妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
●
オオトカゲ対策に指南車モドキを組み立てていく。
その作業は故郷に居た時以来で、懐かしさが感じられる。昔はこれを使ってレアな山鳥だとか見つけ難い地域に隠れた獣だとかを狩ったものだ。逃げ込むタイプはそれで終わりだし、空飛ぶ奴相手に移動射撃を練習させてもらった。
そして毛皮と肉は売りに行ったり、神様に奉納したりと色々な面で活かしていた。北の大地と獲物たちだけなら感謝の思い出しかない。吹雪と雪崩で死にかけた時ですらエッチなイベントのキッカケだったと思えば許容できる。
「固定目標は……村長の家にしとくか。仮の冒険者ギルドでもあるし」
村長宅との方向性を保全した円盤を棒に挿す。
すると僕が右に移動すれば左方向に回転し、左ならば右回転だ。常に同じ方向を指すので自分が固定目標からどの辺に居るのかが大まかに判る。太陽の角度やら他のランドマークを利用するともう少し詳しく判るはずだが、この固定目標が一番役立つのは地味に吹雪や迷いの森から帰還する時である。神話で出てくる小道具が元ネタなのは伊達ではない。
次に『一番近いオオトカゲ』の方向を移動目標として固定する予定だ。このことで僕からどっちの方向に居るかが判るようになる。今回は知ってる獣(トカゲだけど)なので明確なイメージが出来る相手で助かった。
「えーっと。これでおおよそわかる筈だけど……問題は僕からみた視点じゃないんだよな。瞬時に見方を変えて、説明できるようにしないと」
ただそれだけでは他の人間には意味が薄い。
これに固定目標である村長宅との方向を組み合わせることで、僕からではなく誰もが理解できる固定目標からの位置が判別できるのだ。分かり易く言うと移動する僕の位置からどっち方向ではなく、基点からどちらの方向ということで判断に迷えば元の位置を思い出せばよいのがいい。
だが幾つか問題が生じる。
一つ目は自分から見た相手の位置や基点に過ぎず、同行する仲間からは鏡を正面から見るよりも判り難い。そこで結界は使わずに他の方法で補足説明する必要があった。
「とあえず双葉を仮目標にしてっと。少し動いてみて」
「ん……」
簡単な人形を棒の一番上に挿し、これを双葉を移動目標とする。
後は反対側は横に回って確認すれば良い。指南車モドキは地面に置いておいて、正面から見て双葉の移動した先が何処に当たるかをやはり地面に書き込む。同じように真横から見た位置を書き込み、元の位置に戻ってその書き込みを把握し直す。
そしてその把握した差異を、円盤の上に書き込んでおくのだ。
正面に居る人から見て対象が何処にいる、真横に居る人間から見て何処にあたる位置にいると説明する様にメモ書きしておけばいい。
「まっ。僕が使うんだからこんなもんでいっかな。他人に渡すならもっと判り易い目盛りでも付けるんだけど。……あ、もういいよ」
「ん。後でご褒美」
おやつでも後で焼いてあげるとして、ジャム代は紅梓に回そう。
しかし昔はこの能力に頼るしかなかったのと、獲物を上手く採れたことで色々と使い回そうとしたものだ。木の実や薬草採集に協力するからと手伝わせておいて、上手く見つけれなかったときはとても文句を言われた。
確かあの時は近距離に複数条件あるとダメだったはず。
何が問題かといって最初に収穫した木の実を指してしまうのだ。そりゃいつまでも指標がグルグルして、与えた魔力を使い果たすはずである。
(他に……何を作ろうとしたっけ? 蛇腹剣は微妙だったなあ)
ファンタジー装備に憧れて蛇腹剣を作ろうとしたら、直ぐに剣状態の保全が無理になった。
じゃあ刃の付いた鞭として使おうとしたら、刃の方向は安定しないし刃と刃の距離も安定しない。だけどこの二つのどっちかを保全すると魔力を消耗するか、結界同士の抵触で消滅するのだ。武器の形状で刃の距離を固定するとしても、方向が真下とか右側だけにしか向かないのである。
今なら剛盾に頼んで機構を簡略化できるにしろ、そこから先が思いつかない。やるなら蛇腹剣ではなく、多節鞭の路線でやるべきだろう。もっともそうそうなるとロマンの欠片も思い浮かばないのだが。
(高温の窯とかも失敗したし……。ああ、そういえばレンガとコンクリは成功したはず。確か窯を作る時に量産させられたんだ)
色々試すのに元手の他に、剛盾みたいな酔狂人との交渉が必要だ。
その時にレンガで炉を作る手伝いをさせられたのだ。高温の窯も試したけれどあっという間に魔力が尽きるのは同じ、ヒビが入り難い窯は可能だったけどそれだって僕が保全し直す必要があった。
今となっては良い経験だが、レンガ量産とコンクリートの速乾材代わりにする効用はちゃんと成立したのだ。何しろ元が時間を掛けて固くする物である為、型枠を保全したり形状固定を一時的に強化するなんてのは難しくはなかった。もっともコンクリートは北領にある火山の灰を利用した物なせいか、僕のイメージより固まるのが遅かったのでムカついて強引に固定した。
(その辺の経験を活かせることなんかあるっけ? 赤レンガを量産して村の家を建てるとか、道に敷き詰めて文明圏ポイ雰囲気にするくらいだよな)
かといってメリットがあるほど意味があるかは微妙だと思えた。
そりゃ外側だけでもレンガで立てれば強固になるし、住む人だって魔物対策になると安心するだろう。でも実のところ豚が三匹いる童話じゃあるまいし、レンガの家で守れる魔物というのはたかが知れているのだ。あえていうならばアンデッドが現れる可能性のある北東付近だろう。
北東の家だけでもレンガで固めて安全性を訴え、万一に備えてレンガ作りを増やすとでも言えば住民は協力的になるだろうか? まあ暇な時に労役で作ってもらって、僕が建築時に協力するくらいだろう。
「依頼書と資料できたわよ。これで安く受けてくれるんでしょうね?」
「少なくとも傭兵の一班を雇うよりはね。判ったってば……後は色んな事の練習に使う事にして、それへの期待でもう少し値引きをするよ」
その頃になって紅梓が必要な物を揃えて来た。
理知的なエルフの筈なのに書類仕事が苦手なのは、単に好みの問題なのだろうか?
