妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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隣村は荘園主が戦死しており、村人たちも難民化して離散している。
大部分は領主である伯爵の元に逃げているが、だからこそ領地が欲しく成ればこちら側に延ばすと言うネタを使えたのだ。
魔物に勝てないのも問題だが、残った一族が村人を主導してまとめた行動をさせられていなのは貴族失格。領地を奪われてもおかしくはないし、実際に奪いに行くかともかくそこの荘園に手を伸ばすことは出来た。
「いやあ二羽くん。こんな立派な教会を建ててくれて私は嬉しいよ」
「約束でしたしね。それに今、煉瓦で色々作るのに凝ってるんです。それに作ったのはガワだけですしね」
青悟が建物に彩られた教団の紋章……蓮を象った燭台のマークに感動している。
色々と思う事はあるが、余計な事は言わないでおく。荘園の防衛のためだとか、場合によっては対人戦の為だとか、それこそ大地母神の為に建てた訳ではないとかそういうのはまとめて余計な事だ。
下手な事を言うと、防衛のためだから感謝の気持ちは要らないだとか、領主に歯向かうだとか思われかねない。大地母神以外に信仰している神様はいるし、宗旨替えする気はないのだ。
「そういえばね。伯爵から言伝を預かってるんだ。君には良い事なのか、悪い事なのか分からないけど……。骨を折った甲斐があれば良いなあと思うよ」
「御領主さまから?」
嫌な予感はしていた。
問題はどの種類の話であるか……だ。それこそ青悟が言う様に、良い事にも悪い事にも転がるのだろう。
そして僕は以前から言っていたことを訂正したり、曖昧さを活かすべく詳細に意味を告げなかったことを後悔することになる。
「伯爵領に蔓延る魔物を退治せよとの仰せだよ。もちろん褒章は期待して良いとの事だ」
「ゲッ。参戦ですか……」
悪いシナリオとして以前、便利に使い倒されるケースも考えていた。
その時は戦い続けさせられて報酬無しという感じで想像していたが、この様子だとちゃんと報酬を払う代わりに戦闘にさせられるようだ。褒章が名誉なのか土地なのかが分からないのが不安である。
考えていた最悪のパターンよりはマシだが、思ったよりも早く伯爵の方に限界が来たと言う事なのだろう。限界は限界でも僕に対する不信感ではなく、魔物対策に充てる費用と怒りへの限界だと思うけれど。
「少し考えても良いですか?」
「できれば私がここに逗留している間に決めて欲しいかなあ。でも私としては色よい返事を期待しているよ」
青悟は伝道師であり、教えを広めたエリアの広さで功績が前後する。
彼としては教会の行こうと僕ら新荘園主への影響を駆使して、この辺り一帯の長であり司教か、それとも本部に戻っての贅沢暮らしを望んでいるのだろう。
ソレを踏まえれば僕らが活躍して周辺を平和にする、その主導をして伯爵に大きな借りを作らせるというのは美味しいに違いない。
「要請には応じます。しかしどの規模で可能かは判りませんよ?」
「やだなあ。君、前に言ってたじゃない? 必要なら向こう側に手を伸ばすってさ。コレはチャンスなんだから」
あー。そういえばこいつにも言ってたな。
というか案として挙げただけで、剛盾や紅梓に対して口にした時よりも軽かったはずだ。それを前提にしているというか、彼の頭の中では『やらないとおかしい』レベルで当然の案だったのかもしれない。
思えば貴族のやり方を聞いた時に、似たような話をして居た気もする。その辺の考え方を参考にさせてもらって居る事を考えれば、お互いの考え方の違いをもっと早く説明して、今に至る齟齬を解消して置けば良かった。
(致命的な所で露出しなくて良かったと思っておくかな。流石にそこまではやらないと思うけど、伯爵を暗殺して『君の為に用意しておいたよ!』とか言われても困るし)
とりあえず青悟には何処かで考えを伝えて訂正しておこう。
その後に態度で示して、僕が野心的な人間ではないと説明するしかない。
それはそれとして今回の件は悩ましいが、剛盾や紅梓に相談する訳にもいかない。彼女たちは異種族陣営からの協力者であって僕の軍師や参謀ではない。自分たちの種族に利益があるからこそ協力してくれているのだ。少し寂しいが自分で決めたことなので、どうにか自分で決める必要があるだろう。
