妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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朝は爽やかな物とは限らない。友人との楽しい飲み会ではない時は特に。
汗ビッショリになって起き上がり、軟らかい感触にホっとする。昨日『胸が小さくない事を証明する』なんて馬鹿な事を言い出したので必死で止めたのだ。
飲み過ぎたこともあって手は出してないけれど、民兵たちに『戦いに女連れ』というレッテルは張られたかもしれない。愉しむ余裕なんかなかったのに理不尽だ!
「よう! 先にいただいてるぜ!」
「飲酒の許可出したっけ? 甕を開けた以上は仕方ないけどさあ」
顔を洗って外へ食事に行くと、そこでは御客人(?)一杯やっていた。
こいつ沢山あるわけじゃない物資を勝手に飲んでるとか、どういうつもりなのだろう? いや、こういう奴だとは聞いてたので止めなかった僕が悪いのか?
だがまだだ。まだリカバリ-は効く。
女に手を出されて『代わりにヤっといたぜ』なんて言われたら脳が壊れるところだった。それにくらべたらまだマシだ。
「ケチ癖えこと言うなよ。まだあるんだからよお」
「普通の兵士はさ、自分より強い相手と戦うにはお酒の力が居るんだぜ? それなのに飲み干したら困るじゃん。まあ君なら余裕だろうから、ここに居る間は代わりに戦ってくれくれるならいいけどね」
せっかくなので戦う理由を付けておく。
呑んだ分だけ戦え! 魔物が来ないなら仕方ない! そういう言い訳で強力な武芸者を雇っているならば民兵たちにとってもプラスだ。安酒とはいえ一甕がカパカパ空けられていくのは財布の問題で痛いが。
少なくとも自分たちの取り分を呑まれる分の補填と、不確定事項ながら命賭けの戦いがある時の助っ人なのだと告げておけば不満くらいは抑えられるだろう。
「そのくらいは構わねえがよ。それよりも武器だ、武器! 新しいのくれよ」
「緋雁原に付いてきてくれるなら名工を紹介するよ。その上で一緒に戦ってくれるなら、武器を作ってくれとお願いしても良い。僕のアイデアは百八式まであるんだぜ? まあ一部は何処かで見たことあるかもしれないけどね」
適当にその場を誤魔化しながら雇用条件を設定する。
特殊武装を作ってくれる変人……名人の鍛冶屋を紹介する事で同行要請。技術料・素材料込みで注文一回分がボス討伐戦の代金だ。
その上で色々と派生武器を作れるのだと主張しておく。
使えるかはともかくとして、前世の知識は有用だろう。この世界に無いとは言わないが、国の差・文化の差を考えれば全てあるとは思えない。
「108とは吹かしやがったな? 例えばどうよ?」
「そうだね。君って盾は殴る事もある、そういう技の他に、小綺麗に戦う必要が無いから殴るだけだよね? じゃあ専用の盾ってあんまり見たことないんじゃない? 中には殴ることを前提にした盾もあるんだよ」
代名詞の『大通連』だが、近くで見るとミドルシールドくらいはある。
昨日は小さいと思ったが、どうやらこいつが大きいからそう見えただけの様だ。そして目についたシールドから話を広げていった。
この国は東洋ベースで西洋混じり……インドとかロウラン辺りの文化圏だ。シールドは存在しているが、それほど知られているわけじゃない。
「その大通連は投げるのにちょうど良いサイズだけど、籠手の代わりの小型から仲間を守るための大型。そして騎兵が馬ごと自分や仲間を守るための菱形。大型のバリエーションだけど、弓師が身を守る専用品には地面に突き刺す杭もあるんだ」
「おお! それで、それでだ! 殴る専用ってどんなんだ!?」
食事は大きな木のテーブルに載せているが、屋外なので地面に絵を描けば良い。
丸型に長方形、バックラー・ミドルシールド・ラージシールドそしてカイトシールド。弓隊用のシールドには言った通り尖った先を描いて大地にさして後ろから支えるための取っ手があるのだと説明していく。
