妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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北進

 最低限の準備と打ち合わせを終えれば、いよいよ隣村への進出になる。

伯爵の要請と言う大義名分はあるし、元からアンデッド対策で来る可能性はあったので下調べは付いている。要するに戦うだけなら楽勝だ。

 

だからこそ此処で被害を出すわけにはいかないし、得るモノは確実に得るべきだ。

 

「今回の目的は少人数で封鎖して、安全地帯を確保すること。だから一班だけで突破して、残りは作業班とその護衛班になるよ」

 新しく村に帰還して民兵となったばかりの者が安堵している。

戦うことに慣れて居ないし、自分の村の為ではない事に命など賭けたくないのだろう。

 

気持ちは判るが、これから先はここまで楽勝な戦いではない。是が非でも慣れて貰わなければ困る。今のうちに戦えとは言わないが、雰囲気くらいは掴んで欲しいものである。

 

「紅梓さん、上に登って確認してもらえる? まずは村の出口を封鎖したいんだけど」

「はいはーい。お金貰ってる内は便利使いされてあげるわ」

 人数が居れば蹴散らして行っても良いのだが、今回はデータ収集も目的だ。

他の荘園が人数集められるとは限らないので、何処の荘園にも居る数名の兵士前提で予定を組んでいる。その上で徴募して増やした民兵は、即席の壁や堀を用意する作業班の護衛に充てる予定だった。

 

その作戦には村全体の把握が大前提になる。

今は大規模なアンデッド湧きが収まった後だから良いが、潜り込んでいる奴が居ないとも限らないのだから。元傭兵の多い僕はともかく、今まで平和だった荘園の連中には緊張感の維持は厳しいだろう。

 

「その間に作業班は僕らの村へ通る道を封鎖して置いて。ただしこの村がもう大丈夫だって判ったらバリケードを動かすんで、その点は気を付けておいてね。もちろん護衛班は付けておくから」

「はっはい!」

 村の出口と入り口を封鎖すれば、大抵はもう安全だ。

大量湧きは既に収まっているし、荘園主の中には自分の村の周辺を掃除している者も居る。ここまで辿り着いてなおかつ、周辺でウロウロしている奴は少ないだろう。

 

偶然に迂回して来る個体や物理的な障害を乗り越える幽霊系。

そういった相手の脅威は一概に言えない為、時折に巡回を出す必要は出て来る。だが大多数のアンデッドはこの段階で排除できると言っても良いだろう。

 

「えーっとねえ。上から見た感じだと村の大枠は大丈夫よ。ただし北と東に道が繋がってて、西は少し拓けた後で川に通じてるわ」

「じゃあ北から順番に封鎖と確認を済ませたら村の捜索だね。ありがとう」

 この村は僕の村を含めて三面へ道が繋がっている。

一番危険で大量に来る可能性がある北をまず封鎖。そのまま西口に回って川上から村に戻ってここも封鎖、そのまま東口に抜けて封鎖したら殆ど終わりだ。

 

後はこの村での残敵掃討……という名目で居座って道具を増やしておく。僕の村には準備があったから即座に移動できるが、普通ならばそこまで素早くは動けまい。妥当な時間を調整しつつ、その間に梯子や戸板を増やしておきたい。場合によっては西にある川を伝って南下し、僕らの村までのエリアを巡回しても良いだろう。

 

「剛盾さん、荷車とか増やせそう?」

「そいつは難しいのう。野晒しだったやつは雨で腐っとる可能性がある。補強するにしても何処まで直すべきかちょいと判らん」

 この村の物資に関しては手を付けないか、帳面を付けてから徴発になる。

僕の荘園に組み込まれそうな可能性が高いが、死んだ貴族の一族が文句を言ってくる事も大いにあり得た。それに報酬が飛び地だったり土地ではない可能性もあるので、無理に手を付けない方が良いだろう。

 

その上で村からの持ち出しを完全に禁止した方が安全であると思われた。

何しろ今の段階で、僕の利益は十分に出ているからだ。自分の荘園が安全地帯になり、領主である伯爵の覚えもめでたくなるのだから。

 

「ちゅうもーく! 村全体確認と作戦の検討が終わったので説明します。作業班は護衛班と共に村の中央まで資材を輸送。そこで一旦待機して、軽くバリケードを築いて。その後で北・西・東の順番に封鎖していきます。時間は採るからゆっくりでも確実に!」

「はい!」

「了解!」

 中央に資材を運んでしまえば後は何とでもなる。

それこそ周囲からアンデッドが一斉に現れても耐えきることは可能だろう。そして中央に用意するという事は、三か所ある村の出入り口すべてに資材を送り込むことが容易くなるのだ。

 

そして戦いに専念し、途中からは巡回に回る戦闘班にとっても合流が何時でも可能と言う事だ。相手がアンデッドだけである限り、他の荘園でも同じように作業が可能だろう。

 

「ねえねえ、この後は北に直進するの?」

「今の処は西回りで川の周囲を確かめるつもりですよ。場合によっては水路を増やすことで、堀の代わりにするかもしれません。北に行くのはそれから、東は余裕が出来たら後で行うくらいですね」

 紅梓の確認に先ほど考えていたことを解説する。

なるほどとうなずく彼女を見ていて、少しだけ計画を変更することにした。正確には紅梓に何かしてもらうのではなく、エルフにお願いするかどうかの話だ。

 

その考えを軽くまとめて、シンプルに修正して提案することにした。

 

