妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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紅包の来訪

 多忙な侯爵さんは直ぐに離席したが、そのまま持て成しを受けた。

非公式な事もあり料理などは客室に用意されたので、特に宴会などはない。

 

紅梓などは初日を終えると飽きたらしく、一足先に水棲種族の元へ向かった。調度品に興味のある剛盾はともかく、僕と二広の方は仕方なく答礼を受けているという塩梅である。

 

「侯爵さまがあんなことを言い出した理由の半分くらいは、彼らへの当てつけなんだろうね」

「私も退屈。紅梓と一緒に行けばよかった」

 双葉も飽き飽きしている様子で、椅子に座ったまま足をプランプランさせている。

ちなみに妾扱いだから自由行動し易いが、正妻だったら自室に籠って居ろと言わんばかりのスケジュール構成だったはずだ。少なくとも僕の方は色々と勝手に予定を組まれてヘキエキしている。

 

その中でも感じたのは年の近い若者の文官武官は熱心に話を聞いてくれるが、年嵩の役人などは通り一辺倒にしか話して行かない。侯爵さんが風呂をネタに使ったので、一応は話を聞きに来た程度だろう。

 

「でもどうせ案内されるなら、大聖堂よりは図書館の方が良かったのにな」

「ガハハ。ワシにとってはどっちでも良かったがの。まあもう数日の辛抱じゃろ」

 珍しい物を持って来たものに、対抗心で領地自慢をするのは判る。

しかしステンドグラスを用いた大聖堂なんて、神職である僕にとっては罰ゲームだ。青悟でもいれば話は別なのだが、海と交易の神様の神殿だったので特に惹かれはしなかった。

 

この数日というのがどれ程のロスタイムなのか、まるで分からないのが痛い。ジャイアントビーの増殖もだが、後になって相談される魔物と言うのが人に化ける虎、いわゆる『人狼モノ』というのだから猶更だ。この時に知っていても大して変化はなかったろうが、部屋に缶詰になっている間に何か対策が考えられたはずである。まあ彼らにもプライドがあるから仕方ないんだけどね。

 

「挨拶するのが遅くなってすまないね」

「いいえ押しかけたのはこちらですし、贈り物としか申しませんでしたので」

 予定も終わりごろになって三男坊の紅包と出逢った。

本当はそのまま立ち去るはずだったのだが、その時になってようやく鎧の話を知った彼が面談を求めて来たという訳だ。

 

それならまた次の機会にすれば良いのにと思わなくもないが、役人たちを牽制したいという侯爵さんの事情もあるのだろう……と思っていたのだが、実は違ったらしい。

 

「実はバーレイに街で出逢ってね。私宛の鎧を誂えてもらったそうで申し訳ないのはこちらだよ」

「……いえいえ。急な通行でしたので、何かしらの礼物が必要だったのは確か。お役に立てれば幸いです」

 最初は誰? とか持っていたのだがようやく思い出した。

魔法の武器から異名を取って『大通連』と呼ばれているが、彼は確かにそんな名前だった。この国風の名前では無いし、本人も親や祖父から同じ名前を受け継ぐそうで、あまり気にしてないらしい。

 

しかしすっかり通名化している大通連ではなく、律儀に本名で呼ぶ辺りにこの人の性格が伺えて取れる。ちなみにウルフヘアーをした生意気盛りの青年と言った風情で、律義さとはかけ離れた容貌をしていたのだ。

 

(この人……バッキバッキにプライドへし折られたんだろうなあ。領主の息子で神の加護が強力だから、武芸も魔法も面白いように伸びる。おまけに顔も良いから増長するだろうし……そういう人は一度分からせるに限るからね)

 紅包が現時点で青年と言う事は、指示したのは子供の頃だろう。

その頃から周囲の武官よりも遥かに強く、ガキ大将どころでは才能が有ったと思われる。大通連や二広も兄弟弟子になったばかりのころは苦戦したそうで、必死になって修練して競い合ったという。

 

逆に言えば天狗になった所に突如現れた自分よりも強いお師匠さんと、同じくらいに才能を持つ兄弟弟子たち。そんなモノを見せつけられたら、過去の事が黒歴史になる事は間違いないだろう。

 

「ところでバーレイの話では貴公ならば私の悩みも解決してくれるという事だったが、どうなのだろう?」

「その『悩み』を知りませんのでなんとも言えませんが……」

 まったくあいつは余計な事しかしないな……。

おそらく本人は出禁を解除するだけの良い事をしたつもりなのだろう。しかし現時点で確実に足しか引っ張って居ない。

 

とはいえ目の前の相談事を放置できないし、放っておいてもいつかされる話だとしたら今解決してしまう方が良いのは確かである。

 