そして殴り専用の盾と言うのは、盾の先に杭や棘がついている物だ。普通の盾を改造すると本体は木製であることも多いが、専用品だと好きな配分ができる。軽いモノならば木製でナックル付き程度、思い物ならば鉄板そのものに杭である。
「特注品で作るなら、君が好む大きさや重さで作ることもできるね。大通連と同じくらいなのか、もっと小さくして動かし易くするのか。小さい代わりに鉄板で作るのもアリだ!」
「おお!」
こうして目を輝かせている間は大人しい。
現物がこの場に無い事もあり、人間で実験しようとかやろうと思っても出来ないからだ。
話に聞く限り辻斬り紛いの事をやりかねないタイプだし、止めたとしても『武術家同士なら良いだろ? どうせ俺が勝つし』とか平気で挑発込みで実行しそうだった。
「それとこれは将来の希望で、今は居ないんだけど付与ができる魔術師を呼べたら、使い切りの強化魔法を込めても良いかもね。殴った瞬間にドーン! と二倍三倍の威力を出すんだ」
「良いなそれ! 適当に捕まえて来るから……」
「ストーップ! 緋雁原を攻略したらアテが出来るから! 勝手に連れて来るのはナシ!」
パイルバンカーの夢を語っていると、立ち上がって都の方に歩き始めた。
怖ろしい事に止めなければ実行しそうな雰囲気が漂っている。歩き盛りの子供よりも目が離せないとは……。これだから頭バーサーカーは困る。
(しかし……ここまで酷い二進数思考だと、知り合わなきゃ良かったのかな。でもなあ、蛇腹剣に食いついたって事は、何処かで出逢ってたんだろうなあ)
前世の知識を活かして色々と作ろうとしたのがマズかったのか?
しかしそういった計画は既に走り出している。冒険者ギルドで一定の成果を上げると、名工が作った質の良い武器をもらえるとかボーナスを用意してたのだ。
もし放置した場合は、何年か後に『こいつより俺の方が強いから、くれ!』と言っていたか、それともコレクション用に片っ端から奪っていく姿が見える様である。
(とりあえず何とかなった……のか? 後は女の子が増えるたびに釘は刺しておかないと。うちには武芸者いないけど、武人肌の人が来た時もかな)
そのまま色々と話し、何度も何度も繰り返して納得させた。
面倒だから嫌だという事はあっても、魔物が怖いから嫌だということはないという事だけは安心できる。後はその気にさせて緋雁原さえ攻略してしまえば理由を付けて追い出すこともできる筈……だ。
それはそれとして下手に双葉が意識しない内に、するべきことを済ませてしまいたいと思う。というか本当なら今までの間にすべきだったからなあ。
「この戦いが終わったら結婚しよう。なんだったら今すぐしよう! 幸せにするからさ」
「あう……むう」
理由を探して先延ばしする未来が見えたんで、即決で双葉にプロポーズした。
全然好きじゃなくて『意識過剰なんじゃない』と言われたらと思うと怖かったが、それならここまで付き合っていないと思う。
だから一大決心して告白したのだが……。嬉しそうな反応と怒っているような反応が見えた。
「嬉しいけど、遅い! 一カ月くらい遅い!」
「なんでさ!? そりゃ決心したのはあいつに取られたらヤだっ理由もあるけどさ! それなら三日位でいいんじゃない?」
なんでか具体的な時間を理由に怒られた。
これが『何年も待たせて!』とか『昨日の今日で!』ならばまだ判るのだ。ずっと仲良しのまま居心地が良いから放っておいたわけだし、あいつが来たから久しぶりに意識したという……まあ最低な理由だから怒られても不思議はない。
だがこれが一カ月……今回の戦いを計画する前までさかのぼる理由が判らなかった。
「……と言う事なんだけどさ紅梓さんは双葉から何か聞いてない?」
「え? あー? 本当に判んない? まあ直ぐに判るわ」
依頼を終えて戻って来た紅梓は苦笑していた。
可哀そうな物を見る目で僕を見て、手を振ってその場を後にする。
ちなみに大通連の問題があったので、酒に誘われた時とか気を付けろと言っておいた。別に口説く気はないが、酒を飲むだけでオモチカリーからの『エルフの領域に戻る!』『人間め!』というコンボは困るからだ。
