妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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途中でバザーに立ち寄り補給してから現地入りした。
そこで感じたのは自分が水棲種族たちを舐めていたという事実だ。補給したのは二つの島を幾つかの艀で繋いだ市場であり、そこでは周囲の国々からも交易が行われていたのである。
大型の筏である艀は移動できるのが最大の特徴だ、季節や天候によっても変わるだろうが好きな位置で市場を開けるのだから制圧など難しかろう。
「鯨防人です。今回の一件が終えるまで案内人を務めさせていただきます」
「ご丁寧にありがとうございます」
何というか僕の勘違いだったのだが、彼らは別に丁寧でも物腰も柔らかくはない。
生活魔法は下位魔法の中にある共通魔法でも、特に生活に密着して開発された魔法。その中に翻訳魔法があったというだけの話だ。
魚頭ゆえに舌足らずなモノも居る筈なので、そういった面を翻訳魔法で調整している。しかし所詮は生活魔法なので、完全には翻訳し切れて居ないし、個人個人のニュアンスなど画一的に丁寧語に変化するというだけであった。
(しかしここに寄って正解だったな。本国の連中……水棲種族がここまで大規模な交易とかしてるなんて思ってないだろ。文明だって決して低くない。重視してるモノが違い過ぎるだけだ)
鯨防人は水中でも邪魔しない簡単な鎧とクロスボウで武装していた。
クロスボウの方は水中銃の劣化版みたいなもので、この時代ならば十分に機能するだろう。探せば他に何かしらの文明的なアイテム……薬品だの何だのとあるかもしれない。仮に水棲種族が開発して居なくとも、他の国で買った可能性はあるのだから。
彼ら水棲種族はともすればアッサリ死ぬし、嵐でもくれば一瞬で文明が崩れさる。だからこそ刹那的で目の前に投資し、集中するが決して愚かではないのだ。迂闊に蛮族だなどと信じたら危険な事になるだろう。
(ともあれ今はその辺を理解したって事で十分だな。現時点で出生率とか長期視野とか欠点は目白押しだし)
善意を持って協力を要請してくる相手には善意で返せば良い。
今の処はそれで十分だし、相手を蛮族と侮っての適当な対処を危険だと知ってさえいれば良いだろう。適度な付き合いの中で弁えてさえいれば良いのだ。
よく考えたらエルフだって相当に抜け目なくて交渉上手だったのだし、水棲種族が頭悪い訳はないのだ。有能な人物はいるし、独特の価値観を有していると知って居れば問題ないと思われる。
「しかしすみません。急な要請で」
「いえ。あの群島は貴重な場所でもありました。子供たちを守る事にもなりますし、市場の候補地でもあります。お気になさりませんよう」
この旅で知らされた事だが、彼らは一丸となって動く。
前世での海賊は船ごとに別の組織で、滅多にいない海賊団規模でようやく同胞意識を持つ程度だったという。だが水棲種族は連絡網を持ち、仲間の為に一丸となっているのだ。船と言う括りがないのも大きいだろう。
ともあれ文字通り水先案内人を得て、目的の群島に到着することになる。
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到着後に思い返すと、群島はエルフの領域から見ても南側である。
これだけ離れて居れば渡って来ても端っこであろうし脅威にはならず、紅梓たちが他人事の様に扱っていたはずだ。
最初に地図を見た時、西側に陸地があるのを間違いかと思っていたが、直ぐ南だったら東であるはずというイメージからである。今思えば中型船で移動するのだから近いはずはないし、そんなに近いのならば侯爵領から派兵されていただろう。
「流石に早いな。人間の案内じゃあここまでの日程じゃ無理だ」
「そりゃあそうでしょうよ。水深だの海流だの良く知ってるんだから」
喫水の問題で通れない場所もあるが、水棲種族さえ居れば問題ない。
