妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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未来の義兄弟と行く

 二広を加えた僕らの一行は侯爵領を目指す。

獣に出くわすことはあったものの、街道沿いに入ってからは特に何も無かった。途中の村に滞在すれば別だったのだろうが、魔物狩りに参加する代わりに食料を浪費させては返って迷惑だろうと寄らなかったのもあるだろう。

 

そして二広と話す機会があったことで、色々な事が理解できたのは行幸だった。

 

「お師匠さんは人材コレクターだったのですか?」

「身も蓋もない事を言うとそうだな」

 三人の豪傑を育てた師は、彼らの能力を聞いてから育てたらしい。

他の地域でどこぞの流派の高弟なども居たが、熱心さにおいて及ばなかったらしい。あるいは『普通』の弟子を鍛える事にはもう興味がないとか、『時間』が無かったのかもしれないが。

 

最終的に死ぬまで南領に留まり、三人をそれぞれの方向に育ててから逝去したそうだ。

 

「あの馬鹿には大通連をほか様々な武具を、紅包さまには愛用の槍と無双の技を。そして私にはこの護符の造り方や、身代り人形を授けて下された。むろん基礎的な武芸もだが」

 懐かしそうに語るがきっと厳しい人であったと思われる。

どうみても野蛮人な大通連に最低限の教養と見識を身に付けさせたのは凄いと思う。できればブレーキが掛からずに走り続けるのあの性格を何とかして欲しいとは思う。

 

しかし少しだけ気になることがあった。僕だったら護符よりも先に与える物があったからだ。

 

「その、全ての武具をあの馬鹿に渡されたのですか? 魔法の防具なりありそうなものですが。それに……うちの荘園で最新の甲冑が作れるようになりましたので、よろしければ素材だけで……」

「そこまで。事情がある故な」

 二広は苦笑して僕の言葉を遮った。

全ては聞かずに止めたのは、師が彼に武具を渡さなかった理由と一致するのだろう。聞けばこの男は生命力と魔力……要するにHPとMPが上がり易い加護を持っており、そうなれば良い甲冑を与えない理由はない。間違いなく僕だったらそうする。

 

おそらくは何かの心象的な地雷が埋まっており、僕が踏み抜く前に止めたらしい。

 

「この鎧は先祖伝来、遡れば緋家の尖槍として任ぜられた初代より続く物だ。拝領した剣もまた然り。初代ではないが中興の祖と言われたお方が都の武芸大会で優勝し、時の帝から授かったものである」

 甲冑も剣もこの時代ですら旧式で、僕が剛盾と作った装備には及ばない。

しかしそれより重要な意味合いが、そこにはあったという事のようだ。さすがにそんな立派な伝来品とは思わず赤面するばかりである。

 

そして押しつけがましく恩を売ろうとしたら、喧嘩になったことも伺える。だから途中で止めさせたのだろう。

 

「おいそれと替えの効かない品なのですね、失礼いたしました」

「うむ。双羽殿は厚意で申し出ようとしたのであろう? だが余人には伺えぬモノも色々あると心得られよ。言葉次第では家同士の争いになるがゆえ。とはいえ、説教する程に私も『今』を知らないではないからな」

 二広は双葉にチラリと目を向け、僕らが故郷を出てきた時の事を伺わせた。

もし忠誠の証に双葉を差し出せ、代わりに妹のほか領地をやろうとか言われても困る。前世を無くし生まれ変わってからずっと過ごした……比べようがない替えの効かない存在だからだ。しかし知らぬこととはいえ我ながら迂闊であり、そういう流れが存在することを公式ではない状態で聞けたのはありがたかった。

 

今回は恥をかく前に止められただけで済むが……。もし公式の場で同じことをやったら大変な事になるだろう。片や先祖伝来の品と功績を馬鹿にされ、片や努力で作り上げた成果を無用の長物と罵られることになるのだ。そして周囲もソレを止めるどころか煽ることになるだろう。

 

「あ……では紅包殿に贈るのは問題でしたか?」

「公式には紅家へであろう? それに紅包さまは三男ゆえに問題ない。私も弟妹に戦える者が居るとか……しょ、将来に子供が長じれば新しい鎧を誂えようと思わないでもない。その時であれば頼もうかと思う」

「ええ、その時は是非。ただお代はいただきますのでヘソクリにはご注意を」

「こやつ、言いおるわ」

 そんな感じの他愛のないやりとりでお互いの距離感を測っておく。

譜代と新参で急に打ち解けろというのは無理があるが、少なくとも共通の探して話し合う事に意味はある。食事時期には料理の話題を、自然を見ては郷土の話で適当に相槌を打ち合った。

 

そして当然のことながら、侯爵領に身を移してはその後の対応に話題が移っていく。

 

