妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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緋雁原攻略戦:後編

 要らん事をしでかした奴のお陰で採算の怪しい博打に挑むことになった。

幸いにも消耗はないが、戦って勝てるという保証はない上に、道中の障害を排除する余裕がない。

 

せめて介入者……というかこの場合は競合者か、彼の仕掛けた時期次第ではもう数日余裕があるかもしれないが、その時期が判らないので最悪を考える必要があった。

 

「七司さん。差し出がましいのですが、ルートが幾つあるのかを紅梓さんに教えてあげてください。一番敵の少ないコースでヌシまで行きます。問題があれば途中まで導いてもらってくれれば」

「単純な数じゃなくて、急げば専念できる道よね? 『私』はいいわよ」

 ここは緋家の御料地なので、迂闊な情報漏洩は困る。

だから偵察に行く紅梓の都合ではなく、七司が教えてくれるかどうかだ。前にも言ったがこの時代の地図と言うのは軍事情報であり、末端に加わった僕はともかくエルフ族である紅梓に教えるのは躊躇するかもしれない。

 

そこで段階を踏まえ、彼の納得する状況から索敵スタートするべきだろう。

 

「……では銀殿にはこの辺りの地形を開示いたしましょう。その上でルートを絞り、どちらが現実的かを紅梓殿に考察していただければ」

「なら僕と七司さんだけ向こうで話し合いましょうか。その上で軽く見てきます」

 と言う訳で緋雁原の地形を教えてもらった。

簡単にイメージを伝えると、ピザを思い浮かべて貰えるとありがたい。ピザは必ずしも平坦なわけでは無く、生地が凸凹したり具材やチーズによっても見え難くなる。それらの起伏によって細かい地形が出来上がっていると言えるだろう。

 

目に見えない火の精霊力がトマトソースだとして、野菜が畑で肉が牧草地と言う感じだろうか? それらが歪んで偏ってしまっているのが現状である。

 

「割りと見たままだと思うんだけどなあ……微妙に見通しが悪いから怖いよね」

 教えてもらった地形を頭に入れ、少し高い位置から見渡す。

傍目には何処も似たような分布に見えるが、平坦な場所と人の生活感が無くて同じような光景が続いている様にしか見えない。実際には知覚半径と移動力・魔法の射程などで誤差があるはずだ。

 

ちなみに何種類かの精霊と戦った事はあるが、同じ系統でも微妙に姿や能力が一致しない。火の精霊だと火蜥蜴と人型などで、緋雁原だと鳥型になる。

 

「確かこいつら魔法知覚だから五感で把握してないんだよな。蛇みたいに温度変化だったら誤魔化しようがあるんだけど。まあ良い面もあるからいっか」

 目や温度変化を見ていないから、映像や熱源をカモフラージュしても誤魔化せない。

だけれど今回良い面としては、目で見てないから、高い位置から見ても視線が通らない。耳で聞いていないから向こう側で爆発しても、知覚圏内に爆風が入らなければ反応しない。

 

これがどういうことかと言うと、相手の知覚圏内ギリギリを通ってしまえば、人間相手には視線が通るから無理な偵察やら通り抜けが可能なのである。

 

「紅梓さん。少し行った所に居る小さい奴の集団と、向こうの方に中くらいのがポツンと居るじゃない? あの間に精霊が居ないか見てきてもらえるかな? 連中は距離さえ保てば動かないから」

「随分と無茶を言うわねえ。私じゃなきゃ無理な相談よ、ソレ」

 元の位置に戻って、軽く作戦を説明する。

紅梓さんに見てきてもらったルートが大丈夫ならば、その間を抜けて突き進むことができる。駄目ならば別案……戦っても周囲から増援が駆けつけない相手を選んで倒していくしかない。

 

出来る限り本命以外とは戦いたくないのだが、そんな都合が良い展開などありえないだろう。ならば迷うよりも最低限の戦闘回数に抑えて、消耗と相談しながら抜けていくべきだろう。

 

「紅梓さんの持って帰って来る情報次第だけど、問題なければあそこの中間を抜けていくよ。間にナニカいる場合は……向こうに中くらいのと小さいのが屯してるよね? あそこを潰す」

 目の前の一体を潰さない理由は簡単だ。

位置的に装置が攻撃魔法を使うと爆風が隣のエリアに届いてしまう。少なくともなし崩し的に連戦となるだろう。中型を即座に倒せるならば問題ないが、時間を掛け過ぎたりすると大変な事になってしまう。

