妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

35 / 118
アポイントメント

 やることは決まったので、自分ではできない事の時間調整を行う。

伯爵家と侯爵家にお伺いの手紙を書いて、大通連に尋ねつつ剛盾ともすり合わせをしておく予定だ。

 

せっかく鎧を贈るならば喜ばれる物にしたいし、それはそれとして奇抜な物もできるだけ避けるべきだ。説明書をちゃんと読めば甲冑をバラして捨拾選択出来るくらいが妥当だろうか?

 

「紅家の三男坊ってどんな人? 槍の名手としか知らないけど、大通連みたいに使い分けたりはしないのかな」

 まず本人のバトルスタイルを確認。

好きで槍にこだわっているのか、槍を中心に据えているのかで随分と違う。また走り込んで槍の長さで機先を制するタイプか、どっしり構えて槍で制圧するタイプなのかでも違う。

 

これらの差に合わせて鎧の機構を考え、走るタイプなら動き易く、制圧型なら攻防一体と言う感じだ。

 

「紅包の奴か? 色々できるし普通に殴ってもくるぜ。ただ、お師匠さんから受け継いだ槍が魔法の品なのと、あいつ自身の加護が余計な事をしねえ方が強えんだよな」

「へー『使える』加護持ちか。それは考えるなあ」

 大通連からも紅家の三男坊こと、紅包の詳細を尋ねる。

既に魔法の品というのは聞いていたが、加護が有用だというのは初めて聞いた。この世界の加護は地味に強いモノから、用途限定で特殊なモノまで様々だ。

 

いずれも平均すれば同じ程度の有用性なのだが……。

一定分野に従事する者たちの中で、自らが就く職業にマッチした特殊能力と言うのは中々存在しないのだ。この分だとかなり有用な組み合わせなのだろう。

 

「あいつの性格は名前と違って尖ってるんだがよ、加護も似たようなもんだ。陽炎の軌跡を残して攻撃すると、陽炎も本身も両方受け止めねえと守った事にならねえんだよ。まあ両方当たっても一撃は一撃だけどな」

「残像で攻撃できるの? 格差を感じるなあ」

 陽炎と言う表現が良く分からないが……。

おそらくは魔力を消費すると残像が残り易くなるのだろう。槍が当て易く威力の高い武器……それも魔法の品であることを考えると、その一撃は全てがワンランク高レベルだと言い換えても良かった。

 

確かにそんな能力があるのであれば、槍一本に絞った方が無難だろう。

余計な事をして様々な武器に切り替えなくとも、目線や動きで誤魔化す必要自体がないのだ。ただ腕前を上げて相手の急所を狙い、威力を高めればそれで済む。

 

「殴る蹴る方に印象があるって事は、あくまで動いてる自分だけなのかな? 投げた物もダメ、絡め手で動きを止めてもダメ」

「良く分かったなあ! そいつを一発で見抜いたのはお師匠たちくらいだぜ」

 ゲーム脳で考えると良く分かる。

ついでに言うと長所も短所もおおよそだが推測できた。要するに何もしなくても攻撃がフェイントになり、ただの技が奥義になる。物凄く当て易くなるが、それ以上でもそれ以下でもない能力である。

 

蛇腹剣の改良型を用意し、軽く保全能力を使用。刀身の光景のみを保全して軽く動かした。そして途中で機構を展開し、多節鞭状にしてくるくるしてみる。

 

「要するにこういう感じで、これは姿だけだけど相手は両方防御できないとダメ。ただ残せるのは手にした武器だけで、こういう感じで伸ばす武器なら大丈夫だけど……持ち替えても威力が上がるわけじゃない。だから名槍の腕を磨いている」

「スゲーな大将! あいつのやった説明まんまだぞ!!」

「そりゃどうも」

 物凄い能力だが、適用されるレベル帯が異様に狭い。

雑魚にはそんなことをせずとも当たるし、自分より強い相手に使っても全部防御されたら終わりだ。有用なのは自分と同じレベル帯からちょっと上までだろうか?

 

それも避けられないと割り切って、急所だけ守りながら受けが無しに徹されるとどうしようもない。注意力の散漫する戦場で戦えば無双できるが、高レベル同士が戦う決闘なら少し怪しくなって来ると言えるだろう。

 

「性格も当てて見せようか? 最初は自分が無敵だと増長してたけど、お師匠さんに痛い目を合わされてからは変わった。能力を理解した大通連たちが工夫し始めてからは努力の量も目に見えて変わった……とか?」

「良く分かるなあ。訂正するところなんざねえよ」

 おおむね高機動キャラを扱うゲーマーが味わった悲哀である。

扱い易いし強いのだが、足を止めて戦う防御系には全く手が出ない。せめて急所を狙った攻撃も絶対命中になるとか、威力を底上げする魔法などが欲しい所である。

 

そしてこれは専門の鎧を作るにあたってとても難しい事になったと言えるのだ。

 

「欲しいのは威力……か。だから片手で振り回すことはあっても、両手持ちが前提。できれば走り込んでのチャージもやりたい。足を止めての打撃戦はやる時点で不利な相手前提になるよね」

「ビヤ樽呼んで来るか?」

「剛盾さんと呼んであげてね。確かにそういう体形してるけどさ」

 僕がメモを取り始めたので大通連が気を利かせた。

いつもこれだけ空気が読めるなら良いが、大抵は気にしないのが困り物である。

 

