妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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水利の推理

 三硯の妹の件は妙な所に波及した。

情けは人の為ならず、巡り巡って我が身の為……ということで援助することにしたが、流石に見返りを求めるには先が長すぎる。そこで魔術師たちの興味を引きそうな文物を持たせて三硯を送り出すことにしたのだ。何年先になるか分からない相手よりも、地方でも良いという魔術師を引っ張る方が早い物ね。

 

そこでガラス製で可能な限り平たく造った物差し・分度器・シャーレ皿・フラスコ、鉄で作ったコンパス・天秤と分銅その他(メジャーなど)もろもろ。思いつく限りの計測器具を剛盾に作ってもらい三硯に箱詰め持たせたのだが……。

 

「鉄鉱石の代わりにあれが欲しいって?」

「うむ。研究するのに便利そうじゃからの。話をしたら精度を高めてから送って欲しいと言っておった。その普及の許可もな」

 気に入ったのは魔術師ではなくドワーフ達だった。

質実剛健な彼は厳密に計測して調合することを受け入れたらしい。この表現だと薬師や錬金術師だとは思うが、意外な方向に波及したものだ。

 

もちろんドワーフが薬草やら錬金術を行わないわけではないが、どちらかといえば鍛冶や細工物というイメージが先行していたので意外だったという訳である。

 

(何を要求されるか心配だったから渡りに船なんだけど……渡して大丈夫だよね? 変な発展しないよね?)

 水棲種族の出生率と違って問題ないと思いたい。

もしこの事で上手くいけば、必要な筈の代価を大幅に削減できるからだ。もちろんドワーフ製の器具の方が有名になって、魔術師たちが興味を覚えるのがそちらだったら藪蛇なのだが……。

 

「ドワーフの領域と一部の例外なら問題ないよ。気が付いたら人間の領域で僕らの商品が買われなくなった……なんて間抜けな事が無ければ問題ない。それと神職……金の杜とか火の杜とか育てるならこっちで一緒に色々教えるから」

「そう言えば水棲種族経由で水の杜を育てるのじゃったか。いずれにせよ受けておこう」

 神職の保全能力は色々と応用が利く。

高炉モドキを造るために温度を保ち易くしたり器具を保ったり、あるいは一定の重量・分量を入らなくして、目分量に頼らずとも数値計算を行い易くなるのだ。実際に各種サイズの分銅や匙をそれで作ったので、神職が居ると居ないとでは大きく違うだろう。

 

そしてこのコツを伝えたのが九天玄女さまということで、教義を伝播させるつもりであった。知恵とコツの神なのだから、金属や火を敬う巫女が並行して信仰を捧げてもおかしくはない。

 

「それで何を造る? やはりアレか? アレを造ってしまわんか?」

「土台になる荷車と馬車の改良が先だよ。それに農機具が優先っていったじゃない。大通連にも専用の鎧を用意しないといけないしね」

 ここで言うアレとは銅張鉄鋼馬車という黒歴史がとうとうバレたのである。

砂糖を手に入れたことで双葉が再びレシピ帳を漁り始め、その時に剛盾が発見したと言う訳である。いい年こいたオッサンの癖に、こういうところは子供であった。

 

そして鉄の余裕ができたとっても、そんなところに割くほどの余力はない。まずは全体を底上げできる鉄製農具を製作し、大通連との約束を守るべく鎧の製作を行わなければならなかった。

 

「そうか……」

「あーでも鎧の方は大通連と相談しないといけないから、設計くらいはやっても良いかもね。まずは荷車からいこう」

「そうか!」

 判り易いなオッサン……。

とはいえ剛盾の気持ちも判るし、水棲種族の領域にできるだけ大きなコンクリ製品を持って行くなら荷車の改良は必須である。農作業にも使えるし、市場に売りに行くにしても悪くはないだろう。

 

というわけで色々と優先順位を付けて改良して行くことにした。

 

「最優先は秋口までに双子の手鏡。次に鉄製農具だけど、これは直ぐに終わるから荷車かな。こいつは用途に合わせてサイズで二種類作る」

「ふむ。小さい方は木牛か?」

「うん。大きい方はとりあえず軽虎とでも呼ぼうか」

 小さい方は農業や工事で『猫車』と呼ばれる三角形の手押し車だ。

器の中に練ったセメントを始めとして、泥だろうが砂利だろうがなんでも運べる万能運搬具である。三国志では木牛流馬と呼ばれるアレと言えば、昔からある道具であることが判るだろう。そして大きい荷車はまさに軽いトラをイメージした存在だ。

 

まずは道幅をイメージして机を起点にサイズを測る。

 

「小さい方は農道に置ける程度で、大きい方は今回の度で通って来た道を二台が交差できる程度に。あまり大き過ぎると対向車からみて邪魔だものね」

「構わんが大きくする以外に改良するとこありゃせんぞ?」

「剛盾さんは人間に毒され過ぎ。軸をドワーフと同じ金属製にしようよ」

 この時代の荷車って大八車の四輪型でしかない。

貴族の乗る馬車の方が大きく、小型だから取り回しが良い以外に見るところはない上に、軸がお安い木製なので載せる重量にも限界があった。

 

しかしドワーフから見れば薪や建材に使うので、むしろ軸やら骨格部分は金属であると聞いた覚えがある。そもそも彼らは鉱山からの荷や、完成品の金属加工物を載せるので、重い物を載せられないと意味がないのだ。

 