 

何しろ精霊は人間よりも精霊魔法が得意である。下級魔法に限るが熟練の道士並の火力はあるだろう。それも全ての個体が……である。中型ともなると人間には存在する威力の上限値が存在しない可能性もあるので、一体でも危険なのだ。

 

「確認は二つ。まず七司さん、精霊の移動時間はまだですよね?」

「問題ありませんな。夕刻ごろから移動が始まりますので、魔王軍が何かを仕掛けていたとしても暫くは考慮せずとも良いでしょう」

 ここで気を付けないといけないのは、万全を考え過ぎて盤面が変わる事だ。

移動するタイプの精霊たちが動き、せっかくの偵察が無駄になる。それどころか次々と戦闘してしまうとか悪夢でしかない。群雄割拠次代の緋家が無事だったのは、そういう習性を理解していたからなのだから。

 

そして懸念事項が晴れた以上は、残る手順はどれだけ消耗少なく倒すか、どれだけ一介の戦闘でデータを得るかしかない。

 

「なら後は戦闘に関する取り決めです。最初は範囲魔法を撃ち込んで、弱った小型を確実に仕留めて反撃を減らします。どれだけ優位な地形や距離でも、他のグループやら効率を求めて戦わない事」

「中型と戦ったら駄目なのかよ? つまらねえなあ」

「精霊ってさあ。あの小さい奴でも熟達者の炎弾飛ばすんだよねえ」

 本当は走り抜けることでもっと良いルートがあるのだが……。

どう考えても途中で大通連が攻撃するだろう。今も忠告しているが、夢中になったら忘れかねない。口を酸っぱくして言っておけば最初の一発くらいは攻撃魔法を待ってくれるだろうと言う考えでしかなかった。

 

なお、亡くなったお師匠さんに躾けられる前はそれすらも駄目だったらしい。昔の逸話の中で、どうでも良い魔物に夢中になって本命に後から気が付いて参戦するというアホな事をやったとか。つくづく故人が偲ばれる。

 

「お待たせ―! 悪い報告としてはやっぱり駄目な事、良い報告としてはヌシの近くには小さのが一体か二体ってところよ」

「やっぱりそうなるよね。仕方ない倒しても問題ない所を抜けようか」

 偵察に出た紅梓であるが、成果はあまりよろしくない。

潜り抜けるのは不可能なので一戦闘しないといけない上、ヌシ一体だけと戦う訳にはいかないという残念な結果である。

 

ただ、この後の戦闘で良かったことを一つだけ発見した。

小型はそれほど耐久力が無かったのだ。攻撃魔法の後で大通連が二回ほど攻撃すれば倒せるレベルだったのである。その情報を踏まえて攻撃魔法と付与魔法を調整してから一気に畳み掛ける事になった。

 

と言う訳で、いよいよボス戦である。

 

「ヌシの他は小型が二! まずは小型からだよ、大通連!」

「あいよ!」

 青悟の渦潮……範囲魔法が炸裂、倒せない小型に丸盾に刃を付けた『大通連』が飛んでいく。

それに合わせてみんなが素早く展開し、半径5m程へ三角形に散らばった。これは範囲攻撃の連発で全滅しない為であり、同時に単発の火弾であれば僕と七司が守れるという構成だ。

 

そして紅梓の唱えた風の刃、そして間を空けて双葉のナイフと剛盾の手斧が順番に投げられるはずになっている。

 

「一発外れ! 小型が少し残ったぞい!」

「後は予定通り! 大通連に任せて、付与した残りは温存しておいて! 次が来たら厄介だ! それよりも反撃が来る!」

「けっ。仕方ねえなあ!」

 初手は間合いを調整したこともあり、こちらの遠隔攻撃が先に決まった。

だが奇襲ではない以上、そのまま連続攻撃できるはずがない。火球と炎弾が来ると予想して盾を構えた僕と七司が皆を庇いに出る。

 

『オーー!!』

「来ますぞ! 私たちの後ろに!」

「炎弾二回の方が良かったな。まあ白兵戦の方がもっと良かったんだけどさ!」

 僕と七司の盾は『延焼保護』の保全を行っているので、少なくとも火傷を追う事はない。

ただの衝撃ダメージを受けているだけなので、青悟が追々治療してくれるはずだ。生き残れば双葉の苦い薬も待っている。

 

