妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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苦い酒宴

 予定ではエルフとドワーフが調査を終え、協力体制だと見せてからゆっくり北上。

その時には紅梓や剛盾も戻っており、悠々と目的を完遂するか、それとも負傷を覚悟して緋雁原を攻略する予定だった。

 

(どうして『今』なんだよ。頼れる連中が居ないのに……)

 このタイミングで『大通連』がやって来たことですべての計画が狂った。

彼にはダメもとで声を掛けたが、来るとは思ってもみなかった。本当ならば戦う前に交渉するだけしてから行くつもりだったのだ。

 

その流れなら彼が何を主張しても困らない。

払える要求ならば支払い、法外ならば無視。高名な武芸者を抱えようとすることも、断られるのもとよくある事だ。まさか挨拶程度の武器で即座に動くとは思いもしなかった。

 

(どうする? 勧誘すべきか、それとも今は待たせるべきか? というか待っててくれるのか?)

 しかし彼は今目の前に居る。最悪な事にバリケードを破壊した不審者に見える。

迂闊な話をすると言葉一つが笑い話の種になりかねないし、場合によっては戦う理由にもなるだろう。既に勧誘した武芸者に対して関を閉ざしている扱いだし、民兵たちから見れば不審者に対して過度な警戒をしていると思われかねなかった。

 

だが彼の無神経な一言が、僕の弱気な気持ちを吹き飛ばしてしまった。

 

「こないだくれた武器が壊れちまってよ! 新しいのくれよ! あと酒と女! 胸はねえけどそこので良い」

「酒はいいけど女は渡さない! こないだの武器はただの挨拶だから、お代わりは別! というかさぁ! もっと良いのが欲しくないの?」

 双葉をそこの女扱いされたことで僕の心にカチンと火が付いた。

結婚してないのに自分の女扱いする気はないが、盗られそうなのに黙ってはいられない。ひとまず話を繋げて周囲にも『僕が呼んだ強い奴』であることを認識してもらう。いきなり襲い掛かったりはしないと思うが、もし攻撃したら最悪だ。

 

間違いなくそいつは殺されるだろうし、放置しようが逆襲しようが僕の株はドン底だろう。

 

「何だ!? もっと良いのがあるのかよ! くれ!」

「言う事聞いてくれたらあげるよ。後ね、こないだのはただの試作品。この意味が判る!? つまり後二回は変化を残してるんだ!」

「なん……だと!?」

 とりあえず壊れたのはブーメランではなく蛇腹剣だろう。

ブーメランというものはオーストラリアのネイティブな住民の武器と言うイメージが強いが、実のところ似たような装備はあちこちにある。最後まで残っていたのがオーストラリアなだけだ。

 

あの時に渡した蛇腹剣は剛盾にアイデアを話して作ってもらったばかりのやつで、改良した物が手元にある。さらにこいつの使用感を踏まえて作り直せばもっと良い物ができる……はずだ!。

 

「けちけちすんなよ! 山賊だろうが騎士だろうがぶっ殺してやるからよ! さっさとくれ!」

「騎士は殺しちゃ駄目だし、倒して欲しいのは魔物!! とりあえず酒を飲みながら話そう!」

 他の兵士たちに手を振って、いったんその場から遠ざける。

民兵はその仕草だけですっ飛んでいき、傭兵上りの兵は苦笑しながら遠巻きに見守った。

 

そして相談用に外に出してあるテーブルに向かう事にして……。

 

「双葉はここで待ってて。あいつと話付けて来るからさ」

「……胸が無いって言った。訂正を要求する」

 振り返ると笑っているのか怒っているのか分からない顔があった。

いつもは省エネで無表情に近いが、決して感情が無いわけでは無い。というか面倒くさがりなだけで、必要な時にはちゃんと感情を出すのだ。

 

そしてカロリーの無駄使いを承知で表情を出しているのは、余程に『胸が無い』と言ったことを怒っているに違いあるまい。絹の近い道を増やす意味でも色々服飾品を開発したが……動き易いからという理由でブラジャーもどきを開発したこともあり、決して胸が無いわけでは無いのだ。

