妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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何分、調理器具が少ないので大したものが作れない。
骨太な山鳥だと軟骨を潰しきれないし、ミンチにするのも一苦労。仕方ないので乞食鶏と北京ダックモドキが静一杯だ。
後は菓子を用意し、大判焼きや人形焼きは甘く、ガレットは塩気を付けて南部せんべい風にした。
それらの準備が終わって暫く、伯爵家の長男悌さまと、護衛として豪傑の二広がやって来る。彼らと形式的な挨拶を交わすと、ゆっくり本題へと移る。
「すまぬな、こちらの手抜かりで」
「いえ、タイミング的にはこちらも助かった塩梅でした」
二広という豪傑が紹介され、一通りの問題を背負って頭を下げる。
それに対してこちらは問題ないと返し、彼の下について見せてバランスを取る。結果的に部下の格下という具合になり、上座に座る人物の下風に立つことができた。
上座の人物は最初に挨拶を交わした後、このやり取りをジッと待っていた。特に喋れない訳でもつまらないという訳でもなく、こちらを観察しているという風である。
「銀双羽と申します。お初にお目に掛かり……」
「うむ。この度は色々と苦労を掛けるな。だがそれ以上、畏まる必要もあるまい。何せここは狩場に過ぎぬ、偶然出会ってそれでは場が寒かろう」
挨拶し直す僕を悌さまが止めた。
既に形式に沿った挨拶は行われており、改めての様子見は不要と言う事なのだろう。
それに僕と二広の仲がこじれなかった事で、特に口出す必要がないというのもある。ならばここは宴会にしてサッサと場を流すことにしよう。
「では僭越ながら用意させていただきました。走り回って手伝っていただいた方にはかたじけなく。また毒見が必要でしたら手前が食させていただきます」
「いえ。私は特に」
「毒見も不要だ。しかし説明は欲しいな」
七司たちに礼を言いつつ配膳を行う。
その中で悌さまが興味を示したのは、まったく同じ乞食鶏が二つ並んでいる様に見える事である。
まあ同じ調理なので同じ料理なのだが、片方には保全能力でちょっとした仕掛けを施したのだ。
「どちらも同じ料理ですが、小さい方は比較用で元の料理に近い物です。泥臭いですがご容赦ください」
乞食鶏は香りのよい葉っぱに包んだ後、泥に包んで埋める。
その上で焚火をしたり、別の料理をしながら蒸し上げる料理だ。当然ながら泥臭くなってしまうのである。
ちなみにこの料理は中央にはなく、エルフの領域やその近場に存在する。ドワーフの方には溶岩焼きや石焼き鍋があり、郷土料理になっているのが面白い。
「ほう……野趣に溢れた味かと思えば以外に上品な」
「こちらの方も同じ塩梅ですが、少し泥臭いですな。なるほど原典と洗練した味の差でありますか」
悌さまと二広が早速口を付けているが、悌さまは意外と喜んでいる。
スマートな都会派貴族と言う姿で、十年前はさぞや貴公子として鳴らしたといった風情だ。それなのにこの程度の料理を喜んでいるのは訳がある。
前にも言ったかもしれないがこの世界の、特に中央の料理はクッソまずいのだ。僕らが何時までも中央に居つかなかった最大の理由だろう。
「この料理は素早く血抜きをした鳥を蒸すことで、余分な脂を抜く料理です。更に派生させると、小麦や塩などで釜を作ります」
「その辺りは別に良い。気の利いた蒸し料理なら都で幾らでもあったゆえな。どうして上手いのかを説明して欲しい」
「では間接的に、教会批判になることをお許しください」
マズイ理由の第一は、ぶっちゃけ教会のせいである。
なんでかというと、魔族の影響が大きかったと言えるだろう。もし歴史に詳しい者であれば、イギリスの料理がマズクなったのと同じ理由だと言っても良い。
