妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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帰還途中の乗船時間は最終レポートの作成に充てた。
時間が余れば他の件を考えるとして、中型船に揺られながらガリガリと石板へ文字を刻んでいく。
ジャイアント・ビー討伐はこのレポートを作成・提出する事により完了する。
特に今回は最初のレポート形式であり、同時に効果の高い討伐方法が見つかったので記録する意味と、水棲種族に申し送りする意味は大きかった。
最後の最後でとても簡単な討伐方法が見つかったのだが、これを記録してあり次回も導入できるかどうかで遥かに討伐し易さが変わるのである。やっておかねばまた面倒なことになるだろうし、知恵とコツを伝授してくれる神様の信徒として不甲斐ない。
「鯨防人さん。水流操作の魔法に関して、何処の部族にも何人か居るってことで良いのかな?」
「はい。我々は陸上行動が苦手です。時折休むために、水風呂のような物が必要ですので」
「じゃあその旨を記録させてもらうね」
とても、とても馬鹿馬鹿しい事に最終戦は開始から十分程度で終わった。
格闘ゲームで言うとスーパーアーマーを付けた無敵・ノックバック無しの状態で、巨大蜂の巣まで歩いて殲滅しただけである。何が馬鹿馬鹿しいかと言って、水棲種族の子たちが夏場に陸上へ水を輸送する時の方法……身にまとう形で輸送する方法を使ったからだ。
水流操作の魔法は1立方mの水を浮遊……地面で支える必要があるが、少しずつ移動させることができる。人間がやると常識的に目の前で集中して動かさないと駄目だが、水棲種族ならば身にまとった形で動かしても集中できる。いつものことだから当たり前といえば当たり前の話だ。それなのに作戦当初にやらなかったのは、1立方mの量では全身を覆ったとしても突撃して来る蜂の勢いを殺せないからである。
「いや、まさか二人掛かり・三人掛かりで運用すれば良いとは思わなかったよ。儀式魔法みたいなものだと思えば納得できるけど、あんなに簡単に行くとは」
「普通は下級魔法を集団で使いませぬからな。我々も驚いておりました」
1立方mというのは微妙なサイズだ。
縦に延ばせばスッポリ人間大の生物が収まるのだが、それでは蜂が突撃して来たら針が貫通するし移動時にはみ出る可能性もある。しかし二人でピッタリくっつけば余った水が増え、移動する余裕がないでもない。三人居れば騎馬戦の馬みたいな態勢でもっと余裕が出来たのである。
実際には安全策を取る為、右側と左側に大楯を持たせてファランクスみたいな態勢で移動した。石鹸水の入った容れ物をバシャバシャ投石器で投げていたこともあり、積極的に動き回れない蜂を恐れる者がおらず、集中が解ける可能性が無いのも大きいと思われる。
「ともあれコレが最後の報告書だね。もしまた同じような事があったら早い段階で、エルフの領域にもギルドを作る予定なんでそっちに依頼を出せば何とでもなると思う。もちろん僕らが作る予定の施設でも良いけれどね」
「それはありがたいです。我々は森どころか陸での移動自体が不得意ですので」
ひとまずこれで水棲種族との契約は終わりだ。
彼らから高額の報酬をもらうのではなく、土地の代金を差し引いて適当な額で受け取ることになっている。その額自体も真珠や珊瑚のような貴重品を物納する形でもOKにしたので、滞りなく支払われるはずだ。彼らは赤色港で売るよりも高額の査定で引き替え、僕らは大都市で買うよりも遥かに安価で手に入れるからwin-winの関係である。
こうすると資金が増えないが、こちらに作る施設で砂糖や塩を手に入れる事が出来れば問題ない。内陸では遥かに貴重品だし、美味しいお菓子や料理を安価に作れるようになるのだから。香辛料も安価で欲しい所だが扱っているバザーは遠いそうなので、仕方があるまい。
(帰ったら螺鈿の蒔絵を作ってみないとな。川の多い東領には似たのがあるかもしれないけど、エルフの染料とドワーフの金粉染めとか併用してないと思うし)
貝殻なんかは無償で欲しいだけ拾えた。
昆布・貝・魚の干物も見つけたので、乾物にしてから送ってもらえれば魚貝系の出汁が作れるのが大きい。これまでは作れても美味しくなかった茶碗蒸しがやっとまともになる。砂糖が手に入ることも合わせて、プリンだって作れるだろう。
夢だけは広がるが、手元に何もない事だけが残念だった。いや、砂糖漬けのフルーツならば山ほどあるがこれだけ食べ続けて来ると飽きて来る。僕の前世は日本人なので魚はバッチコイだけど双葉は既に悲鳴を上げていた。そろそろ内地に戻りたいのも確かだ。せめてパンが豊富にあれば唐揚げでも出来たのだろうが。
