妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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駆除作戦の開始

 キッチリとデータを残しながら状況を進行。

拠点は壊れた場所をジャイアントビーでは破壊できない程度に補強しつつ、西側の確認を終えた。幸いなことに蜂が行った痕として針が残されていたが、数が少なかった為か何者かによって倒されていたと思われる。

 

おそらくが現地の人間か、さもなければ大型の獣が倒したのだろうとの意見だ。

 

「銀大人。新しい状況進行表、感謝の念に堪えません。前回の提出にも長老たちも満足していると思われます」

「いえいえ、お役に立てれば幸いです」

 そこまでする必要はないが、僕は石板に報告書を刻んだ。

定時連絡なのか、何か大きな状況変化なのかをまず記載し、次に結論から入って内容を説明する。とはいえ基本的には予定通りに進んでいるという訳で、大きな変化などないのだが、冒険者ギルド込みでこういう習慣は根付かせておきたい。

 

施設の修復を始めとした北辺の島の確認、西辺から人間の領域に蜂が居なかった事の報告。それらにより全容を把握したので、これから作戦を開始するという旨の通達だ。ここで異論・反論がなければ、僕らは蜂退治を徐々に進行していくことになる。

 

「銀大人にお願いがあるのですが、匂いを封じて討伐を行う方法を教授して頂けませんでしょうか? 代価はお支払いするとの長老たちの意見です」

「……そう来ましたか。可能な事と、難しい事があります」

 この話はとても難しい。まず色々な意味で教えても良いかという問題だ。

専門の狩人に『君の儲け方を教えてくれ』と声を掛けるのはマナー違反である。これで食ってる連中にそんな事を口にしたら、喧嘩を売っていると見なされるか、相当な代価を要求されるだろう。

 

次に此処に来るのが面倒だし構わないか……と言う判断もできるのだが、応用によって他のナニカが異様な発展をした場合が問題になって困る可能性もある。それこそ出生率が激変して、水棲種族が沢山増えたら責任取れるのかなどだ。

 

(でも、なあ。僕にとっては少し話が変わって来るんだよな……)

 匂いを封じるのは、神職の能力だ。神様布教を考えたら悪い提案ではない。

実際には海の神様の教えになるのだろうが、九天玄女様が知恵を授けたとか、冒険者の神としての括りとして意味が出る場合などだ。

 

直ぐに何もかも教えるのではなく、少しずつ問題なさそうな範囲で教えつつ、それが神々の交流とでもしておけばどうだろうか? 近場に居る他の種族へ教えるよりは水棲種族の領域は遠いので安全な気もする。遠くて簡単に育てられないのであれば、指南車モドキを羅針盤代わりにされる可能性も減るだろう。

 

「まず僕は知識の神……口伝で大切な事を教えてくれる神様の神職です。だから教えるのは良いのですが、神職の能力ですので相手は同じような神職とか巫女に限ります。教えても使えませんからね」

「むう。それは少し難しいですね」

 当たり前だが種族によっては居ないし、人の間でも数が少ない職である。

便利でも強くも無いので需要はなく、同時に必要な時は必須と言っても良い程に必要な職なのだ。それこそ聖域の管理とかで巫女やら神職が居るとしたらそこに必要だから居るのである。

 

そんな中で余所者に付けてジャイアントビー対策とかさせられるのか? と言う問題が出てくるわけだ。

 

「また、これは神職が持つ当たり前の能力を、応用するコツなんですよ。教えたとして一朝一夕に身に付くとは思えないので、覚えるまで僕と同行して人間の領域に行くのは非常に難しいでしょう」

「確かに。それでは諦めるしかありませんか」

 単純に保全能力や結界を許可しても意味がない。

また応用を聞いた後で、外周だけを防御してエネルギー効率を良くしたとしよう。だがソレは本当に良い事だろうか? 例えばガスなどは抽出され合成される物である。匂いを遮断したはずなのに内側で充満するガスに気が付かない可能性はあるし、臨時の壁ならまだしも、子供たちを守るような場所なら有害物全部を排除するままの方が良いはずだ。

 

こういった事に対処するには、様々なパターンを実地で学んでいかなければならない筈だ。となるとどうしても僕の傍で学ぶ必要があるだろう。まったく応用する気が無いのであれば、それはそれで妙な発展が無いので助かるが。

 

