妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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それから根回しを測るついでに、色々な情報を仕入れてみた。
するとやはり例の村は税が高いそうで、子売りである可能性が高い事。獣頭人身の種族の伝承は他の地域に存在する事。それらの話を傭兵の口入れ屋経由で聞いたり、大規模な査察が始まるかもしれないから余計な動きはするなと忠告したりもした。
そして関係者が集まってくると紅包さまもやって来ていた。二広に協力したのか、あるいは龍学才さんが呼んだのだろうか?
「今回の近因は見栄を張った代官が税をとり過ぎて寒村化したことです。おかげで子供を売って糊口をしのぐ農民が出ました。しかし遠因は魔王率いる魔物の侵攻で、それまでの問題がおざなりにされて一部は大きく拡大したことです」
「直接の原因が代官の仕業というのは判るが……」
「魔王の?」
そのまま報告しても華が無いのと、誰も得をしないので魔王のせいにした。
あながち嘘入って居ないし、その問題もいつか解決しないとならないので、ついでに提出した形になる。
目の前の『代官の人虎偽装』、直近で片付けた『ジャイアント・ビー駆逐』、その前の『緋雁原のヌシ討伐』、僕が南領にやって来た時の『アンデッド掃討戦』を順次並べていく。関係者の目が自分の関わる問題にまず目が行くのは仕方がないだろう。
「みなさんがご承知の通り、魔王はこの国を滅茶苦茶にして今も禍根を残しております。しかし今示しました事件は、それぞれに昔から根があった物です。四方貴族と中央の軋轢は魔物対策のために棚上げになり、各地に潜在する脅威がズルズルと先延ばしになった為でしょう。人虎の話は代官が騒ぎ立てただけでしたが、たまたま獣頭人身の種族が温厚だっただけです」
「むっ……その問題か」
「それを言われると……」
この国は中央と四方貴族との間柄が良くない。
正確には皇帝陛下の外戚関係など親しい貴族が一時的に上に来て、中央プラス外戚になった四方貴族の誰かが他の貴族と争っているというべきだろう。上手くやったり問題を起こして再編されたりして来たのだが……。
魔王率いる魔物の侵攻は、その解決を有耶無耶にしてしまったのである。まあ彼らからすれば、混乱している国に漬け込まぬ理由などはないのだろう。さぞ侵攻し始めた当初はやり易かったに違いあるまい。
「四方貴族が団結すればアンデッドを一度退治して、浄化する祭りはいつでも行えた筈です。これ以上は不敬になるので今回の件に移りますが、代官の場合を例に取れば好景気で功績を挙げる他の役人に対して見栄を張って功績争いをしてしまった……町と農村の乖離が問題になります」
「言ってくれるが簡単にはいかんのだぞ? 原因というのは認めるが」
アホな話だが交易の結果増える税収と、農耕を繰り返す税収を一緒にしやがった。
都市部での交易では直接税などなく、あくまで入荷に関わる税が増えたに過ぎない。それ以上は商人たちの寄り合いが自ら提出する、お礼以上の物ではないのだ。その辺を理解せずに税を搾り取るとか呆れてモノが言えない。
地方の農村を経営することで得られる収益は、食料や特産物が増える事による国力そのものの増大だろう。食料生産量と人口増大の比率こそを誇るべきなのに、減らしてどうするのかと言いたい。
(というか紅家の都市部が登り調子なのは南領が身内の取引で完結しちゃったからだし、健全化するのは根が深そうだよな。足りないのは穀物だけどそれだって大規模農業をやれば何とでもなるし)
これから穀物の価値が上がるのだから代官も真面目にやれば良かったのだ。
目先の功績に惑わされて悪代官扱いとか、運が悪いというか先行きの見えないボンクラなのだろう。この場合は盤面が見えないという本来の意味での盆暗だが。
南領のブロック経済化と侯爵さんの態度は気になるが、僕とは身分の違う人の話なので気にしても仕方がない。動向には注意しつつ静観するしかない所だ。
「失礼しました。その辺は追々何とかなるでしょう。その上で『代官の人虎偽装』をまずは片付けたいと思います」
「うむ」
とりあえずデリケートな話はここまでだ。
目の前の話を片付けつつ、できるだけ『誰も得しない』状態から『少しはマシ』な状態まで持って行きたいものである。
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ようやく本題に移るが要は随分とシンプルだった。
結局のところ、『大袈裟にしない』以上の目的も方法も無いのである。大袈裟な話題になりさえしなければ何とでもなるし、大袈裟に成れば方々のメンツが台無しになる。