「西回りはお任せしましょうか? 冒険者相手の依頼として適当な額を用意しますんで、一人で行くなり何人か後輩を鍛えるつもりで巡回されても構いませんが」

「んー。そりゃ私一人でも……あ。そういう事ね」

 この場合の後輩とは、人間ではなくエルフだ。

冒険者ギルドに登録した者が何名か居るのだが、特に活動しているわけではない。あくまで人間が森に入って来ないように、注文した依頼を人間の代わりに片付けているだけである。

 

そしてエルフ冒険者に依頼するという事は二重の意味があった。

理由を付けて勝手にエルフの領域には近づかないという事であり、冒険者としての実績を詰むことでいずれ銀級冒険者となる為の下積みである。

 

「こちらとしては依頼が確実にこなせる人たちであると判れば構いません。お互いの領域を行き来する相手ですし、お互いの為に行動した経験のある方ならば他の支部のコア・メンバーとして問題ないですからね」

「そういう事ならここでの仕事が終わったらひとっ走り行って来るわ」

 現状の冒険者ギルドは、監視目的で登録した水増しメンバーを含めても少数だ。

もし傭兵たちへ依頼を斡旋する口入れ屋が見れば、大したことのない規模で、他の組織には『無いも同然だった』と吹聴して回るレベルでしかない。

 

だが支部が他にもあって、色んな経験をした人材が増えていけばかなり扱いも変わって来るだろう。

 

「そいつはワシらの方も同じでええのか?」

「当然ですよ。それに東西への巡回をやってくれるのは僕らにとっても有益ですからね。十分に予算を出す理由になります。相手がエルフ冒険者でもドワーフ冒険者でも同じ事ですね。もちろん人種混同で適当に連れて行ってもらっても構わないくらいです」

 実のところ、皮算用で時間を掛ければ何とでもなると思った直後だ。

他者にお金を出してまで外注するなんて、ただ資金の消費でしかない。しかし効率が悪かろうともお互いの心象と言うのは重要だし、ここで異種族と手を組んで協力し合って魔物退治という実績は意味が無いわけでは無い。

 

みんなでこの地域を守ったという事は今後の心象に大きいだろうし、何よりも他所の貴族から見れば異種族が防衛戦力に回るかもしれないと思えてくるのだから。

 

(まあ過剰な期待をされて困るけど、仲が良いアピール自体は無駄じゃないよね。とりあえず行動を再修正するか)

 出費の代わりに暇になったが、メンバー的には減っている。

紅梓と剛盾が西と東を巡っている間、戦闘班のメンバーは半減してしまう。戦闘する気はないし戦闘する理由も減るから問題ないが、だからといって出来る事が増えるわけでもない。

 

むしろ戦闘班に居る何人かの傭兵上りは護衛を兼ねた訓練指導者に回すとして、僕と双葉だけで可能な事を探すべきだろうか?

 

「……何?」

「いや、後でこの辺の薬草とかでも二人で調べてみよっか。もしかしたら面白いモノでもあるかも」

 視線が向いたことで双葉が声を掛けて来る。

デートと言う訳でもないが、偶然であろうが出来た時間を無駄にすることもあるまい。それに良い薬草でもあれば役に立つのは嘘でもないのだ。

 

そして当初の予定は滞りなく終わりを告げる。

三方の出入り口をバリケードで塞ぎ、浅い堀で補強してから内部にアンデッドが入り込んで居ないかを確認して回った。最終的に村の中に数体、村の外で数体と戦ったが全てが個別であったこともあって気楽に戦えたのだ。

 

そして紅梓と剛盾を送り出し、村の中での勝手な調達を禁じて資材の調達やら訓練だけを始めた頃……。よりにもよって、戦力が一番低下した頃にアイツがやって来たのだ。

 

「大変です! 北門が、北門が破られました!」

「どんな魔物なの!?」

「いえ、人間です!」

 その報告を聞いた時、目が丸くなった事だろう。

どうして人間にバリケードで作った門が破壊されるのか? 盗賊でも出たのかと思ったが、アンデッド湧きが収まったばかりで荘園主たちが動き始めているこんな時期にウロつくなら馬鹿も居まい。

 

要するに招かれざる……いや、ダメもとで招いた客が予定よりも早くやって来てしまったのだ。民兵たちもなんとか押し留めようとしているようだが、睨むどころか視界に入るだけで逃げ散る弱兵ぶりであった。

 

「よう! あんたがここの大将か?」

 そいつは赤銅色の肌で赤ら顔の大男だった。

海でもないのに巨大な錨のついた鎖をぶら下げ、三叉戟と盾を持っているのが特徴的だ。知らない人が見れば漁師上がりの戦士と言った風情である。

 

もし盾に刃が無く、腰に巨大なブーメランを挿してなければ僕にも判らなかっただろう。

 

「君の要件と言うか、要求は?」

「話が早ええじゃないか大将! 欲しいモンがある!」

 ガハハと笑う大男の異名は『大通連』、この間の話で出た豪傑である。

どうやら興味を示してくれたようで何よりだが、こんな時にやって来なくてもと思うのだ。もう完全に周囲の様子は山賊に対するソレであった。




 と言う訳で予定だけは順調に進行中です。
まさか思わぬ成功に寄り、一本釣り出来てしまったのが思わぬミスの元。
そんな感じで新しいキャラの登場になります。

●新キャラ『大通連』バーレイ
 南領の南西にあるエルフの領域よりさらに南、あるいは西の方の住人。
正確には異国人であり、南領を中心に好き勝手している豪族。
異名である魔剣『大通連』の方が有名なことと、異国風の名前なので本名はあまり名乗らない。
というか本人に名乗る必要があるとは最初から思ってはいない模様。
「俺だ俺だ! 判らねえ? 判るだろ普通!」
オレオレ詐欺を働く力自慢も多かったが、基本的にみんなミンチになるとか。
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