妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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さて、行動開始だという所で茶々が入った。
赤色港からの直通便で僕宛ての手紙が届いたのだ。それも二広からの手紙……侯爵領での事件に関する相談であり、急な返事を要するやつである。
できればもうちょっと前後した時期に、待機して蜂の動きを情報待ちするころに欲しかったものだ。
「鯨防人さん。この折り返しの次は時間が掛かるのかな?」
「はい。急ぐのであれば返事を持たせた方が良いと思われます」
と言う事はあまり余裕のない頭で考え、即座に手紙を書かなければならない。
仕方なく木の板をメモ帳に、幾つかの情報を精査することにした。優先順位の上から片付けるとして、あちらでの情報収集や被害を考えると、どう考えても少しでも早い返事が必要だからだ。
という訳で群島調査隊の内、上陸する紅梓たちに匂いの保護を使用。
次いで手紙を書いて送り出し、僕ら自身の蜂対策と言う塩梅だ。忙しくて目が回りそうだが、僕しか担当者が居ないので仕方あるまい。神職にしてもギルドのスタッフにしても、バックアップ・メンバーが欲しい所である。
(しかし、人に化ける虎。ライカンスロープか。人狼ゲームみたいだな)
二広からの要請は、侯爵領の一角で人間に化けた虎が出るという話だ。
そいつが領民を襲うらしいのだが、これまで表沙汰になってないのが気に掛かる。大きな事件であれば僕が紅来川に滞在していた数日で、耳にしていても良いはずだからだ。
正直な話をすると、惜しいと思う。
本来であれば僕も直接かかわって何とかしたいと思う問題だ。色々な背景が考えられるし、本当の魔物であったり、水棲種族のような人身獣頭の種族かもしれない。隠れている相手を焙り出すにせよ、目の前に居るかどうかで変わって来るのだ。
(しかし獣人関連ねえ。アンデッドに精霊に巨大昆虫と来て、獣人! 次は何来るだろう? それともこっちから意欲的に関わってデータとして残すべきなのかな)
そんな妄想を抱きつつも、時間が無いので手早く行動をまとめる。
最初は情報収集しかないが、背景事情を確認しなければならない。人虎が本当に人に害を与えているのか、狡吏が押し付けているだけなのか、それともいったん遠くへ移動しているだけなのか。関わる者が結託して匿っているのかなどだ。悪いが種族としての獣人であったとしても、本当に被害があったらどうしようもない。逆に魔物であれ、人の心を得て取引可能ならば話は変わって来る。
と言う訳で僕としては情報収集に努めて欲しいとしか言えない。
その上で、表立って動く者とは別に、裏から調べてくれる者を手配すべきだとしか言えなかった。こう言ってはなんだが、二広は目立つし調査向きではない。むしろ表だって公的機関を訪れて事情を確認しつつ、裏で人を動かすべきだろう。彼にその伝手がなければ、傭兵でも雇うか紅包さまにでもお願いするしかなかった。
「鯨防人さん。これを赤色湾経由で緋二広にお願いします」
「了解しました」
舞い込んだ別件の仕事にひとまずの対処。
そして僕らは本命の蜂退治に乗り出すことになった。無駄な時間を食った気もするが、これも人の世の不条理と諦めて仕事に取り掛かることにした。
既に紅梓や蝦鷹視たちは動き出しているので、僕らが直接調べる蜂の軌道調査である。
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と言う訳でようやく蜂の調査を開始。
北辺の島にある果実のなる樹の一角に向かい、ちょっとした小細工をする。いつもの指南車モドキの出番だが、今回は安全の為に馬車の中から行動である。
蜂があまり活性化してない時間帯から出掛け、できるだけ近くで眠りの魔法を掛けたい。まずはその外縁から、無理なら翌日もう少し近くに……と言う面倒はしたくないので裏技を使用する。
「双葉。あの辺までなら大丈夫?」
「うん。でも……もったいない……」
ここまでは大丈夫だと保証されている位置まで馬車で移動。
馬車から持って降りるのは長いロープと、とあるモノ。ロープは馬を安全地帯に戻すついでに離れた位置に居る剛盾に渡し、とあるモノは逆に果実の成る樹に近い場所に置く。重要なのはソレの出す匂いと、一番近い果実の成る樹の匂いを管理する事だ。
そして広い器に入れたり布に染み込ませたりと工夫を凝らした蜜を置く。
当然ながらその周辺には時間制限付きで薄い膜の結界を張り、他の工作が終って馬車に戻るころには自然と解除されるようにしておいた。そして似たような結界を時間差で少し離れた樹にも掛けておくが、こちらは先ほどよりも長時間掛かる様にしておく。
