妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

17 / 118
伯爵家のお家事情

 方針さえ決まれば後は大した事はない。

今回の目的を決めることも、その過程で必要な事も大抵は逆算で成立する。

 

まず目的自体は、万鹿柵に壁や堀を敷設するという、うちでやってる事の延長なので後は規模の問題である。その周囲を制圧して敷設するとして、必要な資材と戦力を集めるのが過程と言う訳だ。

 

「万鹿柵を封鎖する資材自体は徐々に集めると同時に、各地の解放に使います。手順は前と同じで少しずつ封鎖して魔物退治……下級アンデッドに関してはそれで行けると思います」

 青悟に仲介されて、知らない顔の男と面会することにした。

その人は領主の長男さん……ではなく、その側近の騎士らしい。同じ騎士身分であっても相手の方が年長なので、下手に出ておく。

 

そして地形を利用して封鎖し、各個撃破の々と言う戦略は変わらない。

敵は圧倒的多数と言うのが問題で特に連携しているわけでは無いので、油断したり無謀に突撃しない限りは問題なく倒せるはずだ。

 

「ここで重要なのは強さではなく、全軍の統制です」

「戦こそは武門の誉と言う輩は扱い難い、かといって文若の輩もダメ。方針としては理解はできるがそう都合よくいくのか?」

 作戦さえ上手く行けば何とかなる闘いだ。

だからこそ、重要なのは全体の統制になる。相手が雑魚だからと無謀に突撃する勇者というのは困り者だし、『うちの領地はもう安全だからサヨウナラ』と言われて協力してもらえないのもやはり困るわけだ。

 

この案を良しとしてくれるが、そう都合よくない人間関係を突っ込まれた。言葉が荒くないのは、むしろそういう事を忠告してくれているのだろう。

 

「ですので言う事を聞く方を優先的に助け、その援助を得られる場所から最初に回っていきます。次々に協力してくれる方を味方とし、援護するとの言質が大勢となるような状況を維持します。そうすれば首を横に振るのは難しいでしょう」

「……間違ってはいないな。できれば根回しもしておけばより良いだろう」

 右向け右ではないが、全体の結論が決まっている状態で反対は出にくい。

うちは戦力を出せる、我が家は物資、あるいは多少なりとも金銀と……余力が無いのは何処も同じなのだから出せる物を供出してもらう訳だ

 

最終的に安全地帯を作る様に動けば、安全になったら戦力を提供できる人も増えて来るだろう。その時までに『みんなが出しているのだから、我が家が出さぬわけにはいかない』と言う論調を作ってしまえば問題は無い。

 

「盟主に御長子たる悌さまが立たれるという事であれば家中も結束しよう。元から伯爵家が何もせぬというのは風聞に悪いという状況であったからな……」

「何か御懸念でも?」

 ここで出てきた『悌』という人物が伯爵の長男の名前である。

南領は赤に関するランドマークが多いが、緋雁原の『緋』が伯爵家の名前なので緋(央)悌となる。ちなみに悌という名前は王様から頂いた文字だそうで、中央での人質暮らしが長かった名残だそうだ。

 

そしてその事は家中のゴタゴタを感じさせても居た。

戦い慣れないのもその辺りが原因なのだという話だし、いつまでも中央に従い敬う事を義務付けられた人物が次の当主で良いのかと言う事だろう。

 

「以前から伯爵家が積極的に南領を救うべきだと主張している古株どもがな。今更何をと言いかねないのと……具体的な戦力の面で懸念を示しかねないのだ」

「戦う前から勝つ戦略なので問題ないとは思うのですが……」

「まあ悌さまは君の案に賛同して居るらしいよ。でもね、回りが全員そうだとも限らない」

 正面から戦わないというスタイルは、戦いなれないご長男には好評らしい。

だからといって全員がそういうわけでは無く、突撃しかねない勇猛果敢な家柄の連中が居るらしい。

 

そいつらを説得すれば一気に話が楽になる反面、むしろ反対に回っているのが問題だという。彼らいわく、由緒ある伯爵家が率先して戦えば自然と平和を勝ち取れるのだとか……もちろん一時凌ぎでしかないから伯爵は選択してないのだが。

 

「事前にその人たちを根回しで納得してもらう事はできないのですか?」

「難しいな。彼らからすれば悌さまのご舎弟である連さまを担ぎ上げたいというところだろう」

 一応はうちも同じ家中の人なのだが、お家騒動は勘弁してほしいと思う。

とはいえ連さまという次男は姉二人を挟んで四人目だそうで、年齢的には一回り違うらしい。だからこそこれまで継嗣問題で重要時には至らず、伯爵家の財政が悲鳴を上げる今まで大事にはなかったという。

 

……何というか綱渡りな運営で、未来への反面教師にしておこう。

 

