妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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第四部
新年度の開始


 直接に関わるのも変なので人虎事件は間接的にしか知らない。

しかし概ね平穏に終われたのではないだろうか? 獣人たちも人足になったり僕の村とか水棲種族が持つ沿岸拠点に移動したとか。

 

その段階で初めて知ったのは、これまで獣頭人身の種族が辿った歴史だ。妥当と言えば妥当なのだが、彼らは戦乱の世の中で数を大幅に減らしていた。水棲種族と違って逃げる場所がないのも大きかったらしい。

 

「君たちが僕の村に来るって事で良いのかな?」

「はい。お世話になります。この御恩は一生掛かってもお返しします」

 数人の獣人たちが村に戻る道中の僕と合流した。

獣頭ではあるがやはり特殊能力などはなく、生活魔法で人間に変身できる以外は特に変わった所はない。どこか優れている部分もあるかもしれないが、生活魔法の一つ分が固定枠だと考えるなら微妙な所だろう。

 

彼らの村で妙な所があったとしたら、いやに警戒厳重で外からは直接移動できない小部屋が幾つかあったことくらいだと二広に言われた。おそらくは生活魔法で変身を覚えるまで隠れて生活するスペースだろう。

 

「それは良いですから普通に暮らしてください。まあ生活習慣の差とか、実験的な農業とかで違和感があるかもしれませんが。強いて言うならば率先して働いてくれればありがたいくらいですね」

「判りました。そのようにします」

 スペースの問題で彼らは組み入れた……もう直ぐ到着する村に住む。

農地を統合して大規模化した場所で、今年からは雑穀以外に小麦やら豆を本格的に増やす段階だった。これまでは殆ど牧草地以外に何もない同然の荒れ放題だったので、人手が増えるのは正直ありがたかった。

 

なお牧畜に関しては、放置されていた穀物を沢山やった個体と、普通の分量だけやった個体の識別はされている。前者は二年目以降も育てる個体を多めにするが、一部は冬の間に処分しているはずなので、戻ったら肉が楽しみである。まあ半年も肥育して居ないので大したことがないと判って入るのだが。

 

「そういえば村で何か特別にやっていた事とか、面白い穀物とかありますかね? 家屋に関しては魔物対策として実験的な建物という形で用意しますが」

「何から何まで申し訳ありません。ですが特にこれといった物は……」

 残念な事に特産品などはないらしい。

この辺りには無い品種だとか根菜でも良いのだが、何処ででも採れる物ばかりだとか。まあ目新しい物があれば代官が栽培を奨励するよね。

 

ともあれ獣人たちに関してはコレで終わりだ。彼らを受け入れる為の長屋みたいな場所はあるし、実験施設という理由で外から見え難い家屋を幾つか建築してしまえば問題ない。いずれ消えていく種族の宿命だが、それほど数が必要ないのだ。

 

(ようやく出張が終わったな。出稼ぎにしては現物支給が多いけど、まあ来年以降に期待しよっと。ひとまずは村に帰って計画の立て直しだね)

 砂糖や塩を生成できる土地、そして産物の買い取り場所。

そこが僕の得た最大の利益であり、交易としてコンクリート製品の代わりに真珠やら珊瑚を手に入れる。他にも安価なところで干物やら、高価なところで香辛料も送ってもらうがこれらはオマケでしかない。

 

宝石類は都市での原石取り扱いよりはるかに安く手に入れたとはいえ、加工して得ることを考えたら時間が掛かるだろう。近場で売ると水棲種族とモメかねないので、中央方面への道が安全になる来年以降まで収入源としては計上できない。

 

(今年の大目標は万鹿柵以北の確保をする作戦と浄化の祀り。そして最初の収穫祭か……それに向けて色々準備しないとな。来年は来年で考えるのも面倒だけど)

 戦闘関連は基本的に『待ち』の態勢だ。

緋家の勢力圏の北限である万鹿柵の砦周辺を抑え、周囲に柵やら堀を築いてアンデッドの被害を無くした。もはやアンデッドの無限湧きには問題ないと周囲に喧伝しつつ、縁戚のある貴族が援軍を送って欲しいと要求するのを待っている所である。

 

その辺に関しては新入りの僕が関与するところではない。戦線を押し上げるという話になったら援軍を兼ねて、バリケード用の荷車・戸板・梯子などの物資を送るべく少しずつ備蓄して居る所である。だから荘園経営に専念できるのはありがたかった。

 

 荘園に戻ってくるとなんだかホっとした。

まず目にするのは組み入れた村の方だが、目に見えて変わった所と言えば作業所を兼ねた集会場が完成し、こちらへ移住する住民用の長屋が増築されたくらいだ。何しろ大規模農場をみんなで作業するから便利だからだ。

