妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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作戦の確立

 改めて残った課題を並べてみよう。

一つは万鹿柵を奪回し周辺をバリケードで制圧する事。次に緋雁原のヌシを倒してその脅威から解放することだ。

 

前者は北上して都方面に行く途中にあり、今回の作戦では最終目標に当たる。ゆえに目下のところ緋雁原の攻略こそが最優先だった。

 

「緋雁原はその名の通り緋家の主城がある場所であり、ここが落ちない限りは伯爵家は安泰です。少なくとも当初はそうでした」

 七司が語り始めるその歴史。それは複雑ではないが良し悪しの混ざる物だった。

その昔、まだ群雄割拠の在ったころ。二群から三郡に匹敵する広大な平原であり、その一部がファイヤーエレメンタルの発生する難所であった。これらには鳥のような習性があり、余所者には脅威であるが地元民には守り神である。

 

北の万鹿柵近辺を有する勢力と手を結んだことで、当初の緋家は地形的にとても高いアドバンテージを得たと言っても良いだろう。残念な事に過去形で、それらの利点が全てひっくり返ってしまっているのだが。

 

「魔王の出現以降、強大な魔物が様々な地に現われました。ヌシもその一体で、単純な強さもですが常時存在するという点が非常に厄介でした」

 ファイヤーエレメンタルが何処の、何処に時期に出現するかを緋家は知っていた。

だから危険地帯でも平気で暮らせていたし、そもそも広大な平原なので全てが危険地帯と言う訳でもない。倒せる戦力が居るならば訓練ついでに倒せば済む話である。

 

しかし魔王の出現でそれが一変する。

強大な存在ゆえに立ち向かった者が次々に焼き殺され、常時出現してウロウロしているのだから危険過ぎてまともに暮らせない場所が増えた。それでも伯爵家の主城が無事だったのは……単純に緋雁原が広く、人々がまだ弱かった頃から安全地帯に作った城だったからだ。

 

「確か時期で出現地帯が変わるから、輪栽式の農業を始めたんでしたっけ?」

「銀殿のおっしゃる通りです。精霊が出現するサイクルは決まっておりましたからな。時期と場所を外せば安全ですので、休耕地としておりました」

 二圃農業などの輪栽式が都で考案された時。

それぞれの領地では対して導入されていなかった。しかし緋家では明らかに使えない時期と使える時期が判れていた為に、初期の輪栽式農業を取り入れて成功したのだ。もしヌシが居つかなければ、今ごろは三圃農業に発展していた可能性もあるだろう。

 

残念ながらそう上手く行かず、失敗事例で改良案が出たわけでもない。輪裁式農業のモデルケースになりはしたが、中途半端な発展をしているという悲しい例である。

 

「では今の出現場所は特定できますね。今の時期はこちらから探しに行く方が良いのか、それとも移動時期まで待って強襲した方が良いでしょうか?」

「今の時機ならば固定ですね。こちらから探しに行くのは面倒ですが、いつも同じ場所に現れると報告例があります」

 先人たちが残した貴重な報告例だ。

ソレがなければ無意味に歩き回って無数の精霊と戦わねばならなかったし、どの程度の相手か予想もつかなかっただろう。

 

これらの記録があって尚、討伐されてない。

理由の一つは物理攻撃が通じない事、メジャーな攻撃魔法であり威力の高い火魔法が通じない事。魔法武器が貴重である事。挙句の果てにソレらが魔王率いる魔物の群れとの戦いで浪費されてしまった事だ。魔法武器は回収できても、遠距離攻撃可能な魔導師が死んだらどうしようもない。促成栽培の術師は火系を覚える事が多いので役に立たないことも大きいだろう。

 

(緋雁原が緋家の本拠地じゃなければな……。異種族を含めた南部連合軍を組んだ時に何とでもなったんだろうけど)

