妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

36 / 118
蜂対策にもタワーディフェンスを!

 手紙が届いたころを見計らい伯爵領のあるエリアへ移動開始。

問題があれば途中の何処かで静止の使者でも来るだろうという見積だ。体面を整える為に形ばかりは整えた馬車で移動している。

 

水棲種族の依頼を片付けるために、伯爵領を通る許可を得る事と、改めての御挨拶としてちょっとした贈り物を携える程度である。おべっかを伺う為ではないので荷物はそうたくさん用意しなかった。

 

「もう大丈夫だからさ、置いとけば?」

「う~。あいつが近くにいるかもしれない間は信用なんない!」

 そんな中で双葉は大切そうに鋳型を抱えている

それというのも何処かの馬鹿が、鋳溶かして鎧の材料にしようとしたからである。

 

銅を材料にしても鉄鋼にはならないと制止されなかったら、危うく形状がなくなっていた所だ。ちなみにその馬鹿は暫く帰って来るなと追い出されたが、どこかでまた馬鹿やってこっち迷惑を掛けないか心配である。

 

「じゃあさ、また後で人形焼きでも作るから貸してよ」

「大判焼きがいい。餡をたっぷり入れてね」

「はいはい」

 双葉はこの調理器具がお気に入り……というか甘い物に目が無いため激オコ。

片時も離さずに抱きしめているが、流石にそろそろ大丈夫だろう。狙撃でもされるなら役立つかもしれないが、その時は大人しく盾にでも隠れて欲しいところだ。

 

とはいえ本来は調理器具、食べ物を作る事こそ本堂だろう。こんな所まで持って来てしまったが、せっかくなのでお菓子を作るとしよう。

 

「……そういえば双葉の魔法ってまとめて眠らせれたっけ?」

「無理」

 どうせ移動中は何もすることが無いので、作戦を考えてみる。

まず魔法には様々な効果と強度があるのだが、便利な様で不便な物も多い。双葉の使える火系の魔法は対象を非活性化させて眠らせる物だ。

 

明確な対象指定なので集団には使えないし、他にも欠点があったはずだ。そういった欠点があるからこそ、低レベルにしては強度の高い魔法なので相手次第では有効な魔法なのだが。

 

「じゃあ目印を付けるために近くに寄って来たらかな? 最悪、この馬車の中なら外が見えるし」

「そだね。乗り心地は良くないけどそこはいいかも」

 この世界の技術レベルの馬車は微妙である。

荷馬車とレベルがあまり変わらず、座っているとお尻が痛い。天蓋があって壁があるのでしっかりした素材で作れば壁に出来るくらいだ。

 

それはそれとしてこの馬車には窓ガラスと格子を付けているので、矢狭間ならぬ魔狭間として使えた。沿岸のキラービーならそれで済むだろう。

 

「一番近い蜂じゃあ探しにくいからね。……まあ死角から急接近して来る奴を見つけるには便利なんだけど」

 僕の能力に限らず魔法は使い様である。

双葉の使える眠りの魔法は低レベルだが、僕らが忙しくしていた時でも双葉が頑張って覚えられるというシンプルさ、そしてかなりの確率で眠る強度があるので扱い易い。これが闇魔法の眠りだと範囲を巻き込めるのだが、眠らせる強度が低いので……おそらく落ちた瞬間に痛みで起きる筈だ。

 

どの系統の魔法にもそんな感じで強みと弱みがあり、上手く使いこなせば有利だが場当たり的に使っても対して強くもなかった。まあ使えるだけで便利なのは、上級魔法だから仕方がないのだが。

 

「そーいえばどうやって倒すつもりなの? 多い時は滅茶滅茶多いけど。そういう時はちょっとくらいの突風を吹かせてもダメなんだから」

「エルフに言う話じゃないけど、昆虫系には生態があるんだよ」

 一体、二体とかいう数なら水棲種族が困っているはずはない。

基本的に海の中に居るのだし、陸上に上がるのは短期間の筈だ。此処で問題になるのは二つの要因である。

 

一つ目はいう間でもなく、地上が得意ではないので集団相手に苦労する事。そして二つ目は長期間敵を追えないので、巣を探せない事である。

 

「虫は寒くなると眠り、暖かくなると動き出す。そして夏以上の温度に成ったら死ぬ。後は空気の取り方が少し違ってことかな」

「ふーん。空気ねえ」

 温度変化に関してはエルフの紅梓が無関心なのは当然だろう。

その程度のことは日頃の生活から察しているだろうし、広域の温度を変化させる魔法なんか無いので、それが切り札にならないのは簡単に判る。

 

だからここで決め手になるのは、空気の取り方の方だ。本当はアルコールの方が良いのだが、蒸留法なんか知らないし意味があるのは工業用アルコールの生成だろうから諦めて置く。

 

「基本的に人間を含めた人族は口と鼻から呼吸する。魚は口じゃなくて、喉の脇にあるエラから、水棲種族は……どっちなのか両方なのか分からないけど。で、虫は脇腹なんだよ」

「お腹ぁ?」

 紅梓が細い体の肋骨の辺りを抑えながら首を傾げる。

丁度虫はその辺りに幾つかの穴があり、そこから空気を吸っているのだ。小さな口ではとても全身を賄い切れるだけの空気は吸い込めない。

 

とても効率的な体をしている虫であるが、効率的であるがゆえにちょっとした機能不全で死んでしまうのが虫というものである。

 

「虫は脇腹から腰に掛けて幾つかの穴があって、全部塞がれると死ぬ。そこまでいかなくとも数個塞がれたら今まで通りには動けない。巨大な蜂は巨大であるがゆえに不自然だから猶更だろうね」

