妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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侯爵領の西に『L』字状の半島と、その湾内に港がある。
それらを中心にして集落があるが……貴族としてまとまってはいない豪族たちの村であり、自治の形を取っているがその生活は港を中心に回っている。前世で言う漁港や木材港のような物だろうか。
侯爵家はいち早く良港を抑えたが、強権で支配して居ないのでこんな形になっているらしい。もう百年もすれば、侯爵家に臣従するのかもしれない。その当時の侯爵家は完全に併呑するより時間を選んだわけだが、その狙いは確かだったと言えるだろう。
「ここで紅梓と合流するの?」
「正確には水棲種族ともだけどね。ここは彼らの出先機関……交流する場所にもなってるんだよ。双葉」
半島よりも南に水棲種族の領域がある。
しかし半島はL字型であり、陸地が彼らを阻んでいる。これまで抗争になって居ないのは、その立地が防衛に有利な点だ。加えて言うと海の魔物の件もあり、水棲種族としては敵対するよりは、逃げ込む避難先にした方が楽なのだろう。
それはそれとして彼らも港での交易をする都合上、どこかで荷揚げしたいができるだけ丘の上で過ごしたくない。侯爵家に支配されたいわけでもないので、折衷案として豪族たちの村に出先機関があるというわけだ。
「そういえば聞いたことなかったけど、水棲種族てどんな人たちなの?」
「僕も見たことはないけど人身魚頭の近縁種族というから頭が魚だったりタツノオトシゴみたいだったりするようだね。龍頭の人も居るらしいけど、特に特別な血や能力があるわけじゃないってさ」
これまでマーマンともギルマンとも言っていなかったが……。
彼らは複数種族ひとまとめで水棲種族と呼ばれる。お互いに交配可能であるために血が混ざりあっており、今では人間体の上に様々な種類の頭があるという括りのようだ。前世のイメージだと獣人の魚版だと思えばよいだろう。
なお、この世界は下位魔法の中に地水火風以外に共通魔法があり、その中でも普段から使う物を生活魔法というのだが……。陸上呼吸と簡易変身がトレンドらしいので、どれほど交易が盛んになって居るかが伺えるだろう。
「何か美味しいものある?」
「彼らは養殖が得意だからね。臭みが無くて脂の乗った魚介類が食べられるはずだよ。少なくとも紅梓さんのレポートにはそう書いてあった」
「おさかな!?」
考えてみれば当然だが人間が牧畜するなら水棲種族だってするだろう。
それが水の中だから畜産ではなく、魚の養殖と言うだけの話だ。陸の魚は清水に近い恵まれた場所で無ければ泥臭いので、水棲種族が養殖している魚の方がおそらく美味しいはずだ。
紅家の持て成しの中には特に魚はなかったが、こちらに向かうと告げて居なかったら魚料理が入っていただろう。おそらくは新鮮さの問題を知っているので、自慢したいが後から味わうこちらの料理と比べられたくはなかったと思われる。
「新鮮な魚に塩を振って焼いた物が美味しいと思うよ。本音を言えば貝を油で炒めた料理や、酒蒸しがあれば良いんだけど……」
「……双羽。何処でそんな料理食べたの? ズルイ!」
前世を思い出しながら料理の話をしたのだが……。
完全に藪蛇だった。基本的に二人で一緒に居るし、贅沢をして美味しい物を食べに行くにしてもちょっとした冒険で微妙な店に行くときも一緒だった。それなのに僕だけが美味しい料理を知っているというのはおかしい。
とりあえず誤魔化すにせよ、いつか前世の話をする事もあるのだろうか? 気にしないような気もするが、せめて気色悪がったりはしないでくれたらと思う。
「人に聞いたんだよ。だから此処にそういうのに向いた種類の魚介類があるかは分からない。油はともかく酒は怪しいかな……終わったら美味しい物を探そうか」
「……絶対、絶対だよ! 絶対なんだから!!」
