妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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水棲種族の居住地は僕の荘園から見て弓状の位置にある。
伯爵領を経由して北西にある侯爵領を越え、西海岸に到着してから南下。という弧を描いたルートが人間の領域を通るコースだ。
もう一方で、直線的に移動するのがエルフの領域を通るコースなのだが……。
「どっちも面倒なんだよね。紹介してくれた紅梓さんや、向こうが困ってる事を踏まえても断るのは論外だし。とはいえどっちを通るべきか……」
「あれ? うちを通るの?」
メリットだけを考えても単純に断る事だけはない。
最低限でも僕に考えられる案を送り、冒険者を雇って可能な範囲でキラービーの問題い対して少しずつ解決を図るという事になるだろう。
とはいえ繁殖する生物に対してそれでは対応が遅すぎるので、僕が直接現地に行って解決した方が確実ではある。その場合に重要となるのがどちらのコースを通っても問題しかない事だ。
「エルフの領域を通る場合……僕もエルフ族も紅梓さんの顔を立てて会議、通行許可を得るかどうかというのが筋ではある。でもこれは遅過ぎるし、僕が利益を得るために何かの譲歩をするか、エルフが利益を得る事にして僕が協力するかというのを決め打ちしなきゃいけない」
「まあそうよね。何の利益があるのか知らないけど」
まず難しいのがエルフが利益を得る事にする場合。
その場合は水棲種族からエルフ族に大きな譲歩をして、その利益のために僕に解決を頼む事になる。これでは僕にどんな利益があるか分からないし、水棲種族もまた大きな譲歩を迫られる訳だ。
カードゲームに例えると……互いの手札の勝ちが違うので、低い手札と高い手札を交換できることがある。しかしエルフと水棲種族では、価値観が近いので損益が合わないのである。
「そういう訳でエルフが僕に頼むほどの利益を水棲種族が払うとは思えないんだ。なのでエルフ族の領域を通りたいなら、僕が大幅な譲歩をしなくちゃいけない。温室やその設計書に載せてる『木を崇める神職』とかの教授以外でね」
「まあそうなるわけよね。今の処、別に困ってないもの」
これまでの付き合い上、エルフの族長や元老たちは政治手腕が高いと判っている。
長生きから来る知恵を上手く使っているからだが、おそらく大きな譲歩を払えば許可はくれるだろう。何しろキラー……あれ最初はジャイアント・ビーだったよね……話がすり替わってるぞ……マズイ、難易度が上がってるんだ。
ともあれキラービーの大本を絶てるなら、譲歩次第で許可を出そうという前向きな話になるだろう。この場合は『絶対にノー!』という所を譲歩で認めるまで下げたので、これがエルフの譲歩だと言って来るに違いない。それに、エルフばかりに譲歩しているとドワーフとのバランスも崩れるので面倒しか出ないのである。
「その場合は根拠地だけじゃなくて、もっと大きなナニカを僕が貰わなきゃ割りに合わない。でも、それはそれで色々と困るんだよね対外的にもさ」
「と言う訳で、侯爵領経由で決定ね。がんばって~♪」
建物を建てる土地だけならともかく、島一つを領地というのは論外だ。
現時点で手が足りないのに、外国扱いかもしれない水棲種族と契約するとか問題になる。仮に国内扱いでも、侯爵さんとか伯爵相手の問題が出ると苦労ばかりが増える事になる。
だからといって換金価値のある宝石を山ほど貰って嬉しいかと言うとそうでもない。これから水棲種族と交易するのに、彼らの貨幣的な物が大幅に減るので交易が成り立たない可能性が出てくるのだ。彼らが使ってない資源でも都合よくあれば別だろうけれど。
「問題は時間が掛かる上に何で僕が行くのかという説明が必要なのと、その問題解消なんだよね」
「川を通るのはダメなの?」
「バレなければね。見つかったらエルフにも侯爵家にも喧嘩を売ることになるのでダメです」
川は境界線なので、どっちも刺激することになる。
どっちでもない場所になってると危険だし、川の通行権も含めて税が掛かる場合がある。支払う気が合っても気づかれなかったら無視する気だろうと言われたら面倒なので、この手段は取りたくない。
この世界の船は魔法で風を起こして帆に当て動くという、モーターボート並の性能らしいので速度の面で惜しいと言えば惜しかった。もし使うとしても侯爵さんやエルフと話を付けてから、高速連絡船として使うくらいだろう。
「いつの間にはジャイアントビーがキラービー騒ぎになってるし、ソレの初期予防を言い訳にすれば侯爵さんはなんとかなるかな。それはそれで贈り物は必要だろうけど」
「あ、バレた? あはは今年は狂暴らしくてね」
自分で対処するつもりのエルフがこんな言い訳するくらいである。
おそらくは怪我しても僕の自己責任ということで通してくれるだろう。『道中で魔物が居たらヨロシク!』位の事は言うだろうが、そこは冒険者ギルドとして何をやるかという説明の場に使えば良いので問題は無い。
タダで働かされるとしても、後に冒険者ギルドのメンバーが通行するときに、何をしたら問題になるのか問題にならないのかを話し合う良いキッカケになるだろう。