「それで、双羽殿はどのような方針を立てるつもりだ? 此度の私は与力ゆえ、気にせずに言ってくれ」

「そうですね。方針としては侯爵家にご挨拶してから南下する予定ですので……」

 どこまで頼って良いものか分からないが……。

作戦案を聞いて、妥当だったら従ってくれる程度に考えておく。もちろん妥当であってもコキ使うとへそを曲げて無視する可能性もあるのだが。

 

これまでに決めた基本案と、侯爵家で起き得る問題を勘案して振り分ける事にした。

 

「本来の目的は侯爵領の南西で爆発的増殖しそうなジャイアントビーを何とかする事です。既に一部が狂暴化して、キラービー化しているとか」

「なるほど。増える前に駆除してしまおうということか」

「その通りです。作戦案そのものは既に立てていました」

 まずは状況を説明しつつ、作戦案があったと過去形で語る。

到着までに情勢が変わることもあるが、何より伯爵家や侯爵家の対応で変わるからだ。

 

厳に二広が加わることで、戦力が増えたともそれぞれの家の動向を伺わざるを得なくなったとも言える。

 

「それからの大きな変更としては、口にするまでもありませんが二広殿が加わったことで対外的な対応が生じる事です。おそれくは悌さまもこれからは武将としてだけではなく……」

「御使者に私が、か。あまり性分には合わぬがそうも言っておられまいな」

「お互い色々とありますが、何とかいたしましょう」

 紅家にも知れ渡る二広が来たことで話が変わる。

これまでは伯爵家の末端であり、目を掛けられる程度の才がある者が御用伺いに来たという程度だった。魔物が出るならば『良きにはからえ』という風情で適当に出立できたはずだ。

 

しかし二広の加入でこの一行は正式でこそないものの、寄り子である緋家が寄り親に足して派遣したあいさつ回りに変わってしまうのだ。何といっても妹君二人を介する形で義弟を派遣したという事になり、悌さまにとっては外交の第一歩となるだろう。

 

「どのような意向があるのか尋ねられるでしょうし、ここは悌さまよりの紹介という事になるのは間違いがありません。その上で歓待があったり、逆に要請もあるでしょう。普段ならばそれも経験と割り切れば良いのですが……」

「増殖間近か……であったか」

「はい。長らく放置すれば、そもそも何のために来たのかと言う事になりかねないでしょう」

 悌さまの派閥が固まり、その顔見世に義弟を派遣する。

侯爵家からみれば寄り子の縁者が顔を出し、頭を下げに来るのだから放っておく必要もない。準公式として所属する武将や文官たちに紹介しつつ、せっかくだから……と宴会なり、あるいは領内で困っている魔物の件を相談されることになるはずだ。

 

まあ実際に出現したらしくて、後に頭を抱える事になるんだけどね。

 

「悌さまが『次期殿』と呼ばれ始めたことをお伝えして、正式なご挨拶に際して何が必要かを確認。そのまま数日過ごして……という通り一辺倒にならなかった場合はお願いします」

「その時は仕方が無いな」

 此処での会話は順番が重要だ。

先に時間制限がある事、そして作戦は立てている事を説明しておかねばならない。やるべきことがきまっていて、筋道の問題で二人のどちらが何をやるか、判り切った状況ならば文句は出ないからだ。

 

しかしフリーハンドに白紙化した状態で伝えた場合、自分に面倒を押し付けるのかとなりかねなかった。

 

「だが最初だけでも頼むぞ」

「はい。また、それとは別に……もし二広殿を頼って魔物の件を持ち込まれましたら、その特徴を聞いておいてください。魔物は特徴が判れば言う程に難しくはありませんから」

「判っておる」

 真面目な話、僕も二広も外交経験などはない。

荘園主になる前後でも青悟に頼っており、今だって本当は頼りたいくらいだ。しかし神様の教えを広めたいこともあり、あまり既存の宗教に頼りたくはなかった。まあ既に借りた分の借りはいずれ返すつもりではあるし。お互い様と言えるまで持っていければ良いだろう。

 

そしてここで二人同時に苦労することに意味はあるし、二広が上司で僕が部下と言う訳ではない以上、頑張って乗り越えて一体感でも高めておくしかないのだ。

 

この後は鎧を完成させた剛盾と合流し、侯爵家の御料地である紅来川入りするところまでは特に語るところはなかった。




 今回はキャラの掘り下げと言うか、おっさんと移動しながら話してるだけです。
仲間達はちゃんと同行していますが、頭を抱える男二人と話す気はないだけ。
不景気な事この上ない状況で、今から無数の蜂と戦う状況なので面白くはないですよね。
まあ伯爵家の事情とかその辺を話したり、面倒臭い解説をして終わりになります。
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