妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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緋雁原のヌシを倒してから、あっけないほど順調だった……というわけでは無い。
北上して万鹿柵を封鎖するまでは良かったのだが、ヌシを倒したという功績が何故か武闘派と折半する事になったのだ。
こちらの足を引っ張った二広一派の介入が、雑魚を一掃することで良い方向に動いたという建前である。おかげで功績の評価はダントツと言うわけでは無く、何が貰えるかは微妙な所である。
「博打を打たされた挙句に真逆の扱いされるとかやってられないんですけど! そりゃ功績なんか要らなかったけどさ」
長男さんに面会するという用件以外は一通り片付き村まで帰還した。
本来は北上中の道中で出迎えてくれるという話だったのだが、目下の物を主人が出迎えるというのは問題だと言う事になったらしい。
一々もっともなのだが、緋雁原と万鹿柵の件を片付ける前は長男さんはもったいぶられる扱いでは無かったし、僕も目くじら立てられるほどの相手では無かった。これも嫉妬とか政治的牽制の一環なのだろうか。
『ほほほ。銀や。それはお主の不覚よ。英雄となるのであれば公正かはともかく目付なり軍監なりを連れるべきであったな。さすれば今回の件で奴輩めは終わりよ』
「あーそれはあそれで面倒くさい方向になりそう。というか足手まといは不要でしたので」
村に戻ると英雄になった成果もあったおか、久しぶりに九天玄女様の御尊顔を拝した。
もし見届け人が居たら武闘派のやった失策が原因で僕が苦労したことがモロバレし、彼らのメンツは地の底である。そうなったら意固地になって今後協力してくれない可能性もあるので、まあ良しとしておこう。
玄女様にその辺りの機微が判らぬではないはずだ。おそらくは僕自らに思いつかせるための言ったのだろう。
『ところで緋雁原とやらが惜しいというておったな』
「はい。精霊力が湧き出る場所ならば惜しいと。娘々には名案がおありで?」
当然と言えば当然だが、火の精霊力が無制限に溢れ出るとか恵まれている。
これで信仰の力に変えるのが難しいならともかく、緋家は群雄割拠の時代からあの地に守られて来たのだ。近年の恐ろしさ込みで、和魂と荒魂のように表裏一体のモノとして布教できそうなのだから惜しくない訳が無い。
問題は玄女さまの信仰には程遠いという事だ。
知識系の神様であり、軍師や使者の神とも言える方だと流石に炎の信仰とはあまり関係が無い。調べたがプロメテウスのような逸話も無いので諦めていたのだ。
『無ければ話などせぬわ。まあ直接の妙案ではなく、『組み』にしてしまえば良いと言うだけじゃがな。のう我が使徒たる『銀天君』よ。そなた十絶陣を知っておろ?』
「あっ……その手があったか!」
仙人の呼び名として真人、そして天君というものがある。
僕が選んだのは後者だが、『天君』というのは道教におけるその地域の教え長という意味だ。地方での祭司長というのは森の海や地形の遠さでは重要であり、たかが長には収まらない。
そして同系の、似て非なる信仰を率いる長同士が手を組んではならないという法はないのだ。封神演義などでも『十天君』ほか様々な教え長が出て来る。
『あれは五行という組と、陰陽を併せ持った同格の布陣が手を組むというモノじゃ。別に四大でも四神でも四凶であろうとも構わぬ。互いに連立し合う仕組みさえ仕上げれば、同系統の信仰を流用は出来よう。まあ遥か先の話ではあるが』
「間に挟む神様に協力願うという形ですね。ともあれ神職の数を増やしてからですが……」
炎の守護神から攻撃と情熱の神、そして火計や鍛冶の神として小神においで願う。
そうすれば知識の収集と効率的な運用を司る、軍師や使者の神様とは相性が良い。水計と水利の神様などとセットで扱えば、滞りなく陣形が出来上がるだろう。
後はそれらの小神さまにお願いして、信仰を集める代わりにエネルギーの一部を融通してもらえば良いというだけだ。実際にそういう契約を結べば融通してもらえるのかはともかく、方程式としては分かり易い。
「自分だけの利益ではなく、他方を立てての一計とは御見逸れしました」
『ほほほ。そなたが崇める神というのは伊達ではないわ。まあそれもそなたが生前に蓄えた知識、そして我が意を組めるという相性を見定めたからであるがの』
どうも神様には当然ながら余計な干渉をしてはならぬという掟があるらしい。
条件としてのコストの支払いを除いて……という前提で、口出しして良いのはあくまでその人物が知っている事・知り得る事の範疇。うちの神様は知識系の神様なので、僕が生前に覚えた知識の中から僕自身が忘れている事、気が付かないことをサルベージして教えてくれるとのことだ。
