妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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ちょっとした災難

 緋雁原を目指す中で幾つか誤算があった。

前々からのアポイントメントでは無かったので面会が無視される可能性はあったが……、まさか手前で留め置かれるとは思わなかった。

 

これが重臣たちの行う嫌味ならば何とか回避する方法はあるのだが、長男である悌さまのご厚意とあってはどうしようもできない。

 

「偉い方が下の者を迎えるとか大丈夫なんですか?」

「銀殿は既に南部の英雄だから問題ないでしょう。それに御当主様自らではありませんし、何かあったら狩りの途中で偶々ここで出逢ったことにするまでの話です」

 一連の開設に、悌さまの近侍である七司が説明に訪れていた。

スケジュール調整やら家内での言い訳とかの問題で、彼が先行して狩場の調査。悌さま派の何人かに声を掛けてこちらに来るらしい。

 

そこまでするなら無理に出迎えなくても良いとか、緋家の城へ着いた時に形式的に顔を合わせれば良いのにと思う。

 

「実は悌さまの方でもゆっくり話し合いたいと仰せられておいででしてね。西回りの話も合わせて、早く行きたかろうということで緋家での滞在期間を延ばすよりはこちらで対面した方が早いだろうというのが主体です」

「あー。それはどうもご配慮をいただきまして……」

 察したらしい七司が補足するが、何とも言い難い状況である。

通行と侯爵家に奉仕をする許可を取りに伺うのはこちらの都合なので、緋家にとっては『良きにはからえ』程度の案件である。授与式などの大事にさえしなければ、書類一枚でも済む話だ。

 

しかし元から大仰な話になって居た場合、予定よりも早く来てしまったことになる。準備が出来てないのでバタバタする上、僕の礼法がなってないみたいな話から始まって、面会スケジュールとかぶちこわしだろう。

 

「つまり、その。大仰な話になる前に、悌様に気を聞かせて頂いたのですね。申し訳ありません」

「……他にも問題はあったが、まあ概ねその通りでしょう」

 なんだか言い難そうな反応だったが、おおむね間違いはないらしい。

幾つかある選択肢の中で、どれも一長一短な状況だった。そんな状況で悌さまが『あれ、これってオレが出向けば一発なんじゃね?』と思い立ったのだろう。

 

そこに問題はあるが、今回の急な訪問で生じる幾つかの問題を同時に解決出来るのは確かだ。悌さま派は成功の累積による発言権の強化もあって推し進め、最も数が多いであろう中立派がどっち付かずの反応をしたために押し切られたらしい。

 

「しかし武門の人たちは反対しなかったんですか?」

「あの連中は銀殿の功績を認めてとっくに見方を変えていますよ。まあご老公方は若輩の為に動く必要なしと反対されておられますが。……しかし主体ではなく余禄としての理由が、まさに武門の連中にあるのです」

「え?」

 何かにつけて丁寧な七司の言葉が荒い。

どうみても反感と言うよりは、何か腹を立てる問題があってプンスカしている状態だ。僕も見覚えのある態度だけに嫌な予感しかしなかった。

 

というか最近ほっぽり出してた奴は今ごろどこにいるんだろうなあ?

 

「武門の?」

「ええ。ヌシを倒す時に二広殿が独断で出向き、返り討ちに合ってしまいました。そのせいでご迷惑をかけ、あまつさえ功績を奪ってしまった格好。これを詫びる良い機会だと、……大通連殿が。話を聞いた悌さまもたいそう乗り気でおられます」

「あ、あ、あの馬鹿!? またか!」

 僕も七司も同時に頭を抱えた。

無謀な攻撃でヌシ周辺の場を荒らした豪傑は武門に所属していた。そして彼の出撃を周囲は功績であるかのように語り、僕に名誉が集中しないようにしてしまったのだ。これを是正するために大通連は『活躍したつもり』なのだろう。

 

そういうのはお互いの間でやり取りして、こっそり『悪かったな』と声を掛けるとか、僕の方に問題が出た時にフォローするだけで良かったのだ。それが表沙汰にしたら向こうにとっては不名誉だし、武門に所属するメンバーだって良い気はしないだろう。何だったら文官連中に嫌味を言われるまであった。

 

「そういえば何でもたいそうな贈り物を用意されたとか? 最初は紅家の三男坊にも声を掛けようとしたとか。ですが安心してください、みなで必死に止めましたので」

「……格別のご配慮、痛みります」

 僕はこれ以上ないくらいに頭を下げた。

主家を家臣の客将に過ぎない男が動かすとか論外である。しかし今回は話を通せる筋道があり、やるべきことではないのにやってしまう行動力の持ち主が居た。

 