「話を聞く限り紅包さまは万夫不当。それが知られて居るがゆえに戦った時に守りに徹されて困ると言う事でしょうか?」

「まさしく」

 この男……平然と頷きやがった。

一騎当千には違いないとは思うが、お世辞で万夫不当と格上げしたのに頷いたぞ? いや、プライドがへし折れてもこういう所は曲がってないというべきなのかな。

 

しかし他人の話を素直に聞けるとかは良い面だとは思う。強くなるためにここまで平然とやれるならば、例え曲がった性根であっても一周回って格好良いかもしれない。

 

「武芸に関しては通り一辺倒の事しか申せません。槍は円運動で、戦場にて機先を制す尖槍だとか、突きと払いの基礎こそが重要……などとは、万言ほど聞かされているのではないかと思います」

「その通り。いや、バーレイが言った通りですね。私の事をよくご存じだ」

 前世でこの手の知識は色々な話で読んだものである。

軍師の神様である九天玄女さまのお陰で、生前の知識はおおむね保たれている。欠けているのではなく思い出すキッカケがないだけなので、理由さえあれば口にすることはできるのだ。

 

さて、この紅包という男の悩みは高機動系キャラに共通する悩みである。長大なリーチと速度を持っているが、相手に防御されたら火力が足りない。同じ兄弟弟子の中でも持久戦型の二広とは最悪の相性である筈だ。

 

「自分が思いつく範囲の方法は三つ。一つは解決方法ではありませんので、残りの二つを説明いたしましょう」

「ああ、なるほど。無視には無視ですか」

 一つ目の解決方法は防御に徹する相手など無視することである。

極論を言うと戦場では武将を無視して兵士に無双しても良いし、そもそも大将を討ち取りに行っても良いのである。そして彼は魔法も使えるのだから、防御に徹するなら攻撃魔法で完封するのも手だろう。

 

だがそれは彼の悩みを解決しないので、紙片を持ち出して簡単に説明する。

 

「二つ目の方法は道場の発展形です。必殺の一撃は必ず防がれることを前提に、連技を組み立てます。この流れに持ち込めば確実に決められる。そんな連技が一つあればよろしいでしょう。同じ相手と戦う事はあまりありませんから、初見殺しでも構いません」

 紙片にはワンワードだけを載せて並べていく。

まずは『突く』の一枚、次に『払って』から『突く』の二枚、その次は『払って』『抑えて』『突く』の三枚だ。そして『守り』『払って』『突く』と言った風情の派生形をその隣に並べる。

 

要するにコンボ技でガードをこじ開け、ダメならガードキャンセルから崩し技を入れてから攻撃しても良い。クリーンヒットさせられないのが問題なのだから、手を尽くしてクリーンヒットさせるまでである。

 

「ほう……お師匠さまと同じことを言うな。これは三つ目にも期待できそうだ」

 まあそうだろうね。初見殺しの技一つあれば戦場では十分。

戦場や決闘ならば殺してしまえば済むし、そもそも武道大会ならば防御に徹するキャラはポイント負けするものだ。

 

さて、ここまで来て納得してもらえないどころか、むしろ期待されているようで困り物である。ここはむしろゲーム知識を流用すべきだろう。

 

「それほどでもありませんよ。最後の一つは正面からのゴリ押しですから。武芸としては邪道、戦人としては王道の流れに持ち込みます」

「むっ?」

 紙片に今度は『回避』『受け流し』『防御』の三つを書いていく。

見ての通り攻撃を受けたら行う行動三つである。まずその内の回避を遠ざけ、次に受け流しを中間に持って来る。そして紅包の前に残すのは防御の一枚切りだ。

 

そして防御と書いた紙の前に、白紙の紙片を三枚置いた。

 

「紅包さまが連技に持ち込めばまず競り合いで勝てます。つまりどうにもならないのは盾か何かで素直に防御された場合のみです」

「まあできなくはないな」

 ツッコミどころは沢山あるが、この際は置いておこう。

状況を絞ると相手にガードされてしまうというのが問題なのだ。ではどうするか? 普通にガードブレイクしてしまえば良いだけのことだ。小難しく相手のガードを掻い潜り、急所に一刺しだなんて格好良い事を考えるから勝ちきれないのである。

 

だからやるべきことは単純、ガチムチタンク相手にクラッシャーがやってるような猛攻を仕掛ければ良いのである。できればその技に隙がなければ理想的だろう。

 

「ですから単純に大技で押し切ります。ただし実力が拮抗する相手にそんなことをすれば危険なので、その技を出したら勝つというのが大前提。とはいえ腕前が急に上がるはずはありませんから……他で補う事にします」

 紙片に書いた『防御』の手前に『大技』と書いておく。

その紙片の隣に残り二枚を設定。そこには『装備』『魔法』と順次記載していく。

 

ゲームで強い相手に勝ちたいならばどうすべきか?

