妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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その後、論功行賞で無事に隣村を領有することになった。
それ自体は素晴らしい事なのだが、問題が二つ三つどころか五つ位ある。
一番の問題は隣村は領主共々全滅しているので、民衆も居なければ領主の資産も何もかもが無い。領主館に籠って最後まで戦い、館に火を点けてアンデッドを壊滅させた(つもり)というのはどう評価してよいのか分からなかった。
「隣村はこの際だけど、大枠で畑・牧草地帯・休耕田として使い回すよ。まずは一番こっちに近い場所だけ耕して、残り二つは諦めとく。畑の方も今年は育ち易い豆でも植えておこう」
「現状じゃあそうするしかありませんなあ」
避難して戻って来る者も居ないわけではないがまるで足りない。
他所の水飲み百姓をリクルートし、優遇して自作農として迎える手も無いではないが……僕の村は伯爵領でも最南端。やってくるとしても遥かに先の事だ。仕方ないので村長やら傭兵を引退した農民を集めて簡単な会議を始める。まあ荘園主である僕が指示するんだけどね。
と言う訳で今のうちに進歩的な農業を導入しておく。
何も無いと悲しんでも得る物は無いので、丁度良い言い訳が立つからプラスだと前向きな姿勢で行くしかなかった。
「みんなで取り壊しと区画の共通化をやってしまえば、後は適当でも何とかなるでしょ。共通化した区画は税を引いた八割を人数で頭割り、残り二割は良く働いた人へのボーナスや体を壊した人の保証とする」
「そいつはありがたい限りですが、放置された穀物は?」
小規模零細農家から大規模公営農家へサッサと舵を切ってしまおう。
人数が居ない事で共同作業の言い訳になるし、区画整理をしておけば町並みを防御用および文明的な格好良さを計算しながら設営できる。
隣村の方はあくまで前衛の砦扱いであり、こちらの本村ほど守備重視でなくとも良い。三圃式農業してしまえば、敵兵が来たとしても早めに収穫するのは一部の区画に集中しているからやり易いはずだ。なので必然的に大型の作業施設を煉瓦で作り、区画を三つに別ければ終わりである。
「収穫可能な穀物があったら種以外は家畜にやっといて。人間が食べるのは心配だから売れないしね。ただ等分するんじゃなくて当たり前の分量をやった仔と、豊富に与えた仔は区別してくれると助かるかな。良く太らせたのが美味しいなら来年も考える」
「判りやした。そんなに居ませんし、家畜が食べないやつは肥料にしちまっても良いですか?」
「構わないよ」
肥料にするのではなく自分のうちで食べる気かもしれない。
しかし腹を壊しても構わないというなら放置しても良いだろう。その程度の事に目くじらてて怒鳴るのは狭量だし、来年以降も存在するわけでは無いから問題ない。商人に売って作物の信用を落とさなければ良いだろう。
ともあれ最大の懸案事項が片付いたとはいえ、まだまだ他に用事は残っている。
「西海岸の調査?」
「うん。平和な今のうちに侯爵領を回って地形や植物の調査をして欲しいんだ。エルフの里に必要な情報を持ち帰りたい場合は、出資をお願いしたいけどね」
紅梓だけではなく暇している冒険者に依頼を出す。
隣村の警備も大したことは無いし、傭兵の延長で屯している連中にも仕事を出さないといけない。できるならば冒険者ギルドらしい依頼が良いのだが、そうそう都合が良い内容はあまりなかった。
となると双葉の御願いをかなえるために、砂糖を求めて三千里計画である。自分達で行く事があるかは別にして、地勢と植生は調べておきたい。
「話を通すのも受けるのも良いけどエルフの領域を通っちゃダメなの?」
「人間を通してくれる気があるか、帰り道なら構わないよ? 要するに次回も調査したり、面白い植物があれば収穫に行くからさ。次から知りませんと言うのは困るからね」
当然ながら全員エルフでは困る。
地図は戦略物資なのでどの程度の位置かを誤魔化すことはある。だが全体の行程とか、見つけた植物を誤魔化されても困るのだ。
ゆえにメンバーは混成であり、エルフの領域は次回以降も通って良いのでは無ければ意味がない。まあ帰り道にエルフたちが自分達だけショートカットする分には認めるしかないが。
「あとは帰り路にエルフの領域を通る場合は、君らにお願いしたら何日掛かるかも教えてくれると助かる。これは正確でなくても良いんで、おおよその範囲で教えてね」
「その辺は長と相談ね。植物調査に関する出資の件も合わせて一度戻って来るわ」
この手の調査活動は時間が掛かる上に、収集した植物も植樹に時間が掛かる。
桃栗三年柿八年と言うが、双葉にお菓子を作ってあげる為の砂糖調査を含めて、今のうちに調べておけば将来に役立てるだろうというレベルだ。
これで冒険者ギルドの実績稼ぎを兼ねて、集めて来る資料収集を用意できる。今後にどういった活動をするかを含めて指針となってくれるだろう。
