妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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面倒な問題

 大目標に向けた新たな過程としての小目標。

あるいは目盛りの一つとしてお祭りの開催が周知された。これから住人たちはお祭りに向けて動き出すだろう。

 

そして去年からの情報が少しずつ集まって来た。

具体的に言うと対アンデッド作戦の推移と西回りの海岸情報だ。

 

「そんなに退治するペースって遅いの?」

「そりゃそうよ。魔物だってアンデッドだけじゃないし、中には大きな獣が多い場所もあるしね。それと誰も居ない中間の場所や、他の領主との線引きが難しい所じゃ人間同士で睨みあってるから、設置した壁を動かして終了って訳にはいかないの」

 西に行った紅梓がエルフの領域を通って戻って来た。

何人かはそのまま向こうに残って調査中であり、何人かは人間の領域を通って戻って来るのだとか。

 

紙での資料は後からとして、今は言葉による所感で第一報を受け取っているという訳だ。紙の資料は場合によって道中の検閲で取り上げられる可能性もあるが、言葉は奪われることはない。エルフ経由なので猶更だが、まあ偏見が入るのは仕方のない事である。

 

「頼まれていた話だけどサトウキビ……だっけ? それらしいのと果実は一応見つけたわ。植樹できるかどうかはまず近場にあるエルフの領域で試すしかないんだけど……」

「ハイハイ。温室用のガラスでしょ? 資材と引き替えに送らせてもらうよ。植物の現物でもいいけどね」

 エルフの族長も出資に納得してメンバーを派遣していた。

だから無条件に成果を持ってこいとはいえないし、情報にフィルターを掛けずに伝えてくれるならばそれはそれで重要な価値がある。

 

そして植樹に関してはエルフの技術は人間と隔絶した技術があり、場合によっては独自の魔法の可能性すらあったのでこちらも出し惜しみしている場合ではないだろう。

 

「これは前報酬としての設計図ね。そっちの職人が独自に作るだろうから、参考書にでもしてよ」

「それは助かるわ。……へえ。どうしてこうなるのかも書いてあるのね。サンキュー」

 渡した資料を即座に判断出来る辺り、エルフの方でも既に研究が進んでいるのだろう。

なお温度を保つ方法の一環として、僕が使ってる結界についても追記しておいた。当然部外秘だと添えてあるが……木や森を崇める神職を用意できるならばエルフでも可能だと説明してある。

 

どうして自分の強みを売るのかって?

そりゃ神職自体は強くない上に、彼らにはその職に就く為のツテがないからだ。こちらに頼ってくれればしめたもの、うちの神様の系列神としてエルフには『木を崇める宗教』、ドワーフには『火を崇める宗教』を組み込んでしまえばよい。彼らは神を崇める文化がないから神職がないだけで、信仰基盤が無いわけでは無いのだ。

 

「あれ? ガラスの交換レート変わってない? 前はもっと高かった気もするんだけど」

「紅梓さんがいない間に高炉モドキが作れるようになってね。一枚辺りのコストが下がったんだよ。色々試している間に、前より綺麗な透明度の高いガラスやら色が着いたのも作れるようになったから、そっちなら逆に値が上がっちゃうけどね」

 この辺の価格は変動するようにしている。

昔作ったガラスならコストは高いのだが、それほど枚数を備蓄する余裕があったわけでもない。そしてその数枚だけを理由に高額で売ると、安価になっている事に向こうが気が付いた時に腹を立てかねないからだ。

 

そして何よりエルフ族やドワーフ族との取引はお金ではなく物々交換や、専門家の派遣で行っている。後のち個人単位の商人でも現れれば別だが、今の処は種族間取引なので信用問題の方が何倍も重要である。

 

「色の付いたガラスねえ。そんなの何が嬉しいのか知らないけど、考えとくわ」

「フッフッフ。これを見てもそんなことが言えるかな?」

 僕は精一杯の虚勢を浮かべて引き出しから薄桃色のガラス製のコップを出した。

透明な方はまだ現代の水準には及ばないのと、注ぐ飲み物の方も綺麗じゃないので色の着いた方が高級感がある。それだけならば自身があるのだが……。

 

馬鹿馬鹿しい事にこの『ガラス製の器』に気が付いたのがこの間だという事だ。よく考えたら前世知識を元に、陶器の器を作り始めた時に思いついても良いくらいである。結界を把握するイメージ修業がガラスみたいだと思った事も理由だが、それらの理由ゆえに作られたのは最近で洗練度がまるで足りておらず、魅力的に映るのかが判らなかった。

 

「ふ~ん。確かに前よりマシだけど、これが売り物になるの?」

「ここはセットでこういう物を注ぐからね。……おかえりなさい、紅梓さん」

 薄桃色のガラスコップにワインを注ぐと赤身が強くなった。

これまでの色ガラスはもっと野暮ったい色あいと厚さで、中身によって変わるほどの色彩や厚みでは無かったのだ。

 