良くある未来視の類もノーコストの場合は、その人物ならば普通に知ることができる内容が一般的らしい。もちろん神様の側がコストを払わないという前提であり……こちらの世界の大神は、寵愛を与えた相手には他の信者から持って来たコストを払って平気で恩寵を与えるそうなのだが……。まあその辺は復活したての玄女様には酷な話である。
「転生させていただいた御恩はお返しさせていただきますね」
『殊勝なのは良いが、出し抜かれぬようにするのじゃぞ。今回の件は奴輩めが暴走を有効だと言い張っただけの事。本気で貶める心算ならばもっと悪し様な事を出来ように』
つくづくもっともな忠告を受け、僕は拝して洞府を辞したのである。
神様との面談を終えれば、後は山積みになってることや既にやったことの経過観察。思いつくことがあれば指示もしておかねばならない。
ひとまずリスト化して、優先順位のトリアージをすべきだろう。さっさとやるべき事をやって、双葉のご機嫌を取らねばならなかった。
「樹の生育の方は順調?」
「問題ありません。他と違って判り難いってのもありますけど、大きな差はありませんから」
最初に訪れたのは桑の木を始めとした養蚕用の木だ。
エルフから色々と貰いはしたが、天蚕は春から夏にかけての育成なので今のところすることはない。卵を他の生き物に食われないように保護しつつ、餌になる木がちゃんと植樹出来てるかの確認だけしてせっせと育てる程度である。その分、時期に成ったら忙しいとも言えるが。
そして目に見えて分かり易いのが温室になる。
日の当たる場所にガラス張った覆いを作り、中で花や一部の植物を育てている。花が咲くという一点のみに絞っても判り易いと言えるだろう。桃の木も此処に植えているが、木は育ちにくい為こちらも言う程の変化はない。
「あら、何か用?」
「用と言うよりは温室の具合を見に来ただけだよ。ずっと見てなかったしね」
ここを拠点にしているのは紅梓で、技術研修に来ているエルフも結構いる。
植物の生え方が早い事と暖かいという意味でも、割りと過ごし易い場所ではあった。もっとも休憩場所にしているのあ紅梓だけで、研究員たちは丹念に育成状況を確認していた。
そして見る限りアンデッド退治に出る前は伸びてる途中だった場所に、かなり育った植物がある。春に咲く花だが、上手くすれば冬に咲かせることもできるだろう。上手く咲けば伯爵なり侯爵さんに献上しても良い。
「やっぱり暖かいから育つの早いわねぇ。ガラスとか注文したらくれるの?」
「代金なり代価なりくれるならちゃんと用意するよ。工芸品としてならドワーフから買うべきだけどね」
今のところの成果は大したものには見えないが、エルフとしては関心が高いようだ。
それなのに自前でガラスを焼かないという辺り、面倒事を押し付ける気なのがらしいと言えばらしい。
とはいえここは儲け重視にしてもまるで意味が無いので、正当な価格で売り渡すことにする。ドワーフほどの技術は無いし、目の前で値段をつりあげたら直接交渉するだろうしね。
「お金以外の代価って何?」
「色々考えられるけど、今だと蜂蜜とか砂糖かな。通行権を貰えるなら自前で取に行くけどね」
双葉と約束したので美味しいお菓子を作らなければならない。
となるお最優先で必要な物は砂糖または蜂蜜である。甘い物というだけなら蜂蜜でも良いが、色々バリエーションを考えるならば砂糖の方がありがたい。
理想的なのは南西にあるエルフの領域の向こう側、または西にある侯爵領を越えて海を南下した場所に行ける事だろう。
「そうねえ。じゃあ蜂蜜ってとこかしらね。もしジャイアント・ビーが増えてたら連れて行ってあげてもいいけど」
「それ、普通なら傭兵として雇うところだよね? チャッカリしてるよまったく」
反応を見る限りエルフの領域にサトウキビはなさそうだ。
全く知らないような反応でもなく、代価として考慮もしていないので購入することはあっても育てたりもしていないと思われる。
やはり自由時間があれば海を目指して、塩や砂糖を何とかしたいものである。転生前は日本人だったし、焼き魚や鍋くらいは食べたいものだ。
「……見た感じで剛盾さんは今日も鍛冶場かな。大通連の我儘でも聞いてるのかもね」
今日も鍛冶場からは煙が上がっている。
薪を採る中で人間の取り分をドワーフに譲っている事に加えて、隣村まで暫定的に勢力圏に加えている。その為に薪やら鉱石には余裕があった。ガラスやセメントの製作は既に彼の手を離れているので、煙が上がっているという事は製鉄の真っ最中だろう。
見ればそこから上がる熱は蒸気として温室に送られ、あるいは銭湯に利用されている。オオトカゲが専用の風呂でマッタリしているのを横目に眺めながら、後で風呂でも入るかと思案しながら歩いた。
「よう、大将じゃねえか! また何か思いついたのかよ!」
「そうそう新しい武器なんか思いつくわけないだろ。何処かで見たような武器なら別だけどさ」