(さて。今回はどうしよっかな……)
ひとまず伯爵の要請に対しては、三つの方針が考えられる。
消極的に前進する案か積極に行動する案。それらとは無関係に、出動要請を動く理由として流用するだけの案だ。この三つの方針のどれかに色々修正した形に落ち着くだろう。
まず消極案は僕が前にやろうとしていた、うちの荘園を守るための前進防御。
近隣の村を三つか四つ安全にして、その過程で隣村に居座って実質的に僕の物にしてしまう案だ。伯爵が褒章として土地をくれる場合はその辺だと思うので、おそらくは『領有を認める代わりにもう少し魔物を倒せ』で折り合いがつくだろう。そしたら伯爵の負担が軽くなる程度に動けばいい。
次に積極案は以前の仲間を含めた他の荘園主にも声を掛け、伯爵領全体を僕の主導で掃除してしまう案。名実ともにこの地域での名声と影響度を僕の物とし、伯爵領の重鎮として名乗りを上げる案である。伯爵を始めとした古参メンバーの心象次第というのがやや不安である(青悟なら全部奪えと言いそうな気もするが)。
最期に流用案は伯爵の要請である魔物退治は手段であると割り切って、この地域に影響を与える為だとか国の問題を何とかする為に行動するのだ。この際だが途中経過は何でも良く、最終的に僕の目的を叶えるために利用するという物。
(どちらにせよ、今の状況自体は僕にとってチャンスなのは間違いないんだよね。下手を打つと猜疑心を煽るだけで)
今の僕の身分は騎士相当でしかない。
荘園を持っているので上級騎士であり、準男爵くらいにあたるはずだ。そんな奴がこの地方の平和だとか、ひいては国の為に立ち上がるとか噴飯物であろう。
騎士一人の力で魔物の問題一つ解決できる訳がない。しかし伯爵の要請があれば動く理由になるし、他の荘園主に声を掛けて状況を変えるだけならば動かすことは可能だろう。
(消極案は以前からの計画の延長上なので失敗しないけど、問題点もそのままだからまあ……ないかな。積極案はハイリスク・ハイリターンな上に、僕の欲しい結果じゃない)
以前ならば迷ったかもしれないが、神様のありがたい御言葉で問題は無い。
最終系を考えて動けば良いので、流用案を前提として何を目的とすべきか、伯爵の要請を何処まで組み込むかの話だった。
小さくは飛び地で面白い収穫物がある土地が欲しいだとか、有能な人材を引っ張って来るとか、あるいは問題の大元をどうする事だろうか?
(食糧事情の改善の足掛かりにしてしまうとか? 今のままだとこの国、終わってるしなあ)
何度も行ったと思うけれど、アンデッド湧きが穀倉地帯を封鎖している原因だ。
国全体の食糧事情がよろしくないし、高値で売れるとはいえ穀物を備蓄できないから領主層にとっても頭痛の種だ。度重なる魔物の襲来でとうとう悲鳴を上げた伯爵のような例もある。今後に同じような事が無いとはいえないだろう。
かといって群雄割拠をさせてないほどの末期症状で、このまま同じ状況が続くとは限らない。現に東部域は大河の影響もあってかそれなりに豊かである。放置すればあちらから英雄が現れて大規模な戦争にもつれこむことも十分にあり得た。
(うちの影響がないなら放置しても良いんだけどなあ……。逃げ込まれるのも願い下げだし、そうなったときに和平案とか穏健路線を提案できるくらいにはなっておきたい気もするんだよね)
荘園の防御を固めて城にするのは良い。
だが統一戦争が始まった時、伯爵やら侯爵が逃げ込んで来る可能性はゼロではなかった。領地を発展させているだけに他よりは可能性が高いだろう。
そういった意味で戦争が起きそうだったら、伯爵経由で和平とか積極的に統一支持に回れるだけの土壌を作っておくのは悪くない。すくなくとも、南領の食糧事情が先に解決して居れば、いろいろな手が打てるはずである。
(そもそも論として、食糧事情が改善しないと万が一の事態が起きたら困るのもあるしね)
現時点では問題ないが、飢饉が起きたら大変だ。
山には豊富な食糧があると言っても、飢饉が起きるような状況だとそれらもグンと減ってしまう。少なくとも来年度以降に種を残すとしたら、余裕どころの話ではないだろう。