 

こちら側に関しては獣人たちに何をするかを軽く説明しつつ、三圃式農業を二段階目に移すくらいである。

 

「君たちにはここで働いてもらうよ。ひとまずあそこの長屋を一つ割り当てるけど……。作業はあそこでやってる感じでみんなで耕作して、みんなで牧畜するって感じかな? だから他の人を真似すれば良いから迷う事はないと思う」

「承知いたしました。見たところ大きさ以外に不思議な所はございません」

「あれなら直ぐに混じって働けそうです」

 まあ大規模農業自体は既存の農業の組み合わせだからね。

三圃式にしてる部分だって村人が減ったから、少人数で作業する意味で自然と受け入れられてるのが大きい。

 

そう言えば緋家でも精霊が移動する時間帯や季節が決まってるから、牧畜と農業の入れ替えが受け入れやすかったというのがあると聞いたことがある。やはり必要は発明の母なのだろう。

 

「税は……見ての通り取れるほどじゃないから省略するとして、労役に関しては村で使う施設をみんなで建てる事。建築とか無理な人は、煉瓦を型枠に嵌めたり乾かして作る作業をしてもらうよ。村の入り口近くにある建物が煉瓦造りなのは、アンデッドとか魔物対策ね」

「問題ありません。自分たちの使う場所なら働き甲斐もあります」

 とはいえ魔物も減っていく筈なので、そろそろ仕事が減って来る。

税がちゃんと取れるならば労役なんか押し付けなくても良いのだけれど、収穫はまだまだ先なので何かしら作業をさせておきたかった。どうせならば村の発展に役立つ物が良いだろう。

 

(本村の方は工業、こっちは農牧として……何が要るかな? いずれは道とか色々整備するにしても、それは急ぐほどの事じゃない。長い目で見て先に用意した方が良い物……)

 牧畜に関してはもう弄るところが少ない。

肥育なんて時間が掛かるし、家畜を殖やすにしたって時間が掛かる。購入するほどの予算がないので、うちの文物を欲しいという貴族が現れたら、物々交換で家畜を貰うくらいだろう。

 

では農業はと言われると、こちらも大規模農業を三圃式農業で実行している途中なので弄り様がない。小麦・大麦は植えている所で、果実のなる樹だって桃栗三年柿八年と言うくらいだからどうしようもないのだ。米でも手に入れたら水を引いて田んぼでも作るかもしれないが……。

 

(水を引く? 今の処は足りてるけど、大規模農業が成功したらもっと水を使うよね。堀を増やして防衛用に使っても良いし、何だったら水棲種族が来れるようにしても面白いかな。流石に川で輸送は難しいだろうけど)

 ふとした思い付きだが悪くない様に思われた。

途中で侯爵領やエルフの領域を跨ぐので、川を使って重い物を運ぶというアイデアは難しいと前にも言った覚えがある。だが水路を整備して置いて、水害が起き難くすると同時に、農業用水に使うのは悪くないアイデアだと思われた。ここの水は本村にも流れていくし、海まで続く大規模な整備をしなくとも本村との行き来に使えるだけでも面白いだろう。

 

「労役での施設に関しては今は家屋中心ですね。魔物への防御用を兼ねて村の入り口を中心に煉瓦造りを何件か。それらが一通り揃ったら、今度は水路や溜池でも造って日照りに備えたり、水棲種族の人が来ても困らないようにしましょう。とはいえ、先ほど言った通り家が優先ですけど」

「はい。お任せください」

 これでこちらの村に関しては問題ないはずだ。

本村に戻り次第、代官的な役割を決めて明確なリーダー役を設定して終わりである。

 

ああ、でも顔合わせするなら今の内に内定くらいは伝えておくべきだろうか。いきなり呼び出されるよりは、いずれそうなると先に伝えられた方が本人の為であろう。

 

「おーい、六耕! こっちに来てくれる? 新しい人たちの紹介がてらに話があるからさあ」

「へーい! 今行きやす」

 緋六耕は近くにある六番目の村出身の元傭兵だ。

三人が足を洗って居ついた連中はいるが、元農民とあってここを任せていた。残り二人ほどいるが一人は巡回要員で普段は何処に居るか分からない為、彼を呼んで済ませておく。

 

「この人は緋六耕。ここのリーダーでいずれは代官補佐になる予定だよ。この人たちは前に手紙で伝えてた獣頭人身の人たちなのでフォローよろしく」

「ちょっ! あっしのガラじゃないっていったじゃないすか」

「それがそうもいかなくてね……補佐で抑えるから我慢しといてよ」

 獣人たちが挨拶を始めたが咄嗟に六耕が首を振った。

元が農民だけあってあまり責任のある立場が好きではないそうだ。僕が荘園を手に入れるにあたって、自分が戦闘好きでも無かったことから一緒に足を洗っている。

 

