妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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他の荘園主たちも準備が出来て、全体がジンワリと進軍していく。
安全地帯を広げる様に動くから、基本的にその歩みは早くない。道をバリケードで軽く封鎖して周囲を偵察し、隣村までの位置を確保。場合によっては穴を掘って堀に変えるのだから進軍するのでペースが早い訳はない。
そして僕らはその間に、精霊に占拠された緋雁原攻略に向けて動き出した。本当であればもう一班くらいは欲しい所だが、攻撃魔法の使い手なんて滅多にいないので仕方がない。伯爵家全体で動くのならば話は別なのだろうけれど。
「実のところ、ヌシはともかく精霊は一か所に留まる個体ばかりではありませぬ。昼と夜で別の場所に群れて移動する個体も珍しくなく、実は放牧くらいはできるのですよ。まあ過去形なのですが」
「そんな情報を集めた先人は凄いですね。緋家が発展したわけです」
道中に聞いた話だと、緋雁原での出現パターンは特定されている様だ。
精霊達が何処に出て、どう出現するのか幾つかのパターンに別れるという。そしてパターンさえ掴んでしまえば安全と考えられるのが凄い所だ。普通ならば精霊湧きが起きるような難所に住みたいとは思わないものである。
僕がその年代に転生してたら……パターンを調べて狩りをするとか? でも精霊は毛皮も肉も落とさないしなあ。此処にしか生えない薬草でもあれば採りに来たかもしれないくらいだ。
「と言う事は本来は移動する精霊が多かったエリアにあたるんですか? 居座っているから困ってる訳ですよね」
「そうなりますな。おかげで二か所で精霊が存在し、片方は延々と存在し続けておるわけです」
これらの情報を資料にまとめるが、緋家独自の問題は別訳。
改めて書き記した二種のメモ書きを七司に渡し、検閲してもらってからデータに残す。字は汚いが、現地への移動中という事で勘弁して貰おう。
そしてこれらのデータを踏まえてから今日の作戦を修正。
今日は事前に定めた偵察日なので、現地の確認と雑魚精霊での予行演習の予定であった。
「予定通りにヌシが所定の場所に居るかどうか、移動する個体も含めて全体像がどうなるかまでを確認。帰り際に一回か二回を倒して初動を終える行程になるよ」
「随分とまだるっこしいじゃねえか」
「その代わりに、次に来る時はみんな英雄だけどねえ」
この行程を挟むことで、二つの事が確定する。
一つは当然、普通の精霊と戦う時のペース。もう一つはその経験から、ヌシと戦うまでにどの程度の戦闘を繰り返す必要があるのかが判るという事だ。
通常個体を一体倒せば、耐久力と火力が算定できる。
誰が何回攻撃すれば倒せるのかを把握し、一戦闘でどの程度の魔力消費が起きるのかを把握できれば、おおよそ勝ったも同然であった。
「そういう事だね。仮に雑魚と五回戦わなきゃならないとして、今日中に済ませて無事だとは思えないかな。でも半分倒しておけば次がすごく楽になる」
「能力次第ではワシらでも倒せるかもしれんしのう」
魔法か魔法の武器で耐久力を削るしかない。
その為にメンバーが限られてしまうので、一回の攻撃で削れる相手の耐久力が殆ど決まっているのだ。
仮に威力は高いけれど耐久力が低いのであれば、全員で雑魚を殲滅した方が早い。逆に耐久力がアホみたいにあるのであれば、やはり万全の状態で一体・一体・一グループずつ倒すべきだろう。
「確認をするのですが、銀殿の力で道やこの地自体を封印できぬのですか?」
「難しいですね。結界と言うのは一つ封じれば済む物でもありませんし。もしこの地に火の精霊力が溢れているのが原因だとして……」
ファイヤーエレメンタルが出現する条件を調べて封印するとしよう。
できれば次に精霊が移動しないように封印してしまえば良いし、今後に精霊湧きが起きないようになるだろう。だがそれはエネルギー消費だとか反動というモノが無ければの話である。
エネルギー消費自体は、まあ神職を増やせば対応できなくもない。火の精霊を崇める文化があるかは別として……まあこの地で栄えた緋家の一員ならば可能としよう。洞府を開いてしまえば吸収出来るからだ。
