妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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最低限の訓練と備え

 そしていよいよ魔物退治の始まりだ。

といっても最初は訓練で一日潰れたので、数日後に最低限の連携が取れてからの進軍なのだが。

 

その訓練と言うのは民兵たちの中でも力の強い者たちをアンデッド役にして、強引に突破してもらうだけだ。こちらは梯子を盾にして相手の行動を塞ぐだけ。何もない平野で、木々がある場所で、山間の坂でと色々試してみた。

 

「紅梓にかった……いえ~い?」

「ズルイわよ! オプションの八割が禁じ手なんて勝てるわけないじゃないの」

 人間とアンデッド側に分かれてお互いに部隊を率いての訓練。

何もかも上位互換の相手に勝てたからか、珍しく双葉がムフ~と分かり易く喜んでいる。

 

こんなことをしてるのも、考案者である僕以外でも簡単に勝てる様じゃないと意味がないからだ。ポイントは前線を見張る役と、全体を見張る役からの報告を欠かさない事。足元を潜ったり山の上から滑り落ちてくることとか気を付けていればまず負けない。

 

「ゾンビやスケルトンに出来る行動だけで良いって納得したのは紅梓さんでしょ」

「それでもよ! 数で押し込む戦法だってこっちの連中が怯えてちゃ使えないんだし! 驚かせるとか卑怯よ! アンデッドは驚かないんだもの」

「そっちも脅しとかさせてたし、おあいこ」

 人間が演じてるので梯子を潜り抜けようとしたりする。

そんなことは考えない筈だが、それでも千切れた上半身だけで可能性はゼロでは無いので匍匐前進はアリだ。しかし戦術としてはそのくらいが想像の限界だろう。

 

逆に反撃を恐れて下がったり、知り合い同士で口論し始めるのが不毛であった。

普段ならば押しくらまんじゅうで圧殺しそうな状況でも逃げて帰る代わりに、知り合いに『俺を殴るのかよ?』と脅させるのは人間ならではの光景だろう。

 

「しかしまあ、今回の訓練で良かったのはあの連中が自信を持ったことかの」

「力自慢を普通の人たちが封殺できましたからね。ぶっつけ本番せずに、訓練した甲斐がありました」

 訓練としては成果は他愛ない。

連携速度は大したことないし、木々の中で上手く壁を作るのもまだギコチない。

 

だが上手に連携すれば力自慢を複数名相手にしても何もさせないことは出来た。

知り合いだけのその事が良く分かり、頑張れば自分たちが死なないのではないかと言う自信が持てたことは大きい。僕のアイデアが適切だと彼らにも傭兵仲間にも周知できたことは大きかった。

 

「そういう事にしときましょ。それで私たちは何をする役なの? まさか私にまで梯子を持てとか言わないわよね?」

「攻撃役じゃないのか? ワシらが斧や槌を振るえばアっという間じゃぞ」

 梯子と戸板に寄る盾で壁を作り、傭兵は前にのみ専念して攻撃していく。

ただそれだけで無数のアンデッドを倒し、交代して休憩しながら突き進めば何とでもなるだろう。

 

当初の予定だと僕らも攻撃班に専念する予定だったのだが、作戦が割りと好評に受け入れられたので少し変更することにした。

 

「この際だから、僕らは動き回って足りない所の補強に回ろうかと思う」

「遊撃隊というやつか」

 戦略ゲームをやった人は良く割ると思うが、基本的に攻める時は安全地帯造りだ。

ある場所を安全にするために、別のある場所を攻めていく。そうして増えていく安全地帯から兵を引き抜いて、その兵を使ってまた攻めていく。今回だとロープか何かで木々の間を封鎖すればとても楽だ。途中からは加速度的に処理が早くなるし、危険は相対的に減っていくはずだった。

 

だけれど予期せぬ事は起きる物だし、それこそ想定を上回る強敵が居ても困る。そういう時の備えて出動するのは遊撃隊の役目だと言えるだろう。

 

「とはいえ今のところ何とかなりそうだから……。むしろ怖いのは穴に落ちたり部屋に閉じ込められてて、最初に気が付かなかった奴かな。建物がある場所なんて絶対に放置できないし、逆に壁として使える場所があれば安全地帯を増やしていけるからね」