すねる双葉は可愛いなあ……と思っておくとしてやるべきことをやっておこう。
先行した紅梓が舟を抑えているはずなので、初期情報を聞いてから水棲種族の領域に向かう事になるはずだ。ただでさえ遅れているので少しでも情報を集めるとして……。
放っておいても新鮮な魚介類以外に口に出来ない日々が続く筈なので、魚醤の類でも購入して味付けを整えたいものである。
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そして無知と知って居るかどうかの差、知識と現実の差。この差をハッキリと理解することになる。
「魚滑木です。よしなに」
「銀双葉です。よろしくお願いします」
現れたのは魚の顔をした水棲種族だ。
デップリと太った青白い体に鯖か何かの頭が乗っているのを想像して欲しい。その体の上から服を着ているのが異質だが、これでも人間の様式に合わせているのだろう。
ちなみに水棲種族は沢山生まれてたくさん死ぬという魚に似た出生率で、成人できると判ってから名前を付けるそうだ。そして頭の形状が一文字目、生業であるとか役目が二文字目以降になる。つまりは滑らかな玉……珊瑚か真珠でも磨いて売る担当なのだろう。
「赤色港の方なら龍学才殿が居られたのですが、こちらであるならば私が対応いたします。御言葉は通じておりますかな?」
「恙なく。早速、お困りの内容をお聞かせください。僕の利いている範囲ですと……」
侯爵領にある港は赤色港と呼ばれている。
紅来川で採れたルビーやら、この辺で交易した珊瑚やら赤真珠を出荷する港という意味が現在の主流だ。侯爵家が傘下に収める前は、血で血を洗う抗争だとか、増え過ぎたプランクトンで赤潮になったことが由来であるとも言われているが。
なお、先ほど言ったと思うが龍頭でも特に特殊能力などはない。
単に人間がありがたがるから、龍頭の水棲人類を留学させて大使代わりになったそうである。奥に引っ込めて祭司とか大臣扱いしていない所を見ると、エルフほどに交渉術には長けていないのだろう。
「ジャイアントビーが年々増えている。去年からキラービーが混じり始め、今年は大繁殖しそうだと見込まれている。そして活動区域が広いので、巣を特定できて居ないと?」
「左様です。付け加えるのであれば、既に被害者が何名か」
意外と正確な地図を無警戒で見せてくれる。
大丈夫かな……と思ったが、よく考えればこの人たちは水の中に棲んでいるのだ。幾ら地図が戦略物資だとは言っても、海流図さえ見せなければ問題ないのだろう。こういうのは種族差というべきなのだろうか?
それはともかくとして、尋ねるべきことは尋ねておこう。
本当は何処が危険かとか、何処に多いのかを聞きたいのだが……。水の中に暮らしている人々にとって、むしろ危険なのは数よりも浅瀬だろう。明らかな危険地帯という説明では伝わらない筈……ちょっと言い回しを考えつつ先に聞くべきことを尋ねる。
「出現頻度の低い場所から少しずつ特定していくとして、ある程度は安全に休息できる場所などがあればありがたいのですが」
「こちらの島に海の魔物と人間たちが争った時の施設があります。どうぞお使いください」
地図の上にベタっと墨で円を書くのはどうかと思う。
まあ彼らはサンゴや真珠を簡単に採って、人間の領域ではありえない安価で売るくらいなので、資金に困ってるとか物が大切という文化ではないのかもしれない。嵐が来たら全部吹っ飛ぶのだから一緒とでも思って居そうだ。
ともあれこれで探索中の拠点は確保できた。
ある程度は壊れているとしても、ジャイアントビーが入れない程度に補強すれば大丈夫だろう。イザと成れば結界を強めに張るまでだ。
「ではもう一つ要望と、条件の確認を。ジャイアントビーからは可能な限り守るつもりですが、危険を恐れない船頭ないし案内人をお願いできますか? また報酬その他の条件に関してある程度目安はありますが、そちらのご協力によって引き下げても構わないと思います」
「案内人であれば打ってつけの者が居ります。条件に関しては、住処や作業所でしたか……」