「あとは候補者の子たちを預かるとか、既に絶えた神様の兄妹神・姉妹神を復興させる一環くらいでしょうか」

「候補者や兄弟神ですか?」

「現役の巫女や神職を呼ぶのは非現実的です。しかし……」

 ここで求める人材をワンランクかツーランク落してみる。

こちらは概念構築をしたいのだし、あちらも将来の保険を増やしたいだけだ。現時点で必要な人材を右から左に動かしたいわけでもない。

 

「後継者の候補……それも二番手以下の者では如何でしょうか? 上手く覚える事が出来れば上位の候補になれます。仮に次代の巫女や神職でなくとも、群れを守る隊長の一人にはなれるのでは?」

「確かに候補のみなら何人も居ります」

 神職は何人も必要ではないが、絶やすわけにはいかない。

だからこそ後継者候補までなら、数人居たりするわけだ。その中で有望な者を次期巫女なり神職にするとしても、加護の関係やら本人の性質で惜しい者だっているはずだ。逆に覚えは良いのだが加護が全くない者が居たとして、ボーダーライン上に居る者であれば送り出して損はない。

 

それらの候補生の中から、人間社会に入り込める者を僕に付けてはどうかと提案したのだ。まあ暮らすだけなら川の周囲に水路を作っても良いし、サウナの隣にある水風呂を拡張しても良い。

 

「そして現時点で教えの失われた神の系譜を再興する一環という手もあるという事です。海の神の兄弟神なり姉妹神として水の神が居てもおかしくはないでしょう。もちろん風の神でも何でも良いのですが」

「そういえば我々に親しい人間たちの中に、そういった者も居ると聞き及んでおります。村長にもですが、そちらにも声を掛けてみましょう」

 どうやらこの様子だと、どこかの島に系譜の絶えた神職が居るらしい。

神職が居なくなって失伝してしまっているが、信仰そのものはまだ残っているパターンだろう。あるいは魔法を学ぶ余裕が無かっただけかもしれないが。

 

ともあれこの件に関してはここまでだ。

おそらく蜂退治が終わるまでには間に合うまい。後からエルフなり侯爵家経由で連絡でも寄こすだろう。

 

 さて、作戦実行に際して幾つか確認事項がある。

これらを全員に周知し、徐々に群島を攻略していく。匂いの件は既に伝えているが、作戦概要は石板を送った族長なり長老衆くらいしか知らないだろう。

 

ちなみに今回はエルフやら水棲種族を合わせて二十名ほどで決行する。ただしそのほとんどは見張り要員である。

 

「作戦前に幾つかの事を伝えておきます。匂いの件はみなさんに周知して居ますが、それと同じくらいに重要な事です」

「なんで俺に向かって言うんだよ」

「君が一番心配だからだよ」

 ここに来て合流した大通連も含めて全員に周知する。

戦うにしても逃げるにしても、とても重要な事だ。具体的に言うと小さな獣ほどもある蜂がどれだけ危険であるか、逆にどの辺が弱いかを知っているかどうかで対処のしようが違うのだ。

 

サイズが大きくなったことは蜂にとってメリットであり、同時にデメリットでもあるのだから。

 

「まず大型化した昆虫の恐ろしい部分、ジャイアントビーなどは元の虫と同じ能力で、それを数十倍の力で行使してきます。昆虫はあのサイズで獣よりも素早く強靭で力が強いから、そりゃ巨大化したら強いですよね」

「何を当たり前の事を言ってんだよ大将。ここにあいつら舐めてる奴は居ねえぞ?」

 豪傑である大通連ですら油断できない相手、それが巨大昆虫だ。

ジャイアント・ビーなど速度やパワーが凄まじく、小型バイクが体当たりして来るぐらいの強さがある。しかも空を飛んでいる上に、集団というのが恐ろしい。

 

だが、それだけだ。

それしかないのが巨大化昆虫の欠点である。逆にデメリットを抱えているので、元の虫よりも駆除し易いまであった。

 

「では彼らの弱点を知ってる? 彼らは元の昆虫よりも幾つかの点で弱体化してるんだよ」

「あ? 知らねえけど、餌とかか?」

「それもあるけど、元が強靭だから思ったより長持ちするかな」

 確かに巨大昆虫は環境の変化に弱い。

僕も前に言ったけれど、寒くなれば眠るし、熱く成り過ぎればそれだけで死ぬ。もしあの森が丸焼けになったら火達磨にならなくても全滅するだろう。

 

そして何より、関節部であるとか空気を吸い込む穴……気孔だっけ? そういう部分が元の虫よりも脆弱なので、不利な状況に追い込まれたら簡単に死んでしまう。だが、そこは重要ではない。元の昆虫よりも強靭だから、中々死なないのだ。プラスマイナス・ゼロくらいに考えておこう。

 

「虫を素手で捕まえようとして簡単にできる人は居ませんよね? それは彼らが僕らが動き始めた『後から逃げて、先に行動できる』からです。しかし巨大化昆虫はそれが出来ませんし、何よりも遠くから姿が判ります」

「あ……」

 思考速度と行動速度の差と言うべきだろうか?