要するに、これでもかと煮込み過ぎて素材の味がしないのだ。
「中央では大地に染み込んだ毒を抜くために、何度も煮込むことで毒と一緒に味を殺します。そう教会に徹底されているはずです。これが格別に技巧に優れた筈の料理を味に乏しくさせた理由です」
何度も煮込み、場合によっては浄化処理を行う。
そんなことをすれば素材の味がしないのは当然だし、歯応えだって微妙になるだろう。そこで仕方なく、調味料をこれでもかと使うのである。
肉も野菜もクタクタに煮込まれ、ソースの味しかしないとかマズくて当たり前だろう。
「対して地方では魔族の毒はそれほど染みておりません。最低限の毒抜きで十分であり、素材の味を活かした料理が存在します。とはいえ悌さまは中央より戻られた方ですので、可能な限りお口に合う様に工夫させていただきました」
此処で地方料理の説明をすると、二広が頷いている。
この男は筋肉質で刈り上げという、体育教師が武将になったような姿をしている。ハッキリ言って厳つくて怖いが、まあ郷土愛溢れる人間なのだろう。
地方にも褒めるところがあると悌さまに伝えれば、ウンウンと素直に頷いていた。
「続いて次の料理ですが、これは丸焼きにした後で皮を削いで食べる物です。お手元に雑穀で作った布がありますので、包んでご賞味ください。肉の方は酒のツマミなり、従者の方に下げ渡されても良いかと」
「なんと! 丸の鳥を皮だけと?」
「ハハハ。二広よ、それでは中央務めは出来ぬぞ」
今度は逆に驚いている。まあ贅沢な料理だから仕方ないよね。
この世界にも北京ダックモドキはあるので、純粋に味のある鳥の皮を食べる事になる。ちなみに中央で食べると干した後でボーボー焼くので、まずくはないが上手くも無いのだ。
そしてこの二品を出したことで、悌さまにも僕の意図が伝わっただろう。
「なるほどな。決して中央が悪い訳でも、地方が悪い訳でもないと。そう言いたいのだな?」
「はっ。教会の方も悪気はないのでしょうが、魔物に苦しめられた期間が長いせいかと」
何度も口にしたことがあるが、悌さまは人質暮らしが長かった。
お陰で料理に関する好みの問題とか、中央と地方の差に色々と思いがあるはずだ。しかし主に悪いのは魔物であり、その影響を受けまくった教会なのだと説明しておく。
……正確には悌さまに伝えるのではなく、忠言するフリして二広に悌さまの立場を摺り込んでいるのだ。まあ今更ながら、伯爵家の長男ともあろうものが気が付かない訳はないし、むしろこだわっているのは地元民の方だろう。
「その言葉覚えておこう。だが妹の麗も幸せ者だ、これほどの料理は中央でも中々食せぬ」
「はっ、ありがたき……」
形式通りに答えながら、僕は少し違和感を覚えた。
何か大切な事を見落としているような気がする。いや、以前はもっとアヤフヤであったはずだ。
結婚自体は固定で逃げられないと言われていたので、定まって居ない別の用件が決まっている事になる。
「もしや、自分と麗さまの婚約が決まりましたので?」
「そうだ。どちらか好きな方……と私的には言うつもりだったのだがな……フフフ。許せ。なあ、二広よ。双羽は麗に相応しかろう」
「ははっ……」
決まったのは姉の麗に相手が固定されたという事らしい。
義姉さん女房で伯爵家の娘だから頭が上がらないのは、今更なので特にいうまい。
だがおかしなことは、二広が奇妙に固まった事である。まるで突かれたくない事を探られて、痛い腹を抱えて唸っているような姿であった。
「ハハハ。そう硬くなるな。お主と私は兄弟になるのだからな? そなたからもいう事があろう?」
「……ははあ。銀殿、いや双葉殿。お主を義兄としてこれから仰ぎ、色々教えを請いたく……」
「え? まさか……」
「そのまさかです」
その場に居る者はみんな笑顔ではあった。