「これで周囲の果実からは匂いがせずに、そこにやって来るはずだ。そしたら眠りの魔法をお願いするね」
「んー」
そして僕らの乗る馬車にも同じような結界を、別の匂いを元に仕掛ける。
こちらは蜜ではなく、蜂が嫌う臭いだ。眠りの魔法をかけ、個体識別が可能に成ったら僕らとしてはストレートに離れていきたい。そのために果実のなる樹は一足先に結界が解けるようにして、こちらはギリギリまで維持しておくわけだ。
これで指標が完成したころに、相次いで二か所の結界が解除され、蜂たちは果実の香りに晒されつつ嫌な臭いからは立ち去るという計算になる。
そして……。
「うわっ。いっぱい来た。あれが食べ物だったらいいのに……」
「蜂の子は食べられるって言うけどね。まあ今の処、そのつもりはないけど。……じゃあ眠りの魔法をお願い」
「ん」
前にも居たと思うけれど、方向を指定する為の指標作りには認識が重要だ。
一体だけなら一番近いジャイアント・ビーと言うのも可能だが、今回は沢山いるので入れ代わり立ち代わりする蜂のレーダーにしかならない。だから『一度眠らせたあの個体』という認識をしないとならないのだ。
そして剛盾に頼んで複数用意した針の内、『一つに一番近い個体』、次いで『眠ったあの個体』に対する方位を保全していく。これであいつらが移動したら自動的に針がクルクルと動く筈である。
「あ、こっちに来てる蜂が向こうの樹に行ったよ」
「二つ目の結界が解けたね。じゃあそろそろこの車から匂いがするはずだからマスクでもしてて」
準備した蜜の方はもったいないが、回収できるのは夜になるだろう。
そこまで放っておいたら埃塗れになりそうなので、この際だが放っておくことにする。この位置からでも結界を広げられないことも無いが……どんな指定にすれば蜂を遠ざけられるか分からない。
忌避剤の類を向こうにも撒いておけば良かったかなと思いつつ、諦めて別の場所に移動することにした。蜂を刺激しないようにゆっくりと馬車を降り、剛盾と一緒に馬車を引っ張って回収すればここでの作業は終わりである。馬もこちらに居るので楽勝だろう。
「どんな塩梅じゃ?」
「今の処は成功かな? 途中で何かに殺されても困るし、分布を確かめたいから別の場所に行こう」
馬の場所に居る剛盾に指南車モドキを見せる。
一番近い蜂を示す針はクルクルと忙しく動き回るが、眠らせた個体を示す針はゆっくりと別の場所に移動し始めた。おそらくは巣に戻っていると思われた。
継続観察と三角測量を繰り返せばその内に判るはずだが、念のために別の個体を確認しておく。鷹の類に襲われたらジャイアント・ビーでも危ないし、海の中からナニカが襲ってこないとも限らないからである。
「後は詰めていくだけの筈……。問題は予定が詰まっちゃったことかな。どうしたものか」
少しは休みたいけれど他にも予定があるので、移動時間に考察。
まず目下の問題である蜂退治に関しては巣を特定して排除するだけだ。しかし二広に頼まれた人虎の件もあり、それを片付けると僕の荘園に戻れるのが何時になるか分からない。
こんなことなら判断する事が無いからと傭兵を引退した仲間に適当な任せ方をせず、正式な代官にでも任命して置けば良かった。特に問題が起きてなかったとしても、報告書を定期的に送ってもらうとか、伯爵家なり他の貴族から何かあった時に『代官だから』と対処できるからだ。
(今回はまだ良かったけど、将来に同じことが起きたらマズイな。妹君と結婚した後に、伯爵家から代官を送り込まれても困る。行政担当だけでも決めて置かなきゃだし、冒険者ギルドとか洞府に関しても規模が大きく成ったら今のままじゃ駄目だ)
結婚した場合、妹の要請で代官を送ったとかいう言い訳が立ってしまう。
方針を踏襲するならともかく、勝手な判断で色々な……例えば異種族とモメられても困るのだ。エルフやドワーフとの境界線は青悟も立ち会ってる正式な書面だが、領内の活動に関してはトップの裁量の内である。つまり代官が勝手に『異種族は入って来るな』と追放してしまう可能性もあったのだ。
かといってあの時点で『代官にするからお願い』と言ったとしても、彼らも困るだろう。何しろどんな方針でどういう風に経営して、問題が出たらどうするかなど取り決めていなかったのだから。そういう意味ではギルドや洞府は成立して手間も無いこともあり、する事自体がないという点で問題その物が無いので助かっている。しかし将来も同様では困るというのは確かであるのだ。
(人虎の件は面倒が持ち込まれただけだけど、今回の問題を思い出させてくれたっていう意味では幸いだったな。戻るまでにある程度決めて、色々解決していかないと)
馬車に揺られての暫定的ながら、そんな感じで方針を決めた。
やがて次のポイントに到着した所で、寝ぼけている双葉を起こして次の蜂を眠らせる為の準備に入ってもらった。