「侯爵家への伯爵家が行う奉仕を僕が担当するけど、それは僕の都合でもあるから伯爵家では僕の功績はカウントしないってとこかな? その辺を差し引きすると……あとは贈り物を何にするかか……面倒極まりないなあ」
おそらく二か月くらいほっとけば、方々で問題が起きて向こうから頼み込んで来る。
早期発見と対策を促すレポートだけで済み、向こうの要請なのだから何かを貰うのはこちらになるのだ。しかしそれでは侯爵家や伯爵家からの、むしろ要らない紐付き報酬が増えるし完全解決まで動かされ続けるだろう。
その場合は水棲種族からの報酬が目減りすると思われる上、僕の都合で動けなくなるので却下。結果的に贈り物を抱えて伯爵家や侯爵家に話を通すことになるだろう。
「このガラスじゃ駄目なの?」
「まだまだ試作品だからね。初期段階のだと都で造った一級品の方が優れているのは当然だし、ハッキリと判るほどまだ差は無いんだ。それに……意図して区別を付けられるような品はまだ贈りたくない」
文化には積み重ねと言うモノがある。
これまでの流れで培われた一級品の文物は、『眼鏡に叶う』という意味で上流階級御用達なのだ。ポっと出の新製品では太刀打ちできないだろう。
そして姿見や鏡台のような……見ただけで差が判るような品と言うのは、要するに婚礼用の品くらいである。双葉に贈る方を優先したいし、今の時機から無理して渡すとこちらの方が結婚を望んでいるという事になってしまうではないか。
(手に入れたばかりの貝殻を使って漆を塗り、螺鈿の蒔絵でもでっちあげる? いや……それはこれからの流行りで向こうに要望させたい。ということは今あるモノか)
現在手に入れた物だけでも、螺鈿とかは一応完成させることはできる。
だが漆塗りとか柿渋を塗る木材染色技術はエルフの装飾に及ばないし、ドワーフに彫刻してもらうにしたって限界はある。金粉を使って装飾する技術もちょっとずつレベルを上げている所だ。
所詮は経験のある素人を、エルフやドワーフ達の徒弟代わりに付けて無理やり職人に仕立てているだけに過ぎない。うちの荘園で造れる確固とした特産品にはまだまだ遠かった。そして『螺鈿の蒔絵』がエルフ・ドワーフ・水棲種族たちの協力なしには作れない……と認識してもらう方が商品保護の立場からしても有利だろう。
「仕方ない伯爵家には予定していた刀を一揃えとして……。侯爵家には軽装鎧でも用意するか」
「ん? 同じ物でいいんじゃない?」
「それじゃあ珍しさもないし、比較が出来ちゃうからね」
伯爵家には日本刀・脇差・懐刀の三本セットを贈る。
前々から予定していたので準備が不要だし、美術品としての意味合いを前面に出しているのがありがたい。侯爵家に同じ物を贈らないのは、伯爵から失礼がないかという『理由』で見せてくれと言われたら困るからだ。
侯爵家に送るのだから当然差を付けないといけないが、明確極まりない差をつけてしまうと伯爵家には劣る物を用意することになってしまう。これが財宝ならば単純に量の差で良いのだが、美術品となるとそうもいかない。個別に送るならまだしも、同じ物を目の前で見せたらスネられる可能性はあった。侯爵に送った物を寄こせと言うと問題だから、伯爵が文句を言えないので余計だろう。
「だったら鎧でも同じことなんじゃない?」
「紅家の三男坊の事を兄弟弟子に聞いたことにでもするよ。それなら角が立たないから」
こういう時に重要なのは話題性である。
タイムリーな贈り物と言うのは、普通の贈り物より喜ばれる。その家の事を判っていると判断されるし、侯爵さんが三男を可愛がっているなら猶更だろう。
そしてそんな話を聞かされた時、伯爵家で欲しいとは言えまい。それにどうしても同じ品を欲しいだけならば、同じ物を作ってくれと要望すればよいだけの事なのだ。格付けを行ったわけでは無いので『侯爵家に贈ったものと同じ物が欲しい』と要求しても、侯爵を羨んでいるわけではないという事になる。
「贈り物をその辺にすれば問題は無く成るけど……今年は鉄製の農具を増やしたかったなあ」
「仕方ないでしょ。資源を譲ったのはあんたなんだし」
僕は開拓権を譲ったので、資源はエルフとドワーフにある。
木材だけならば隣村の新荘園でも用意できるが、鉄鉱石はそうもいかないので一カ月ごとに使える最大量が決まっているのだ。
軽装鎧を仕立ててしまうと、どうしても今月から来月に掛けての予定に穴が空いてしまうのであった。ドワーフがこちらに何か要望があれば別だが、今の処は何も無いので開墾に向けた新農具を揃えられないのが何とも残念であった。
と言う訳で、今回は通行権と贈り物の話だけで終わりました。
中世なので通行権自体が重要だという会ですね。
冒険者の移動も放っておけば問題になるでしょうし、荘園主が移動すれば猶更。
「お前何やってんだ!?」と言う事になりますし、あんまり無茶すると
「銀殿は貴族の何たるかも知らない様子。当家から代官を出しましょう」とか
伯爵家から目付が来て、いない間に好き勝手されるので問題だったりします。
(主従契約の他、婚約話があるので平然と実行できたりするのも問題)
最期に素材が無くて色々できないのは、第一話でやったことの継承ですね。
領地発展しました! 良い事は何でもやります! じゃあ都合良すぎますから。