「でさー。双葉は怒ったまんまだし、紅梓さんも教えてくれないんだよね。剛盾さん、何かアドバイスでもあれば……」
「お前さんは妙に自己評価が低いのう。ああ、傭兵じゃなくて、その後の話な」
次に戻って来た剛盾の反応はこうだ。
同じように大通連の話をした後で、武器マニアだから協力してやってくれとか材料費くらいは出すと告げた時の事である。
彼はポンと僕の肩を叩き、溜息と共に同情の言葉を放った。
「自己評価?」
「そうじゃ。この辺りの平和を勝ち取り、今まさにアンデッドを駆逐してその脅威から南領を救おうとしとるんじゃぞ? 一口に言ってな、そういうヤツは選べんのじゃよ」
そして以前に聞いたドワーフ族が母系社会であるという話を繰り返した。
一族繁栄やら確実性という意味で、そっちの方が遥かに合理的だという身も蓋もないシュールな話である。
なんで同情的かと言うと彼は恐妻家であり……婿養子なのである。女性陣に全く頭が上がらず、女難であるという。
「お久しぶりです。実はこの度、幼馴染と結婚しようと思いまして」
「そう……か。それはめでたいが……。オホン。銀殿、実は悌さまがひどく銀殿の案に感動されましてな。都の軍師でもこうも見事な策は出せまいと」
ご長男の側近騎士である緋七司が再びやって来た。
別に仲人にしようと思ったわけでは無いが、身内が妙に渋いので相談しようかと思ったのだ。
しかし突然に話を打ち切られ、当初の話に戻されてしまう。
そりゃ上意とあれば仕方はないが、彼は緋雁原攻略までは滞在する予定なのだ。どうして突然話が変わったのか分からない。ていうかさ、歯に物が挟まったように唇の端とか目元とかがピクピク動くのは止めて欲しい。
「いえいえ。現地で集めたデータゆえです。協力してくれる仲間や他の荘園主もおりますし」
「それも含めて実力でしょう。うむ、銀殿は自己評価が低いと言われたことはありませんかな?」
なぜか剛盾と同じことを言い始める。
それに彼の方が格上なのに、何故か言葉遣いが丁寧になったのも気になるところだ。
どうしたことだろうと同行して来た青悟に目を向けるが、彼は吹き出しそうな顔で必死に笑いをこらえていた。
「どういうことなんです? 青悟さん」
「やだなあ。私達の中だろう? 青悟と呼んでくれ給えよ。もはや君と私は同格の身分になるのだからね」
え? と思わず首を傾げた。
僕の身分は騎士相当だ。仮に加増されて荘園が増えてもせいぜい準男爵程度。それでは貴族と呼ぶには程遠い。
どうしてここで身分の上昇が伴うのだろう? 爵位を授けられるほどの活躍はまだしていないのだ。
「……めでたい話が出た後で非常に言いにくいのですがなあ」
「何か条件が出たのですか? 武門の誰かが文句をつけたとか」
「いや、むしろ好条件だよお。それも破格のね」
いい悩む七司に対し、青悟の方は笑顔でしゃべる。
それならお前が話せと言いたいが、彼としてはこの話を長引かせたいらしい。
どういうことなのと視線で問うと、七司は観念したのか意を決して話し始めた。
「悌さまは君に報いる為にも、そして緋家を盛り立てる最初の案として妹君のいずれかを君に目合わせようとおっしゃったのだ。おめでとう!!」
「はっあああ!?」
「先に言っておくと断るのは無理だよ? 侯爵さまも褒めておられた事だしね」
寝耳に水と言うか、気が付かなかったのは僕だけの様だ。
面倒な話になるのだと、僕以外の全員が理解していたというオチであった。
と言う訳でお約束の展開です。
頭バーサーカーを手なずけたら、次なる難問。その名を政略結婚と申します。
幼馴染と結婚しようとしたら、そんな簡単な決着は許さんぞ!と言う感じですね。
●政略結婚の決まった経緯
「これから南部を平和にします! その功績はご長男の物ですよ!」
「なんと! つまり財政も戻るし、弟と比較されることも無いと!」
「私の妹なんかどうだ? 私の派閥になるよな? 南部の英雄殿?」
と言う感じですね。