妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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やがて、おとぎ話になる

 あれから何年かが経過し、夏朝は順調に国力を回復していった。

制度体制は緩やかに中央集権化が進んだが、別に大公の理想に共鳴したわけでもない。単純に一部の大諸侯が皇帝を支える体制に限界が来ただけだ。

 

領地に関しても支給する土地に限界が来ている事もあり、最初に俸給を与えて慣らした後に開拓地を渡すかこのまま俸給とするかを選ばせることで徐々に封建体制を脱却していった。

 

「水を抜いて、ゆっくりゆっくり! よし! 後は適当な所で殻落としを始めて」

「へい!」

 新しい沿岸都市がようやく建設できた。

秋都と名付けられたその場所は沿岸都市の中でも水棲種族との共同生活を前提に作っており、目新しい産業は大型船関連である。閘門を利用して高い位置に船を固定し、水を抜いて殻を落としたり色を塗って保全することも可能になっている。ここまでの施設は紅家や緑家の港にもないだろう。

 

他にも大型クレーンで荷物を移動させたり、大型の倉庫に様々な産物を預かって荷揚げや荷卸しを簡便にしていた。まあ他に凄い事は出来なかったともいうが。

 

「よう双羽。真珠の方はどうだ?」

「養殖はまだまだだね。海苔とか牡蠣の方は何とかなったけど。キリーが必要なら水棲種族に調達を頼んで、ドワーフに加工をしてもらうけどさ」

 大規模な筏を作ったり、修理が簡単なので養殖事業に手を出してみた。

前世でも似たような文化を持つが養殖技術の弱かった半島地域に、なんとかという学者一族出身の技術者が広めた事があった。戦後もその養殖は活かされて産業は存在しているそうだ。この世界でも西領には海苔の生産とか牡蠣取りこそあったが、養殖技術は無かったのでせっかくなので導入してみた形になる。

 

流石に椎茸とか陸の産物の養殖にまで手を出すと失敗すると大変だが、このレベルならまだ何とかなる。特に水棲種族が協力してくれれば水質管理は簡単なので順調だ。

 

「そこまでじゃねえな。産業になるならありがてえが」

「それならガラス盃を持って行きなよ。こっちは色ガラスの量産に特化することにしたんだ」

 そうそう都合の良い産物などはない。

僕が持ってこれる技術の中で、地域に合わせて生産していくことにした。もちろん領地の方では別系統に特化させていて、向こうは透明度の高い高級品特化。こっちは色を付けて手に入れ易さ重視と言う訳だ。まあ素材に使う砂の関係上、混ぜ物をしないと駄目なのもあるけれど。

 

ともあれ産業自体は立ちあげ始めたばかりで微妙なので、先に行った通り大物を扱う貿易港としてスタートしたという塩梅である。

 

「それよりも遊牧民はどうなった? ラー・フーとかあれから見ねえが」

「水棲種族経由で聞いたんだけど、向こうは僭王が立ったそうだよ。明らかに資格の足りてない奴が、古老や一部の統領を抱き込んで大王を名乗ったんだってさ。今ごろは反発する部族をまとめて戦ってるんじゃないかな」

「どっちが勝つにしてもこっちに飛び火しないで欲しいもんだが……」

 遊牧民たちは大王の居ない時期が圧倒的に多い。

基本は縄張りを周遊する生活なので、よほどの理由があり指導力がなければ代表者なんて生まれたりはしないという訳だ。この間の食糧危機でその理由が出来はしたが、羅虎ことラー・フーは交易の結果であるからと辞退。他にも略奪や生産で何とかした人物が焦点になったそうだ。

 

それらの中から強引に大王を名乗ったのだと思われる。いずれにせよ、こちらの国に攻めて来るかが重要だろう。

 

「そこまで判ってるなら協力しないのか?」

「援助を求めて来たら交易の範囲で協力するし、それがラー・フーさんなら少し手心を加える程度だね。異なる民族で異なる文化のある相手に余計な口出しをするのは良くないと思う」

「違いねえ。協力して恨まれたんじゃ世話ねえしな」

 良質な武器を輸出したり兵糧を安価に出しても良い。

しかし露骨に首を突っ込むと返って相手の迷惑になることもあるだろう。プライドを刺激したり、ラー・フーさんはともかくその部下が反発することもあり得る。また背後を推測された場合、外国の援助を受け入れたと問題なることもあり得た。

 

