妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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元とはいえ狩人の朝は早い。
傭兵隊は魔物が増える領域に向かっているのだから猶更だ。
故郷で祭壇を築いて洞府……神殿とか神社に当たる場所を開いていた時は神様が声を掛け、気分の良い時は助言もくれたのだがそれも絶えて久しい。
「朝からくっ付くな」
「……双羽は温かいから」
僕の数少ない特殊能力の一つに『何かを保全』するという物がある。
今は体温を一定に保っているわけだが、悲しい事に同じ職種の奴は同じことができる。隊に居る司祭は汎用系だから僕ほどではないが、似たようなことができる万能キャラなので正直羨ましい。上級魔法だって使えるしね。
ちなみに他に出来ることは洞府を開かないと特にない。
出来たとしても神に貴重品を捧げて奉納するとか、保全機能の面積や強度の強化くらいなのだが……。
(もっとレベルあがったら違うのかな……。神様の信仰レベルなのか僕の使徒レベルが重要なのかわかなんないけど)
なお僕の職種は小神の……という前置きが付くが、使徒である。
保全機能は保全に過ぎず、精神防壁を兼ねた物理結界なんてやるだけ無駄なレベルなので期待しないで欲しい。
この職種の何が使えないかって、保全機能や洞府を開いて神様に捧げものをすることが上級魔法扱いなのだ。何度か言ってるように、僕が戦闘で役立つような上級魔法を使えないのはこのためである。
「あら早いのね」
「寝ながら起きていられる人に言われたくはないかな。不寝番お疲れ様……でいいのかな」
エルフは種族特性以前に精神的な尺度が違う。
一日中無関心で寝ているのか起きているのか分からない状態で暮らすことができるのだが、その状態でも周囲を警戒できるからズルイ。森に住む獣と同じだと言われたら返す言葉はないのだが。
とはいえ冒険する仲間としてはこれほど心強い相手はいない。
不寝番を交代制にするのは当然だが、二名一組とかやる時に一人分が既に埋まっているわけだ。感知力が高くアウトドアの経験も長いので、魔法を使ったとしてもエルフを出し抜くのは森じゃなくとも非常に難しい。
「ところで例の件、本当にやるの? 動員されてるのは徴募兵されたばかりの素人よ?」
「流石にその辺は工夫しましたよ。上手く行けば殆ど被害らしい被害を出さずに済みます。それに昨日言った事の証明にもなりますしね」
昨夜、領主に雇われて魔物退治をしていると言った。
その時に死んだり逃げた荘園主の代わりに有望な傭兵に声を掛け、費用を何とかしてるとも言ったはずだ。それが実を結ぶかは別として領主は領主で色々と工夫しているわけだ。
その一環として徴兵したこの辺りの領民たちを投入している。
ロクな訓練もせずに馬鹿なんじゃないかと思ったが、指揮権は僕らに渡して一本化しているところを見るとそこそこに頭は回るようだ。僕らが荘園主になるなら訓練も任せようとか、死んだら自己責任と言う事かもしれないけれど。
「それが剛盾の奴に任せてる作業?」
「あの人、もう取り掛かってるんだ? そうですよ。いくらノロマなアンデットとはいえ、僕らはともかく素人をまともに戦わせたくないですからね」
いま話に出てきた『剛盾』というのは昨夜のドワーフの事だ。
ドワーフは武具の名前の人が多いのだが、人間と違って絶対数が少ないので、剛家の誰それで通じるらしい。
ちなみに目の前に居る女エルフは『紅梓』で、梓の木は紅に染まったころ生まれた子という名付け方だ。やはり絶対数が少ないのと、生まれた時間を尊ぶ感じだとか。
「という事はまずは僕が指揮するって事でいいんだよね?」
「他に誰もやりたがる人はいないでしょ。荘園主になりたい人が居れば別だけど、それにしたって普通は自分の所で育ててから使おうとするわよ」
要するに積極性の問題である。
僕はこの辺の領主としてここで名前をあげておきたい。成功すれば城主に成った時に支持されるだろうし、失敗したとしても命を守る事を重視しようとした人を徴募された人は忘れないそうだ。
一山いくらの歩兵なんてそんなものだと鬼軍曹みたいな傭兵が言っていた。
「剛盾さん行動が早いね。昨日の今日で驚いたよ」
「そりゃあのう。楽し気な提案だったらお手並み拝見という所じゃが、あいつらの命を救うためつーなら動かん方がおかしいじゃろ。森に長物を持って行かせると聞いた時は正気を疑いもしたが」
画期的な提案と言うのは基本的に二種類に分けられる。
誰も気が付いてなかったというだけの話と、誰もが問題であることを気が付いてるからやらなかったけの話。
僕が提案したのはこの両方を混ぜる事だった。
森は木が生えて取り回しが悪いので長物を持ち込むなと言うのは鉄則だったが、考え方を変えることで有効性を見出したのだ。そういった新規の試みというのはあまり受け入れられないこともあるのだが、今回は生命重視ということで動いてくれたらしい。
「しかしまさか梯子を武器として使うとはのう」
「邪魔する為だから武器と呼ぶには怪しいけどね。ともあれ頑丈な梯子があるという前提だったし協力してくれて助かったよ」
剛盾さんに頼んでいたのは梯子の補強と追加だった。
下級のアンデッドだとスピードも鈍ければパワーもない。ゾンビ映画の様に凄まじい筋力を発揮するなんてことはないのだ。そんなノロマと戦って死亡者が出るのはやはり数の暴力に他ならない。傭兵や騎士はともかく徴募された兵士は弱いのでなおさらだった。