 本拠地の解放は他者に委ねる馬鹿はいない。

この時代の地図はアヤフヤで、軍事知識だからこそ城の位置も正確には載っていないのだ。それに名誉はどうなる? 地の底まで真っ逆さまだ。

 

そして僕を青悟が推薦し、緋家の連中が歓迎しているのはその辺の理由もある。系列の下に連なったばかりの奴なら、適当に持ち上げてしまえば良い。死んだ系列貴族の所までならば別に引き上げてしまっても構わないのだ。身内で爵位継承に関係ない相手ならば幾ら褒めても問題ないのだから。

 

「他のメンツの準備が出来次第に『主力』が北上します。僕らはメンバーが揃う事を最優先、今のメンバーだけならばヌシが動くまでにルート確保から入りたいところですね」

 七司は最初、他にも心当たりが居ると言っていた。

紅家の三男坊や武門の騎士はともかく、もしかしたら付与系の術を覚えているかもしれない相手。また魔法の武具の持ち主が居るかもしれない。

 

「む……居ないわけでは無かった、というところですな。余計なシガラミも増えるので今のメンバーだけの方が良いでしょう。魔法の剣ならば御本家から何とか」

「なら時間調整を兼ねて連携訓練をしたら行動開始ですね」

 どうやら待っても増えるのは面倒事だけらしい。

功績を上げるため名前だけでも参加させて欲しいとか、兵を肉壁にしている間に攻撃すれば良いだろうと考えなしの奴とか。そういう連中ならば居ない方が良いまである。

 

足手まといが居ても精霊相手には役に立たないし、倒すことは出来たが被害が多かったというのでは期待されている名誉が手に入らない。本来はそんなモノは要らないのだけれど、今回は武門の連中を納得させるために必要なのである。

 

 

「そのまま行って、ガーっと倒すだけじゃ駄目なのかよ?」

「今回必要なのは『物語』だからね。大通連が一人で行って確実にその日のうちに帰ってくれるなら、何の問題も無いよ? 豪傑に頭をさげて解決してもらいました。めでたしめでたしにできるからね」

 と言う訳で早速作戦会議だが、実力から言えば当然の質問が投げられた。

そして楽勝そうにしていた大通連が、その一瞬で押し黙る。この反応が精霊と言う魔物の特性を表していた。

 

整理には物理攻撃が効かないが、技の一部も同様に通じない。武器の重さ・大きさで殴りつけるスマッシュ系などに意味はなく、装甲なんか元から無いからピアース系も意味がない。馬鹿みたいな耐久性で粘ることから、延々と打撃戦を余儀なくされるのである。

 

「冗談はキツイぜ大将。あいつらは殴っても平気な顔してやがるからな。一体だけなら楽勝なんだが」

「そういう事だね。んでこれが一番重要なんだけど、ヌシの周辺に全くいないとか保証できないでしょ? 運が悪ければ二体目すら居る可能性がある。そして僕らは成功失敗に関わらず、苦戦が出来ない」

 装甲も無いし技も使わず、延々と魔法攻撃が飛んでくる。

ゲームで言うとHPを削り易いので、魔法の武具さえあれば倒し易い相手に見える。しかし耐久値だけが馬鹿みたいにある場合、この延々と撃たれるというのが最悪になるのだ。

 

イメージ向上が最大の目的であり、苦戦する訳にはいかないというのがこれに拍車をかける。倒すのであれば、計画に基づいて淡々と倒す方が気が楽である。

 

「最初の計画では相手の位置確認と、取り巻きの排除。最悪でも同ランクの相手が居ないという確認はしたいかな。それさえできればサッサと帰還しても良い」

「索敵による本陣特定は戦ならば当然ですな」

 相手の周囲に雑魚がおらず、そこから動かないならば作戦が立てられる。

少なくとも行き帰りの道筋を掃除するだけでも話が変わって来るだろう。だが何も考えずに突っ込み、取り巻きにやられて辿り着けないとか、類似個体だけを倒して後から恥をかくのは願い下げである。