積極的に介入してもしなくても、どう転ぶか判らないのであれば判断材料が異なる。世話になったし知ってる顔に頼まれたら協力するのも良い。しかし頼まれても無いのに手を出すのは藪蛇だろう。

 

「こっちとしてはあれから魔族がどうなったかが気になるけどね」

「知っての通り追撃戦じゃ知恵ある魔族を中心に倒していった。残る魔物の類だが国境付近の都市を中心に討伐を行ってるというのが現状だ。お前さんのアイデア通り、大々的に報酬を出して討伐任務を出したことでスムーズに魔犬の類は狩れてるぜ」

「それは良かった」

 軍隊に向いている事と、向いていない事がある。

例えば知恵ある魔族を倒すために組織的に陣形を組んで主力を温存し、首魁である魔族を倒すなんてのは利害関係があると難しい。だが国境を越えて動くとなれば軍隊には逆にハードルが高くなってしまうのだ。そこで広く『民衆』から勇者や傭兵を募集し、食料や金と引き替えに魔物の討伐を図った。

 

結果として遊牧民の部族が魔獣を狩って討伐報酬を得ることで食料を確保。こちらは国境を越えずに何とかなったという訳である。

 

「とはいえ金は無限じゃないからな。報奨金は馬鹿にならないのが難点だ」

「戦争と比べたら安い部類だし、その後に交易で取り返せば良いじゃん。下手に軍隊に国境を越えさせると向こうとモメて戦争になりかねないし、対魔族協定を結ぶのも時間が掛かるしね」

「お互いが納得する条件なんざ難しいからな。それに手を組んだら手を組んだらで中央が睨むか」

 アイデアとしては冒険者ギルドを設営しただけだ。

国と一定距離を置く組織であり、援助は受け取るが意見は聞かない。あくまで依頼として受け、その範疇で行うという態度を表に出すことで、遊牧民たちも彼らは頭を下げずに済んだのが大きかった。もしこれが西領と遊牧民の一部族との協定だと問題が起きるし、国と向こう全体だと凄まじい時間が掛かって魔物を取り逃がした可能性は高い。

 

とはいえ問題が全くなくなったわけでは無かった。そんな都合の良い訳はないとも言う。

 

「後は最初から白紗に居なかった魔族?」

「そうだな。魔王亡き後に仲互いして、さっさと脱出していた奴らも居る。そもそも向こうからこっちに来なかった連中もいるだろうさ。そいつらがそのままか、遊牧民が適当に狩って持ち込むか、それとも僭王とやらと組むかどうか次第だな」

 人間二人いれば対立し、三人居れば派閥ができるという。

要するに西領奪還戦以前の段階で、魔族の方もバラバラの勢力だった可能性があるのだ。考えてみれば魔王が討ち取られる前には容易く西領を奪った相手が、王が不在とはいえあっけなく駆逐できたのもその辺の理由かもしれない。

 

それに水棲種族やエルフだってあちこちに氏族がある以上は、他の地域にも存在する可能性はあるだろう。そう簡単に平和になってくれるとは思えなかった。

 

「藪を突いて蛇を出すのもどうかと思うし、今はこのまま賞金を出す程度にするしかないね。その上で有益な情報を取りこぼさないようにするしかないと思う。その上で国力回復と同時に兵力を何時でも動かせるようにするしかないかな」

 要するに現在は待ちの姿勢であり、富国強兵に努めるしか手はない。

常備軍なんて贅沢な事は出来ないので、極力動員は避けて少数精鋭を鍛えるしかないだろう。この点で一番役立ったのは兵員輸送車両である。重装歩兵を数名か、軽装歩兵をそれなりに輸送できる。使える加護持ちの騎士や魔術師数名と共に運用することで打撃部隊として活躍していた。

 

この案と共に国力回復を考えると打てる手は限られてくる。

 

「やっぱり街道の整備が妥当だと思うよ。一定距離に休憩所となる『駅』を敷設してキャラバンの行き来も部隊の輸送も簡便にするんだ」

「そいつは判るが敵対した時に逆用されないか?」

「ルートが特定できると思おうよ」

 こう言っては何だが、現時点で心配しているのは遊牧民関連だ。

戦争が起きるとしたら向うだし、交易路を縄張りにしているのもあちらである。戦争が起きようが平和であろうが無視できない相手なのだ。前にも言ったが彼らは強さが重要なので、こちらが強ければ攻めてはこないし、友好的だからと無防備であれば攻め掛かって来てもおかしくはなかった。