大通連は今回の問題を起こした二広という豪傑と兄弟弟子であり、同門には紅家の三男坊こと紅包も居るのだ。『ちょっくら行ってくる』とこちらに言えば、絶対に止めたであろう暴挙なのだが、あの馬鹿が思い立ったのであればやれてしまう筋道が立つのだ。

 

「ともあれこうなっては仕方ありませんね。何処で落ち合いましょうか? 適当な狩場でもあれば良いのですが……それとも魔物に潰された何処の荘園を解放に?」

「そこまでやっては配慮のし過ぎかと。ここは素直に狩場で良いでしょう」

 悌さまがやってくる場所を整えようとしたが、やはりやり過ぎはダメらしい。

となるとその辺の森で獲物を狩って、適当に調理してしまうのが良いだろうか? まさかこんな展開になるとは思っていなかったので、調理器具なんてあんまりないのである。

 

となると最低限の調理と材料の調達で出来る何かを用意しておくのが良いだろう。

 

「紅梓さん。この辺にある樹の中で、香りのよい葉っぱとか探してこれますか? できれば大き目のを何枚か」

「んー? そりゃ難しくはないけど……あ、アレね?」

「あれあれ! 旅してた時以来だから、すっごい久しぶりだね」

 簡単な調理器具で簡単に作れる物。

それでいて偉い人を持て成すのに相応しい料理と言うのは限られる。刃物と火があり、他には水やら木の実に雑穀というところか?

 

後はあればあるだけありがたいという事で、期待しないでおこう。

 

「何をされるおつもりで? 必要な範囲で協力しますが」

「簡単ですが手間のかかる料理を用意しようかと。できればお酒・蜂蜜・塩その他の調味料として使える何かをお願いします。無理をお願いできるならば、お酒の追加よりは卵を」

 いわゆる乞食鶏である。

香りのよい葉っぱで包み、内臓の代わりに雑穀を入れて蒸し焼きにする。雑穀は移動時に食べる食料として十分にあるので、後は山鳥と葉っぱくらいだ。

 

七司に調味料を可能な範囲で頼んだ後、僕らは狩場となる森の中で一足先に山鳥を探すことにした。

 

「こーやって鳥を探すのも久しぶりだね」

「結構あるような気も……あー。そうだね。二人で探すのは本当に久しぶりだ」

 子供のころは良く二人で山に入ったものだ。

指南車モドキの他に、色々な方法で保全能力やら結界の限界を確かめに行っていた。

 

それぞれの針に山鳥やキノコに木の実を指定して、短い期間で確実に用意できる僕らは町に行くときに重宝されたものである。

 

「鳥はともかく木の実とかあんまり採れないね。別れて探してく? 木の実探しは得意だよ」

「止めとこう。無いよりマシってことで。それに双葉があんまり可愛いからさ、悌さまとか二広さんだっけ? そういう人が恋に落ちても困るし」

「もー! こんな時にいうなー」

 そんな馬鹿馬鹿しい事を言いながら、二人で集められるだけ集めた。

どうも森の幸が少ないのだが、難民が採りにでも来たのかもしれない。獣に合わない限りは知識さえあれば何とかなるし、最悪、サンプルと比較しながら探せるので難民の出身層次第では見つからない時もあるのだ。

 

そして指定した時間で落ち合うと、紅梓は僕らが狙ってない……エルフの領域ではメジャーな木の実とかを見つけてきてくれた。

 

「こんなもんかな? 七司さんが何か持って来てくれると信じて何羽かは置いておこう。無理だったら干しとけばいいしね」

「でも蜂蜜は何に使うわけ? 泥の窯に入れるのには使わなかったわよね?」

「おかし? おかし?」

 蜂蜜は簡単に言うと、鳥の照り煮に使う。

甘辛く煮つけ……というか焼きながら塗っていく。すると北京ダックモドキの味付けになり、パリっとするかはともかく思ったよりも上品な味付けになるだろう。

 

まあ主催は乞食鶏なので、外したらそれまで。もし蜂蜜が多ければ双葉が言う様にお菓子でも作っても良いかもしれない。

 

なお、七司が頑張ってくれたので、大判焼きや人形焼きも作る作ることができた。プチ宴会には十分だろう。




 と言う訳で伯爵家に行く用事はキャンセル。
要人の方がやってきて、数人だけで内緒の話をして終わる予定。
そこで移動の許可やら結婚の話を進めつつ、と言う感じですね。

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