「これから帰還して一週間くらいは赤色湾で別件の用事を片付けていると思う。期間中に万が一の事があったり、何か追加で話があったらそっちにお願い」
「承知いたしました銀大人。おそらくは入れ違いで届く『商品』を見て長老たちが決断するかと」
以前に漁村で約束していたコンクリート商品の第一便がそろそろ届く。
エルフに手数料を払って直通する便で、人間の領域経由で送る場合の時間と料金を比べて返事することになっていた。波消しブロックに使えるが、おそらくあまり数は普及しないだろう。子供たちの部屋の周囲を固めて終わりくらいになると思われた。
水棲種族との付き合い方次第だが、彼らに肩入れでもしない限りはこちらにはセメント工場を立てる気はない。海を全て制圧されたいとは思えないのだ。それこそ荘園を取り上げられて逃げ出す時の亡命先にでもしない限りは実行しないだろう。
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水棲種族の要請は今後も取引に期待できる感じで終了。
それはそれとして赤色港に上陸し、彼らが預かっている二広からの手紙を受取りに行く。そこには思った通り、戻り次第に事件に協力して欲しいとの伝言も添えて何枚かの手紙があった。
本当は他人の用事で手紙を読むより先に、自分の用事……荘園の経営に関して代官でも決めて手紙で人事を送りたいところだった。しかし僕が居ない所で任命される前例を作りたくない。仕方なくその辺りの構想は脳裏に留めつつ、二広の寄こした最新情報を確認する。
「代官が隠してたのか……。そりゃ知られてないよね。だって表沙汰にしたくないもん」
二広に調べる様に返信したが、ポイントを伝えていないわけでもない。
ジャイアント・ビーの件を振り返ればある程度の推測はできると思うが、『事件の被害内容』、『事件の起きている広さ』、『事件の起きた時系列』の三つである。二広自身には、公的な情報から色々調べてもらっている。
この件が難しいのは地方で起きたことであり、代官次第で情報封鎖も簡単だという事である。だからこそこの話は今まで知られていなかったし、現地で調べるのも難しいのだ。
「街道筋じゃないのが幸いだな。死体が無い神隠しって事は魔物じゃなさそうだけど……今回の件はどのパターンかな。『夷』かそれとも『しっぺい太郎』か、それとも『山賊茶屋』か」
調べるのは難しいが、パターンがあるので推測できないことも無い。
村社会での人の出入りというのを知っているだろうか? 村に住む人々がどの程度の頻度で遠出し、どの程度の人数が移動するのかである。実は限られているので、人の出入りを追うのは難しくなかったりする。知っている人がいれば社会コミュニティ論の資料などに詳しく載っている。
さて、回答を言うならば『殆ど無い』である。
隣村への移動は婚姻の可能性があるので別として、殆どその村に留まって生活をする。森の海は一般人にとっては恐ろしいので自給自足で済ませ、足りないモノを出入りの行商人なり産業系の人間から購入するのだ。林業ならば木こりや人足は村人だし、船頭なり荷車を扱う馬借がこれに当たる。
「移動経路にある酒場や宿屋で被害報告は無し。じゃあ山賊茶屋はないな。この段階で追える可能性は残り二つだけど……」
山賊茶屋というのは道筋に立つ店が犯人というパターン。
水滸伝などで有名だが、通り掛かった時に相手を見定めて場合によっては毒を呑ませる。弱い奴ならそのまま襲って山に捨て、強い奴なら毒を効かせから襲う訳だ。
残る二つの可能性はどちらも同じ系統に立ち、犯人がどちらにあるか……という差でしかない。『夷』は通り掛かった商人や僧侶など金持ちと思われる相手の隙を突き、金目当てで貧困村が行うパターンだ。逆に『しっぺい太郎』は村で行われている非道……人買いや悪代官などを旅人が襲うパターンである。
「税の状況的にやっぱり怪しいなあ。代官が隠してたのも不祥事とか税率問題とかだろうし……、ここ最近の侯爵領は羽振りが良いしなあ。他の役人に対して、対抗心を出したくなっても不思議じゃない」
人の出入りが無ければ代官は好き勝手ができる。
貴族の領主じゃないから自分の土地ではない為、いつか離れる訳だから遠慮は要らない。他人と比較して我が身の不幸を知らなければ訴えようもないし、そもそも基本的に貴族以外の人間は王侯貴族の持ち物であって裁判権など無い時代なのだ。伝えたところで何もしてくれまい。