「青悟さん。何かアイデアはありませんか? 僕はその辺りの事に疎くて」

「そうだねえ。……まあ手が無い事はないよ。彼らに尊敬されれば良い訳だから」

 伯爵家の事には詳しくない、家庭事情には口を挟みませんよー。というアピール。

その為に青悟に声を掛けたのだが、彼は一発逆転のアイデアを持っている代わりに、それは大問題であった。

 

できるかどうか怪しいと見られている方法だから、逆説的に武門の連中から関心を誘えるのだという。

 

「まさか……アレを倒せと? 無茶でしょう」

「だから説得材料には良いのです。伯爵領の誰もがその恐ろしさを知る相手であり、それを倒せるという事は勇猛果敢な彼らの仲間と言う事なのですから」

「……一体、何を相手させようというんですか?」

 なんていうかさ、できるだけリスキーな事は避けたいからこんな相談してるんだよ。

その事を忘れてないよね? そう口に出せたら良かったのだが、この状態で問いただすわけにはいかない。

 

そんなことをしたら青悟の面目は潰れるし、この騎士さんも『やっぱりかー』と説得に回るのを止めかねなかった。

 

「ああ。銀殿はこちらの生まれでは無かったな。緋家の名の元となった緋雁原には火の精霊が出るのだ」

「普通は小さな鳥サイズなんだけどねぇ」

「いつの間にか大きな個体が出たらしい……と? それは確かに強敵ですね」

 ファイヤーエレメンタルとか止めて欲しい。

もしかしなくても魔王軍がこの王国を攻めた時に出現したんじゃないかと思う。

 

しかしこの話を聞いただけで、武門の連中が尻込みするのも判る。名前からして小さな火の精霊が複数存在する平原で、そこに大きな精霊が一体待ち構えてるわけだ。そりゃ倒せんわ。

 

「どう? 何とかなりそうかい?」

「難しいですね。これまで倒せなかった理由が二つあるのは判ります。その双方を超える条件を揃えてどうにか……という所でしょうか」

「ホウ……そんな事を言ったのは君が初めてだぞ」

 青悟の問いに返していると、騎士さんの方が乗り気になっている。

さっきまで『無理なら無理で良いんじゃよ?』という感じの諦め気味だったのだが、今では話を聞いてみたいという顔になっていた。

 

まあ何というか、いつもの弱さゆえの分類なのだが。

おそらく武門に所属するという彼らは能力に任せて研究とかしてないんじゃないかなーと思う。

 

「一つ目の原因は分かり易く、普通の刃が通じない事ですよね。この時点で数で攻めるどころか、有能の騎士であっても倒すことは難しいです」

「そうだな。私は近侍でもあるので問題ないが、誰もが可能ではない」

 この世界は誰でも下位魔法くらいなら覚えられるが、機会は平等ではない。

神の加護が前衛系だったら一々魔法を覚えるよりも殴った方が早いし、そうでなくとも覚える余裕があるかは別なのだ。その中で物理攻撃が効かない相手への攻撃手段を備えるのは稀だろう。

 

仮に二種・三種と魔法を増やしていく人がいれば、その中で付与系なり攻撃魔法を覚える人も居るかもしれない。しかしそれはあくまで可能性でしかなく、それまでの生活もあって覚えないことが多かった。事実、僕も双葉も付与系や攻撃魔法は覚えていない。

 

「第二は?」

「延焼ですね。火というモノはそれだけで人を傷つけます。仮に緋雁原が燃える平原という異名、あるいは火の精霊が無数に居るという所から来るならば、目的の精霊と戦う事すら難しいでしょう」

 灼熱地獄を潜り抜け、オプション込みで数体と戦闘。

その条件をクリアしようにも、頭数で攻め潰すという手段が使えないのだ。攻撃手段のない連中を連れる事はただの足手まといにしかならない。

 

つまり魔法の武器または付与魔法を持った十人、または国家で上位から数えた方が良い数名を集め速攻で倒さねばならないのである。群雄割拠でこそないものの、国が一致団結して居ない現時点では、到底不可能に思えただろう。

 

「しかし難しいという事は、前提さえ何とかする事ができれば可能と言う事だよね?」

「そうですね。最低でも攻撃手段が複数。これは魔法の武器でも付与魔法の使い手でも構いません。目的の精霊を速やかに倒すために必要です」

「全滅しないというのが条件だがそれは可能かもしれん。例えば私が参加するとかな」

 だから第一条件自体は、情報を整理さえすれば何とか可能なのだ。

この騎士さんは近衛兵だから、幽霊やら魔族やら対策で付与魔術を覚えているのだろう。青悟だって攻撃魔法を使えるから可能ではある。もし伯爵家が魔法の剣や魔導師を用意できるならばもっと手段は増える事になる。

 