 

ついでに予算もないので打てる手は限られているのだ。要塞都市なんか国境にある一つだけで、砦すら増やすこともままならないのだ。町に関してもそれは同様である。

 

「何処に居るか分からない騎兵を相手にしてたら兵が幾らあっても足りないからね。それに表立って戦闘の準備をすると返って刺激すると思うよ。少なくともこっちは対策だけあればいい」

「そうするしかないか」

 街道と駅を敷設する一番のメリットは『目安』である。

荷物を載せず駿馬で移動する伝令を基準とし、キャラバンで何日掛かり行商なら何日と即座に理解できる。この時代の地図は軍事物資なので位置も曖昧であり、街道を設けることでこちらの戦力と相手の戦力がぶつかる日にちなどを逆算し易いのである。

 

遊牧民は移動力は高いが戦闘力は魔族ほどではない……と考えれば日程とルートを絞ることで戦い易くなるだろう。そして何より街道や駅だと戦闘目的と思われないのが良い。

 

「しかし何時もすまんな」

「他に手助けできないしね。知恵なら出すのはタダだから」

 お互いに直接は手を貸さないが、かゆい所に手が届く程度の立ち位置。

それがキリーと僕の関係性だと言えるだろう。僕はあくまで南領に所属する領主であり、秋都の長とはいえ基本的には水棲種族の為の街だ。この辺のアイデアを提供するくらいが関の山である。手持ちの資金も小遣い銭を除けばこの都市の為に使う物だしね。

 

責任もないが利益も存在しないからこそ、中央から目を付けられないという程よい間柄なのかもしれない。

 

 単身赴任気味に秋都へ赴任する事もあるが、前述の通り僕の本拠は南領だ。

最初のころは双葉も麗さんとの対抗から付いてくることも多かったが、最近は面倒くささが先に立ち、一度子供を産んでからはずっと村に居残っている。

 

収穫祭に合わせて出戻り、新婚さん達を皆で祝った後はお祭り騒ぎというというのが定番の日程であった。

 

「二羽二羽! 見て見て、かんせー!」

「……随分と巨大なの作ったね」

 その日のケーキはブッシュ・ド・ノエルどころか大木であった。

どうしてロールケーキを直立させてしまうのか小一時間ほど問い糺したい。高価ではなくなったとはいえ砂糖と生クリームをふんだんに使って、この樹なんの樹バオバブの樹とかやられても困るわけだ。始末の悪いことにもっと高価な材料をぶち込んでいるのが気になる。

 

なんということだろう、このロールケーキ製の大木は茶色いのだ!

 

「ねえ麗さん。どうして輸入と加工を始めたばかりのカカオがこんなに使ってあるのさ?」

「仕方ありませんわ。この子たちが生まれた時に作ったお菓子の家があるでしょう? あれをもっと巨大な形で真似されたのです。負けてはいられませんわ!」

「そーそー! 絶対負けたら駄目だもんね!」

 麗さんはブランド主義者なので対抗意識が強い。

どうやら他所の貴族がやった祝賀会に刺激されたらしいく、双葉に丸め込まれてしまったようである。第一夫人と第二夫人の仲が良いのは助かるが、こんな馬鹿な出費をしなくても良いと思うのだ。まあ流行のドレスで金が飛ぶよりは建設的でみんなが愉しめるとでも思うしかあるまい。

 

既に資金は使われてしまったし、どこかで回収して領地の財政事情を元に戻すのが旦那の甲斐性と言う物であろう。

 

「三硯。妹さんを経由してカカオとコーヒーを意識覚醒をもたらす眠気冷ましの飲料として都に持ち込んで。確かどこかのお姫さまが魔術師になったって聞いたけど」

「正確には復興を断った橙家の息女と同じ時期に東群……いえ、もう東領ですな。そちらの子弟が何名か志されたとのことです」

「ああ、公子だったか。まあいいや」

 以前に探しはしたが見つからなかった色々な香辛料とかお茶の類。

それらがようやく手に入るようになり、移動専用の高速船を設計することで少量なら狙って手に入ることも可能になった。現時点では大量に輸入しても割りが合わないので、薬品の類として売り出す他はない。覚醒作用や興奮作用というのは研究職には重要だし、金持ちならば高価なお茶として売れるかもしれないと思ったのだ。

 

そうやって販路を広げておけば、ここでの出費も研究費用や宣伝と考えることも可能だろう。

 

