妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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求めるモノ

 春になって暫く、隣村の領主がやって来た。名前は緋八大。

これほど名前と姿が一致する人間を見たことはない。まあこの国のネーミングライツ的には、領地を大きくしろよ……という親の期待なのだろうけど。

 

この解説で判ると思うが体格が大きく比例して横幅も広いという人物で、性格も厚かましいという人物であった。

 

「まったく困ったことをしてくれましたなあ!」

「……何が困っているんですか? 具体的に説明してください」

 普通に話してたのだが、用件を伺うと当然に声を大きくし始めた。

ニヤニヤと笑って気持ち悪いが……昔出逢った代官とか田舎の郷士はよくこんな顔をしていた。自分の為に役立つ、自分が優位にあるから話を進めると言わんばかりの表情である。

 

まあ判り易いという事はそれだけ都会に揉まれていない、まさに地方の名士なのだろう。おかげでこちらも腹が座って話せるのでニコニコと対応しておく。

 

「何かもですよ! 大損害だ! どうしていただけるのですかな!!」

「具体的に言われないと判りませんね。昨日の今日で木々の成長や畑の育成が判るはずもありません。じゃあ魚かといえば、報告を見る限り同じ数値ですけど?」

「そんな事はない!」

 どうしてここまで言いたい放題言えるのか判らない。

少なくとも僕は環境には気を使っているし、『何』が対象なのかを何度も述べている。彼は『何』が対象かも告げず、自分には損害がこうむってその理由が僕であるとしか言っていないのだ。

 

というかここまでノータイムで話しているということは、こちらの話を最初から聞いていないのだろう。何かしらの要因があって怒鳴っても問題ないと理解して、じゃあ要求してやれということだろうか?

 

「報告例で魚が見える範囲で何匹くらい見えたか、その数字がどの程度であるかをこの紙に記してあります。この数字が正しいかは、今後に監視すればすぐに判るでしょう。そもそもこの辺りの住人は魚をあまり食べないそうですけど?」

「私の村では食べていたんだ! いや、魚だけの問題ではないぞ!」

 じゃあ何だよ? と僕は声を大にして言いたい。

しかし紳士的な対応にはならないので、笑顔を保って問い続ける。というか木々の成長が一目では判らない、魚はグレーであるとして、何が問題なのだろうか?

 

まあどんな証明をしてもそのたびに文句を言い始め、じゃあ魚を提供しようといえば、魚なんか食べないとさっきの言葉を忘れるんだろうな……とは思う。

 

「では何の問題なんですか? 僕の方は少なくとも数字を示していますし、これはずっと監視すれば嘘ではないと判る数字です。なんだったらエルフにでも尋ねましょうか? 木々も植物も魚も変わらないと言ってくれると思いますが」

「口裏を合わせているかもしれないだろう! そんなものあてにはならん!」

「ではせめて、何の問題なのか教えてください。出ないと対処も出来ません」

 顔色がクルクル合わるのは面白い。

エルフの名前を出すと少し青く成り、どんな問題で対処するべきなのかを聞けば赤くなる。何に怯えて何に興奮しているか丸判りだ。

 

何と言うか侯爵さんとかあの辺から見れば、僕もこう見えているんじゃないかと苦笑したくもなる。

 

「金を払えばよいだろう! 私の被った損害を金で! 損害が起き続けるならば来年もだ!」

「対処すれば問題は無くなるのに? それでは金をせびっているようにしか聞こえませんが」

「失礼な! 今の発言は私の名誉を傷つけたぞ! 二重、いや三重の損害だ! 必ず払ってもらうからな!」

 そう言い捨てて彼は去っていった。

何が問題なのかも伝えもせず、じゃあどんな対処をすれば良いのかと聞けば、ここぞとばかりに金を要求する。それでいて指摘すれば名誉を傷つけたというのだから、一体何をしたいのか判らない。

 

しかし後に訪れた青悟曰く、僕が最初の対処に失敗して無意味に長引いて引くに引けなくなってしまったのだという。

 

 緋八大が去って幾日も立たぬうちに青悟が苦笑しながらやってきた。

大地母神の教会で色々と春の行事を行った後、八大が起こした訴状を持って来る。

 

ご苦労な事だがどうして彼を通して訴状を出すのだろうか? 青悟を弁護人に雇って言いくるめることを封じたのかもしれないし、もしかしたら八大の村にも大地母神の教会があるのかもしれないけれど。

 

「二羽く~ん。駄目じゃないか。あの手の輩にはガツーンと行かなくちゃ」

「もしかしてこっちが上で無視するべきだったんですか?」

「似たようなものだねぇ。親しき仲にもパンチありってのが貴族だけど、君は緋家の縁者になるはずだろ? それなのに交渉しようって事は、何かを要求できるって事さ」

 要するに最初に大きな要求をしておいて、徐々に下げていく交渉術らしい。

初めに普通の対応をしていたのは、こちらの方が上だから強権的に来られないように伺っていたのだろう。

 

それが話をしてみたら同等の相手であり、色々な文物を開発している所を見て金を持っていると思ったのだろう。まあ僕も緋家の名前を使うとか、親分に頼る気はなかったし、頼ったら何か要求されるかもと気にしたのがマズかったのだろうか。

 