そんなことは決まって居る。自分のレベルを上げるのでなければ、装備を更新し、バフをモリモリ掛けて勝てるようにするのだ。同レベルの相手に勝てる様に成ればレベル上げも簡単になるしね。

 

「相手の防御の上から攻撃可能ならば技は何でも構いません。大上段から叩いても、首なり腹を薙いでも、極論を言えば槍を蹴り飛ばして急加速させても良い。ですがそれでは精々が打ち身でしょう。そこで防御してはならないほどに魔法の道具や付与魔法で威力を底上げします」

 装備と掻いた文字の隣に、腕力上昇や脚力上昇という紙を追加する。

これで叩き降ろすスマッシュなり走り込むチャージの強化が測れるだろう。そして魔法と書いた紙の隣には、炎の付与に疾風機動といった有名どころの強化系魔法を書いていく。

 

下位魔法であっても、地水火風それぞれの属性に一つ二つは強化魔法が存在するので、どれでも良い。紅包ほどの強い武芸者であれば、攻撃魔法一つと強化魔法一つを使いこなすだけで戦場で無双できるはずだ。

 

「理屈は判る。……しかし武人ともあろうものが後付けの武具に頼るのは問題ではないか?」

「それを申せば質の良い武具や名馬でも同じですよ。それに紅包さまの代名詞と呼べる技にまで昇華すれば問題ありません。大通連……バーレイ相手に飛び道具がズルイなんて言う者は居ないでしょう?」

 この男は御曹司なのだから極論、その辺は何でもできる。

魔法の装備を手に入れることも、都に居る付与魔法の使い手に発注すらできるはずだ。

 

それこそ戦争に成れば命賭けの戦いになるはずで、金を積み上げて勝利をもぎ取ったと批判する奴が出たら笑い者になるだろう。

 

「言わんとすることは判る。しかし、しかしだな親の金というのは……」

「……ではこういうのはどうでしょうか? 自分はいずれ魔法を付与できる術師を招きたいと思います。その折りに必要な素材……それらを魔物を討伐して採りに参りませんか? 場合によっては魔物の皮や骨も素材になるかもしれません。海獣の骨を使った銛や悪竜を倒して造ったという鱗鎧のように」

 装備品に頼るのどうなの? とか言おうとした顔が急変した。

そもそも彼の武芸は侯爵さまの名前を使って、有能な師範について幼少から学んだものだ。魔法の槍だって師匠のお下がりだが、そこに文句を付けないのは自分の努力の成果であると自負しているからだろう。僕だって緋家の縁戚になるから扱いが良くなるのではなく、自分の先見の明ならば嬉しい物だ。

 

そして何より、魔物を退治して財宝を得るとか、そいつを倒すことで得られる最強の武具であるとか。そんな話は男の子にとって何よりの楽しみであり、成し遂げれば武芸譚になるだろう。だからこそ紅包も顔色を変えたのである。

 

「むむ……一領主が付与魔法士を呼ぶとは俄かには信じられんが、そういう事ならば納得しよう。その折には同行をお願いする」

「自分は傭兵ではなく冒険をする仲間を援助するギルドを設けました。その折には魔物を退治しに共に参りましょう」

 実際にそうなるかはまだ分からない。

だが、この場で紅包の出した無茶振りを納めるには十分な切り返しであろう。それに究極の魔法武具ではなく、腕力向上とか脚力向上程度ならばそこまで危険な事にはならない筈だ。

 

こうして最後の難題を無事に乗り越えたつもりになった僕は、胸を撫でおろして港に向かったのである。




 と言う訳で名前だけ出てきた人物の件終了。
次回から蜂退治になります。なお、同時に持ち込まれる案件。

●紅包
 侯爵家の三男坊で折り目正しくなった武芸者。
昔はやんちゃだったらしいが、武芸も魔法も出来て大貴族の息子で二枚目ならそうもなろう。
しかしある時、お師匠さんに見出されてポキっと増上慢をへし折られた。
上には上が居り、『お前くらいの奴は普通に何人も居るぞ』と判らされたのである。
神の加護は陽炎の祝福と言う特殊なバフ。
要するに残像が生じるのだが、その残像にも攻撃判定があるので受け流しが難しい。
二回当たっても一回なので、一定以上の武芸者ならば防御専念すれば防げるのが難点である。
(ゲーム的には二回判定なので)

●下位魔法の構成
 前にも書いたと思われるが、この世界は誰でも覚えられる魔法が存在する。
地水火風と共通魔法(生活魔法を含む)、そして条件付きで覚えられる光と闇。
それぞれが十種類前後の魔法が存在し、属性ごとに得意不得意がある。

一通り存在するが中途半端な風、攻撃力が殆どない水、攻撃が多い炎など。
とはいえ攻撃魔法や強化魔法は1つくらいはあるので、今回の話に用に
「防御ばっかりの敵には、魔法で攻撃したりバフ掛けたりすれば?」
というゲーム脳は意外と成り立つのである。(あまりやらないだけで)
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