妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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最期の手札

 バタバタした数日が過ぎ去り、戦後処理の第一便を終えてから白紗入城。

全軍を外郭の城壁内に入れる訳にもいかないので、殆どの部隊はお外で待機だ。重要人物が率いる手持ち部隊と、負傷者のみが都市の中で待機することになった。

 

地元出身の西領兵が治安担当を行い、三々五々に駆けずり回って居る。そんな中で南領勢の宿舎として充てられた屋敷で準備しているところだ。

 

「もう必要ないと思うけれど、例の車両は外の本陣へ。イザとなったら門の固定用に使うから」

「了解です。初めて見ましたが……その、あれならば非常時でも問題なく抑えられるかと。数日前に巨人族と相対した時にアレがあればと思いました」

 泳ぎが苦手な剛盾はともかく、パーツは早便で届いたので銅張り鉄甲馬車が完成。

その威容を見た者の中で、純粋な兵士は無骨さを頼もしく思っているらしい。残念ながら巨人族と戦ったら棍棒で潰されたんじゃないかなと思う。緒戦でゴブリンの群れを無視して突入は出来たと思うけれどね。

 

そんな感じでこの数日で起きたことをまとめ、清書した書類を二枚。今回の暗殺用に用意した。一通はこの間キリーに見せた西領各地を確認して支援物資が必要だという提案書である。

 

「……ねえ。本当にそんな物で戦う気?」

「うん。軍師であり行政指導者というのが僕の立ち位置でから、剣よりもむしろこちらの方が僕の武器とか……。もう少し重量が欲しいかな。うん、これを付けるか」

 清書して表装した提案書を高価な木で綴り完成。

嵌め込み式の木材は見た目より重かった。冗談で言ってるわけではなく、この巻物そのものが暗器というか仕込み武器なのである。表装自体も鋼糸を仕込んで補強してあるしね。木材の上下に鋼で出来た留め具を固定に使えば立派な鈍器になる。

 

子供のころに即席武器で遊んだことはないだろうか? 傘を順手や逆手で構えて『●●流!』とか必殺技の名前を連呼し、あるいは縄跳びやボーイスカウトで使うロープを鎖鎌の様に振り回すのだ。もっとも今回は里見八犬伝(映画版)の巻物アタックなのだが、後世にこの時代のゲームが出たら僕は巻物で戦う軍師キャラになってしまうかもしれない。

 

「宮廷では治療魔法の影響で打撃兵器は軽視されるから暗器にし易いんだよ。……って冗談冗談。メインは紅梓さんの持ち帰ってくれた情報だからね。これは念のため」

「それならいいけど」

 鈍器は手に入り易い武装ながら、戦場はともかく宮廷では軽視され易い。

短剣での刺し傷は致命傷になるし出血でも死にかねないが、打撲は死ぬまでに時間が掛かるので、治療魔法の使い手が控えていると簡単に治せてしまう。だから大男でも居ない限りはそれほど警戒されない武器であるし、これは組み立て式なので宮中で待たされている間に再構築できるのがウリだった。

 

もっともその大男である大通連が目新しい武装を欲しがった時に、流星錘のバリエーションとして設計し、あいつの鎧に飾りとして持たせただけなんだけどね。何はともあれ念の為の武装であり、剣の一撃を止めることができれば十分と言えた。僕は口を開いて相手の言動にトドメを刺すのが仕事である。

 

「でも情報といっても隠し通路と罠の位置を特定しただけよ? 気付かれないようにしろって話だったから、止め方とかまるで判んないし」

「それで十分だよ。周囲がその気になれば、この情報だけで大公を失脚させるには十分。もちろん最高権力者自身が弁護人だから、普通なら無理なんだけどね。……大公は自滅した」

 紅梓はこの戦いの間、白紗に潜んで大公の工作員を付け回しただけだ。

それも気が付かれないことを前提に距離を空けたので、望遠鏡モドキを使っても精密な情報を調べるには無理がある。ただ魔族が右往左往する中では地元出身工作員たちも移動に苦労したので、逆説的に見つかり難いルートを特定し易かったのが幸いしたと言えるだろう。

 

最終的に持ち返れた最深部の情報は、謁見の間にある隠し通路が何処に出るか、そこにある罠がどの位置にあるかを確認しただけである。だが重要なのはその位置であり、そして話の持って行き方だったのだ。話の持って行き方が重要だからこそ、僕は即死してはいけないのである。

 

「銀殿。それほどの情報なのか?」

「二広さん。そこにある兵議の駒を持ってきていただけます? そう、それです」

 緋二広が首を傾げたので、実際に示して見せる。

彼が持って来る間に謁見の前の地図を書き、用意された駒を並べていくわけだ。これは表は白で裏は黒というオセロみたいな色をしており、形状で大将や将軍などの種類を示す簡単な物であった。

 