「また面倒くさい事を……」

「まあ仕方ないところだの。あの連中に何もかもは任せられん」

 僕らの視線の先には、訓練が上手くって気勢を上げる民兵たちがいる。

だが訓練で覚えられたのは想定通りにしか進んでない場合だ。それこそ中に居るのに気が付かず安全地帯だと思ってしまい、後ろから現れたら面倒くさいではすまないだろう。

 

「しょーがないわね。それで殿様率いる遊撃隊の初任務は?」

「幽霊退治が始まるまでの切り込み役かな? 地形にもよるけど最初は壁を作るのも苦労するだろうしね」

 今回の作戦はあくまで物理的に動いてくる敵を倒す為の物だ。

レイスやゴーストなど幽霊系は壁なんか超えて来るので、最初にまとめて倒さねばならない。

 

初手は数少ない範囲魔法の使い手を集めて道を作り、そこを僕らが制圧して確保する。その後に壁だけ作って兵たちは下げることで、物理的な壁を越えて来た幽霊系を一掃する作戦だった。

 

「今回の作戦は基本的に初動に掛かってるからね。上手く行けば最後までスムーズに行くはずだし、その後は妙なのが隠れてないか探すだけになるよ」

「その『だけ』ってのが面倒なんでしょうが」

 こういってはなんだがダンジョンというのは珍しい。

少なくともこの国ではあまり有名なのが無い。魔物を狩っても魔石なんか出無いし、レア・アイテムをドロップすることも無い。だから積極的に探そうと思った事も無いのだが。

 

ともあれ、そういう理由で地道に探索し続ける苦労と言うのをみんな味わったことはないのだ。上級魔法さえあれば以前の魔物は倒せたので、魔王の襲撃まではイージーモードであったのではないだろうか?

 

「そういうのあんたの力でどうにもならないの?」

「余裕が無いので無理です。できるなら苦労してないですよ。余裕があっても貴重な術師を守るために使うでしょうし」

 僕の数少ない特技は保全する対象に選べる範囲が広いのがウリだ。

やろうと思えば建物の保全で安全地帯とかできなくもない。しかしながらそれだけに、強度の上昇はとても難しい。強度を上げるのに膨大なエネルギーが必要だし、攻撃されたらアッサリ壊れるし、経年劣化での倒壊を防ぐレベルでしかない。

 

エルフには神職系が珍しいのでこんな会話をしているが、実のところ僕の職業は閑職なのだ。大きな宗教だと大神殿やら聖域の守りの為に重宝されているらしいが。

 

「そろそろ良い時間ですし青たちに合流しましょうか」

 青というのは貴重な術師たちのまとめ役で、前に話を出した伝道師のボンボンだ。

魔術師で神職というのを不思議に思う人もいるかもしれないが、この世界に神聖魔法とかは存在しない。特殊能力の方はクラスに依存しているので、神職も魔法が使えないと威張れないのである。

 

ついでに言うとこの辺りでは珍しい東領の出身者で、『青』の苗字だけで通じるのもそのせい。東領は豊かなので他所に行く奴は珍しく、伝道師でなければ僕らも出逢わなかった可能性が高かった。職種として布教の旅に出ないといけない癖に、良い暮らしがしたいという点で僕と似ているので暫定同盟を組んでいる相手だ。

 

「あいつキライ」

「そんな言い方しないの。でも、もうそんな時間だっけ」

「そうそう。抜け目ないのはあいつの育ちのせいで、あいつ自身が悪い訳じゃないよ」

 青というのは金持ちのボンボン、かつ伝道師なので何かにつけて布教して来る。

ついでに言うと信仰してるのは大地母神系の神様なので、向こうの方が遥かにメジャーである。うちの神様と比べたらいけないレベルの格差があるので、使徒だから布教しても無理だと伝えたら可哀そうな目で見られた。

 

要するに宗教的にマウント取られてるから舎弟扱いとも言える。

僕は悔しい以前に身の程を知ってるが……双葉はそれ以来あいつのことをあんまり好いてない。当人の前でも居ない所でも嫌いと明言するが、それはそれとして排除対象にしないあたりが微妙なラインでの妥協なのだろう。

 

「……お。居た居た。おーい青悟さーん!」

 青は東領は青河の街に住まう貴族の息子だ。

貴族は子弟に『こんな風に育ってほしい』という前世に近い名前が付けられている。ミドルネームが存在しないのではなく、都市中央部であり『央』という字が王に通じるのは良くないと略しているだけ。まさに本物のボンボンだった。

 

せっかくなので彼の職種である伝道師について説明しておこう。

神職なので僕の使徒と似ているが、旅立つ者を祝福できるという部分で幅が広い。使徒が聖域を守り伝統を強固にするという役目であれば、伝道師は新しく広げて行く役目である。何が羨ましいとかと言って、祝福出来る範囲の応用性が広いのに器用貧乏では収まらない事だ。これも神様の格の違いなのだろうか?