だが幸いにもキーパーソンになる関係者が此処に揃っているので、介入をして方向性を整えるのは難しくないだろう。
「本書は緋家の将、二広に対し持ち込まれた要請に対しての基本計画です。まずは正面から乗り込んで山狩りを行う予定です」
各人の前に提出した書類は構想をまとめたものだ。
近隣の代官や貴族からの要請で周辺の『人虎問題』の解決を持ち込まれた話だが、役人がその行動を許可するところまでは進んでいる。本来は緋家の将に頼む話ではないが、彼は武芸者でもありその勇名に代官や貴族が縋ったという形ならば無碍には断り難い。だからこそ二広も困っているのだ。
そして許可が出た以上はこの段階までは何の問題も無く、他所の将が領内で好き勝手をしないように見張る役人に関しても、むしろ居てもらった方が良いという塩梅である。
「その折に問題の村から獣頭人身の種族を含む相当数の住人を徴発し、近隣の村まで捜索の手を広げたが何も無かった。『いや、元もと何も無かったのだろう』という結末になるのが理想ですね」
山狩りを行うのに現地住人を使うのは常套手段だ。
強力な魔物を討伐する場合は兵や傭兵が付き添う事もあるが、その辺に関しては問題ない。二広自身が武芸者であり、必要ならば兄弟弟子の大通連や紅包さまを呼べるのである。戦力自体は問題ないし、紅家から戦力を付けるならば紅包さまの手勢をねじ込んでも不自然ではなかった。
そこまでの話は書面にも書いてあるが、ここで質問すべく手が上がる。
「そうなるのが理想的ですな。しかし、そうならなければどうなさりますかな? 例えば『取り逃したのではないか?』や『恐ろしくてワザと逃がしたのでは?』と疑問に持たれた場合です」
「龍学才殿の御懸念も当然です。それに関しても対策は立てております」
流石は異種族、僕らがメンツを気にして口に出来ない事を平然と聞いてくる。
まあ彼もその辺を尋ねるのは自分の役目だと心得て居るのだろう。一番角が立たないからこそ口にしたと思われた。
ひとまずこの件に関しては幾つか問題があるので、順を追って解説する為に周辺区域を簡単に地図として描く。
「まず『取り逃がした』という懸念に関しては、詳細な調査と数の統計を確実に取ります。周辺の地図を詳細に区分けして全ての区画を捜索し、建物・人数などを可能な限り追いかけます。役人や兵士たちからも『ここまでは普通やらない』と言われるほどに徹底すれば良いでしょう」
村一つだけではなく、その周囲を二十から三十に分割する。
A~Zの区割りと洞穴などオマケ込みでデータを残し、その全ての建物を捜索し、住んでいる人間に付いて複数名で調査をするという訳だ。
もちろん獣人たちに関しては村人と僕らの誰かが付き添う事で、不審な行動はなく村の住人であるという証言も用意する予定である。
「全ての場所を調べ相互に監視し合えば、まず土地に関しては問題なくなります。次に人間に関しては、村に残り続ける者たちも、移動してしまう人間に関しても追跡調査を行うという計画を立てます。字数が全く同じであり、旧知の人間から見て本人だと思える者だと判断出来れば良いでしょう」
この監視に関しては、役人が付き添う意味が出て来る。
詳細な地図を作って丹念に調査し、全ての場所を調べていると判れば良いのである。調査自体はするし、怪しげな場所もなければ納得するだろう。そして役人と言う者は、人間の移動に関しては人数が揃っていれば安心する者である。
追跡調査で何処に誰が住み、暮らしていけないからと転居した者が何処にいる……と人数が合っているならば普通は追及されない。その上で旧知の村人に引き合わせるなり、僕らの方で『あの時の人物と出逢った』と証言しても良いだろう。別に海外に高飛びさせる訳ではないので問題は無い。
「なるほど。では実力に関しては? 申し訳ありませんが陸上に関しては疎い物で」
「それに関しては同時並行で別の場所に居る魔物討伐を行います。……大通連という武芸者が二広殿や紅包さまと同等の実力とされておりますので、彼が実際に魔物を狩って来れば良い証明になるかと」
この件で大きいのは死体が残る事である。
魔物の実力はおおよそながら普及している。死体が消える魔物ばかりではないので、討伐したばかりの魔物の死体を持って帰れば良いだろう。
僕らにとって重要なのは、大通連と言う何をするか分からない男の行動を縛り付けられることだ。少なくとも魔物を退治している間は問題行動をしないし、監視を兼ねて兵士でも同行させれば実力も確かめられるはずだ。
「そして何年にも渡って被害が出なければ人虎というのが嘘であったと知れるでしょう。そもそも代官のでっち上げのような物ですし、死体に関しては山狩りすれば一つ二つは出て来る物です。何年前の死体か判りませんが」
仮に今後十年追跡調査するとして、一切の被害が出ないとしたら?