「そういう訳で今回のポイントは侯爵領を通って西海岸沿いを探り、何処かに拠点になる町なり誰の物でもない土地があるかの確認。要するにその近辺で活動できるかって指針が立てたいんだ。植物に関しては拠点さえできれば追々探せるから、現時点では二番目ってとこだよ」
「と言う事は最悪、何日か体を休める場所が判れば良いのね? 了解」
とりあえずは僕だけの都合ならこんなところだ。
紅梓がエルフの里に戻り、村長たちと相談すれば話が変わってくる可能性がある。何しろ僕の出費と人材派遣で情報が手に入るかもしれないのだ。
妙な動きをされたらエルフの活動範囲が判ってしまう危険がある反面、彼らの活動範囲の向こう側を他人の責任で調べる事が可能になるのである。その情報を得るために出資してくれる可能性は高かった。こちらとしても予算は心元無いので協力者はありがたい。
「植物の方は何を優先するの?」
「最優先で砂糖のなる植物。次に暖かい地方で採れる果実かな? ただ一見、ゲテモノくさい形状の皮もあれば、果実に見えて虫とか爬虫類の卵ってセンもあるからそこんところは気を付けて」
「やあねえ。誰に言ってんのよ。でも砂糖かあ」
即座に反応が返ってくる辺り、やはりエルフの領域にも怪しいモノがあるのだろう。
それこそ前世でもタピオカとかカエルの卵が似ているとか、そういう話は枚挙にいとまは無かった。もし僕が向こうに行くことがあれば注意しておこう。
これで全部の案件が済んだという訳でもないが、おおむねやっておかねばならない話は終わりだ。後はやった方が良いのか悩む作業になる。
「向こうの村に何を作るか決めたんか?」
「今の処は煉瓦や陶器を焼成する為の窯くらいかな。陶器の方はオマケだから煉瓦を直接向こうで作るくらいになるけど。後はそれと貯めて置く蔵とか」
剛盾と一緒に向こうの村に作る設備の相談だ。
第一に窯を設置し、そこで煉瓦を作って防衛設備を兼ねた作業小屋を作る。二つ目の教会は要らないから、後は倉庫くらいになる。もし奥さんが増えて別居する場合は……どっちかが済む別邸も必要になるだろうけど。
ともあれ煉瓦やセメントの使い道を考えておかねばならない。
僕の目的はこちらの村を城にすることで、前世のような心地よい生活空間を守る能力を得る事だ。だから土塀の壁だけではなく、煉瓦やセメントを使った施設は多い方が良い。系統立てて作っておけば田舎でも格好良く見えるし、イザとなれば別の施設に転用できるのだから。
「そういう訳で暫くは壁や見張り小屋を煉瓦とセメントでガッチガッチに固めて、不要に成ったら家の資材にするなり街道に埋めていこう。煉瓦の製造数は増えてるんだよね?」
「まあのう。みんな慣れたちゅうのも大きいな」
労役で煉瓦を作ってもらっているが、このペースでは可能なのは今だけだ。
来年になって畑作業が本格化すれば暇な現在とは比べられない。村人自身、自分の命を守るために働いているが、安全になってまで煉瓦を増産したいとは思わないだろう。そんなことをするくらいならば開墾でもしたいはずだ。
やはりその時にも水が重要なので、今のうちに水路が抑えておくべきだろう。
「あとは水路と東の出口の周囲を固めて、万が一に備えるってくらいかな。西も東も荘園主がまだまだ近隣を固めてないし魔物が残ってる可能性がある」
「そこまでせんでもええ気はするが……まあ煉瓦を焼くのは幾つでも一緒じゃからな」
この辺りは過分にいい訳だが、やっておくに損はない。
水利という物は昔から争いごとが起きるし、西の荘園主と喧嘩になっても困る。既成事実として水路の拡張を行い、あちらにも有利なようにする代わりにこちらに引き込む権利もちゃんと主張しておきたい。
こういうことを地道にやっておかないと、気が付いたら『水路の権利は俺の物だ、使用料を払え!』とか言われかねないので大変である。同じような事が東にも言え、中間にある森や山などへ兵を出す権利の為には、ちゃんとした防御といつでも兵を出せるのだというスタイルを見せておかねばらならないのだ。
「せめて同期のメンバーが近くに居たらなあ……。昔馴染みだから基本的に話し合いが付くんだけど」
「無理に決まっとろう。手を組んで反乱を起こせと言っとるようなものじゃ。寝た子を起こす必要はないでな」
まあこれは判る話でもある。
伯爵家からみた僕の信用が置けるかはともかくとして、同時期に傭兵から荘園主になったグループが近在していれば徒党を組む可能性がある。派閥問題で済めばよいのだが、手を組んで反乱を起こしたり他の貴族に鞍替えされたら困るのだろう。
結果として気心の知れた元傭兵仲間は僕の近くで荘園を経営して居ない。頼まれたら口は出すが、今のところ魔物退治の記録くらいしか手紙のやり取りは無かった。
こうして何もない一年目にやるべきことは終わり、特に変化のない春を喜ぶ時期になったのである。
と言う訳で状況整理と時間の掛かる話の布石回になります。
●農業
三圃式農業も集団農業も『なろう』みたいに受け入れられたわけでは無く、
人数が居ないから仕方なくそうした感じでドサクサに紛れました。
何年かしたらスゲーと言う事になるでしょう。
●西海岸
暫くこっちは平和になるのと、砂糖が欲しいから。
もちろんガラス玉で人手を購入することはできません。
倫理よりも、面白くないからですね。