妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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第九部
訴状のイニシアティブ


 昨晩、逃走する魔族の追撃戦を行った。

少し考えて欲しいのだが、魔族は愚かだろうか? そんなことはない。もし頭が悪いだけの連中ならば人間はここまで苦労して居ないだろう。

 

魔族は四千で白紗に立て籠り、無理だと判った段階で逃走を計画していたはずだ。殿に最後の巨人族が残った他、制御し難い魔獣を放し飼いにして混乱を謀ってさえいた。

 

「壊滅はさせたが流石に全滅は無理だったか」

「それは仕方がありません。重要なのは知恵ある魔族をどれだけ討ち取れたかです。大公閣下におかれては何をやっても評価していただけないでしょうしね」

 緋二広は残念そうだが、これ以上は贅沢と言う物だろう。

少なくとも千以上が突撃しながら逃走し、こちらも千ちょっとの追撃部隊。後続の出足は鈍くなっているので、自分たちより強い相手を被害を少なくして討ち取るのが精々であった。

 

その上で問題なのは様々な儀式魔法を使える者や、指導者タイプの魔族など頭の良い者をどれだけ討ち取れたかである。突撃するしか能の無い下っ端は極論どれだけ居ても問題ないのだ。

 

「やはり……避けられんか」

「賽は投げられました。後は人事を尽くして天命を待つだけですね」

 調べてみると案の定だった。

放置された魔獣が混乱を引き起こし、南領の後陣や他の追撃隊の近くやらであちこちで暴れたそうだ。国軍はそれらを圧迫して南領の兵にぶつけるように追い込み、そのどさくさで兵員輸送車両や投石器の一部が破壊されてしまっている。全てではないが定数が無ければ役には立つまい。

 

大公からすれば転ばぬ先の杖なのであろうが、我々からすれば迷惑以上のものではない。加えて自分たちがやった混乱の助長も、全てこちらの不手際にするつもりであろう。

 

(要するに話の見方、情報の扱い方と切り口なんだろうな。……そういえば青悟も交渉ではどっちが先に言ったかどうかで変わるとかいってたな)

 面倒くさい話で出来るだけ関わりたくない話だが……。

この手の問題は切り出し方と順番次第なのだそうだ。例えばズタボロな西領の援助一つにとっても、大公がお願いするのかそれとも命じるのかで意味が変わって来る。また同じ援助するにしても、西領から切り出すのと周囲が言い出すのでは大きく違う。

 

そして大公が目論んでいる中央集権の話もそうだ。追い詰められて『奴こそ邪悪』と言い出しても苦し紛れにしかならない。

 

(ということは、僕の方が先に発言しないといけないんだよな。……上位者相手に?)

 こちらから声をかけるとか論外で、やったら処刑されても文句を言えない。

では道中でいきなり? もちろんそんなのは警護役に止められて終わりである。やはり朝議の場で行う必要があるだろう。その上で途中で僕が処刑されずに、大公の目の前とは言わずとも護衛が間に合わない程度の近くまで寄る必要があるだろう。

 

要するにまだ利用価値があると思わせておく必要がある。もし僕が強襲を『今回は諦める』としたら、命乞いに見えるような政策を提言してもおかしくはないのだし。

 

「銀さま。白南終公子の先触れがお見えになられております」

「……本人が来たら陣幕に通すと言っておいて。こっちの様子でも見に来たんじゃないかな」

 考え事をしている間に伝令がやって来たが、いかにも怪しい。

これまで幾らでもチャンスがあったのに、以前の頻繁さが嘘のように訪ねて来なかった。これらを総合するとキリーの身近な人間が捕らわれているのは間違いがないだろう。情報を聞いたら渡すように強要されているかスパイでも護衛として付けられえ居るのだと思われた。

 

そして今回、急に訪れたことだが……。おそらくは僕の様子がどうなのかを見て来いと言われたのだと思う。

 

「聞いての通り後で公子がお見えになるそうです。言うまでもありませんが、失礼のないようにしていただければ」

「……心得た」

「私は軍の取りまとめに残っておこう」

 いつも通りならば言うはずのない事を口にしてみた。

それだけで詳細はともかく、何かあるくらいは話は通じた模様である。もし誰かが今様子を伺っていたとしても問題なく対応できるだろう。

 

少々露骨だが、こちらが工作しきれない内に確認する辺りは目の付け所が良い。ここは今の時間で間に合う物、これまでに集めた情報で賄える物を用意するしかないかな。

 

 

「これはこれは白南終公子に置かれては御機嫌麗しく」

「……麗しいも何もない。やっと白紗を取り戻せたが魔族に逃げられたからな。ところでその書類は何だ?」

 今まで丁寧語など水棲種族の前でしか使った事はないが、キリーはスルーした。

その上で魔族に逃げられた件や不機嫌だと口にしたことは、一定の含みを伺わせる。そして話す前に一拍置いて机の上に広げていた巻物について尋ねるが、彼自身ではなく護衛の一人の視線が動いて話を出したのは、そういう事だろう。