それらを踏まえて豊かな生活を送ることを考えれば、今回の件を流用して穀倉地帯回復に向けた一手を打つべきだろう。野心を疑われそうだったら、得られる名声とか影響なんかは程ほどにして、一定以上は他の人間に投げてしまえばよいのだから。
「方針は決まりました。聞いてもらえますか?」
「思ったよりも早かったけどどうすることにしたのかな? 私で良ければ協力させてもらうけど」
ニヤニヤと笑う青悟だが、その手には乗らない。
此処で焦ったり隙を見せるよりは、淡々と行動で示すべきだろう。
そして説明の代わりに取り出したのは、南領の古い地図だ。
所々間違ってるし僕の荘園みたいに色々変わっているはずだが、当時の要衝を分かり易く説明してくれている。
「昔、伯爵領の北の方へ万鹿柵という要塞があったそうです。その辺りまで一気に行って蓋をしましょう。これで来年以降の魔物は随分と減るはずです」
「それは良いけど、もっと北にも貴族はいるよ? 伯爵の縁者だから何か言われると思うけど」
その場所は山にも柵がしてあって大軍を推し留める程だったとか。
あくまで伝承に過ぎないが、判り易く意図も伝わり易いので名前を挙げた。負けて廃城になるまでは山の麓にある要塞だったそうなので、防御し易いのが一番の理由だ。
そして要塞よりも北に貴族が居るというのも、後に行動する為の言い訳になる。
「その時は神職を集めていきましょう。壁を作ったことで随分と溜まってるでしょうしね……そして次の要衝を目指すんです。その時はもう騒ぎは起きなくなるかと」
「次の要衝って、南方鎮台だよ? そこまで行ったら……まさか」
そもそも万鹿柵は、南領を抑え込むための要塞だった。
そして南方鎮台は中央が南領ににらみを利かせるとともに、穀倉地帯南限でもあるので周囲からの収益を確保する為の行政府でもあった。
つまりはそこまで行ってしまえば穀倉地帯の奪回が目に向見えてくるわけだ。浄化の出来る神職を事前に集めておくという事は、周辺の鎮魂によってアンデッド湧きが抑えられるという事でもある。
「面白い事を考えるねぇ君ぃ。神職たちの主導をするのは私って事でいいのかな?」
「それでお願いします。うちの神様はまだまだ無名の小神ですしね。……あと、その辺の作戦を仕切れる人を知りませんか? できれば今のうちに声を掛けて仲良く成っておこうかと」
南領でのアンデッドを一掃する儀式の司役を務める。
それは大変な名誉であるし、本来ならば青悟ごときの立場では無理だ。しかし国土回復戦争の途中でそんな事は言ってる暇などはない。なし崩し的に彼が務めるだろうし、その時の功績からそのまま司教職になる可能性もあるだろう。
そして重要なのは彼にその大役を任せると同時に、指揮官役を探してもらう事。それによって自分自身はこの辺りで覇を唱える気はないと遠慮しつつ、発言力だけはその人物を通して確保したいという狙いは伝わったはずだ。
「そうだねえ。伯爵の長男は武名に乏しくてね。代わりに戦ってくれる人を探してたと思う」
「ではその辺りの調整をお願いできますか? もし古参の騎士が予定以上の突撃を主張したら、止めないといけませんし」
重要なのはアンデッド湧きに蓋をする事、次回以降に万全の態勢で挑めることだ。
今回の序盤で上手く行ったからと、途中から古参の騎士が主導して中央まで猪突されても困るのだ。そうなると蓋を作ってアンデッド湧きを抑えることができない。万が一成功してしまうと、そいつの発言力で何処までも行きかねなかった。
その事は青悟も困るはずだ。いや、先ほどまでは影響力を増やせるなら面白いと思うかもしれないが、僕の提案した計画の方が魅力的な筈である。丁度良い大将と武官を付けてもらえれば、無茶をせずにバリケードを作りながら移動できるだろう。
と言う訳で、戦記物である事を思い出して活動開始。
まあ内政物だけで終わっても良いのですが、選べるジャンルにないので仕方ない。
とりあえずはアンデッド湧きを止めに行くという感じで計画を立てていきます。
●マーク
大地母神の教団を示すマークは作中にある通り『蓮を象った燭台』です。
これは燭台を他の神々に見立て、それを支える役割であるというもの。
主神であると主張するのではなく、それでいて他の神々とも仲良くする姿勢ですね。
ちなみに一番ゴージャスなマークは、殆どシャンデリアになります。
(こういった傾向があるので、他所の神様を咎めません)