妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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大団円

 大公の指示でドっと兵士たちが動き出した。

こちらと同じようにハンドサインか何かを事前に取り決めていたのだろう。やや遅れて隠し通路からも兵士が現れ、その間に皇太子殿下は緑家を始めとした東領勢が保護に成功した。

 

大公はこの期に及んで誤魔化したりはしないが、そのかわりに反意を口にはしない。あくまで悪いのはこちらで、正義を正そうという姿勢である。

 

「奸臣どもに誑かされておる殿下をお救い参らせよ!」

(しらじらしいけど、国家の私物化ではあるけど反乱計画じゃないものね。それに……まだ旗幟を鮮明にしていない有象無象を味方に付けないといけないのは同じか)

 大公の城ではあるが万全ではないし、その後に夏朝全てを敵に勝てるはずもない。

だからこの場に居る諸侯を形の上だけでも味方に付け、悪いのは公爵たちだと強弁せねばならないのだ。中には丸で判って居ない者も居るし、どちらに正義があるとも思えず勝った方に協力する者も間違いなく存在するだろう。少なくともちょっと前までは、そちらの方が大多数であったはずだ。

 

この点に関しても大公は自滅している。城攻めを続け兵士たちを平均的に磨り潰しておいて、しかも中央集権化で諸侯の権力を制限すると言われて誰が素直に従うだろうか?

 

「大したものだ。何も知らぬ者どもを詭弁で瞬く間に味方に付けおった。次は何を目指す気だ? 将軍か? 大臣か? いっそ貴様が四大侯爵の一人にでも成りおおせる気かな?」

「まさか。自分には身に余ります」

 だからこそ大公はこちらを切り崩しに掛かった。

一歩も引くことなくこちらを圧迫し、僕を皮切りに野心が見えたら皇太子派の諸侯も自分と大したことが無いと言い切る気だろう。それこそ中央集権化はこちらが考えたことで、旧体制派を一掃するための言い訳だと口にするつもりに違いない。

 

もし僕がそういう野心家であれば、戸惑うなり、あるいは自分の理想を口にして付け込まれるに違いない。例え転生者であろうとも、何十年も権力者をやっていた大公に勝てる筈もないのだから。

 

「僕は箱庭のような村を完璧に。いえ、それ以上に仕上げる方が好みです。むしろ広過ぎる領地など不要、例え世界の半分をくれてやると言われても迷惑でしかありませんね」

「っ青いな! そんなことを口にできるのは今だけだ! いずれ何もかもが欲しくなる!!」

 大公は一瞬だけあっけにとられた後、むしろ怒りを込めて語り掛けて来た。おそらくは彼自身の経験だろう。仲間達だけで語り合う理想は楽しいのに、それを実現しようと目指せば目指すほどに濁って行くものだ。

 

しかし三十以上は歳の離れたオッサンと、何が嬉しくてロボットアニメの様な哲学戦闘をせねばならんのか……。

 

「何もかもが煩わしくなるの間違いでは? 広ければ広い程に、権力が高まるほどに自由も仲間も減っていく。それはご自身が十分に理解されておられると思いますがいかに! 遥か昔に語らった友人や淑女たちは今どこに!?」

 そろそろ面倒になって来たし、味方劣勢だ。大公を捕まえるか殺して決着をつけねば危険である。

とはいえ謁見の間に弓など持ち込めず数が多いからこそ、大公は奥へと下がっていないのだ。加えて目の前に罠があるからこそ安心しており、短慮を起こして僕や兵士たちがが攻め掛かるのを待っているとも言える。迂闊に飛び込めば大公の目の前で落とし穴がパックリと開くだろう。

 

そこで彼の背景をある程度は推測して、言われたくないことを言ってみた。ここから罠を覚悟して攻撃するにしても、まだ足りないのだ。

 