そこで僕は梯子や戸板を使って木々の間に壁を作ることにした。
木々の間に梯子で蓋をすれば問題なく動きを制限できる。戸板に取っ手を付けた臨時の大盾ならば木々が無い場所でも暫くは保つだろう。
「まあ防御に関しちゃ何とかなったと言っても良いわ。たぶん思ってるよりも人死には少ないんでしょうね。でも肝心の攻撃はどうすんのよ。時間が掛かったら何処かで誰かが死ぬわよ?」
「攻撃はさせないよ。腕っぷしに自信がある人でも梯子の間から突くくらいかな」
思った通り二人とも良い人だ。
する必要も無いのに僕の案を民兵たちの前で保証してくれている。おかげで僕が信用できる人間だと彼らも思ってくれる可能性は高い。
ならば最後までそれを貫き通すべきだし、狙うならキルマークとか格好良さではなく人死が無い事をスコアとして誇るべきだろう。コンテニューなんて都合の良い物なんかない事だし。
「はっ? それじゃあどうやってアンデッドを倒すっての?」
「僕らが攻撃担当役だよ。強い人間だけで矢面に立って地道に少数を倒していくんだ。分かり易く言うと彼らがディフェンスで僕らがオフェンスってとこかな。プチ籠城戦をやってしまおう」
絶対多数のアンデッドに囲まれると熟練の傭兵でも死ぬことがある。
ここで逆に考えて欲しい。絶対多数に囲まれさえしなければ歴戦の傭兵ならばまず負けないのだ。ならば梯子と戸板を盾にして、ひたすら同数以下の相手とだけ戦えばよいのである。
そして効果を疑っている人は、歴史ドラマの江戸時代物で盗賊改めとかが梯子を持ってるのを思い出して欲しい。訓練された兵士が多数ならば、梯子だけで腕利きの盗賊を捕縛できるのである。まあ今回はロクな訓練もされてないので有効利用は無理だろう。なんだったら幾つかの梯子は木々に括りつけて、民兵たちは補強する方が建設的だろうか?
(この世界にタンク役って概念が無いんだよね。まあ冒険者ギルドとかないしダンジョンアタックの経験とかが累積されてないんだろうけど。……でも面白いな、このアイデアは後で布教に使えるんじゃないか?)
ゲームの様に一定時間無敵になるような技こそないが、防御向きの魔法はある。
その魔法を前衛に掛けて守っている間に、攻撃特化役が敵を倒して回る……なんてアイデアがないのだ。もちろん突撃役に支援魔法を掛けたり、籠城戦で弓矢と魔法だけで攻撃することはある。しかしこの世界にシステマチックな配役はまだまだ概念が蓄積されていないのだろう。
そしてこれらが有効だという気付きは、僕が城主に成った後で有効なはずだった。仮に僕の管理する荘園に冒険者ギルドを設立したとして、傭兵ギルドよりも生存率が戦ったらどうだろう? そしてソレをうちの神様からもたらされたモのだと伝えても良い。
(生活が貧し過ぎて現世利益を教義にしようかと思ったけど、こういう知識を売るのもアリだよな。どうせ賢者や技術者は知識やコツを安売りしないんだろうし)
ちなみにうちの神様は知識神であり、コツを伝える神様である。
おばあちゃんの知恵袋的な感じだが、主神から派遣される使い神とか来訪神だと思ってくれれば良い。格好良い言い方をすると軍師とか渡来技術者の神様なのだけれど。
だからこそ、今回の気づきの様なモノを授けるというのはアリな気がしてきた。
うちの荘園に来れば美味しい料理や暖かいお風呂に入れるし、神様に祈れば様々な知識の詰まった本を読むことができるのだ。販売すると価値が下がるし、そもそもそこまで紙が安くないので実行する価値は高いだろう。
と言う訳で今日も二本分の予定です。
今回は主人公が何者なのか、どんな神様と契約して居るかの話。
●神様に関して
簡単に言うと元は軍師とか渡来人の技術者系の神様だったけど
信仰が廃れ妖怪と混同されて、そのまま消え去る流れだった神様です。
東洋なら西王母に仕える鳥神の九天玄女さまが九尾の狐・妲己と混同され、
気が付いたら忘れられて妖怪だったという感じ。
西洋ならニケとかメドゥ-サが混同されて魔物になり、そのまま忘れられつつある感じ。
ちなみに漫画的なモデルは、川惣先生の火輪に登場する九玄天女さまと
GS美神に登場するメドゥーサを足して二で割る感じ。
●職種と特殊能力
クラスは使徒。日本で言えば神社の持ち主としての神主。
RPGで言うとハズレ籤の上級職で、戦闘関連では「使えねー」扱い。
基礎能力は『保全』で、指定対象を劣化や破損から守る能力。
神社で伝えられる口伝や物品が保たれ、霊験あらたかだと結界も完備してるアレ。
他には神様に貴重品を奉納して、神様の財産・格を増やす事。
信仰心が増える方が効率よいし、格も上がり易いのだが……。
当たり前だけどゴミを奉納することはできないし、しても意味がない。
ちなみに主人公は故郷では狩人の家業だったので、保存食や毛皮を奉納していた。
余り価値はないけど安定して納める事が出来て、助言をもらえたのはそのおかげ。
「もうちょっとお酒をくれても良いんじゃないかねえ。ジャーキーだけあっても……」
イメージ的には戦略経営RPGとか、タワーデフェンス系戦略RPGとかの
主人公が町を拠点にして、色々と建築したり宣伝する能力。
レベルが上がると結界強度を上げたり、広くしたりすることも可能。
しかしそれ以上の能力では無いので、防御結界として使うと途端にエネルギーを消費する。
(個人に絞ってもATフィールドみたいな出力・防御力は無理。あくまで神社に不審者が入り難い程度)