 

やるならば確実に状況を確認し、複数回の出撃による雑魚退治と本命討伐によって確実に熟すべきだろう。

 

「ヌシさえ特定できれば後は簡単だ。大通連が攻撃専念、僕と七司さんはその保護中心。青悟さんと紅梓さんは適宜に援護をお願い」

「かったるいが武器の為だ仕方ねえ!」

「了解しましたぞ!」

「「は~い」」

 魔法の剣や付与魔法はあるが、大通連が一番強いので彼を守る方が確実だ。

七司と僕は余裕がある時だけ攻撃し、耐火保護を掛けたヒーターシールドで相手の攻撃魔法を防御する。

 

それで火傷は何とかなるので、後は青悟が治療魔法と攻撃魔法を適宜に掛けていくだけ。紅梓は最初に防御魔法を掛けた後、周囲の精霊を監視しつつ接近してくるならば魔法で牽制する役目である。数が多いようならば僕と七司が接近した時にトドメを指す役目になるだろう。

 

「私たちは?」

「双葉と剛盾さんは帰り道の保護。場合によっては紅梓さんと連携してね。無いとは思うけど大怪我した人が出たら担いで返ってもらうから」

「そのくらいなら何とかなるじゃろ」

 予備の武器とか結界は用意できるが、あくまでオマケでしかない。

それに魔法で範囲攻撃可能な相手に対して、予備戦力を全員突っ込むとかマジでありえない。それならば後方に配置して、帰り道確保に充てた方がマシというものだ。

 

すくなくとも小型の精霊くらいならば彼女たちでも何とかなるし、耐火保護を掛けたマントで覆ってくれれば負傷者が死ななくて済むだろうという保険である。

 

「確認だけど紅梓さん。精霊を呼べる術者とかに心当たりはある? 練習とか……」

「エルフを何だと思ってんのよ? そんな便利な術師なんて居ないし、居ても他所に出す訳ないでしょ?」

 てっきり精霊はお友達という種族だと思っていたが、違うらしい。

そんなクラスは存在しないと呆れはするが、別に練習戦闘までは否定しなかった。別に精霊は友達でもないし、過保護という事も無いのだろう。

 

となると後は実践練習あるのみである。

 

「なら練習は盾で守るのと、守ってる人を攻撃に巻き込まないのだけでいいかな。後は緋雁原で進路を確保しながらやった方が早いと思う」

「それなら火魔法の使い手でも呼ぶかい? 痛いけど守る速度の練習には成るからねぇ」

「げっ」

 と言う訳で耐火じゃなくて、耐熱保護を掛けて防御練習。

精霊の攻撃魔法はもっと早いと思うが、一応の手順を覚えたところでフォーメーション練習も何とか成し遂げた。

 

こうして緋雁原攻略戦に向けて動き出したのである。




 と言う訳で作戦決定。
グダグダやってても仕方ないので、対精霊作戦を立てて次回で攻略予定です。
その後は要塞線を築出で第二部終了、第三部で町の経営って感じですかね。

●精霊
 能力的には弱いけれど、特性が凄く厄介な相手。
ゲームで言うと……。

『ファイヤーエレメンタル』精霊属性
HP200、大精霊は1000
MP:たくさん
攻撃・防御無し・回避・装甲無し。
特殊能力:物理耐性、火魔法

と言う感じですね。
攻撃を当てるのは簡単、装甲も無い。でも物攻撃は効かない。技も基本無理。
つまり魔法の武器で延々と殴り、魔法を喰らい続る必要がある。
ものすっごく面倒くさい敵になります。少なくとも軍隊では倒せません。

昔は強い騎士が精霊を倒せば良かったし、訓練生も集団で倒せた。
でも魔王が出現して大精霊が現れると、強い騎士は死ぬし訓練生上がりでは無理。
いつしかその訓練生上がりの即席栽培騎士も半減するとか言う悪循環ですね。
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