そして最初は白一色で並べ立てていく。

 

「良いですか? 王さまの駒は大公で、将軍は皇太子殿下だと思ってください。普通は逆ですけどね……。さて隠し通路がここで、罠はここからここです。そして東領と南領の諸侯以外をひっくり返すと……」

「これは!? 皇太子殿下が包囲されている? しかもこの位置は……場合によっては殿下を捉える事が可能なのか」

 あくまで発表された予定位置だが、今回は上座が二つある微妙な配置なのでおそらく大丈夫だ。

本来、大公が居るべき玉座を守るために罠も隠し通路も存在する。だが玉座に殿下を座らせてしまうと大公が座れるのが廷臣首座、旧王国時代の大臣の席になってしまうのだ。自分を守り難いし場合によっては罠に護衛が巻き込まれてしまう。だから位置を変更し、上座の位置を七・三で分割すると、隠し通路の兵で殿下を暗殺できるかのように『見える』位置になってしまうのだ。

 

もちろん常識を発揮して大公が廷臣首座の位置に来てくれれば、何の問題も無く全員でボコれば済むから問題ない。

 

「これが重要なのですが、昔から『暗殺可能だから』と重臣が罰せられた例は多いのです。多くは力をつけ過ぎた臣を捉え、領地を取り上げる為の言い訳なのですがね」

「確かにそういう例は多いな。あ、いや……銀殿は大丈夫だ。安心なされよ」

「そこは心配してませんよ。僕も出しゃばらないようにしてますし」

 屋敷や城を改築して、謀反の疑いありとされた例は実に多い。

徳川の時代にも重臣である本多の殿さまがそれで改易を食らっている。城だけ改築して兵を集めても居ないのに馬鹿馬鹿しいと言うしかないが、あくまででっちあげの理由造りなのだかからそんなものだろう。マッチポンプだから『上さまをお泊めする為に』と勧めたのが陥れる同僚だったりするので闇が深い。

 

もっとも今回は完全に濡れ衣と言う訳ではなく、可能だったら殿下を暗殺するつもりだったし、出来なくても夏都に戻ってから大公の方で濡れ衣事件を起こすつもりなのでどっちもどっちだろう。

 

「しかし、あくまで疑いなのだろう? やられる前にやるなどと言う事で問題が出ないのだろうか?」

「どうして紅梓さんが罠の位置を特定できたと思います? 予行演習はしておかないとイザと言う時に困るからですよ。罠の調子を調べたいだけなら、少なくとも全軍が引き揚げてからにすべきでした。紅梓さん、緑青貴公子にお伝えできました?」

「うん。あそこには別の氏族だけどエルフが居るから話を通し易いのよね。水棲種族も居るけど」

 これが僕らの自衛策なら、暗殺しない可能性もあった。

しかし緑家とも連携しており、あちらはあちらで信頼できる同盟者を増やしているだろう。廟堂での勝利は根回しの結果なのだから。そして『何時でも暗殺できるように準備している』というこは謀反に他ならない。使う気が無ければ今調べる必要などなかったのだから。

 

まあ魔族の大物が偶然その位置に居たら罠で殺すとか、自分を襲う暗殺者を罠で殺す気だったかもしれないけれどね。でも、緑家の方で『クロ』だと判断した以上はもう止まらないだろう。九天玄女さまではないが、まさしく『動き出した時は止まらない』である。

 

 かくして運命の日が始まった。論功賞は夏都だが幾つかの発表があると集められたのだ。

当然ながら僕も呼び出されており、例の報告書を持ってこいと言われている。西領支援の話を切り出せと言う事と、同時に失態であると脅すためだろう。場合によっては埋め合わせとして領地没収と国境警備任務くらいはあるかもしれない。

 

そして臨検を通り抜ける際、諸卿の装備はともかく僕を始めとした何らかの発表がある者は武装を預けろと言われる。これは普通の事なので不満は無しい、他の者もそうだろう。

 

「これが銀双羽だ。こちらの媛が緑青祭。私の妻になる予定の方になる」

「そのようなものだ。悌よ、この者に渡す物があるが妬くなよ」

「あれか? あんな物騒な物はさっさと見せたら焼き払ってしまえ」

 緑青貴の妹は外見は目元以外よく似ていた。

目じりが釣り目がちで、あちらは垂れ目がちだったこともあり、もし男装したらこちらの方が兄だと思うくらいの印象差がある。おそらくは性格もそんな感じだろう。どこか九天玄女さまを思わせる浮世離れした高貴さがあった。

 

そして懐から取り出した物とはただの文に見えるが、連判状として今回の件に関して協力を約束した上級貴族の名前が連ねてある。焼き捨てる為の予備なのだろうが、確かに恐ろしい内容だ。

 