そして酒を注いで色合いの変わったコップを見て、紅梓は別人のようにハシャギ始めめた。

 

「いいじゃない! 紅色になるってのが気に入ったわ! もちろん外側も私にくれるんでしょ!?」

「……試作品で良ければどうぞ。まったくそういう所は変わってないね」

 どうしてここまで図々しくなれるのか分からないが、不思議と憎めない。

まるで近所のおばちゃんが、お土産くれるかわりにうちの食卓で食事し、あるいは田舎から送って来た果実などを持って行くかのようだ。

 

いや、この強引さはむしろ……大学の先輩が家族の送ってくれた支援物資を強奪するかのようである。アパートぐらいの連中はともかく、寮暮らしの垣根は非常に低い。行き来が簡単なのだから勝手知ったる我が家とばかりに、帰宅したら物資が開けられていたこともある。エルフ族はタトゥーを入れたり髪を染める文化があるので、ギャル系の厚かましい先輩にしか見えなかった。

 

「試作品? ここからまだ変わるの?」

「今はまだ作れたばっかりでね。もっと色鮮やかにするか、逆に淡い色合いにするか。削って模様を刻むか、それとも模様を描くか。そういう試行錯誤段階なんですよ。削ると言えば全体形状もですが」

 当然ながら実用品の第一号は双葉にプレゼントした。

一番完成度の高いのはコップではなく加工し易いサイズの装飾品で、まさしく『双葉』の形状になった緑のガラスである。第一号がブローチで、第二号が髪飾りになっていた。

 

悲しいことに二号はぶつけて壊れたてしまったが、肌に傷がつかなかったので良しとしよう。新しいのを用意しようとしたら、もっと凄いのが出来るようになってから欲しいと言われたのでお祭りに合わせて鏡でも用意するつもりだった。

 

「まあいいわ。コレは気に入ったし、長に見せればまた新しいのを手に入れようって話になるでしょ、そん時にもらうことにするから」

「程ほどの依頼を用意しときますよ」

 そうそう無料で配れないので、さすがに次はお金を取る。

とはいえ彼女は冒険者登録しているので、依頼をこなせば金になり、その金で購入するから実質的に何らかのお願いで交換するのと変わりはなかった。紅梓の方もガラスを作るのに燃料が居ると知っているので、ケチだとかなんだと言わないのはありがたい。奥さん以外の女性へのプレゼントはしたくないので助かった。

 

……もっとも、そういう意味で言うと輿入れする予定の妹君との間柄は微妙ではある。贈り物をしないわけにはいかず、輿入れした後は更に本妻として色々と格差を付けなければならないので今から胃が痛い。

 

「あ、そうだ。向こうの拠点を探してたわよね? 現地の子たちがお願い聞いてくれたら提供するって言ってたわよ」

「現地の子ってエルフ?」

 最初は微妙に面倒な話だと思っていた。

何分かなり離れた位置にある土地で、こちらの環境とは割りと違うはずだ。魔物の能力だって同じとは限らず、傭兵時代に集めたデータが役立つという訳でもない。

 

だがその意味合いはだいぶ違っていた。

 

「ううん。水棲種族」

「また面倒な」

 まず問題の種別とレベルが変わった。

侯爵領の沿岸でも他の貴族の領地なので面倒なのだが、水棲種族となると二重の意味で外地である。場合によっては他国扱いされてしまう可能性もあるだろう。

 

そして何より、水棲種族が困っている内容という時点でハードルが上がった。水の中の魔物とかそもそもどうやって倒せばよいのか分からない。振動を叩き込む漁法とか毒を撒くとかはむしろ味方に被害を与えかねないものね。

 

「あー! 違う違う。そんなんじゃないからっ。流石に水の中に行けって話じゃないわよ」

「そうなの? というかそれなら何が問題な訳?」

 僕の勘違いに対して即座に出る否定。

どういう事だろう? 全く無関係だから強く否定したのか、それとも紅梓自身も体験した誤認だからか?

 

まあどちらにせよ解説してくれると思うので、話の腰はおらずに聞いて居よう。

 

「貴族だろうが種族だろうが基本的に自分の領域ってのは自分で守るものなのよね。伯爵領はアンデッドの総数が多いから別だけど、普通は舐められたくないし他人に口出されたくないから自分で何とかするの」

「まあ判るよ。侯爵家での活動も、伯爵の寄親だから奉仕として成立した話だしね」

 荘園を持つ前に、侯爵領へ既成事実を作りにいったのだが……。

他の貴族に協力してもメリットが無い上に、恩を踏み倒される可能性もある。しかも縄張り争いでイチャモン付ける為に介入したと見られかねないとの事だ。領地の境で目印にしている岩を動かしたり木々を伐採されては困るというのだろう。

 

人間同士でそこまで気にしなくともと思うのだが貴族間だと領地と名誉と言う問題があり、異種族だと生存権に関わるから更に大きな問題になる。これまでエルフの問題やドワーフの問題が冒険者ギルドに持ち込まれていないのも、多くはその辺が原因だろう。

 

「だから侯爵家の領域を通った時も特に頼まれはしなかったわ。アンデッドの流入がない分だけ、大問題ってのも無いしね」

「それなら問題は何さ?」

 何か作って欲しい物でもあるのだろうか?

