらしい。しかし白紗での戦いがあと幾らも保たぬと判って打って出る事にしたと思われる。

 

そしてこのことが敵の判断を如実に表していた。おそらくは動きの鈍い巨人族が最後の御奉公とばかりに足止め、残りは一部を残して全力で脱出するものと思われたのだ。

 

「即座に遊撃隊を動かせ!」

「既に大通連殿を先頭に追いかけておられます! 許可は後で求めると……」

「んもー! あいつはこんな時にまで! 伝令には死ぬなとだけ伝えておいて!」

 まあこれも判って居たことだと諦める事にした。

三人の豪傑の中で遠距離戦が得意であるがゆえに一番負傷の少なかったあの男。あいつが一番暗殺向きではあるのだが、性格的にはまったく向いていない。ここでカードを切ってみせ、こちらの手札が減ったのだと大公に思わせておくことにした。

 

それに巨人族は最後の一体とは言え強敵には違いない。こちらが全力を出したという証拠に大通連が相手をして、残りの者で追撃することに意味はあるだろう。損害だってそれが一番少なくなるだろうしね。

 

「将軍は残って前衛を取りまとめて侯爵さまたちとの合流をお願いできますか? 僕と二広は後陣を連れて遊撃隊の元に向かいます」

「任せて置け! 隠れている者がおっても行かせはせんよ!」

 何度も言っているが編成なんかしている余裕はない。

全力出撃とも行かないので、混乱した前衛の取りまとめに紅家の将を残してく。そもそも彼は侯爵さんの一族だし(叔父の中で一番若い人)、危険な事はさせられないしね。

 

そして後陣を構成する部隊に声をかけ僕が即座に動ける者を直卒、二広が残りをまとめながら追撃戦に移る。ここからは時間との勝負であろう。

 

「ねえねえ双羽。馬車はいいの?」

「残念ながら混乱してる状況で馬は駄目かな? 使える馬は『騎兵』が抑えちゃってるしね」

 面倒くさがりな双葉が尋ねるが諦めておくことにする。

おそらくは大公の手の者が適当な理由で破壊するなり徴発するだろう。言葉通り一度混乱すると馬は怯えて戦場に連れ出せないのもある。即座に落ち着ける馬は……銅張り鉄甲馬車の為に白蜃砂に置いて来たのだ。そもそも海路側で抑えられた馬なんてたかが知れるので仕方がない。

 

いずれにせよこれで僕の手持ちの手札は、『偶然』にも失われたことになる。

 

(僕は普通に判断して普通に守っていた。ソレを『偶然』を利用して大公が強制的に排除する。向こうからすれば努力の結果で勝ち上がったことになる。……たぶん行けると思うんだよな)

 南領の手勢が護衛を可能な限り連れて行っても二十名くらい。

西領の主である大公の護衛がその場に百名は居るとして、まあ普通に勝つのは無理だ。ただし僕らが暗殺を行うのは謁見の間。大公の護衛は分散している。もちろん普通の兵はもっといるが、どう考えても謁見の間には連れては入れないから問題はない。そして何より、東領やその協力者たちの護衛を含めれば問題なく大公だけは暗殺できる。

 

後は……地力の勝負だ!




 という訳で戦争パートは終了。
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