 効率的な体に新鮮な空気を通して活力を得る。

基礎的には強靭な昆虫だからこそ、それだけで爆発な体力を出せる訳である。何割か減れば元の動きは出来ないし、大型ならば問題ないというのは単純に、体が大きいから塞ぎにくいというだけの話だ。

 

だが体が大きければそれだけに、一つや二つの穴が無事なだけでは済まないはず。

 

「本当かはともかくとして言いたいことは判ったわ。でも、どうやって塞ぐの? 沢山だから問題って話よ?」

「まず蜂は臭いで餌の位置と、敵対者の反応を教え合う。だからルートは推測できる」

 少数だからと無闇に倒してはいけない。

倒して良いのは各個撃破すると決めた時だろう。もちろん襲い掛かって来たらどうしようもないのだが。

 

だが上手くやってくる方向を絞れたら、そのルートに仕掛けを施すなり、待ち構えて一気に罠やら魔法を使用すればよいのである。

 

「石鹸水を散布するんだ。もちろん普通の手段じゃないけどね。敵の数が多い場合は、気流操作や水流操作を使う事になると思う」

「あー。なんとなく判ってきた。夏のアレね」

 気流操作と言うのは文字通り、風を操作する魔法である。

こちらは言うまでもない風の魔法で、イメージ通り風の吹く方向を決められる。微妙なのが水流操作で、遅い速度でしか動かせないので本来は微妙な魔法だ。

 

しかしこの二つの魔法を同時並行すると、びゅーっと水分を散布して夏場は涼しいのである。魔力の浪費なので傭兵としての仕事中には滅多にやらないが、拠点に戻ったりすると良くやった物である。

 

「夏場でアレやった時に、石鹸水を混ぜると泡がシャボンになって飛んでたでしょ? つまり石鹸の成分は飛ばせるんだよ。後はそのエリアを保全して終わり。蜂の集団は徐々に動けなくなるよ」

 昆虫に大量の水を掛けても水死しない理由は、脂である。

体にある脂で水の成分を排除するのだが、獣の毛皮にある油よりもその性質が強いのだ。そして水と油が交じり合わないという性質は、石鹸によって成立しなくなる。

 

よって石鹸水の成分をまき散らし、その空間が霧散化しないように保全すれば蜂を殲滅するフィールドの出来上がりであった。

 

(なんだか十絶陣みたいで格好良いな……問題はそこまで石鹸を用意できるかなんだけど)

 さて、ここに至るまでの理論はご理解いただけただろうか?

真面目な話をすると、理屈だからといって試しても無い方法に頼る気はない。だいたいが異世界な上に、成立するとしても大量の石鹸水が必要なのである。不経済なことこの上ない。

 

だからあくまでこの方法は凄まじい数の蜂が居たらの話であり、八が七割で空が三割みたいな絶望的な状況でしか試す気はなかった。

 

「とはいえ資源は惜しいし、石鹸水をばらまくと蜂蜜も採れないしね。滅茶滅茶居たら石鹸水を使うけど、基本は地道に探して倒すよ」

「それを聞いて安心したわ。シャボンは綺麗だけど無駄遣いは嫌いよ」

「はちみつ、大事!」

 ひとまず大量にいた場合の質問をされたので、その方法を口にしただけだ。

侯爵領ならば石鹸水の材料は簡単に手に入るとしても、資源を浪費する気はない。万が一環境汚染になってしまったら水棲生物にも顔向けできないだろう。

 

じゃあどうやって倒すのか、さっきの話は何の意味があったかと言うと……。

 

「重要なのは蜂は臭いで集まって来るって事かな。実は蜂って目が近くの速さに特化してるから、実は遠くが良く見えないんだよ。臭いを遮断して待ち構えるか、帰り道を遮断して倒そうかと思ってる」

 僕は強い方じゃないし、ゲーマーとしても強くはなかった。

だから戦略系でもタワーディフェンスの方が好きだったし、『僕らの城を作ろう!』なんて考えも出てくるわけだ。

 

そして臭いに釣られる性質があるというならば、そのペースを制御できるという事だ。風の少ない日に臭いを遮断するか、海風の強い場所ならば洞窟なり建物に引き込めばいい。

 

「確認だけするけど、気流制御って吹てる風を弱くするのってで来たっけ?」

「出来る訳ないでしょ。ぶつけて相殺っていうならそうでもないでしょうけど」

「なら地道に引き込むしかないね」

 やはりここでも工業アルコールが無い事が残念だ。

酒ではないアルコールは臭い消しに使えるので、実は道に撒くだけでも蜂や蟻の侵入がされ難くなる。前世でも古い家屋で蟻が入ってきて困るという人は、逆行しながら除菌用アルコールを吹いていくと何とかなったという。

 

ともあれ今の段階ではどうしようもない。

剛盾に何か作ってもらうとしても、石鹸水を噴霧する為の圧縮容器が精々だろう。もしかしたらドワーフの秘密で工業アルコールを生成できたりするかもしれないが、交換するような物は何も無いので無い物ねだりは止めておこう。




 と言う訳で蜂対策とか言いながら、ここでも籠城案です。
なろう系では無いので、都合よく工業アルコールとか石鹸水とか噴射できませんから。
それにこの話の主題は『城』を使った防御と、神職として持ってる能力一つですからね。

●蟻の侵入
 もし古い家であちこちに穴があって、甘い物を置いておくといつの間にか!
とか、お隣で工事してて、露頭に迷った蟻が侵入して来る! と言う場合は
コロナ対策用で飼ってると思われる、除菌アルコールが効きます。
退治するというよりも、「ここに餌があるぜ!」というフェロモンを遮断する為ですね。
ちなみにお酒でやると、逆に寄って来るし、ダニとかノミを回収する装置になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。