それはともかく資料の方には急いで目を通し、複数体はいない事とか外見に関する情報を確かめる。
「ok、これなら上手く行きそうだ。人数を動員するけど、それは僕の手元から出すので安心して。サッサと捕まえて村人には安心してもらおう」
「はいはい。私も手を貸せばその分安くなるのよね? というか私のお金で私を雇うのって納得いかないんですけど!」
必要な情報と手続きが揃ったので、早速移動する。
既に結界前には何人かが配置についているので、労いの言葉を掛けつつ報酬を出すと説明しておく。その時に紅梓に対して礼を言うのは、今夜の酒代を負担してもらうためだ。
酒と言えば蒸留酒だが、僕にその知識が無いのが痛い。僕でも直ぐに思いつくコンクリートはこの世界に元からあったし、石鹸なんかも同じだ。元の世界で覚えていることなら保全されているらしく思い出せるのだが、蒸留なんか本を読んだ覚えもない。そのうち剛盾とでも話し合って研究すべきだろうか?
「と言う訳で、紅梓さん主催のオオトカゲ捕獲作戦を開始します。家畜になる可能性があるので捕縛した人には金一封。村の中心部に向かったら殺傷もやむなしですが、習性や動作の情報で少額ながら報酬も出します」
「「おお!」」
周囲の反応はこうだ。
『酒が飲める』『酒が飲める』『酒が飲めるぞ!』トドメに一撃必殺『他人のおごりで酒が飲めるぞ!』である。何しろまだ何もない村であるし、娯楽と言えばパートナーとの一夜(夫婦とは限らない)か酒である。酒の分量だってないし、他人の責任で飲酒できる機会は貴重なのだ。
その反応に紅梓の顔は真っ青だ。
資金的な問題もあるが、このグータラエルフは酒と甘い物の両刀遣いである。何をやっても彼女の損害にしかならない。
「一班は捜索活動、これは僕が相手の位置を補足します。二班はルートを絞る為に動かないでね。三班は二班の傍で待機しつつ、こちらの指示があれば包囲網を狭めて」
「了解!」
既に相手がオオトカゲだと判ってるので、みんな軽装で最低限の装備だ。
重装備の者は村の方に待機し、イザという時に槍で壁を作ったり、槍衾で仕留める役である。
「では早速……西にあるエルフの森から東南中に求めて進む状態。中央にある村長宅からは、当然南下中だね」
「ふうむ。ワシらの山との間にある林に逃げ込む気かの」
「だとしたら経験者(?)ね。あそこは緩衝地帯だもん」
少し歩きながら盤面を見ると、オオトカゲの動きがある程度判明する。
漠然と南下しつつ、相手との相対距離が徐々に縮まっていく感じだ。どこかで相手が警戒して動きを止めるか、別方向に逃げようとするかするだろう。
ということはこちらも二班・三班を帯同して行動するのではなく、どこかでエルフの森方面から中央への道を塞ぐべきだろう。中央への道は今のところ僕らで良い。
「紅梓さんに確認。このオオトカゲは乾燥が苦手な種類で良いんだよね?」
「そうよ。山に登ったりはしないわ。だから逃げ込むとしても林まで」
「だからといって坑道に入り込まれて嬉しくも無いがの」
ここで素早く情報から作戦を組み上げる。
あちらの方向に川や洞窟の類はない。水路はあるから警戒は必要だが、それだって大の大人が二名も居れば十分だろう。水辺のピポポタマスはライオンでも瞬殺するというが、サイズ的にはドサンコ馬くらいである。
なので二班三班をそれぞれ一名ずつのペアで二か所。ドワーフ側と水路に一組ずつ。あとはエルフ側から徐々に追い詰めてもらえば良いはずだ。
「二班と三班から一名ずつ組んで、ドワーフの領域への道と、中央へ繋がる水路を抑えて。他のメンバーはエルフの森側……そうそう。あの辺で待機してて。必要に成ったら移動を促すから」
「うーっす」
一組目が適当な場所で曲がって水路へ向かう。
二組目もある程行った所で僕らと別れて直進するはずだ。その間、僕ら手順を踏まえて作戦に必要な内容を分担する。
足の遅い剛盾と数合わせて連れて来たもう一人が、これ見よがしに動いて囮。中央方向への蓋となりつつ、僕・双葉・紅梓の三人で包囲網を狭めていく。