ショートカットし放題だし、海流に乗って風向きの良い位置に移動すれば良いのだから、そりゃ移動速度は比べ物にならなかった。
そして一連の会話から思い起こされるのは、侯爵さんやエルフたちの水棲種族への理解度である。当然ながら馬鹿では指導者は務まらないし、侯爵さん達もそれなり以上に彼らの事を理解していたのだろう。
「ここまで来ただけでも遠出した価値があったね」
「うん。また来たい」
「お金出してくれるなら私が往復してあげるわよ」
移動再開中に情報量の多さに感動しているのだが……。
双葉と紅梓はそれぞれ壺を抱えて奇妙な友情を育んでいた。具体的に言うとフルーツの砂糖漬けである。
こちらでは塩も砂糖も普通に採れるし保存料でもあるからな。本国と比べたらビックリの現地価格である。同じ重さの金とは言わないが、三倍から五倍の費用が掛かるだろう。そして往復の手間を交渉材料に、紅梓は自分の代金を双葉に押し付けている。
「双羽双羽。後でこれで何か作って♪」
「こっちにいる間にジャムを作っておくとして……まずはガレットと大判焼きのバージョンアップかな。砂糖の甘さに慣れないと……慣れ過ぎても困るけど。その前に掃除と周辺確認だね」
島への到着でようやく地図の縮尺が判る。
この後に干潮と満潮を見ることで、この周囲の島々の情勢がようやく判明するだろう。
とりあえず判るのは大小さまざまな群島と、大き目の島……人間の領域がある事。
群島で採れる食材を加工し、あるいは海の魔物から逃げ込む先にすることができるという意味で、この周囲は水棲種族にとっては高額な費用を払ってでも取り返す価値のある場所と言う事だ。
(小さなオーストラリアと無数に砕け散ったニュージーランドって感じかな? まあ中国とオーストラリアほど離れていないけど)
ちょっと違うのだが、おそらくこの表現が一番分かり易いはずだ。
大きな島は最も西であり、そこから群島としてここから見た感じ五つの島が連なる。もっとも干潮時や水棲種族にとって意味のある岩礁も含めれば、大小合わせて二十以上の島があるらしい。
ただ巣を探す必要上、岩礁などは調査する意味はない。
五つの島を順番に回り、巣を特定して悉く殲滅する。おそらくはその流れで済むはずなのだが……。
「紅梓さん。風の変化とか判る? ずっと西から東向きなのかな?」
「そうねえ。うちに来るからそのはずだけど、偶に妙な風が吹くとかあっても知らないわよ? 私だってここには初めて来るんだから」
「了解」
ということは西にある大きな島も怪しいという事だ。
基本的にあちらから東へ吹くにせよ、干潮時には陸続きになるような場所である。何かのキッカケで風向きが逆に成れば、あちらへ渡るのも楽だろう。
仮にそちらの方にも果実のなる樹がある場合、風に逆らってでも蜜を集めに行く可能性はあるだろう。帰り道は風に乗れるのだから、トータルで射程圏内だと判断する可能性は大いにあった。
(というか人間の領域だから蜂退治を頼まれて居ないだけで、あちらにも普通にいる可能性はあるな。そこまで面倒見切れないと返されるかもだけど、向こうの方が本拠でも困る)
これまでエルフと水棲種族経由で話を聞いていた。
だからこの島に巣があるのだろうと思っていたが、あちらの方に巣がある可能性もゼロではない。いや、果実のなる樹の分布次第では、あちらの方が絶対多数と言う可能性すらあるのだ。
人間の領域としか知らされていないのだが、蜂が来ないエリアにだけ人間が生き残っている可能性だってあるだろう。
(その辺の情報収集と、植生の把握が先決か。何も無ければパパっと回ってもらえば済むし)
まずは全容を把握しないと意味がない。
群島の蜂を苦労して片付けた後、大きな島から群れなして株分けされても意味がない。今後数年は良いにしても、その数年後にまた同じことが起きるだろう。
もちろん冒険者ギルドにもう一度依頼させる手もあるが、結果が判って居て同じことを繰り返すのはどうかと思う。もし根に持つタイプの人間が居たらきっと許さないだろう。