 

「やぁ双羽く~ん。こちらは何時でも行けるよ」

「ああ、祝福してたんですね。お互い頑張りましょう」

「成功しても、お互い苦労するけどな。まあよろしく」

「ははっ。笑えないな」

 彼が祝福していたのは僕と同じく荘園主候補たちだ。

抜け目ない彼はこうやってあちこちで信者候補やら、布教する許可を取っている。もちろん布教エリアを一気に拡大する為なのだが、こいつはこいつでよりよい生活をしたいという都会っ子なのだ。声を掛けてる中で一番良い領地に住み着く気だろう。

 

そしてニコニコと僕に対して微笑んでいるのは、誰が一番有望かを知っているからだ……と思いたい。双葉が嫌いなのは妙な趣味があるからではないと信じておこう。

 

「でもまさか、結界にあんな使い方を思いつくなんて思わなかったよ。流石は双羽くんだ」

「青悟さんほど強い力が使えませんしね。苦心の結果ですよ」

 伝道師の祝福は旅立つ者へ強固な力を授けてくれる。

具体的に言うと武器を祝福すれば短期間ではあるが物理的攻撃の効かない幽霊にも効くし、鎧なりお守りを祝福すれば憑依などができなくなる。同じことを魔法でやるとコスト的に大変だが、遥かに効率的なので数人まとめて祝福するくらいは問題なかった。

 

対して使徒の祝福である保護能力は長期的な反面、矛盾すると維持が難しくなる。

建物がシロアリに食われないとか雨で倒壊しないとかなら維持は永遠に近いが、ダメージを防いだりするとアっという間に維持できなくなる。前に使った温度の維持の場合……故郷に居た時は温度を保つ時でも、ちゃんと防寒着を着こまないと暖かさを維持できない。これが温暖な南領だと雨季でも来ないと永遠と言う訳だ。

 

「だから多分……突風でも吹かない限りは問題ないんじゃないですかね。元が粉ですし」

「建物があれば安全だけど、まあ岩肌でもなんとかなるんじゃないかな。死霊避けの粉が効くと良いねえ」

 祝福で保護する対象は粉ではない。

散布した粉が一定範囲から飛んでいかない様に保護しただけだ。そよ風が吹いたくらいなら粉が飛び散ることはないので、言ってる通り突風が吹かなければ術師たちの安全は守れるだろう。

 

まあ……突風で駄目なんだから、近距離で大規模魔法使われてもダメなんだけどな。

 

こうして戦闘準備は整い、いよいよアンデッドの群れを駆逐していくことになる。




 と言う訳で最低限の訓練をやった! イザと言う時の準備も終わった!
というシーンなので、次回サクサクとアンデッドに勝つ予定です。
まあ雑魚なので長引かせてもダレるだけなので、次回一回で終了予定。
第五回が雑魚戦で、第六回がその後に領主と話して荘園を貰う話になります。

そこまでは書き溜めが先行して居て一日二回、その後は一日一回の更新となります。
その後に荘園経営の話になるか、神様視点の話を挟んで転生後をやるかは悩んでる感じ。

●魔法
 この世界ではみんな四大精霊魔法・共通魔法・生活魔法を使えます。
とはいえ生活に必要でない限りは覚えるよりも別の事をした方が良いので
あんまり覚えている人はいません。
 その上で職業に関する上級魔法を覚える事が可能な感じ。
もちろん魔法学校の類に行けば、上級魔法を選んで覚えることも可能です。
この辺は転職とかの概念があんまり発展してないので、昔ながらのファンタジーと言う感じ。

作中でも書いていますが神聖魔法とかは特になく、職業専用の祝福。
ホーリーウエポンとかレジストイービルみたいな使い道ができる祝福がある。
主人公はあくまで保護・結界が専門なので、戦闘では滅多に使えません。
防寒着を着てホッカイロを持ってテントに籠れば、雪山で暮らせるというのは凄いのですが。
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