 

(……女は渡さないと言ったことを評価してくれるといいんだけどなー。とりあえずフォローはしておこうか)

 何というか僕は転生したことで若い部分と、無駄に老成した部分がある。

ついでに言うと故郷で若い女性は双葉と、兄貴分の嫁さんだけだった。そういう意味で『あーこいつとくっ付くんだなー』という気分が先行して特に告白とかしてないし、今も田舎だからする事が他なくてする事はしてるが、当然ながら夫婦になったわけでもない。

 

それを良い事にモラトリアムをしているわけだが、……傭兵時代は周囲の男女比で気分が色々と前後したものだ。女性が増えれば目移りし、男ばかりになれば嫉妬でやきもきする中途半端な状態である。ここは覚悟を決めて、吉日でも選んで告白でもすべきだろうか? だいたい、うちの郷里は『お前のカミさん借りてるぜ、こんど俺のカミさん使えよ』というくらいには風俗が怪しい場所だ。双葉の方にその気が合っても困る。

 

「だからさあ。女の子は物じゃないし……」

「そう、むしろ男が私の物」

「……ややっこしくなるから黙ってて」

「ガハハ! 女傑のマネとは面白いねーちゃんじゃねえか。尻に敷かれんじゃねえぞ、大将!」

 とにもかくにも僕が間に挟まって宴会を始めた。

こういう強引な男は『酌をしても良い』イコール『一晩OK』だと直結する面がある。だから折に触れて釘を刺しつつ、周囲にもオモチカエリーさせないようにしておかねばなるまい。

 

これが青悟相手だと酒の勢いで『あの交渉約束したよね?』とか言われないように、むしろ双葉の方が間に挟まって警戒するのが面白い所だ。

 

「しかしよお。この武器は一体全体、何を目的に使うんだ?」

「蛇腹剣はロマンなの! まあ奇襲性以外にも意味はあるけどさ。格好良くない?」

 酒の勢いを借りてベラベラとまくしたてる。

大通連の方はまったくかわらないが、蛇腹剣以外にも色々準備があると言ったら大人しくなった。どうやら武器マニアの面が出ている時は話が通じるようだ。

 

……問題なのは頭バーサーカーな面もチラホラと伺えることだ。さっきも腕試しをねだられたが、試し撃ちで勘弁してもらった。もし酔っぱらった勢いで『OK』とか言ったら今ごろは息をして居ないと思う。

 

「格好良いってんなら、大槍とか大刀の方がよくねえか? そいつは射程が変わるくらいだしよ」

「判ってないなあ。こいつは分解と再統合で姿が変わるって唯一性があるんだ。それに振り回すだけじゃ真価を発揮できないよ」

 大通連の思考はまっさらな武芸者だ。

身に付けた『力』イコール『パワー』であり、それが発揮できる素直な装備を好んでいる。代名詞の『大通連』も魔剣であり、投げても戻って来るという特性で無限に使える弾丸として気に入っているようだ。

 

その意味でオマケで渡した巨大ブーメランは大通連の予備兵装というところだろう。

 

「使い道ってつったって要は多節鞭や縄鏢の仲間だろ?」

「今の改良型は棍棒や槍には成るよ。君にとっては脆すぎるだろうけどね。それと……」

 蛇腹剣の強度を上げるために、刃をいったん先端だけにした。

そして肉厚な鉄の筒で鎖を覆う形にして、普段は棒状にしておくのだ。そして鞭状にする時はキュっと回転さえ、分解してから延ばすことになる。

 

とまあこれまでの経緯を喋りながら、僕は必至で内容を考えていた。目新しい使い道なんかサッパリ考えていなかったので、何かしらでっちあげないと駄目だろう。

 

(どうしよう。口から出まかせを言ったけど、例として説明するにせよ僕が使いこなせないと意味は無いんだよなあ)