昆虫を始めとして、小さな生き物はそのサイクルが小さいのだ。人間ほどの大きなスパンで行動できないし、策略なんか考えたりしない。しかしこちらが動き始めてから回避しても、悠々と軌道変更が間に合ってしまうのである。

 

だが巨大化昆虫はそれができないのが致命的だ。武器を使えば普通に当てられるし、避ければ回避することができる。そりゃ移動距離は長いし素早いが……絶対に倒せない相手では無くなってしまっているのだ。

 

「まずは遠くから、それも風下からゆっくりと行動半径を調べていきましょう。遠くならば攻撃されても間に合います。鮫や猟犬の群れではなく、猪とか魔物とかそういう類の敵だと思ってください。そして最初の忠告、倒せるけど倒さない事」

 空飛ぶ猪だと思えばいい。

空中を飛ぶのは厄介だが、真っすぐしか来ないならば避ける事ができる。空中に居るのだから見分けることもできる。イザとなれば魔法でまとめて攻撃するか、巣ごと焼き払えばよいのである。無理をする必要は全くなかった。

 

ではこの人数は何に使うか? 当然ながら外周から小さく輪を縮めていくためである。

 

「水棲種族の人たちは、水の中からゆっくりと時間を掛けて確認してください。何処の島から何処の島に移動があった、まるで移動して居ないなどですね。まったく移動の無い島から上陸して片付けましょう」

「承知いたしました。銀大人」

 干潮時に出て来る小さな島は考えないので、最大で五つ。

その内の北辺・西辺は既に探しているので、後は三つだ。おそらくは果樹園代わりに使っていたという最大の島であろうと思われるが、他の島にも果実の成る木はあるので油断はできない。

 

まずは移動の無い島を特定して、居ないことを確認するか、居たとして殲滅してしまおう。

 

「エルフの人たちを中心に、斥候能力のある人はその後に上陸します。大通連や鯨防人さんたちはその護衛。彼らが無事なら何度でもやり直せるので、もし群れに出逢ったら躊躇なく引き返してください。場合によっては隠れる事が可能な物を輸送します」

「了解、まっかせといて」

「承知いたしました。銀大人」

 紅梓の方は笑って応じたが、水棲人類組は画一的だ。

仕草の方が少しずつ違うので、やはりこの辺は翻訳魔法の曖昧さだろう。とはいえ彼らにとっては丁寧語に聞こえれば十分なので、問題はあるまい。

 

これでおおよその作戦概要は終了した。

上陸すると判った段階で、斥候組に匂いを保全しておけば問題ないだろう。範囲ではなく個体に掛けるから長持ちするし。

 

「僕と双葉そして剛盾さんはこの島に残ってやって来る蜂を観察します。双葉は眠りの魔法を、剛盾さんは区別する為の小道具をお願い」

「ん」

「判った」

 あとは僕と双葉の方で、色々と悪さをして行く。

ジャイアント・ビーを倒さずに眠らせて個体識別して、指南車モドキを使って巣を探すのである。

 

眠らせた個体、次に一番近い蜂という風に指標を作成して、少しずつ観察すれば相手の動きが見えて来るだろう。何体目かの蜂を眠らせて観察対象にすれば、指標を使った三角測量で見分けられるはずであった。

 

そして相手の巣と思わしき場所を特定し、殲滅するまでである。

 




 と言う訳で概要を掴んで終わりです。
人海作戦で全ての島を見張り、どこにジャイアントビーが居るかを確認。
後は個別に調べて行けば終了ですね。

●ジャイアントビーの欠点
 いろいろなファンタジー作品を見て思ったのですが……。
虫がやってる緊急回避って、大型昆虫やらないんですよね。
クロックタイムが違うというか、腕前の良い戦士なら普通に倒せるレベル。
同時に三つの斬撃を放たなくても倒せます。
まあ集団で居るのと、高速移動があるので問題ではあります。

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