「魔王がソレを蓄積して作り上げたのであれば面倒なことになります。何しろその真似をしてしまう訳ですから」
「なるほど。自ら材料を集めてしまう訳ですか」
ゴムホースで水を流す時、出口を小さくすれば勢いが増す。
それと同じことを火の精霊力でやったら危険なので、単純封印するのは危険だろう。
それとは別にここに火の精霊力が溢れている事が、伯爵領や南領全体のバランスを採っている場合はもっと酷いことになる。他の場所で別の精霊が出現したり、最悪どこかのエネルギーが枯渇することもあるだろう。
「伯爵家は今が底です。これから復活するのですから無茶はしない方が良いと思いますね。中央に納める税が倍になるような事でもない限りは藪蛇かと」
「確かに。火の精霊が出現する場所が城に移った……では笑い話ですからなあ」
もし試すとしても最低限、火の精霊を崇める教主なり巫女を育ててからだろう。
僕もその辺を考えなかった訳でもないのだ。この周囲で火の精霊力が溢れて居て、それを無制限に収穫できるとか『何ソレ、凄い!』としか言いようがない。もしゲームだったら絶対に試す価値アリだろう。
しかし僕の場合は神様の属性が知識系であるので意味が無いのだ。
どう考えても火の精霊力をありがたい物として吸収できる要素は薄かった。西洋のプロメテウスみたいな逸話でも挟まないと無理だろう。つまりやるだけ意味が薄いので、この話はこれまでである。
「同様に通り道を封鎖しないのも同じ理由ですね。雑魚とはいえ、主と同じ場所へ溢れても困りますから」
魔王の出現で活性化しただけならば倒せばおしまいだ。
しかし穀倉地帯のアンデッドが古戦場であること利用したように、同じく好条件の難所へ出現した強力な魔物である。そのあたりの条件を弄って出現させた可能性はあるわけだ。
下手に弄るとヌシと同じ場所へ精霊が湧き出し、あるいはヌシそのものに流れ込む可能性すらあった。順当に作戦を組めば勝てるのであれば、余計な事はすべきではないだろう。
「そうですな。現時点で順調にヌシの周囲を探索で来ております、このまま順調ならば……」
「何か懸念でも? こちらは全員無事ですよね?」
今の処は問題なく偵察出来ている。
地元民であり地形を知って居る七司が居る事もあり、特に道を間違えているわけではなさそうだ。平原なので見晴らしは良い方だが、単純ながら起伏のある場所を選んでくれたこともあり、今のところは対処できない程の精霊とは遭遇していない。
隠れてやり過ごしたり、相手の近く半径を見極めて迂回することで対処できたと思って居たのだが……どうやら順調過ぎたらしい。
「幾らなんでも精霊が居なさ過ぎとは思いませんか? 帰りがけに戦うとは聞いておりましたが、自分としては行きの途中で遭遇。対処を議論することもありえると思っておりました」
「確かに。目の前に居たら突撃しかねない人も居ますしね」
その意見を聞いて共通の相手を見ながら思案する。
どうして精霊が居ないのか、その原因次第でどのような変化が起きるかだ。
例えば目の前に居るような考えなし、または他に理由のある集団が倒して回った場合などである。
「なんで俺の方を見るんだ?」
「そりゃあんたが一番目を話せないからでしょ。退屈とか言って抜け駆けしかねないし」
「私達の分まで肉食べたっ」
こうなった原因の一つは、大通連の様な豪傑が討伐に来た事だろうか。
精霊湧きを利用して自分または同行者を鍛え、あわよくばヌシを倒して名声を得る。緋気の本拠地だけに誰かを連れて来れば功績を証明できるので、悪くはない考えだ。
僕は今まで危険を押し付けられ、面倒なことになったとばかり思っていた。だが視点によっては、ここをゲームでいう『狩場』として考える者が居てもおかしくはない。
「七司さん。紅家の三男坊の足取りは掴めてますか? あるいは目を掛けた武芸者が来たとか?」
「いや、詳細は知らぬが少なくともこちらではない筈です。まさか……」
最初に上がった三人の武芸者。
今そこに居る武器コレクターの大通連、紅家の三男坊……そして最後の一人は緋家で武門に属する人物だ。
極論を言えば、紅家の三男坊はまだ良い。