そして二匹の移動経路及び、紅梓さんの向かった上陸班の報告を受けて最終目的の概要が判明したのである。
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複数筋の情報を総合して判断すると巣の位置が浮上した。
良い面と悪い面があり、悪い面は巣が複数ある事。良い面は一つの巣には思ったよりも蜂の危機が緊急ではないという事だ。
つまりは何度かに分けて巣を潰しに行く必要があるが、既に株分けをした後だからそれほど急ぐ必要はない。
「位置的に元の巣が中央にある一番大きな島のこの辺。双葉の眠らせた蜂は両方とも此処に行ったからね。位置的にもう一つ巣があるとして、目撃された移動半径と風向きを考えると東辺の島の何処か……かな」
「株分けが近くに収まったって感じかしら?」
「多分ね」
おそらくは西から東の風に乗って移動するつもりで、近場に留まったのだ。
もちろん勘違いの可能性もゼロではない。もっと前に株分けした巣であり、これから増殖する間際と言うパターンもありえるのだ。
だからこそ、暫く安全だと仮定してここで手を引くのはありえない。少なくとも東辺の島にある巣を攻略して、最低でも中央にある島のみを観察できるようにしなければならない。理想を言えば中央も制圧が必要だろう。
「では最終過程に入る前に、東辺の島を先に攻略するよ。上陸班は風下に回って探索しつつ、巣が見える位置を確保。風上から匂いで蜂をおびき寄せる班が先に動いてから強襲。場合によっては狙撃で片を付ける」
「なんだかここに来て強引ねえ」
「そりゃ巣だからね。匂いが無くても巡回する蜂は居るさ」
ジャイアント・ビーは生物だから、同じパターンで攻めることができる。
おびき寄せて分断し、あるいは忌避剤で遠ざけることもできる。しかし巣や子供の居る周囲と言うのは別格なのだ。生物だからこそ偵察網は厚いし、攻撃すれば過敏に反応するのである。
とはいえここで強襲戦をするからと言って、知恵を使わないというわけでは無い。できる限り最大級の準備をしてから行いたいものだ。
「剛盾さんと鯨防人さん。準備の方は?」
「射程距離は短いが何とか投石器が準備出来たぞ。ただし性能は期待するな」
「水流操作を使える者は数名。材料の方は十分に届いております」
以前から頼んである物を使って蜂たちを攻略する。
東辺攻略作戦の成果次第では、中央の島を水棲種族他だけで攻め落とせるだろう。
手を抜くつもりはないが、後進を育てる意味でも彼らに任せてしまいたい。僕は何度もここまでくるわけにはいかないからだ。
「何を用意したのよ?」
「前に言わなかったっけ? 石鹸水を使うんだ。投石器で飛ばすから怪しいけれどね」
途中でまき散らす形になるので散布率は低い。
だがそれでジャイアント・ビーの勢いが削がれるのであれば十分だ。最初は激高して暴れまわるだろうが、その時に攻める必要などない。その後にまだ動き続ける様ならば、水流操作の魔法の出番である。
この水流操作の魔法だが、1m立法メートルほどの水を浮かばせてコントロールする程度の術だ。地味な魔法で僕らの間ではそれほど使い道がないのだが、水棲種族たちは陸に水を上げる時に使うので需要がある。だから数人程度なら呼び寄せる事が簡単だった。
「強襲戦に際して投石器。上手く掛からない様ならば、ある程度収まった後で移動しながら使用します。狭くても良いから壁を作ってください。その中に隠れて移動しますので」
「心得ました」
数名の術師で何ができるか? 攻撃魔法ならばまだしも。
その答えは水の壁であり、薄くても構わない。泡の層を突破した蜂は直ぐに呼吸困難になるし、そもそも水の壁にぶつかって勢いを削がれた蜂など怖くはなかった。少しずつ倒して殲滅できるだろう。
もっとも、結果から言えば投石器と狙撃で何とかなった。
相手の偵察圏が判っている事、そして匂いを遮断して接近したことで狙撃位置を確保できたからである。森の中で狙撃できるエルフがいればこその話だが、次回以降は投石器の数を増やして何とかすれば十分だろう。
こうしてジャイアント・ビー駆逐任務は終了した。
と言うわけでアッサリ終了です。
何と言うか、蜂相手の戦闘を真面目にやって面白いのか? というのもあります。
何人かが盾で防ぎながら、弓で狙撃! とかでも良かったのかもしれませんが。
実のところ、石鹸水を投石器でばらまく戦術があるのでそれほそ苦労しないのですよね。
泡だらけになって即死しはしませんが、動きは鈍るし呼吸も鈍ります。
基本的に今回の件は、相手の巣を見つけるまでのお仕事でした。
(いいかげん、ジャアント・ビー関連の話が長くなり過ぎたのもあります)
自壊から数回使って、人虎の話を片付けて遠征は終了予定ですね。