人虎問題など無かったと沈静化し、問われるとしても『以前の被害者は何処へ行ったのだ?』ということに収まるだろう。そして普通の人間はともすればアッサリ死ぬモノである。
侯爵領は早期に解決されて平和になったが、魔物じたいは出たこともあるのだ。周辺の村まで捜索の手を伸ばせば死体が転がっているなんてことは良くあった。それが魔物に殺されたのか、盗賊に殺されたのかは別として。
「では私からも質問をしよう。獣頭人身の種族とやらを逃がすのは良い。しかし他の地域に移動させて問題は出ないのか? こういっては何だが私の村から移動する人間など部下くらいだが、商人もだが新しい住人が来れば注目するぞ」
「二広殿の懸念も当然ですね。そこは幾つか案があります」
「あの件ですな? 長老たちからもお願いすると」
今度は二広の方から質問が出た。
大通連がやって来ないと知ってあからさまに安心していたが、彼の領地でも人は滅多に動かないのだろう。彼の領地は緋雁原の出口のはずで、そんな立地でも滅多に人が移動しないならば疑われるのも当然だ。
その説明をする為、今度は僕の荘園と水棲種族の領域でも、問題の村に近い場所や川を矢印で繋いだ。
「波を小さくする人造の岩を水棲種族の方にお売りすることにしました。値段を下げる代わりに、彼らに提供する食費や旅費を負担してもらいます」
「我々としてはその岩で子供たちを守れるので文句はありませんぞ。古き友人にも面目を施せますからな」
波消しブロックを量産して、期間限定で値段を下げる事にした。
そうすれば水棲種族も購入する気になるし、輸送料の掛かる人間の領域で運ぶ為、獣人たちを使うならば多少値段が出ても仕方ないと割り切れるのだ。
これでしばらくの間、人間が動き続けるルートに理由が付く。追跡調査されても困らないし、別に匿ったりエルフやドワーフの領域に逃がしたりもしないので、探られても痛くないのだ。
「あの岩か? 私の方も砦用に良いと聞いている」
「はい。必要でしたら緋家や紅家の砦建設にお売りできますし、一部は献上できます。その上で他にも人手を要する仕事を臨時に増やし、口入れ屋経由で募集させても良いでしょう」
コンクリで造った製品は、輸送中に役人や兵士が確認したそうだ。
密輸で無いか調べる必要があるので当然だが、その時に形状を要求して変更できるならば良い品だと報告があったらしい。まあ下っ端荘園主である僕からならば、献上品として買い叩けるという下心あってのものだろうけど。
ともあれこれで不自然ではない人の流れができ、臨時の仕事にあり付けば村人たちも当面の金を工面できるだろう。基本的に被害者はでないし、なんだったら今回問題を起こした代官も『行き過ぎた忠誠ゆえ』という理由で弁護しても良いかもしれない。
と言う訳で粗筋は出来上がったので、後は解決するだけの運びとなった。
基本的には人虎問題は解決しました。
あとは獣人たちが、そのまま人足に転職したり、主人公の村の住人になるだけ。
山狩りにまで主人公が付いていく必要はないし、後は見守ってから帰還する流れになります。