「そもそもさ、南部の英雄で緋家の縁者になる予定で、豪傑を抱えて色々な開発に成功している領主さまだよ? あんなの無視したっていいし、言い掛かりを付けるなら殴り返すと言ってやれば良かったのさ」

「今からでもそうするのは?」

「もうだめだと思うよ? それに交渉とか根回しで行くと決めたなら、そっちに慣れた方が良いね。特に……これからは、ね」

 そう言って青悟はお土産に要した砂糖漬けの果実をつまんだ。

お茶請けを口にしているというよりは、話題を反らすためだろう。ちっとも美味しそうには見えないし、むしろ珍しい物をもらえる立場と言う自分の身分を確認しているようにも思われた。

 

何と言うか彼の態度を見る限り、八大のことはオマケなのだろう。何か言いたいことがあって、ついでに用事を引き受けたのだと思われる。

 

「これからですか?」

「海の向こうを見たんでしょ? ならそろそろこの国の歪さに気が付いても良いんじゃない? そして四大諸侯が抱えている不満にもね」

「あー。何となく……くらいは?」

 青悟は執務室にある文物の中で、地方の物を勝手に移動させる。

水晶は何処にでもある物だけど北から持って来た数少ない僕らの故郷の石。最近作ったガラス製の瓶は南領産になる、以前に青悟からもらった東領製の筆。西領の品は持ってないので、代わりに自分の懐から何かの壺を取り出した。

 

それぞれをテーブルの四方に置いて話の続きを口にする。

 

「この国は外戚になることで負担と権勢を持ち回りしている。四人の侯爵の誰かが大公、皇太子の後見人が公爵という風にね」

 そう言いながら青悟は勝手に瓶の中に壺の中身を入れた。

そして空になった壺を右側にある筆の傍に置いて、まるでインク壺と筆のセットであるように見せた。もちろん中身は空だと僕らは知っているわけだけど。

 

「なのに魔王の侵攻以来、西大公は権勢を保ったまま東側に疎開をしている。まあうちの東公としては出費を押し付けられた形さ。ハッキリ言って邪魔だし、せめてもう少し東に行ってくれれば権勢とか確保しようもあるのにね」

 今度は筆と壺を順繰りに上下に入れ替え踏みつけさせていく。

最終的に筆の端っこを壺が抑えて邪魔な態勢だ。完全に筆の上ならば転がり落ちもしようが、危うい所で踏み止まって居た。要するにこの態勢が今のこの国の現状なのだろう。

 

そう思った時、青悟は瓶の蓋をコンコンと叩いた。

 

「西領の景気とか早い段階で移ってはいた。なのに南領の侯爵はそのまま据え置き。非常時だからと上納を迫られるし、諸侯の義務だとアンデッド相手の出兵も迫られていたんだ。そんな中に颯爽と英雄が現れて未来を切り開いてくれた」

「……狙ってやったわけではないですよ?」

「知ってるだろ。この国ではタイミングの良い奴が英雄なのさ」

 クツクツと笑いながら青悟はイジワルな笑みを浮かべた。

普段は人の良い司祭と言う感じだが、こんな時に浮かべるこの表情こそが彼の本質なのだろう。傍観者として酒を飲みながら眺めているような悪人めいた表情だ。

 

まあ彼は東領の貴族の息子であるし、大地母神の神殿に属する伝道者なので傍観者なのだろうが。

 

「そういう訳で侯爵閣下は君に期待している。ボクが報告したからうちの公爵さまも期待している。できるならあの程度のボンクラ相手に足踏みして欲しくないんだけどね」

「なら緋八大の狙いくらい教えてくださいよ」

「それは守秘義務に反するからダメ。それに面白くないでしょ?」

 まあ金でなければ物資か名声か。

八大の狙いはそんなところだろう。僕から色々むしり取って左団扇に成りたいのだ。青悟としてはその程度の輩は軽くあしらって、奴も組み入れて僕にステージに上がってこいとでも言うのだろうか?

 

いや、青悟が傍観者なのだとしたら、侯爵さんが使える駒を求めており、それによって南領が動き易くなることを東の公爵が求めているのだろう。いずれはこの国を動かすために東と南が手を組むための第一歩と言う訳だ。

 

「なんか陰謀の歯車になった気分ですね」

「それが判ってるなら成長してるじゃないか。まあボクとしてはなんだねえ。君がボクの下に来てくれるなら色んな意味でハッスルしちゃうんだけどさ。部下とか恋人の為なら守秘義務くらいは安い物さ」

「そういうのは冗談でも勘弁してください」

 ブタから逃れるために蛇に絡まれるとか冗談ではない。

地方の水利権に関わるいざこざだと思っていたのに、話が妙な方向で大きくなった物である。




 と言う訳で水利問題かと思っていたら、もっと小さな金銭問題。
そしてそんな小さな問題は早く片付けて、レベルUPしろよと催促されてる感じですね。

●この国の権力システム
 東西南北の四大諸侯は全員侯爵です。
皇帝を支える者が大公になって、皇太子を支える者が公爵になる。
残り二人は侯爵のままですが、代が変われば負担と一緒にチャンスが巡って来る。
性格的に北領の侯爵は『権力は要らんから、うちには来るな!』という穴熊。
南侯は『命令するな! 妥当なら協力してやる!』と反骨心が強め。
基本的には東と西が結構な比率で権勢を回しています。
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