ドーン! と弾ける音と共に衝撃が盾越しに掛かるのだが……予定通り『延焼』のみに絞った盾は燃えないでくれていた。この保全能力は元の機能に比例し、消費は反比例する為に燃えない素材で作られた盾は有効なのだ。

 

「大通連は小型を潰した後でヌシに接近戦! 僕らはその脇を固めるからね!」

「さっさと潰れろっての!」

 小型の精霊を潰し、残った主に向けて徐々に前へ出る。

本当は後衛を遠ざけたいが、残念ながらそうすると火球で一網打尽に出来るのが問題だ。そうなるとこちらがジリ貧だし、何より双葉を傷つけたくはなかった。

 

理想的なのは敵が白兵戦に切り替える事なのだが、残念ながら精霊はそういう思考をしていないようだ。一番やって欲しくない選択肢を選んでいるように見えた。

 

『ヒューっ……。オーン!!』

「っ! ブレスが来る! 散開!」

 鳥の形をした火の精霊。

だが形状など当てになるはずがなく、火球ではなく直線型のブレスを放って来た。これは一直線に十数mしか届かないが割りと範囲が広い。

 

何よりも厄介なのが、延焼を防ぐための盾をすり抜ける可能性があったことだ。

 

「熱ちゃちゃ! チクショウが!」

「ちょっと作戦! あー~もう! 台無しだよ!」

 腹を立てた大通連が一番威力の高い三叉戟を構えて突撃してしまった。

これでは彼を守りながら戦えないし、かといってこちらも走れば後ろの双葉たちを守り切れない。

 

つまりはどちらかを捨てるか、それとも作戦を大幅に変更するしかなかった。

 

「えーい! 次が来ても知らないからね!  炎よ退け、我が前を照らすことを許さず、我が前を奔ることを許さず。……禁!!」

 仕方なく僕と七司の間に結界を張った。

盾に掛ける場合は、あくまで『一つ』の保全だから消費は少ない。だが結界になると、範囲を保全するので浪費が大きいのだ。全てを防いではあっという間に与えた魔力が尽きるので、保つのはヌシからの相対距離だけ。

 

そして躊躇せずに前に出ることで、全体をヌシの方向に進軍させる。後ろを守るよりは、相手の射程を減らした戦いをすべきだろう。

 

「七司さん! 暫くですが炎は後ろに行きません。このまま大通連を守りながら僕らも戦います」

「ははっ。結構ですな、武人とはかくある物で!」

 僕らは苦笑いしながら抜刀する。

こちらは緋家から借り受けた魔剣、彼は自前で付与魔法を唱えているようだ。ここまで来たら魔力を温存するよりも、全力攻撃で倒してしまうべきだろう。

 

そして後衛はその事を理解してくれたのか、回復担当以外の青悟を残して攻撃を始めている。

 

「クソが! 手応えがありゃしねえ!」

「言ったじゃん! 強打とか突進とか意味がないって! 使うなら連撃とかにしてよ!」

 残念なのが大通連の方である。

あれだけ入ったにもかかわらず、チャージからのスマッシュとかコンボを決めてくださっている。どっちも実体のない精霊には、意味が無いんだなこれが。

 

そして繰り返して忠告することで、大通連も三叉戟を振り回して連続攻撃を始めた。

 

「ヒーハー! 楽しいよな大将! 戦いってのはこうじゃねえとよ!」

「あっ、アホかー! 君のせいで全部グッチャグッチャじゃんか!」

 僕は何とか大通連を盾で守りつつ、可能であれば魔剣を振りかざした。

しかし元が戦士系ではないので、盾で防ぐので精一杯だ。こんなことなら防御専念するから不要といった七司の方に魔剣を持たせるべきだったかもしれない。

 

そして巨大な3D画像に武器を突き込むような間抜けな姿を何度も行い、幻影の様な翼を叩き切ろうとしては失敗。その後に僕らはようやく緋雁原のヌシを倒すことに成功したのである。

 

「やった?」

「やったか禁止。もし二体目が居たり、急に精霊の移動が始まったら怖いからね。……でもまあ、今日はもう帰ろうか」

 ちょこちょこと双葉がやって来て僕の顔を覗き込む。

もう色々と気力が無くなったが、今日は双葉に抱き着いて眠ることにしよう。そのくらいの贅沢は許されるだろう。




 と言う訳で第二部、村長レベルの荘園主時代は終了です。
次回はもっと大きな規模になってから第三部でしょうかね。
気分が乗れば、その前に外伝として転生前後を書くかもしれません。
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