「おお! そうじゃったそうじゃった。なんで木で作ってあるんか昔は疑問に思ったものよ」

「なのでその辺を金属製にして耐久性の上昇を見て、一番コストに合うのを使いましょう。その上で……そうですね木製の戸板だけでなく金属板を壁に出来る構造にしときますか」

 最終的に銅張鉄鋼馬車を造るつもりである。

なので軸やら骨格は丈夫にして、戸板とか金属板を張りつけても倒れない構造にしたい。そうすれば万鹿柵以北に攻め上がる時も、魔物に対して荷車を盾にする幌馬車戦術が組めるはずだった。

 

それとクレーンはピラミッドの時代に初歩的な物がもうあったらしいので、現地にそういう物があっても扱い易い構造が良いだろうか? 荷物は載せられるが降ろし難い構造では意味がないものね。

 

「とりあえず建物が整って来たら次は水路を拡張するつもりですので、その時に木牛と軽虎を実験してみましょう。できるだけ便利に出来るだけバランスよくという感じで」

「うむ。任せておけ! ワシは先に農機具を造って来るぞ!」

 こうして二つの荷車を改良しつつ、水路拡張に向けて動き出した。

僕は凸凹を付けてロープを縛り易くしたりと荷車の構造や、水路の場所やら構造の設計に専念していた。

 

しかしまさかドワーフの方が上手く行ったのに、エルフやら近隣の村が文句をつけて来るとは思いもしなかったのである。

 

 水質保全という至極まっとうな事に能力を使いながら工事を進める。

まずは階段状にコンクリのブロックを置き、その脇に荷車やら家畜用に斜めのスロープ状に板を置いていった。最後にセメントを間に流し入れて乾かせば舟溜まりと呼ばれる待機エリアの出来上がりだ。

 

本当は艀みたいなのを浮かべて、杭で固定すればよい。だからこんなことをする必要はないのだが、うちの荘園内でやりくりしようとすると必然的にこうなってしまうのである。

 

「銀。水路の周辺でエルフと隣村の連中を見かけた」

「……なんか妙だね。エルフなら見つからずに隠れられるはずだし、見たいなら堂々と覗けば良い。二尾に心当たりはある?」

 巡回担当で見かけることも少ない橙二尾がやって来た。

同じ猟師で向こうの方が年嵩なので、彼だけは平然と僕を呼び捨てにしているしこちらも気にして居ない。

 

それはそれとしてその報告に無駄はなく、必要最低減なので改めて尋ねてみた。

 

「水利が絡むと血みどろの争いになることもあるが、今回は大人し過ぎる。いきなり施設を破壊した上で訴状を届けることもあるからな。隣村の方はエルフを恐れて遠慮しているのかもしれん」

「うちには大通連も居るしね~。じゃあエルフの出方次第か」

 森でエルフと戦うのは自殺行為だ。加えて大通連も居るなら決闘も無理。

だから隣村が様子見しているのは判らなくもない。何をしているのか、大きな溜池や水路を作って、川の水を全て奪われたら困るというところだろう。

 

確かに案の中では水路を組み入れた方の村まで繋いで、直通路を繋ごうとしたこともあった。まあ……大袈裟過ぎるしやること一杯だから諦めたのだけど。

 

「確認するけど濁った水は流れていかなかったよね?」

「ああ。もしかしたらその理由も聞きたいのかもしれんが……。後は何の為の水路改良なのかも気になっているのかもな。実際、俺もそこまでする必要があるか理解して居ない」

「あはは」

 環境汚染する気はなかっただけだが、良い影響なら望むところだ。

それはそれとして舟溜まりを整備したのは水路を大規模に加工する為の実験であり、いずれやってくる水棲種族に備えた物であり、周辺領主にコンクリ製品のセールスをするアピールでもある。

 

要するに複合的な理由過ぎて、個別の情報を見ていると判らないのだろう。オマケに荷車の改良実験もついでにやって、猫車とかは既に好評であるため、何の為の工事か判らないのも確かだろう。

 

「じゃあそのうち紅梓さんが質問に来るかな? 僕はその為の資料でも作っとこうかと思うけど、二尾はどうする?」

「いつも通りだ」

 二尾は村がアンデッドに潰されて傭兵になったそうだ。

その為か用件が終わると直ぐに巡回に出る。いつか彼の魂が安らぐことを九天玄女様に祈っておこう。

 

それはそれとして資料に色々と水路の効果や、その費用をまとめておいた。どの程度のコストが掛かるのか、代価としてどんな物がもらえたら金でなくとも渡せるのかを書き込んでおく。エルフなり隣村の連中がやって来た時に、あるとないとでは説明し易さが変わるからだ。

 

「えーっと浚渫すると舟が通り易く成る上に、洪水が起き難くなる。堤防と合わせて作るとなお良し……あー、デメリットも書いとかないとな。何がマズイんだっけ」

 そういう感じでメリット・デメリットの両方を記載。

エルフの方は環境破壊も考慮して頼まない可能性は大きいが、隣村の方はどうだろうか? できれば提携し整備された水路をできるだけ長くしたいと思っていたが……。

 

領主間の交渉と言うのは、基本面倒くさいというのをこの時の僕は忘れていた。

やはり水利権というのは争いの元なのである。




 と言う訳で懸念材料の中で、ドワーフ問題はサクッと解決。
エルフと隣村の関わる水利権が当面の問題になります。
戦闘とかじゃないのでサクっと話が解決しないという、開拓物に良くあるネタですね。
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