妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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何でこうなったか良く分からない。
そんな顔をしていたのだと思う。その場に居る青悟と緋七司が順に説明を始めた。
「いいかい? 伯爵領は南領の守りであり入り口側を守っている。だからこそ功績も信頼も絶大なんだけど、知っての通りここ最近は費用が莫大でね。都に対する長年の滞在費にアンデッドの大量湧きだよ」
「そこで中央は人質など不要として、アンデッド討伐に専念すべしと指示したのです」
正確には侯爵家も含めて数人の人質を出している。
近年の大規模アンデッド騒ぎもあり、南領の出入り口に当たる伯爵家の人質を返すことにしたわけだ。これによって都での滞在費用や護衛武官などが不要になり、大幅な改善を期待されてはいた。とはいえ戻されたばかりの長男さんに武力があるわけもない。滞在武官も直ぐには前線に出せないし、七司の様に近侍は純護衛戦力なのは戦場では微妙だ。
そこで僕らのような傭兵を集めて投入したわけだ。
浮いた滞在費用だけでは明らかに足りないので、優秀な者は全滅した騎士や下級貴族の代わり契約する旨を伝えていた。その流れに乗って僕は無事に荘園主に成れたわけだけれども……。
「以前も申した通り伯爵家自ら動くべしという意見がありましたが、ご長男の悌さまは人質暮らしでした。この状態で固有の武力など持っていませんし、展望など持てと言う方が無茶です」
「伯爵はまあいいんだ。君たちとの契約で存在感を示せたからねえ。だけれど間の悪いことに弟君も名代として一隊を率いてしまっている」
「「そんな所に銀双葉という英雄が現れた」」
改めて英雄と呼ばれると恥ずかしい。僕は絶対に勝てる案で押し切っただけだ。
傭兵隊の中では限界が見え始め、上級魔法が使えないことが輪をかけていた。強力な魔物の討伐ではそろそろお呼びが掛からなくなり、雑魚専にならざるを得なかっただろう。
そんな僕が誰もから崇められる英雄だとは思えない。精々が民衆に夢を見させるための看板に過ぎないはずだ。
「君は盛んに自分の作戦は大したことはないという。しかしその大した事のない作戦すらみんな思いつかなかったのさ。正確には思いついたとしても、みなに言う事を聞かせられなかっただろうからねえ」
「実際、伯爵家でも当初から評価していたのは悌さまだけです。だからこそ銀殿の活躍は、悌様に見る目が合ったという事になるのです」
当初は武人らしくないと評価されていなかった。
傭兵隊でもそんな連中は居たわけだし、やはり伯爵家でも同様だったらしい。しかし僕の隊を始めとして、案を受け入れた隊が活躍すると話が変わって来た。
名誉優先の伯爵家は武門連中が居たが、傭兵隊では成果が全てだ。今では僕のやり方を踏襲し、自分なりの方法で改良することがあっても反対する者はいなかったという。
「ぐ、偶然ではないかと……」
「英雄は偶然を味方につける物だよ。君も知ってるだろう? 聖女が何十年も現れなかった馬鹿な理由をさ」
これには返す言葉が無い。
この世界では神から与えられる加護『そのものは平等』だ。様々な祝福はおおよそ同じような強度があり、誰が身に付けても『環境さえ同じならば』同じ程度の能力が身に付くようになっている。
だがこの環境と言うのが曲者だ。
誰しもが加護として何の祝福をもらったか鑑定してもらう事は出来ない。また生活も関わって来るし、教える者によっては魔法を後回しどころか教えない者も居る。
「聖女が出ない事に業を煮やした王様が、鑑定魔法大会を開くまで判らなかっただけですよね」
「王の命令で、しかも今回みたいな騒ぎでも無ければ無償で鑑定なんかしないからね」
「銀殿の故郷である北領では、老爺が魔法袋の祝福を得ていたそうではありませんか。ここまで来ると笑い話ですなあ」
件の聖女様は平民出身だった。
このために、光の魔法を効率的に覚えるという祝福を三十過ぎまでまったく活かせてなかったのだ。この世界では能力は平等でも機会は均等ではないという良い例である。
そして勇者や聖女というのは、世間が困っているタイミングで現れた状況に適応した能力者の事と言えるだろう。対アンデッドに関して光の魔法は有効なのだが、覚えるのは『光魔法の祝福』や『万能の祝福』を除けば難しいのだ。
「悌さまから見て、銀殿の案は判り易く特に誰でも実行できる点で理があると思えました」
「君の案を推すくらいしかなかった事もあるわけだけれど、確実性重視だけに君は活躍していくからありがたい。そして今度は自分の名前で南領に平和をもたらし、緋雁原のヌシをも倒してくれるという。惰弱な暗君が一転、見る目のある名君だよお。これを笑わずには居られないね」
要するに安全策で『寄らば大樹の陰』をやったらやり過ぎたわけだ。
伯爵家の傘下として適当にやれれば良かったのだが、向こうから見れば鴨が葱背負ってやって来たという訳である。
「ですが、それならそれで、他の報酬でも良いと思うのですが……例えば領地とか、身分だけでも良いはずです」
「それは伯爵家が揺らいでなければの話だねえ。南領の平穏という巨大な功績に対して、領地だけだと広大になるから譜代の連中が文句を言ってくる。かといって金銀摑み取りなんて絶対に無理だし、爵位ってのは平民に授ける為には手順が居るんだよ。そういう意味で血縁を先に結ぶとやり易いんだよね。少なくとも次代からは身内なんだし」