だから代官と言う者は『許容範囲の中』という限定で好き放題やると考えてよかった。名君にならなくても税を沢山とって上納すれば良いので、貴族よりも気楽なのである。まあ全員がそういう狡吏ばかりでもないだろうが……事件の起きた村は地方のわりに税収が良いのである。疑うなと言う方が無理だろう。
「商人や僧侶が居なくなってれば『夷』だけど、今の侯爵領で能力のある人間が居なくなって噂にならない筈はないよね。と言う事は『しっぺい太郎』に代官が厄介事を押し付けた?」
大金を持って移動しているならば目標があるはず。
平和な侯爵領には人の出入りがあるが、商人が無目的にウロつくなんてことはない。僧侶の類だって基本的には術師であり、あるいは何処かの長候補なのだ。修行の為に出歩いて行方不明になったのに音沙汰が無ければ問題になるだろう。少なくとも何処かで調査したという報告があるはずだ。
それと重要な事だが、そういう人物の行方不明が何件も重なるのは不自然である。むしろ傭兵たちが魔物の討伐を依頼されて、相手のレベルを把握し損ねて全滅する方がありえるだろう。魔物の存在が知られてない事件の序盤などは、そういう話はよく合った。
「今のところ思いつける可能性は三つ。一つ目は代官の言う様に人虎なり魔物が本当にいて、死体を食うなり埋めるなりした。二つ目は何処かに異種族の村なり隠し田でも作って、そっちに移動した。第三に、どこぞの武芸者みたいなのが偶々見かけた人買いでも蹴散らし、その一件を覆い隠すために売られた人々を行方不明扱いにした……ってところかな」
魔物が一々死体の処理をするとも思えない。
そこまでやる知能があるならば、既に他の地域に移動しているはずだ。ゆえに第一の可能性は低く、もしそうならば包囲網を築いて村ごと焼き払う準備でもすれば向こうから勝手に出て来る。知恵ある魔物がそこまでするとしたら、侯爵領を混乱させる為だろうから。
第二に貧困に喘ぐ人々が、隠し田を造った支邑なり異種族の村へ逃げ込むという物。これは周辺地域を総ざらいすれば終わってしまう話なので、レポートの隅にでも書き込めば終了だ。だから現時点でもっともあり得る可能性としては、誰かが人買いと代官の癒着関係を勝手に暴いたという事だろう。
「貧困村でも……いや、だからこそかな。子供は死に易いから多めに作るし、他に娯楽も無い物ね。そして増え過ぎたら子殺しをするなり、売り払う事になる」
昔はよくあった話だ。水棲種族ほどではないが人間も子供を沢山つくる。
途中でバタバタと死ぬのを計算に入れるのだが、それでも死なずに無事を祝う余裕があるはずもない。だから子殺しの話はあちこちにあるし、無事に過ごせてもちょっとした困難で売り払う事もある。物語になっているパターンが実に多い。
代官などに見初められた『白羽の矢』、器量よしが売られる『天神参り』、他にも『狒狒』などが生贄を要求して来たというのもある。『しっぺい太郎』はその逆襲に成功した……というか、余所者が大通連のように空気を読まず悪人だと判じて殺してしまう場合であった。
「二広さんにこの話を伝えて追ってもらう事は出来るけど……。その前にすることがあるな」
もしこの件が人買いと代官の癒着ならば、解決だけなら難しくはない。
売られていった子供たちは第三者に買われているのでどうしようもない可能性があるが、人買い……というか地方回りの口入れ屋に少しばかり注意をすれば良い話だ。傭兵を仲介している連中とは別口だが、同類には同類の集まる寄り合いだって存在する。
だが、その辺の話を追求する前にやっておくことがあるだろう。優先順位を考えればそれほど高い方ではないのだが、この場所と今の関係性が無ければ尋ねる事が難しい質問をする為だ。
「申し訳ありません。龍学才殿に面会をお願いしたいのですが」
「ただいま留守にしておられますが、御戻り次第にお伝えします」
手紙を受け取ったのは水棲種族たちが赤色湾に作った拠点である。
彼らは侯爵家とも緩やかな友好関係を築いており、それなりの立場と才能ある者を送り込んでいた。龍学才というのは龍頭の水棲種族であり、龍に関する特殊能力は特にないがそれと知られた才人であった。要するに大使でありここのTOPみたいなモノと言えるだろう。
子供が居なくなる話の一つに、『赤い靴と異人さん』という話もあるのだ。子供を売るにしても、住み込みで働かせるにしても水棲種族は丁度良い相手ではないだろうか? 彼と腹を割って話すならば今だろう。
と言う訳で蜂の話を終わらせつつ、人虎の話を片手間で行います。
揺り椅子探偵のごとく、部屋の片隅で事件を推理。
集めるべき証拠・証言を集めてから解決に向かう感じですね。