「紅梓さんは警戒されているだろうから、二番目の囮。途中から風上に回ってくれる?」
「注意を引き付ければ良いのね?」
「追い詰めたら、私が捕まえる」
僕と紅梓は短剣と小弓を持て移動。
狙いは脚だが、六本もあるので微妙である。どちらかといえば移動速度を落とし、行動を鈍らせるくらいだ。本命は捕縛作戦と言う意味もあり、双葉が覚えている眠りの魔法である。
この世界は下位の魔法なら誰でも使えるが、取得に関して平等であっても機会までは平等ではない。残念ながら田舎暮らしの僕らでは、魔法を覚える個数も種類も限られているのだ。村人の中には生活魔法すら覚えてない人も多いくらいなので、仕方がないだろう。
「こうしてると、むかし。思い出す」
「そうだね。二人で一緒に山に入ったっけ」
僕は狩人の家に生まれたので、山鳥を獲ることが多かった。
対して双葉は薬師なので、基本的には攻撃しない。それはそれとして自衛手段として弓とか短剣の使い方は覚えたが、眠りの魔法を彼女が覚えるというのが当時の最適解だった。もちろん僕は別の魔法を覚えて負担を折半していた。
その後に傭兵となってもそういった分担は変わらない。
僕が水系統から、水の生成や初歩回復の魔法を覚えてフィールドワーク中心。彼女が着火の魔法や活力の魔法を覚えて、自前の薬草と合わせることで治療系や漢方系という風に分け合ったのだ。
「都出身の魔導師が僕らを合わせた三倍以上を覚えたって聞いたら驚いてたよね」
「驚いたのは双羽。私は知ってたもん」
と言う感じで雑談を交え、仲間達にはハンドサインで合図を送る。
僕から見て相手がどの辺かを腕で指し示し、掌や拳の動きで待機や移動を指示していく。
そして相手の動きが止まり、僕らだけが動き始めた時のことだ。
「……気が付いた! 所定通りに行動!」
「了解じゃ!」
「……」
僕の指示で剛盾たちが移動を開始。
紅梓は既に足音を消し気配も隠そうとしている。僕らから見れば風上なのでまだ判るが、流石にエルフの隠形は凄いと感心せざるを無かった。
そしてオオトカゲは剛盾たちの動きに驚いて、紅梓の方へソロソロと動いていった。おそらくはそちら方面から中央へでも抜けるつもりなのだろう。
(僕が先に立つから。ゆっくり魔法使って)
(うん)
軽く手を握り合って、僕はもう片方の手に短剣を構えた。
森の一角であるためか、木々がそれなりにあって小弓では当てにくいのだ。
やがて紅梓に気が付いたオオトカゲが、ビクっと体を震わせて一気に走り始めた。
「……今だ!」
「えーい!」
さすがにエルフの弓は森の中でも正確だ。
牽制のはずなのにちゃんと足の一本を捉えていた。僕は接近しながらその事を確認すると、短剣を振って同じ側にある足を狙う。
そして組み付きながら剛盾たちが援護に来るのを待とうとすると……オオトカゲはガクっと動きを止めて、今回の騒ぎは終了したのである。
と言う訳で後の発展につながりつつ、ちょっとしたアクシデントの解決。
レンガ塀とか一部にレンガの建物が出来る感じ。
コンクリートに関しては、残念ですがこの辺に火山はありません。
ドワーフの山脈の向こうとかかな?
他には過去話をチラホラと挟む程度。
そのうちに、転生時に神様視点で初めて、転生後数年目からの外伝でも挟もうかと思います。
●魔法
下級は四大精霊魔法・共通魔法(生活魔法はその一部)のみで、皆覚えられる。
しかし能力は平等でも、機会は平等では無いので貴族はともかく民衆はあまり覚えない。
都の魔導師と地方の傭兵崩れでは習得率がまるで違う。
いわゆる賢者の学院とか魔導師ギルドというのは伊達ではない。
ちなみに神聖魔法も存在しないので、回復魔法は下位の精霊魔法に分散。
水が代謝コントロールを兼ねて初歩回復。火が精神系を兼ねてたりします。
地が再構成を司るので、外見治療と防御を覚えて司祭系に見えなくもない感じ。
なお光と闇はレア属性で、祝福持ちだと覚えられる程度。
運が悪いと三十台で光魔法を覚えるアラサー聖女様が発見されたりする。
(この世界の聖女・勇者と言うのは、シチュ的に神が遣わしたとしか思えない人への称号です)