「貴様! 言うに事欠いて我が友を侮辱するか! そこになおれ!」

「おおっと、そうは参りません。我、汝に変動を禁ず。我が目にありて不変の盾と成れ!!」

 この期に及んで大公は冷静さを欠いてはいない。

激昂して剣を振りかざすフリはするが、切り込んで着たりはしない。こちらの様子を伺いつつ兵士たちに罠を迂回させて来るだけだ。僕は攻撃呪文の類を持っておらず、防御呪文を使えるような素振りを見せてしまったことになる。兵士たちから見れば多少の防壁ならば取り囲めば済むと思うだろう。

 

もし僕が変動を禁じた対象が、巻物であったらの話である。これは流星錘であり縄瓢であるので変動を禁じたら物の役に立たないのだ。

 

「そやつだけは確実に殺せ! 生きていても余計ことを口にしかねん! 王朝の為にならぬぞ!」

「そうは参りませんね。こうなったら先に閣下を討たせていただきます!」

 兵士たちが来るより先に前に出て、その際に巻物を綴じている木材に手を掛けて見せれば仕込みは十分だ。大公はニヤリと笑って剣を持たぬ方の腕を上げた。この部分に穴を作って短剣を忍ばせるという手段は良くある話である。胴には念の為に軽鎧を付けているだろうし、頭と首を隠せば短剣を投げたくらいで死にはしないと思っているのだろう。そもそも僕が飛び出せば、落とし穴の中に真っ逆さまなのだしね。

 

ただし、それは落とし穴が稼働すればの話だ!! 僕は一歩、二歩と踏み込んで振り被る!

 

「貰った。天誅!!」

「馬鹿め間合いが遠いわ……だが何故だ、何故落ちぬ!?」

 先ほど形状を固定し、状態を保全したのは巻物ではない。

罠がある場所の床と、その下にある可動物がありそうな半径である。おそらくは閂か何かを、機構を使って少ない労力により引き抜く物のはずだ。ソレらを止めることで一瞬なりとも時間を稼げば、大公を攻撃するには十分過ぎる。鋼線で補強した巻き物を振りかざし、十分なスイングを持って大公の頭に錘を叩き付ける事に成功した。

 

大公が武人であるとか、こちらの武装が剣ではないと気がついて居たら無理だったかもしれない。彼が防御に使った剣を迂回して、彼の頭にぶつかったのだ。

 

「こ、れ、で、本当に終わりだ!」

「うぬ!?」

「降伏せよ、見ての通り大公は捕らえた! 白将軍閣下! 白南終公子! 外の西領勢の説得は終わりましたか?」

 輪は起動しなかったが、保全するための力は不自然な状態だと魔力を一気に消費する。

僕は穴が落ちる前に大公の元に飛び込み、そのまま彼の首を締めつつ手に持つ剣を奪った。奪えなければ短剣でも持っているフリをするところだが、もっと効く言葉がある。西領勢にとって味方だと思っているふたりに声を掛けたのだ。

 

実際に外に居る兵士を説得していたかは別にして、そうなったら勝ち目は無くなる。大公が捕らえられたこともあって続々と降伏し始めたのである。

 

 その後は割りと簡単に話が付いた。

キリーに対して人質を取って情報を抜き取っていたことを、西領幹部の何人かが知っていたのだ。その証言を吐かせた後でこちらの諸侯も彼を認め、キリーの大切な人を救助しつつ、ひとまずの名代として管理させた。

 

その後は話し合いの結果と言う事になっているのだが……実のところ将軍の方と話しがついて居るらしかった。家を出て分家となった筈の将軍を本家とし、キリーを分家として逆転。元独立都市だった幾つかの場所を自由都市にすることで白家への処罰と言う事になる。

 