 

その質問に答えるべく、僕は書きかけの巻物を手にして恭しく差し出して見せる。

 

「今回の戦闘報告と共に、南蜃砂ほかで確認した西領の被害報告です。かなりの被害でありましたでしょう? 各領からそれなりの支援物資を送った方が良いのではないかと思いまして」

「殊勝な事だ。しかしこの程度の報告にまで同じ文面を保存しているとは、相変わらずマメだな」

「軍の被害報告や会計報告で、万が一にも報告に間違いがあってはなりませんからね」

 内容はこの間の会見で悌さまの前で口にした、表向きの言葉の内容である。

被害甚大な西領を支援して、早い段階で国益になるように復帰させるべき。そのような内容を奏上するべきだと言う話だ。この巻物自体が何通の予備があって誰かに送っているとか、以前の資料を索引として利用する棟がしやすいように、冒頭に数字が振ってある。数字の辺りを護衛に見せながらしゃべっているのは……。

 

おそらく護衛のフリをしたスパイに会計監査では横領の罪を問えないと教えつつ、その実、僕にこいつがスパイで間違いないと教えてくれているのだろう。

 

(本当はキリーが大切にしてる人を教えてくれたら、紅梓たちを潜ませているから救出に行けると伝えたいんだけどな。流石にこの場じゃ思いつけないや。大公の気を引く文章だけで精一杯だ)

 さすがに家族を人質にとるのは風聞が悪いし、乳母か乳兄弟の類が掴まっているのだとは思う。

しかし確実に救出できるとは限らず、相手が誰かという確証も無ければ勝手な事は出来ない。せいぜいがこの二人を紅梓あたりが偶然見かけて追ってくれれば別だが、彼女の役目はどっちかといえば白紗の本城に潜ったまま罠の類を探す事なので贅沢は言えなかった。

 

要するにこの場では迂闊に声をかけることも出来ず、何が起きているか察していると態度で示す他はない。

 

「とりあえずコレを一通貰っていっても良いか?」

「構いませんが同じ文面の物で、乾いている物がありますが?」

「コレで良い。そちらも見せては貰うが偽装しているわけでもないのだろうしな」

 通し番号が違うだけの、既に乾いている文章を念の為に渡す。

キリーは読んでいた文面を護衛に手渡すと広げさせ、自分が受け取った文章と比較して頷いていた。自分が読むと見せかけてスパイに確認させつつ、僕らがその様子で状況を再確認。

 

おそらくはコレでこちらが強襲を諦めて歩み寄った、少なくともこの場で仕切り直したようには見えるだろう。納得したのか、その後は特に何もなく引き上げていくようだった。

 

「大公閣下の周囲はお忙しいようだな。取り返したは良いが領地も相当に荒れておるようだし」

「そうですね。僕の用意した文章を読んでくださるとお役に立てると思うのですが」

 キリー達を見送った後も念の為に主題は伏せて会話。

といっても内容は渡した文章を信じるかとか、僕らが害意を待たなくなったなどと思うかどうかではない。僕にあの文章の内容を発表させたいかと思うかどうかである。もちろん個別に合ってくれるとかはありえないし、お互いにとってまるで意味がない。

 

重要なのはあの文章を巡り、『西領支援を誰が言い出すか』という流れである。

 

(どのみち僕を糾弾することで、間接的に南領の力を削ごうとする流れのはず。もちろん褒め称えて引き抜くというのも無くはないけど……。その辺りを兼ねて皆の前で吊るし上げようとするんじゃないかな)

 大公個人は僕に関心などないだろう。部下に提案されて利用するだけだ。

中央集権が成って全てを手に入れた後ならば幾らでも命じる事ができるが、現段階では確定した未来じゃない。だから前述した『誰が言い出すか』という点で僕を利用した方が都合が良くなる。それこそ圧迫面接でボロを出させるための位打ちを兼ねて実行できるからだ。強襲計画の指揮官が僕だとしたら人質にとる事も可能だろう。

 

謁見の間の地図は手に入れているが、臣下が近寄って良いギリギリのラインに一人立たせて晒し者にする可能性は高かった。

 

(近い事は近い、けれど剣だと絶対に無理な間合い。……そこからなら行けるはずだ)

 武装は持ち込めるかもしれないが、発表の場に呼ばれるなら少なくとも僕からは確実に取り上げられるだろう。その上で周囲に用意した罠があるというのがポイントだ。昔から『これだけ接近できれば暗殺できるはず』と考えた先人は多い事だろうし、ソレに何度も対処してきたはずだ。大公が……正確にはその側近が罠の確認を怠っているとは思えない。

 

そして、だからこそ僕にとってチャンスだと言えた。




 と言う訳で前振りは終わりです。
いい加減、話が長いのでサクっと終わって事後譚に行きたいところ。
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