『ほほほ。何時も賑やかな事よな』

「娘々。御出ででしたか」

 洞府の機能は微妙に拡張し、サイズは領主館の一部から全域まで拡大した。

おかげで九天玄女さまが降臨されている時は何時でも会えるようになったし、弐の村に作っている迎賓館へも時々なら出張することも可能である。偶に幽霊かと勘違いする失礼なメイドも出るが、そのうち完全なお姿になってそんな事も無くなるだろう。

 

水の巫女や火の巫女といった新メンバーも増えたが、そちらは木の巫女である青柳に教導を任せている。特に教義は押し付けてないこともあり、緩やかに信仰は増えていくだろう。

 

「本当に秋都の方へ分社は作らなくとも良かったのですか?」

『それでは信仰が混ざりおうてしまう。急激な成長と言う物は何に付けてもよろしくないものよ』

「娘々がそうお望みなら僕に言う事はありません」

 最初は秋都に分社を作り九天玄女さまの信仰を集めようとした。

しかし僕が居ない時はちゃんとした管理ができず、また情報の歪みなどによって信仰が曲がってしまう事もあるらしい。ひとまずは南領で広まり始めた今の地盤を固めて置き、様々な資料を洞府のみに置くことで、西遊記よろしくこちらまで尋ねてもらう方が良いのだとか。下手にやると土着の信仰や魔族の情報と混ざり合い、レジスタンスやら裏切者のダークプリンセスになりかねないので警戒しているとのことである。

 

そうやってある程度の理解者が増えて、情報などの解釈が固まってから改めて勧進して分社することになるだろう。

 

『すまぬのう。わらわが大神の格まで登ればそなたにも力をもそっと授けてやれように』

「その御言葉があれば他にはなにも。今の暮らしもひとえに娘々の御導きがあればこそですから。術の使い方など工夫次第ですし、その意味では娘々の見識を御聞かせ願える方が何倍も心強く思います」

 別に追従しているわけではなく、あれから色々と習った。

信仰の方も基礎的な部分が強化され、他の巫女たちを介して木火土金水の力を程ほどに得ている。物理的な領地ではなく、魔術的な領地という意味で初級魔法ならば殆ど魔力を使わないことも出来た。それらは大した効果はないのだが、冷蔵庫や暖房設備として流用することで快適な生活が望めたのである。魔王と戦いもしないのに、急いで魔法のアイテムとか作らなくてもいいしね。

 

異世界に転生して前世ほどではないにしろ、近代並の生活が送れているのだ。家族に恵まれたこともあって文句のつけようなどは無かった。

 

『そなたは謙虚よのう。わらわとしても選んだ甲斐があると言うものじゃ。そなた以上に冴えておっても迂闊さで身を亡ぼす者もおろうし、下手な事をすれば力を得ようと怪しげな経典を広めておったかもしれぬ』

「娘々に御恩をお返しできているならば幸いにございます」

 性格や性質を九天玄女さまに見定められ、この世界で僕は転生した。

これからも人生が続く限りやっていくと思うが、願わくば大過や騒乱などなくていいから地道に幸せな人生を家族と共に送りたいものである。

 

そして僕の物語に記す最後の言葉は、既に決めてあるのだ。どんな人生を送る事になろうとも、おとぎ話の様にこう締めくくるのだ。

 

めでたし、めでたし。




 と言う訳で後日譚になります。
タイトルは好きな漫画から、最終巻の名前をパクって来ました。

これにて完結、次のUPはデザイナーズノートになると思いますので、無理には読む必要のない内容になるかと思われます。

●デザイン例:ネーミングライツ
 ランドマークが苗字、町・分村・邑の番地がセカンドネーム。
名前は民衆ならば職業に関する名前、貴族は子供に期待する生き方。
ドワーフやエルフは異なり、古い名士の東領の貴族なども一部異なる。
レオナルド・ダビンチは、ビンチ村のレオナルドなどと似た様な形式。

これらの方式は一応の物であり、必要であれば全体が修正。
東領 → アメリカ東部十三州。
緑家 → スミス家 という感じになる。
神様も同様で、九天玄女さま → ニケさま となる。
名前を決めるのに時間を翔けず、修正時に違和感を無くすため。


と言う感じの事を書くと思うので、前述の通り無理に読む必要はありません。
自分が後で読み返して、「毎日書くのはどんなコツだっけ?」と確認するためなので。
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