しかし本当の意味で笑っているのは悌さまだけで、二広は顔を赤らめているのか青ざめているのか分からない。七司に至っては畏まって動こうとしない。
いや、まあ意味は分かるんだ。
姉君が僕とくっつき、妹君が二広とくっつく。まあ義兄弟になるという意味で、悌さま・僕・二広という順番になるから長兄としては笑いが止まるまい。
「これには説明が必要だろうが、他の者では答えるに答えられまい。ゆえに私が説明するがな、下の妹は自分を救いに来た二広に恋をしたのだよ。負うた背になあ……くく」
「悌さま……それ以上は……」
厳ついおっさんが赤面する姿は微妙である。
貴公子然とした悌さまは、なるほど良くありそうな光景で笑いをこらえているだけだ。笑い事ではないが僕としては苦笑する他はなかった。
「ともあれ選んで良いと言っておいて、勝手に推し進めたのは済まぬとは思う。しかし私も妹の恋くらいは、できるならば叶えてやりたいのだ。判ってくれるな?」
「お気になさらず。元より決まったという程でもありませぬでしたし」
あまり恐縮すると妹君を馬鹿にすることになるので出来ない。
仕方ないので知らなかったし、決まって居なかったので問題ないという風に返した。
しかし悌さまとしてはまさに笑顔が止まらない。妹のどっちかを僕につけて英雄を取り込むと決めた物の、もう一人はどう動くか分からなかったので彼としては良い結果に転がったのであろう。
「幾分か右か左に流れる内容ではあった。だが私としてはこの件は天運と思うておる。爽は外に行くのを怖がっておったし、麗は中央暮らしが長かった。双羽の所ほどにこの辺りで口に合う料理を出せる場所はあるまいよ」
「そうですな。今となっては、麗さまのご不満も理解できます」
「さようですか……食以外にも努力させていただきますね」
そういえば姉の方は中央で一緒に人質……。
ではなく留学していたのだと思って居そうだなあ。この様子だとどんな我儘が飛び出してくるか分からない。
全体はともかく一部の技術だけは中央以上にして、度肝を抜くようにした方が無難だろうか? そういう意味でも中途半端は駄目だと忠告してくれた神様には感謝しかなかった。
「さて、時間も惜しかろうゆえに、残りの用件も片付けておこう。行き帰りの通行を許可するのは勿論の事、西への援軍にはこの二広も付ける」
「良いのですか? まだ完全に収まったと聞いてはおりませぬが」
「侯爵家にも借りがある。それを返しておけとの大殿の仰せなのだ」
要するに妹婿二人を侯爵家でデビューさせようという事らしい。
自分の勢力が固まったと喧伝しつつ、形式上は侯爵家の安泰を手助けする。そこにどれだけの価値があるかはともかくとして、悌さまにとっては丁度良い宣伝ということなのだろう。
ともあれ交通の許可が無事に降りたと喜んでおくべきなのかもしれない。
と言う訳で偉い人との顔見世、および通行その他に方がつきました。
伯爵家の妹君に関しても、主人公の知らない所で勝手に決まっていた様子。
●人物紹介
『緋(央)悌』
伯爵家の長男で長く人質暮らしだった。
おかげで故郷に派閥が無く、弟が隊を率い始めたことで発言権が低下。
そんな中で主人公が自分の派閥に加わり、自分を持ち上げる提案をしたので非常に喜んでいる。
外見はストレートの髪を長くして、状況に合わせて結ったりしている。
口髭も生えていたりするので、三十代の王子様と言った風情。
『緋二広』
譜代の家臣で武門に所属する豪傑で、紅家の三男坊や大通連とは兄弟弟子。
角刈りでスポーツマンという、まるで体育教師といった風情。
なお妹君は二十歳過ぎなので、女子大生になった教え子に手を出した教師みたいである。
なお神の加護は地味に強い物で、それを見込まれて持久戦を教え込まれていた。
体力精神力増えないが、HP・MPがダイレクトに増えるという戦場向きの祝福である。