「確かに拝見しました。必要ならばこの場で薬品消却を行います」

「そうせよ。我としてはそなたの妹背の君に渡しても良かったのであるがな」

「そのお言葉だけで十分です」

 ちなみにこの場合の妹背の君とは、家族ではなく恋人や妻の如き相手を挿す。

要するに僕からみて最も愛しい相手である双葉に渡し、今後を保証すると言う事だ。ただしこのレベルの権力者ならば適当に罪をでっち上げられるので、真の意味で補償にはならない。むしろプライドを刺激して処刑しないように持っていく方が良いだろう。

 

それに今回の件で最善は尽くしたが、この後で普通に兵力差で負ける可能性はある。色んな意味で大公は自滅しているのだが、そうは思っていない諸侯も居るのだから。

 

「しかし黒家の御老人まで頷くとは意外であったな」

「なんの老大はことなかれ主義よ。北の者はおおむねそうだ。そこの利け者が例外であろう」

「返す言葉もありませんね」

 北領の主宰である黒家は何年も同じ人物が務めている。

抜け目のない老人として名高いが、基本的には勝つ方に付くだけでバックアップ以外に何もしないのが特徴だ。安全策とは言うが勝つか負けるか怪しい段階でも保障だけはするし、このご老人が認めただけで大丈夫だと思う者が居るくらいだから相当なものだろう。

 

今回はどちらに転んでも判らないのだが、中央集権化が進むと黒家も排除されかねない事、そして北領も同盟関係に入れば大勢は決するからだろう。もっともこの後で我々が敗北したら、同じような文面の誓詞が大公の手元から出てきてもおかしくはないのだけれど。

 

「そういえば武器は足りておるか? 足りておらねば我のをくれてやるが?」

「遠慮はいらんぞ。祭は魔法もなかなかだ」

「いえ。僕の武器はこの舌でございます。口先で刺して見せましょう。もっとも剣の腕前はサッパリだからというのもありますが」

 どうやら緑青公女は魔法で武器を作れるタイプらしい。

火系と地系の魔法にそういうのがあるが、おそらくは地系の水晶武具だとは思う。あれは強い武器じゃないけれど魔法の武具なのと、他人に貸せるのが大きいんだよね。とはいえ借りてる余裕はないので遠慮しておくことにした。

 

理想を言えば大公をその場で殺し、小競り合い以上にはならない事なのだ。

 

(臣下が行う壇上から玉座は十歩、今回に限っては七歩ってとこかな? この巻物が二歩分としても……もう数歩を何とかしたいな)

 そして時間が来れば、いよいよ謁見の前に通された。

さっきの手紙に関しては当然ながら歓談しつつ、手元から薬を出して手紙を消却しておいた。

 

もちろん二人の目の前で行い、薬品自体は処分しておいた。紙の結合を解くだけの薬品なので見つかっても問題はないが、万全を期した方が良いだろう。

 

(そういう意味ではあの連判状が最期の武器だ。この内容が一番大公に効くんじゃないかな。何しろ……大公は相当な理想主義者だ)

 そんなことを思いながら大公の顔と現場を確認する。

遠目にしか見たことはないが、悌さまたちの反応を見れば本人だろう。影武者なら影武者で欠礼を理由に斬り捨てれば良いから楽なのだけれど。そして隠し通路と罠の位置を思い出せば盤面は完全に把握した。

 

隠し通路の方は使用目的から、玉座の左右で何かあれば咄嗟に王を守れる配置になっている。逆に言えば二つに分けられた上座の後方と言う訳で、見方を変えれば暗殺に打ってつけなのだ。

 

(罠はまずあそこか……落とし穴だもんな。普通は隠すよね)

 壇上は二か所あり、臣下が揃う下座の位置の目の前に段がある。

そこが諸卿を代表して軽く上がる一歩の位置であり、その更に上座があって玉座の手前で更に一段高くなっているという訳だ。この二段で下々と王を隔てており、その途中に落とし穴が数か所あった。一つは臣下の壇上そのものであり猜疑心の強さに笑うしかない。

 

まあそれは王さまと護衛達から見れば仕方のないことかもしれないが……問題なのは皇帝殿下がその上を通ってるんだよね。上座を二つ作ってしまった弊害なのだろうが、意図して居ないならば迂闊と言うほかないだろう。

 

いや、おそらくは迂闊なのではなく担当者の問題なのかもしれない。式典担当の官僚が罠の位置なんか知らないし、知っていたとしても構造上は仕方がないので配慮なんかできまい。知らないとしたら罠が稼働するかどうかの確認をしたことを知らされていないだけなのだろう。




 と言う訳でズカズカとお城の中へ。
手札は全て揃ったので後は決戦ですね。

とりあえず忘れてそうな色んな武器を作ってた話、鋼でバージョンUpした話。
そして最後に、潜入はしなかったけど何が起きているかを見てたという情報。
これらを総合して討つ話が次回になります。
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