三人の中で一番強いようだし、魔法の武器を持っていてもおかしくはない。精霊にも通じる技を試すために来たならば、今ごろは退治して居る可能性すらあった。狩場にしているならドーゾドーゾと出番を譲っても良い。
(名誉とか長男さんの思惑とか気にしなきゃ、危険が減って万々歳なんだけどな。一番困るのは三人目が中途半端に手を出した場合なんだよな)
三男坊の場合は伯爵家の対面とか、僕が活躍する予定が減るだけだ。
問題は三人目の候補が何らかの理由を持って、僕らよりも先に緋雁原解放を目指した場合である。
倒せるのであれば問題ないのだが……、自分ならば僕よりも上手くやれると信じたり、僕ないし七司なりに嫉妬して考えなしの動きを行った場合が問題だ。
「まさか二広殿が此処に?」
「可能性はあるでしょう。伯爵家を守るために『あえて』動かなかった武人が、僕の様な端下の者に苦労を掛けまいと考えることはあり得る事です」
嫉妬や功績争い、あるいは僕の例を引き合いに妹君の為。
色々な要因は考えられるのだが、僕や七司を活躍させないために無茶をする可能性はありえた。それが問題となるのは挑んだが倒せない場合である。
二広というらしいが、その人物を中心とした精鋭ならば倒せる可能性は高い。だが中途半端に集めた兵では精霊を倒しきれないし、むしろ犠牲を途中で引き返す事もあり得るだろう。そうなれば先ほどまでの懸念が悪い方向に向かう可能性があった。
「出来る限り見つからないコースで来たと思うのですが、ここは戦闘を覚悟して視野の通る場所に移動しませんか? それで見つからない様な精鋭なら良いのです。しかし……」
「一門から腕の立つ者を集めただけの可能性もありますな。……こちらです」
移動する方向は主城のある方面だ。
名前に『二』が入って入るという事は、緋家が拡大期に先槍として認められた武人の家系だろう。日頃から城に詰めていたり、そもそも領地が緋雁原の出口である可能性は高い。
そして高台に出て視野を確保した時、よろしくない光景が随所に見られたのである。
「攻撃魔法や蹄の痕……か。これは駄目ですな」
「これは酷い。あちこちで戦闘しながら迫ったみたいだねぇ。被害はどれほどのものやら」
「移動しましょう。精霊に見つかる前に行動します」
そこで見かけたのは戦闘痕だった。
最初に大規模、そして続く場所は小規模。そこから試すだけ試したように見える。この位置から見えない場所もあるので、実際にはもっと戦っているはずだが……要するに最悪のパターンである。
こうなってくると計算を練り直さなければならない。半端に時間を掛けていると、ヌシの周辺に精霊力が溢れかえる事もありえるのだから。
「どうするのです?」
「可能な限り戦闘を避けてヌシを強襲します。時間を掛ければ掛けるだけ、主の周囲に力が溢れる可能性がありますから。それとも二体目のヌシかな……」
精霊が生まれるサイクルがそれほど早いとは思えない。
一日とは思えないが、数日以上前なら問題だ。思い立った条件にもよるが、七司が僕の所に移動して直ぐなのか、それとも他の荘園主が動いてからなのか?
「しかし二広殿がまさかこんなことをするとは……」
「緋家から魔剣を貸し出したこと、悌さまが妹君を僕などに目合わせるなどと言い出したこと。もしかしたら忠義の将にはお辛かったのかもしれませんね」
抜け駆けとか嫉妬とか言うのは止めておこう。
誰が聞いているか分からないし、人間関係に無用なヒビを入れるのはよろしくない。とりあえず理由は他に見当たらないので、適当に考えてもらっておくとする。
そして僕は素早く再計算することにした。
仲間達は幸いにも負傷して居ないし、今日はお試しで戦うとはいえ不測の事態に備えて無用な魔力は消費してない。
「ぶっつけ本番になりますがヌシを倒してしまいましょう。もし雑魚数体を引き連れて居たり、二体目のヌシが居たら即座に撤退します」
「「了解」」
もしそんな事態になって居たら、腕利きの傭兵を名指しで呼ぶ必要があるだろう。
攻撃魔法無いし付与魔法が使えるか、魔法の武具を所持して居る連中を十人位集めてレイド戦である。そんな必要が無い事を祈るのみであった。
と言う訳で予行演習して楽勝では面白くないので経験値の調整。
時間を掛ければ楽勝から、今回だけで確実に勝たなきゃいけない。
もしかしたら事前情報よりも強くなってるかも?
と言う感じに調整されております。