聞けば親族が起こした子爵家で三郡、譜代筆頭ですら良地ながら二群なのだとか。
後は大小さまざまで微妙な広さの荘園を二つ持つ程度の貴族が精々らしい。侯爵家ならばともかく、伯爵家にとっては本来それで十分だったらしい。
そこに僕が現れ、大きな功績だと認識されたのが問題だった。
「下手を打つと吝嗇と見られませんからな。ご舎弟である連さまを担ぐ一派も息を吹き返します。その意味でも妹君を目合わせ一門衆に加えてから……というステップは名案とも言えましょう」
「トドメが侯爵閣下の御裁量だねえ。名案ゆえに侯爵閣下も膝を叩いて感心し、秘かに伯爵閣下を説得中との事だもの」
一門衆に加える事そのものが報酬であり、良い報酬を与える名目になるのだとか。
扱いも大きく変わるのでその場しのぎである筈がなく、伯爵家が持ち直した後からその才能や能力に合わせて爵位を始めとした褒章を与えれば良いとのことだ。
そして話を難しくさせたのが侯爵さんが長男さん擁護に回ったことだという。元から血縁関係があり、都での往来を考えると顔を合わせた回数はかなりのものだろう。長男さんが伯爵家を継ぐに相応しい提案をしたと素直に喜んでいるのだとか。
「……ちなみに断ったらどうなります?」
「無理。その上で説明するんだけど……今回の問題は伯爵家も乗り気ということでね。よその家から押し付けられたり、重臣がゴリ押したというならまだ話は違ったんだけどねえ」
ダメもとで聞いてみるのだが即座に否定された。
その上で説明して来るというのは、僕を説得する為に口にしているだけだろう。
見れば七司の方もウンウンと頷いており、貴族階級の共通見解として断るのは不可能に近いという事なのか。
「伯爵家からの御厚恩を断る理由がまずありませぬ。断るようなら傘下に収まってはおらぬと誰もが思うでしょう……で、ある以上はその名に泥を塗っても仕方がない理由があり、それを掲げることで無理に抜ける事になります。結果として悌さまも、妹君も面目を失いますな」
「妹君がこの件に賛成である、無しに関わらず誇りを傷つける事になるよねえ」
「もしかして賛成じゃない? ならそれを理由に……」
「「無理」」
妹さんが気にいらないから降る。
そんなのは理由にならないし、妹さんが僕を嫌うからというのも理由にならない。まあ政略結婚と言うのはそんなものだと承知はしている。
何処の馬の骨とも判らぬ輩は嫌だと言っても、その馬の骨を貴族にするために婚姻する。良く知らない人は怖いというならば、婚姻によって良く知れば良いだろうという理屈だ。政略結婚に際して女の感情が捨て置かれるのは、異世界でもやはり同じなのだろう。
「でも、あの僕。これから結婚する予定なんですけど……」
「既に結婚してれば? せめて前に逢った時に双葉くんも同席して居れば違ったんだろうけど」
「その場合は忠言したかもしれませぬが……貴族出身の妻と庶民出身の妻は別物。こちらが正妻であろうな……と主張することになったでしょうな」
結局のところ、既に手詰まりと言う訳だ。
双葉が言った『一カ月遅い』というのは、断る可能性が微妙に残っている事と、本妻として自分が上だと主張する理屈が残っているからだろう。
そしてプロポーズに対して返事を保留にしたのは僕を嫌ったからではなく、微妙な関係に適度な距離を保つべきだと思ったように思える。庶民出身で後から結婚したという事ならば、どっちが正妻かと言う論争をしなくて済むのだから。
(うわー。迷惑かけちゃってるなあ。何とかフォローしないと……でもどうすんだ、コレ?)
妹さんと結婚するところまでは確定事項であるとのことだ。
これから逃げ出すには再び出奔して何処かに旅立つしかないが、ここまで来るといっそのこと国外逃亡するしかないだろう。故郷に居る時よりも有名になってしまっているし、泥を塗るのが悪代官と伯爵家では天と地の差があるのだから。
と言う事は選択肢はあまり多くない。
1つは国外逃亡するかどうかについて相談する事、もう1つは双葉の機嫌を取る事だ。すくなくとも『ハーレム展開だ、ヤッター!』と素直に喜べる自信が僕にはない。そう思えるには告白する決意をする前……いや、故郷を捨てる前にまで戻らねば無理だろう。何のかんのと言って僕は双葉の事が好きなのだから。
「この際だけど諦めて善後策に走った方が良いと思うよ。気に入られるように妹君の印象を良くするとか、気に入られなくても良いって場合は子供を産んだらお互い愛人を許容するってのがパターンだから、そのアレンジとかね」
「……色々と相談してみます」
何だろう、ここに来て一番の案件である気がする。
なんで問題が一つ片付くと新しい問題が出るのだろうか? 僕としては平穏無事に暮らしたいだけなのだが……。
うちの神様がいつでも動ける状態だったら、一カ月前の段階で今回の件への忠告でもくれたのだろうか? 既に終わった話ながら僕としては頭を抱えて神頼みをしたい気分であった。
と言う訳で一回丸ごと費やして政略結婚の話です。
弓を持った武人肌の御姫様とか、魔法使いの研究者肌の御姫様とか……。
そういう都合の良い美人が待って居たりはしません。
魔法は使えても生活魔法とか、初歩的な下級魔法くらいと言う感じですね。