だから重要なのは第二の条件の方だ。

この時代、よっぽど叶える方が難しい作戦なのだから。

 

「ということは延焼対策か。難しいどころの話では無いな」

「ええ。燃えるという行為は普通の事ですからね。攻撃魔法ならばともかく、火達磨にされたら消すのも一苦労です。そこから回復したんじゃ僕らが使えるレベルじゃ間に合いませんよ」

 なので作戦としては、攻撃魔法以外の火を浴びない事が大前提となる。

偶然に『火では死なない加護』でも持ってる人間でも騎士に居れば楽勝だが、そんな偶然はありえまい。

 

だから作戦とするにあたって、絶対に火を浴びてはならないのだ。普通に燃えてる火の精霊相手にソレがどれだけキツイかはいう間でもないだろう。

 

「解決策はあるかい? 例えば君の力を応用するとか」

「火のダメージは無視して良いなら、最初の数秒くらいは延焼を防ぐのも可能ですかね。誰か一人または対象一つに絞るならば話は別ですが」

 ゆえに燃えないという状態保全を掛ける事になる。

火のダメージまで防いでいては論外なので、火達磨になってしまうという未来だけを防ぐのだ。後は防御系魔法の重ね掛けをしておけば、まあ安全性は高まるかもしれない。

 

そして僕の知識の中には、この事態を解決する方法が存在しないでもなかった。

 

「今まで無かった戦闘概念を持ち込みます。参加者が従ってくれるならば、防げるかもしれません」

「どんな方法かね? 主家の為ならば多少は節を曲げても良い」

 もしかしたらと思っていたが、この騎士さんは自分が戦う事を考慮し始めていたのだろう。

だから付与魔法が使えることを明らかにしたし、今ここで参加しても良いと表明したのである。

 

しかし問題は此処からだ。

今までになかったのは、これまでできなかったのではない。武門に生きる騎士たちだからこそ、やらなかった戦法なのだ。

 

「申し訳ありませんが、付与魔法を自分の剣ではなく他人の武器に掛けられますか? その上で、その人物を近侍としての技で守るのです」

「かっ……可能ではあるが……」

 そう、真面目に戦う物が複数いるという前提だから問題なのである。

攻撃する者を白兵戦一人分に限定。そして残りの者が全員でその人物を守れば良いのである。

 

ゲームで言うところのアタッカー役とタンク役。

このコンビネーションで戦闘すれば、多少時間が掛かってでも火の精霊を倒せる可能性は高かった。

 

(多分、魔王が居た頃ならエルフかドワーフに話を付ければ良かったんだろうけどね。今となっては博打に挑むしかないってわけだ)

 人間と違って異種族はトップとアンダーの差異が無い。

魔法を覚える可能性だけなら人間と変わらないにしても、交渉して人員を貸してくれと言えば適格者の誰かが素直に協力してくれるだろう。一族の中からレジストファイアを覚えてる者を紹介して終わりである。

 

しかし今回は同盟軍で魔王軍を倒そうという企画ではなく、あくまで僕らが伯爵家の勢力圏で名を上げる為でしかない。協力してくれると思わないし、協力してくれる場合も相当な代価を必要とするだろう。これまでの感触からして、エルフの指導者がそんな機会を逃すとは思えなかったのだ。

 

それに、今回は僕らの手で博打を成功させる必要があった。

名前と功績を挙げて武門に属する連中を黙らせる為に、しなくても良い無茶に挑むことになったのである。




 と言う訳で政治的なアレコレから、気が付いたら生命の危機です。
「騙したな!?」というか、「その方が効率的だから」と言う感じですね。

●家とかの名前と、慣習
 前に少しネーミングに関してを書きましたが、ランドマークが苗字。
出身地の号数がミドルネーム、その人の家業に関する言葉が個人名。
貴族のみは「こうなって欲しい人格」と言う感じになります。
南領は赤に関するランドマークが多く、侯爵家が紅、伯爵家は緋になります。
長男さんは緋家の中央区の悌を大事にする人、すなわち緋(央)悌。
騎士さんはそこの七本松の村を納める人なので、緋七司と言う感じ。

なお紅梓さんを侯爵家である紅家の人と勘違いすることは慣習的にありません。
エルフは人の事なんか気にせず、生まれた時の様子 + 所在の樹の名前。
逆に人はその辺を避けるので樹をダイレクトに示す名前は避けますから。
樹の名前が入って入る段階でエルフだと判ります。

同様にドワーフも家の名前 + アイテム名なので、地元だとまず間違いません。
アイテムが人間の名前になる可能性は、花街出身の芸妓の娘とかが鏡とか
名付けられる可能性はありますが、ドワーフ氏族の苗字と被ることはまずありません。
(ドワーフの男の娘に「なんだ男か」と喧嘩売りたいアホがいれば別ですが)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。