 鞭というか鎖鎌の要領で幾つか使い道をやって見せる。

しかしそういうのはこちらの世界にもあるのだ。縄鏢なんかモロにそうで、突き刺したり矢先で牽制するとか当たり前の様に使って来る。

 

その上で僕なりの使い道をせねばならないだろう。

説得力が段違いだし、今までとは違う使い道という新しい方向性に持って行けるからだ。

 

「例えば?」

「……例えば僕は神職だから、こいつを起点に結界作るとかね」

 酒のせいもあって思いつかないので、適当に組み合わせた。

僕ができる独自性と言うのは、せいぜいが保全能力だ。長柄状態を保全すれば、かなり壊れ難くなる。しかし……この男が使うたびに消費するは面倒だ。それに元々の目的は魔物退治だったはず。

 

だから蛇腹剣の周囲1mに結界を張って、即席の防御幕を作るのだと言い訳を口にしたのだ。

 

「ふーん。んじゃあちょっと試していいか?」

「ダメダメ。君の剛力だと皮鎧も鉄の鎧も同じだろ? ……そうだなあ」

 ちなみにこの男が持つ神の加護は、そのまんま剛力無双である。

筋肉が馬鹿みたいにつくのだが、決して俊敏性を損なわないチート筋肉だ。100m走とバーベル上げで金メダルを当前の様に採れるとかズルイじゃないか。

 

そして不満げな男に対して、見え易い成果をやって見せる必要が出てきて焦る。上手く言い訳を考えないと、僕が受け止めて即死するしかない。

 

「君を誘ったのって緋雁原の大精霊退治なんだよね。だからここは燃えないようにして見ようか。そろそろ野営だから丁度良いと思う」

「ホー。あそこのヌシ退治ねぇ」

 これから試しに使ってみるわけだが、全てを保持すると動かせもしなくなる。

ついでに言うと必要エネルギーも膨大で、僕の魔力では即座に維持できなくなるだろう。そこで対象を『耐火』のみに絞るつもりだが、実戦ではさらに『延焼』に絞ることで火傷対策を行う予定だった。

 

そして蛇腹剣ver2の穂先から1mほどの耐火性を保全して、燃えない球形を作ってから振り回す。ビュンビュンと振り、蛇の様にしならせてから穂先の部分を適当な残骸に突き刺しておく。

 

「これでいいかな? 刺したところに油を撒いて見せるけど、火を点けてみて」

「……お、こいつは面白れねえなあ。確かに燃えもしねえ」

 突き刺した周囲は一切燃えず、結界の外に垂れた油にだけ火が点いた。

このまま放置すればいずれ結界が尽きて燃え落ちるだろうが、たいまつを元の篝火に戻すと心配はないだろう。あとは土でも掛けておけば油も吸ってくれる。

 

何とか言い訳がつながったが、これでこの場は乗り切れたに違いない。

 

「実はコレって逆の使い道もできるんだよ。火責めの時に甕の中に火種を入れるでしょ? あの使い道を真似して、結界を短めに設定しておくんだ」

「なるへそ! そいつはおもしれえ!」

 こうして赤ん坊よりも目が離せない頭バーサーカとの酒宴が何とか終わったのである。

 

ちなみに雇用条件とか全く話して居ないことに気が付いたのは、翌朝になってからというオチだった。




 と言う訳で一人増えました。
三国志演技で言うところの張飛枠ですね。史実の張飛はまともな将軍ですが……。
演技の方は酷い性格にされており、ああいうタイプです。

もっとも主人公の方も大概な性格をしており、隙あらば「ハーレムも悪くないなあ」
でも「幼馴染が逆ハーするのは駄目! NTR反対」とかいう我儘な性格。
もしエルフの紅梓さんが好みだったらちょっかい掛けていて
「そっちがその気ならばこっちもその気で行く」という展開になっていた事でしょう。
ちなみにその後にフェードアウトして喋らないのはお酒に弱いのではなく
単純に「男の子って武器の話好きだよね? 理解できない」と言うだけです。
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