「暫定的に方針を五段階に分けます。蝦鷹視さんが戻り次第に行動開始」
「「了解」」
周辺探索を頼んでいるので、彼が戻り次第に行動に移る。
まともにやると面倒なので、大雑把に行動スケジュールを区切って方針を打ち出す事にした。
その方針にさえ従ってくれれば水棲種族だろうが大通連だろうが勝手に動いてもらって構わないし、方針に反したら大通連でなくとも細かい指示で抑制せざるを得ない。
「まず蜂は匂いを探り、匂いを言葉代わりに出すので迂闊な刺激は避けてください。その上で第一段階はこの島の確保。安全な拠点として戻ることが出来るように防備を整えます」
「匂いですか?」
「らしいわよ」
最初に匂いの話をしてから決定を伝える。
こうしておかないと『倒せる内に倒しておく』とかやられると、蜂は警戒するし増援がビュンビュン飛んできて面倒くさいことになるからだ。
その上で北辺にあるこの島の安全確認、および砦化を最初にしておかなければならない。でないと蜂の大群に襲われた時に逃げ場がなく、教えられた通り潜って蜂が居なくなるか空気がなくなるかを待つしかなくなるためだ。
「第二段階は外周の確認です。群島の西辺にある島と、西にある大きな島の間で蜂の行き来が無いかを確認。調査に無関係なメンバーは、この島から徐々に手を広げていく予定です」
「そりゃ。向こうから来てる可能性もあるわね」
「臭い物を絶つには元からじゃな」
それなりに長い付き合いになったので紅梓と剛盾は即座に理解した。
二人は傭兵としても行動していたし、周辺の環境やら僕の立てる作戦にも理解が深い。
後は布石を打ちながら徐々に範囲を狭め、ゆっくりと巣を無くしていくだけだ。
「鯨防人さん。あの大きな島に居る人間たちのとの交流はありますか? 無い場合は西辺周辺の植物だけでも判れば……果実や蜜の出る花があるかないかだけでも助かります」
「勝手に探す訳にもいかないでしょ? 知ってる範囲で良いの」
「ふむ……」
蜂の往来が無ければ後は簡単だ。
森林ならば紅梓に探索を頼んで軽く回って来てもらえば良い。しかしそこが人間の領域であり、果樹園ではないにしても何らかの蜜が出る花があると面倒な事になる。
人々の出入りがあるだけでも面倒なことになるが、一番面倒なのはジャイアントビーを定期的な蜂蜜の供給源にしている場合だ。その場合は責任問題として苦情なり交渉を入れてもらわなければならないし、そうでないにしても勝手に入ってきて狩場を荒らされたらたまらないだろう。
「彼らの本国はもっと西であり生活圏もそちらの筈ですが……。確かにそうですね。誰かを送って立ち入り許可を取っておきましょう」
「ありがとうございます。ソレなら何とかなりそうです」
これで最悪は免れた。果樹園を生活圏から離す訳はない。
つまり西辺から上陸した周囲に森林があるとして、そこは住人の狩り場程度だろう。それならば蜂の巣がある場所とは思えないし、あったとしても小さい物だと思われた。
それとは別に、水棲種族があの島に対して強く出れるということが判ったのも大きい。鯨防人は事も無げに口にしたが、翻訳魔法の誤訳でない限り殆ど断られないと確信して居ることになる。まあ島に住んでて水棲種族相手に逆らうとも思えないが……何かあっても文句を付けられることはないだろう。
「紅梓さん。第二段階に移行した時点で、匂いを保つから向こうの探索お願いできる?」
「任せといて」
西にある大きな島に何もなければ後は群島の探索だけだ。
島を一つ一つ捜索し、場合によっては匂いを遮断したり、逆に開放しながら各個撃破して行けばよい。最悪、島の一つを丸焼きにすれば収まるだろう。
全体像の把握が第三段階、水棲種族と相談して実行に移すのが第四段階。危険があるが力押しで倒せるならば、訓練を兼ねて徐々に制圧するのが最終段階である。
移動に時間を掛け過ぎたので計画は今回で終了。
蜂退治の大筋は次回で終了と言う感じの予定です。
まあ魔物と言っても蜂ですしね。パターンを掴めばそんな物です。
あとは今回の情報としては、水棲種族とか外国とかの話。