そう言いたかったが、話の腰を折ると元に戻すのが面倒なので黙っておく。込み入った事情と言うのは当人が頭の中で順番を決めている事が多く、その順番に逆らうと腹を立てる事が多い。

 

それはそれとして思った通りの事だけを話されて主語述語が足りないことも多いので、相槌を打ちながらその辺は見守っておいた。

 

「前にキラービーが大繁殖したらって過程でお願いするかを言ってたじゃない? アレの大本があっち側なのは判ってたんだけど、あっちでも問題になり始めたらしいのよね」

「あー。そういう事か」

 この話が面倒になった一つ目は、海上の何処なのか分からない事。

水の中ならば何とでもできる水棲種族も、問題なのは地上の何処にあるのは分からないのでは対処のしようがない。

 

水の中から出れない事もないが得意ではないし、水の外に出ることもあるからこそ被害にあってしまう。それでも普段は無視して水の中での生活を多めにしておけば良かったそうなのだ。

 

「暫くすると大繁殖して株分けで女王が出て行くらしいわ。その一部がエルフの領域に来ることが判ってるし、あっちで居つく島が増えるとまた問題になるってわけ」

「なるほどねえ。……ところで確認して良い?」

「なによ?」

「誰から誰に?」

 面倒の二つ目はこの案件が何処から何者に頼まれたのかだ。

その所属は曖昧であり、責任と報酬のやり取りがいまいち分からない。エルフが受けて下請けと言う事になるのか、彼女らはあくまで仲介だが、頼まれた先が冒険者たちなのかそれとも僕という荘園主なのかで異なるのだ。

 

この辺はハッキリさせておかないと、報酬でもめたり、キラービーが良く分からない動きをした時に困る。それこそ他に蜂が居らず、全滅させたら蜂蜜が採れないとか笑い話にしかならない。

 

「現地の水棲種族から冒険者ギルドにキラービーの調査、可能ならば退治って依頼なのかな? それとも僕宛て? 僕やエルフが受けて依頼するのかもしれないけど。問題が出た時の問い合わせ先とか、報酬の受け取り確定とか決めなくちゃならないし」

「あっちの子からギルドって事なんでしょうけど……受け付けは現金だけ? 面倒ねえ」

「面倒だよ。宝石とか換金可能な物があればいいけど、代替物なら僕かエルフが受けて依頼を出すことになる」

 所属を跨ぐとこういう時に面倒が起きる。

前世であったが『下請けがやりました知りません』『上だけが知って居ます。任せたので知りません』というのは困るのだ。こちらの世界でも貴族は良くそういう手段で、犯罪めいた行為を誤魔化して居るらしい。放逐した部下が勝手にやっただとか、日時の問題を出しても理由は背信行為だったのでその前から裏切っていたとか言いかねない。

 

そういう訳で、ダメな時はダメだが判る範囲では冒険者を可能な限りバックアップしたかった。

 

「場合によっては僕が現地に行く必要もあるしね。そこまで労力を掛けた報酬をもらうか、それとも調査作戦を組んだら終わりで許してもらえるかの差も確認しなきゃ」

「オオトカゲを見つけた時のアレを貸すのはダメなの?」

「キラービーは知ってるけど、僕の認識だと僕の知ってる基点になるからダメ」

 そして三つ目の面倒さがコレだ。

指南車を使えば適当な個体を追い続ければ良いのだが、それは僕が居て明確な指標を作れてこそ。あの辺で一番近い知っている場所は侯爵家になるだろうし、そこに戻る為のは針と、気一番近いキラービーくらいになってしまう。

 

それだと複数のキラービーがすれ違うと巣まで案内してもらえないし、侯爵家から遠過ぎると縮尺の問題で何処まで移動しても針が変わらないことになってしまう。

 

そういう訳で調整だけで面倒になりそうなのに、春から夏に女王が巣を株分けするとなれば急がなくてはならないという矛盾があった。これを回避するためには僕自身が移動するのが一番早いのに、荘園主がホイホイ移動するのもどうかと思う上、途中で対寄る侯爵家にあいさつしないわけにもいかないのである。

 

こうして面倒ばかりしか残らない情報が僕の元に残された。




 と言う訳で前からの件で続報が出ました。
無事に西部沿岸に到着し、砂糖も果実も見つけたぞ!
でも現地に拠点作るにしても、単純に交易するにしても問題が出たというレベル。
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