「後のちに婚姻問題で緋家の役人が乗り込んで来たら困るでしょ? 計画とかは予め伝えとくから、誰か文句付けて来たら『計画書通りだ』と言い返せばいいよ。でないといきなり『一人が畑一枚を耕せば済むのに、人数を使うとは怠け者だ!』とか言われちゃうよ?」

「慣れて来たばっかですし、そいつは困りますけど……」

「じゃ、そういう事で。困ったら全部、三硯に任しとけばいいから」

 強引に納得させて、基本的には同じ傭兵あがりの黄三硯に代官を任せるとしておく。

この人物は中央にある町の学者崩れで、どうせなら地方の文物を調べたいと思って僕の下に付いてきた。元学者だから物腰はスマートだし、役人から見ても好印象だろう。

 

ちなみに残り一人の傭兵あがりはアンデッドに潰された村の出身で、橙二尾という猟師である。僕が猟師の家の出身であり、傭兵の中でも偵察を重視していたので自然と仲良くなった。そしてそのままくっ付いて来たという経緯だ。

 

「それじゃ僕は本村に戻るから彼らを長屋に案内しといて。今後の予定としては魔物対策用の家を実験するついでに、彼ら用の家を作るから。それが終わった前後から余った時間で水路の拡張かな」

「三硯はちゃんと説得してくださいよ? あっしは代官なんか嫌ですからね? でもまあ家と水路関しては承知しやした」

 ここで獣人たちの引継ぎを済ませて本村に戻る。

人数が減ったことで静になり、馬車の中に揺られて残りの時間で方針を固めておくことにした。

 

神様の忠告もあるし、全部の企画を進めるつもりはない。陶器の様に中断する計画もあれば、鉄製農具の様にひょんな理由から中断したり復活する話もあったりする。

 

「剛盾さん。戻ったらさっそく木工品の染色をお願いできます? エルフから貰った漆使って、金細工とか金粉を貝と一緒に散らしたいんですけど」

「構わんが農機具とか鎧はええのか?」

「それはドワーフ族の返事待ちですね」

 大通連に言う事を聞かせるために彼用の防具を造ることになった。

幾つか大問題を引き起こした彼だが、既に覚えて居ないし、あいつを魔物退治に直に向かわせるには約束する必要があったのだ。そこで中断した農機具用の鉄と合わせてドワーフから輸入することにした。

 

まあ代わりに色々な技術を提供する事になったのだが、ここのところエルフとばかり提携することが多かったのでバランスが取れたと思っておく。

 

「で、どんなのを造るんじゃ?」

「前に双葉に約束した手鏡の話があるじゃないですか? あれを二つ作ることにして、片方は計画通りに白木でシンプルに、もう片方は漆に金と貝をあしらった黒色にします」

「二つに増えた! やた!」

 うちの村の特産品はコンクリ製品とガラス製品になるだろう。

コンクリの方は適正サイズと形状を水棲種族の注文通りに合わせるだけだが、ガラス製品の方は前から計画があった。

 

収穫祭に合わせて文物を展示するのだが、その目玉も兼ねて双葉に高品質の手鏡をプレゼントすることにしていたのだ。その時に渡す品を黒と白の双子造りにする。

 

「今年は収穫祭までガラス関連と装飾関連に時間と資材を割きます。後は経過を見る感じですかね。農牧もですが蚕とかも直ぐにはなんとかならないので」

「そんなところかのう。ワシとしては鋼の鎧も楽しみなんじゃが」

 こうして春からの計画がスタートする。




 と言う訳で村に戻ったので、早速新しい第四部へ。
まずは今までの手直しと経過観察になります。

●名前の付いた人員
 前からいる事には成ってたけど、名前までは用意してなかった人たちです。
漠然と出身設定だけは決めてたので、面倒だった名前が付いた感じ。

『緋六耕』
 近くの村の出身の元農夫。
近隣の出身だけに顔が効き、話を合わせ易いのが特徴。
コミュはあっても自主性はなくリーダーには向かないと主張している。

『黄三硯』
 中央にある町で塾を経営していた学者崩れ。
元から経営がよろしくなかったのと、地方の文物がみたいからという理由で傭兵に。
そして今に至って『ここならばエルフやドワーフの品も見れる』と居ついた。

『橙二尾』
 中央から南領に至る位置にあった村は殆ど壊滅している。
その一つの出身であり、元猟師なので主人公とは仲が良い。


しかしこうやって名前を付けていくと、設定法が決まってると楽ですね。
もっともそれがちゃんと中華系の名前として、しっくりくるかは別でしょうけど。
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