それはそれとしてゲーマー魂が蘇ると、こういう時の能力考察と装備比較はたまらないものがあった。とりあえず筆も止まらないので、メモ帳代わりに木の板へ書きなぐりながら進めていく。

 

「なんぞ仕様は決まったかいのう」

「まず形から入るけど、容れ物はガラス張りの長櫃に布を敷いて上には紅の幕。幕の代わりにマントでもいいけど、逆の配色は絶対にダメだから注意してね。その上で軽装鎧を着てもらう事を前面に出して、全身部分は予備として内包する」

「あー紅が包むって意味か。まんまだな」

 紅家の三男坊、紅包の為に用意した鎧。

同門である大通連に話を聞いて、面白いから用意したという触れ込みだ。これならば他人である僕が紅というイメージの布を用意しても咎められることはなく、伯爵が欲しいと思っても奪われることもない。紅が包むで名前をそのままイメージしているのは大通連の言葉通りである。

 

そしてサンプルである軽装鎧のパーツ群に目を向けた。

 

「左右対称に見えるけど、機能面で分けるよ。左籠手はソードストッパー、右籠手は尖拳として武器と防具を兼ねる。全体構造は獣か何かにしようと思うけど……紅家の御料地ってどんな所? 何か面白い獣居る?」

「紅来川は砕けた紅玉が上流から転がって来たつー浅い河で、どっちかってーと鮭だな」

 何というか武門という感じではなく、経営者だろうか?

ゴールドラッシュならぬルビーラッシュで有名な川と山があり、彼らに色々な物を供給したとか? なんかイメージ的に貴族と言うよりは商人ぽいので思考が止まってしまった。単純に火山でもあるのかもしれないけどね。

 

しかし微妙にイメージが一致しない来歴は良いのだが、鮭をモチーフにすると戦闘スタイルとかどうなのだろう?

 

「飛び跳ねたり走ってからのチャージを使う感じのイメージかな? やっぱり軽装鎧だね。足はその辺の保護とか、飛び跳ねるのに邪魔をしない造りで。飾りはあっても良いけど、外せるほうが親切だと思う」

「まあええじゃろ。尖拳は膝にも入れてええか?」

「どうぞ。……じゃあ四肢全部に入れて、右手は手刀で左手はソードストッパーってとこかな。後は兜も額当て以外を外せる感じにしようか」

 絵を描きながら微妙に修正する。

四肢に尖った形状を付け足し、籠手にはストレートな三角形とギザギザの三角形を入れる。そして脇や腿の可動域は大胆に採り、スカートアーマーやショルダーアーマーをいったん大きくしてから、邪魔なら外せるようにしておく。

 

そして頭に関しては良くある兜、額当て、そして仮面の三つに分割可能な様にして置いた。仮面は胸元に留め具と紐を、兜は逆に首の後ろに入れておく。せっかくなので鮭を模した兜の目には安物ながらルビーを入れて、仮面の方の目には紅色のサングラスでも入れておこう。

 

「こんな感じで最初は戦場で使う全身鎧で、頭の分だけ鮭を模した甲冑。でも重要な部分は取り外して軽装鎧に出来るのと、コレだけを固めたら鮭のイメージにする。伊達と酔狂でこんな構造だと思えば美術品だし、そういう理由で鎧を持ち込めるって感じだね」

「槍を通すと焼き魚のようじゃがの」

「良い感じじゃね? 俺にもくれよ!」

「鉄がない! 先に言っとくけど農具に使う鉄を回してるから! 持って来てもダメだよ!」

 そんな感じでまとめつつ、魔法の付与を行う機会があれば再設計するとメモへ。

今は説明書に載せる文章でしかないが、付与魔術師が居れば攻撃増強をメインに脚力増強も行いたいところである。コンセプトとしては軽戦士用の強化鎧であり、戦場を制する場合は全身鎧用のパーツに頼るべきだろう。

 

もっとも付与魔術の研究もしてないから平然と言えるわけで、制作時から同時付与する必要があったり、パーツごとに強化出来ない場合もあるだろう。その点においては未熟ゆえ仕方ないけど、鎧の製造技術を持っているがゆえに将来的に置き換える事ができると言い切れるのは幸いだった。

 

「伯爵家には三本セットを持って行く予定だから、鎧の方は後から持って追いかけてくれる? 長櫃用のガラスはあったよね?」

「色ガラスで無くても良いなら温室用のがある。飾り立てれば問題ないじゃろ」

 サンプルのパーツの中から近い物を選び、剛盾と相談しながら詳細を詰める。

ここにある獣型ではなく鮭の形状なので微妙に違う物になるだろうが、イメージとしては十分だ。胸甲・腰甲を中心に四肢のパーツを並べ、頭部のパーツでそれを締める。

 

箱の設計も同時にこなしつつ、できればこっちにも魔法をかけて、開けると鎧が飛んで来ればよいのにな……と他愛ない冗談を交わし合った。




 今回はネタですが、軽装鎧を設計する回です。
伯爵家・侯爵家にアポイント取っても面会できるとは限らず、
会えるとしても時間が掛かりますので、当て推量で先行移動。
その時間を使って鎧を作ってくれるようにお願いしたという感じですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。