武器が仕上がるのを子供の様に待ち受ける大通連。
ハッキリ言って迷惑なのだが、この豪傑は迂闊に目を離すと好き勝手を始める。ヌシとの戦いでも作戦を途中から無視したように、感情優先で困り物だった。今も武器製作が無ければ女を口説いているか酒を飲むか、それとも試し切りに出かけているところだろう。
その意味で鍛冶場に張り付いて『今日は何作るんだ!?』と目を輝かせているうちは、まだ安心である。
「来たか。注文の曲刀が出来上がったぞ」
「おっ。これは楽しみにしてたんだよね」
「さっきの奴か? 切れ味は良かったけどちょっと細過ぎだぜ」
言ってる端からコレである。
僕が注文した日本刀を勝手に試し切りまでしているようだ。苦笑いしながら人間を切るな、エルフを切るな、ドワーフも切るなと何度も忠告しておく。
そして出てきたのは日本刀を始めとして、太刀に斬馬刀に長巻に薙刀と弁慶にでもなった気分である。
「これは軽装相手にこっちも軽装って前提で戦うものだからね。重要なのは携帯性と見た目。偉い人たちってこういうのは持ってても許してくれるから」
「そういう意味なら分からねえって事はないさ。芸術品にしちまうのはどうかと思うけどな」
そう言って剛盾よりも先に、勝手知ったる我が家とばかりに取り出した。
紋様を描く方法を教えると剛盾は最初のころに嵌って、幾つかのパターンを用意していた。もしブランド化するならば統一性というものを進めるべきだろうか。
ひとまず刀を抜いて刃を睨み、その紋様が炎である事を見て取った。これならば贈られた方も喜んでくれるかもしれない。
「うん。いい出来だね。後はこれを二回り小さくした予備武器と、護身用のナイフサイズをお願いできる? 贈答用だから鞘とかに彫り物が入ってると助かるかな」
「その辺りはうちの若いモンに任せとけ。それはともかく、この馬鹿に何か教えてやっとくれ」
脇差と懐刀も追加発注すると、代わりに新しい武器を剛盾からも頼まれた。
どうやら次々にせがむ物だから根負けしたらしい。まあ彼自身が新しい概念に目が無いというのもあるけれど。
とはいえ名工に頼まれては仕方がない。我儘豪傑だけなら用っておいても良いのだが、そのつながりは大事にしたいものである。
「じゃあ曲刀のバリエーションで行こうか。傷を残すために炎を象った剣、船乗り用の小型はロープを切る為、この前に曲がった奴は盾を超える為ね」
「おい、紙を持ってこい! メモ用紙に出来る奴で良い!」
地面に描いて説明していると、興が乗ったのかメモしておくようだ。
紙の生産も一応は成功し、大量生産は無理だがそれなりに作れるようにはなった。売り物にするのは無理なので、蓄積した知識を本にする為に使うべきだろう。
後は手紙のやり取りが増えたら、花の香りを付けて伯爵家にでもお洒落な手紙を送るのも良い。そう思った所で双葉の事を思い出し、せがむ男どもに見切りをつけて移動することにした。
「おそー~い」
「ゴメンゴメン。今日はお詫びに新しいメニューを作るからさ」
新婚家庭に戻ると双葉が食器を取り出してチンチンやっていた。
いや、木の器と木のスプーンなのでポコポコと言うべきだろうか? まあ年頃の女の子がやるならともかく、手足も伸びて来た大人の女性がやる仕草ではないのだが。
ともあれゴキゲンを取るために、豚肉を叩いたミンチの他にチーズと軟骨を選んで料理を始める。
「今日はどんな料理?」
「前に作ったハンバーグのチーズ入りと、軟骨入りのミートボール。余ったらスープに入れるから全部食べないように」
牛肉なんてまだまだ夢なので、豚肉のハンバーグを作る。
卵もパンも貴重品なので繋ぎは山芋の類になり、形だけ整えてチーズを包んだ。そして小さくまとめた方には、軟骨を砕いて適当に混ぜておく。
包丁で荒く叩いた後、スリコギで念入りに潰してようやく現代で食べるような軟骨になる。この骨の硬さはきっと豚の生命力が現代よりも高いせいだろう。
「骨で採ったスープだっけ? あれも不思議だよねー。何日も煮込んで薬草と漬け込んだら美味しくなるの」
「薬草師のお嬢さんがそれはないんじゃないですかね?」
「今は御嫁さんだからいーんだもんっ」
こうして早めの夕食が出来上がり、舌鼓を打っていると予備もせぬお客が押し寄せて来る。彼らに文句を付けながらも楽しい食事を終えて、ようやく我が家に戻って来たのだと思えたのであった。
よく考えたら事後譚が無かったので戻ってからの話になります。
第二部の最初の方でやった政策とかが、「まるで成果を上げてない!?」
というのが判ったけれど、「技術が簡単にできるわけないだろ!」
というのも判った所ですね。
ちなみに論功行賞としては……。
普通に隣村を拝領して、妹さんを与えるのに最低限の地位をもらって終わりです。
重臣に成れたわけでもありませんが、排除される対象でもありません。