「ええ。間に人が入ると曖昧になりますので、改めてお話を」
魚滑玉は周辺の漁村を見渡した。
豪族たちの村であり、魚を水揚げしたり水棲種族から買い付けた養殖魚を丁寧に運んでいる。作業所では調理して居る者から、燻製にしたり天日に干している物まで様々だが、このレベルの作業ができれば十分と言えた。
そして間にエルフ族や紅梓が入らない、ダイレクトな話をしておきたかった。そこまで悪度い事をしているとも思わないが、伝聞と言うものは歪む物である。
「それこそ製塩や魚の干物などは、この村や港で買っても良いくらいです。ですからむしろ必要なのは、今回の件の様に虫や獣に魔物などの情報を集める場所。そしてまだ見ぬ植物や魚の他に何か未知の……素晴らしい場所があれば行ってみたいというくらいですね。もちろん聖域や生活に必要な場所へ無理には押し入りませんよ」
真面目な話、港で買い付けても荘園で買うよりマシだ。
行商人を介すれば無茶苦茶な価格になるし、彼らも輸送費用や危険性を距離に掛ければそのくらい取る必要があるだろう。しかし港に駐在所があり、魚介類や宝石を直に買い付けたり、欲しい時に魚醤などが必要なだけ手に入るならば問題などなかった。
だから重要なのは活動拠点であり、移動手段への協力だ。
サトウキビなり南国の果実を手に入れても、自在に輸送できなければ意味がない。数が必要ならば、貯蓄する場所も必要だろう。何より魔物が居るから倒すという話であれば、体を休めて食料を貯える場所が必要なのである。ぶっちゃけ冒険者ギルドくらいの大きさの建物が必要という程度であった。
「お話は分かりました。できるだけ良い場所を探すとして、報酬自体を引き下げる条件とは何でしょうか? それなりの者を呼んで蹴散らすだけの場合と、腕利きを呼んで元を絶つのでは違うと聞いております」
まあまんま傭兵を雇うのに似ている
滞在中の住処があれば、宿を借りる必要がない。食料提供があれば食事を買う必要も、保存食を手に入れる必要もない。案内人や船頭が居れば、それらを雇う必要もない。
前にも紅梓に説明したような気もするが、それらの用意があれば丸っと必要が浮くのである。
「おおよそはそちらにお願いした内容になります。滞在拠点に食料その他、そして案内人や船頭を雇う費用などがまず差し引けます。他にも最後に蜂たちを蹴散らす際に、我々だけで挑むか、魔法の使い手をお貸しいただけるかにも寄ります」
この辺はもう、書面で見せた方が早い。
傭兵部隊を雇う時の要領で、数十人から数百の傭兵を期間中ずっと雇う場合。それらを全て腕利きに切り替えた場合の差分。同じ費用を掛けるにしても、腕利き数人の方が管理し易いのは確かだ。少なくとも聖域に入るかどうかを見張るのは簡単である。
そして情報などの用意もまた、必要期間を差し引くことに使えるだろう。この場合は単純に目撃情報だけを述べるのか、それとも浅瀬などの水棲種族の認識出の危険地帯ではなく、陸上を歩く我々の観点で危険な場所の情報があるかないか。
それらを用いて可能な限り我々を雇う日にちを減らし、可能な限り手間や危険を無くすことで費用を下げる事が可能なのだと説明していった。もちろん本来ならば遠距離出張費用などは上乗せするだろうが、今回は現地に拠点を作る許可をもらう事で、出張料と差し引きするのだとちゃんと説明したのである。
と言う訳で水棲種族との出逢いです。
普通のファンタジーで言う所のギルマンですね。
鯨頭や龍頭などが居るのが微妙に違う所です。
●水棲種族の文化
当たり前ですが農耕や牧畜みたいなことはちゃんとします。
彼らにとって昆布・牡蠣・ハマチの養殖とかがそれにあたる感じですね。
お陰で前世よりも養殖業などは発達して居ます。
ちなみに珊瑚や真珠などの宝石は、南領では割りと安価です。
エルフの琥珀などは貴重さを保つために前提に出荷しませんが、水棲種族はそう言う事考えません。
名前は文中にある通り、直ぐ死ぬ出生率なので成人と共に名前を付ける。
そこまで待つのだから、面倒なので役目が名前になる感じ。