「銀殿。他に何か案でもあるかな?」

「せっかくです。白南終公子の名前を秋と変えていただき、自由都市のひとつを秋都とするのはいかがでしょうか?」

「王朝革命など我らは狙って居ないと? それは妙案だな」

 こんな他愛のない案が僕らの西領仕置きに関する最後のネタになる。

このアイデアも誰となく言い出した話だったが、最終的に僕が提言するのがワザとらしくないだろうという話になった。それこそ緑青貴公子あたりが口にすると怪しさ大爆発だからだ。

 

ちなみに自由都市になるのは南蜃砂と国境沿いの城塞都市、そして新たに水棲種族に渡す場所の三つ。国境沿いの城塞都市は皇家が代官と防衛戦力を派遣し、南蜃砂に子供が生まれたら分領することになっていた。もはやこの国で一・二を競っていた白家の権勢はないだろう。

 

「そうだ双羽。お前さん、せっかくの開拓長官の地位を辞するって言ってたよな?」

「元が大公閣下のお声掛かりで南領に不和を撒く為だからね。慣例からいっても僕が続けない方が良いと思ってさ」

「なら丁度良い」

 緋家に所属する貴族は基本的に二領である。

それを利用して不和を撒くために、表向きは信賞必罰を示す為と称して僕に領地を渡せと肝入りで命令がくだったのだ。もちろん中央が南群あたり土地を渡す話もあった筈だが、当然のようにくれるはずがない。そこで開拓地を僕が自分で拓き、その殆どを寄子たちに渡すという形でバランスを取ったのである。

 

その命令を出した大公は捕縛され、頭部強打の影響で重傷なので撤回しても問題ないだろう。

 

「何が丁度良いのさ?」

「さっきの話なんだがな、秋都にする場所はお前さんに任せようかと思ってな。同じ何もないなら、畑の予定地だろうが都市だろうが同じだろ? 水棲種族だって頷くだろうさ」

「大違いだよ! まあ面白そうってことは認めるけどね」

 僕の物ではない開拓地を返上し、代わりに何もない都市を貰う。

帳簿上はきっと大赤字だろうが、建前の上では信賞必罰がなされている。沢山の土地を貰っても仕方がないし迷惑だが、自分の気ままにして良い都市であり、水棲種族が暮らしやすく王国民と並び立てる街というのは面白そうだった。大公の質問の件と違ってそこが大きい。

 

とはいえ譲れぬ線もある。というかこれを怠ってはならぬ法的な問題だ。

 

「ということらしいですが、悌さま。構いませんか?流石に僕の一存では問題になります」

「構わん。面白そうな文物が出来たら送ってくれ。それを税の代わりにでもしよう」

「そういうことなら俺らにも頼むぜ」

 寄り親である悌さまの許可を得て、侯爵さんたちの元で正式な契約となる。

これでキリーは度を越える税を要求できないし、制度上の問題もクリアされた。後は水棲種族たちの交易やら作成できる文物次第で豊かさが変わるだろう。

 

しかしここで思わぬ話が飛び出した。

 

「そうだ。おい、銀の嫁」

「なに?」

「お前さん、俺の娘ってことにならないか? そうすりゃ貴族の娘だ。目に見えて養子ってことになるから格は高くねえが、二羽に嫁いでも問題ない」

「ちょっ!? 僕の頭越しにいきなり何さ!?」

 と言う感じであれよあれよと養子縁組と婚礼の話が進み、妙な方向に決着がついた。

正式な縁戚関係というわけではないが、形式的にはつながりが出来たことになるし、自由都市を任せる相手が信用できるという形式上の形にはなる。

 

僕としてはいきなりではあるが問題はないし、隠すことなく表で行われた話なので悌さまたちも問題とはしなかったのだ。

 

「面倒なのはヤだけど、これで麗にも負けてないし?」

「そうだね。こだわることないとは思うけど、双葉がいいならそれでいいよ」

 と言う訳で八方丸く片が付き、西領での事件はこれで終わりを告げたのである。




 と言う訳で無用に長かったストーリーもこれで終わります。
後は御日譚と、書くとしてもデザイナーズノートで簡潔になるかと。
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