妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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フェーデ

 今回の騒動、周囲の思惑を考えると見えて来るモノがある。

正直な話、青悟が言う程に四大諸侯が僕の事を気にかけているとは思えない。精々が紅家から見て『系列企業の面白い提案をする営業マン』というくらいだろう。

 

だから期待しているのは面白がってる青悟自身と緋家……長男の悌さまではないだろうか?

 

「緋八大。最初は猪かと思ったけど……養豚場の豚だったか、可哀そうに」

 大きく動くには僕の力はまだ小さ過ぎる。

緋家では二群を持つ貴族が精々で、僕はそこに仲間入りをする程度だ。緋家に縁を持つことを含めても『南領に貢献する面白い男が居ます』と青悟が報告するレべルでしかないだろう。

 

しかし僕が三郡を領有とは言わずとも代官として掌握したらどうだろうか? 緋家の筆頭家臣になり、次期伯爵の悌さまが目を掛けているならば話が変わって来る。二人三脚で緋家を動かし、数年内に中央への道を確保してみせればその話題も確実な物に移るだろう。

 

(そうすると報告した青悟の目は確かって事になるし、悌さまも妹婿……それも好きな方を選べと言っておいて、やっぱりこっちって格下げを受け入れた相手だもんな。扱い易い舎弟ってことか)

 青悟と悌さまにとって、僕は都合の良い相手と言う訳だ。

だから二人としてはここで八大を抑えて、大きな影響力を八村に与えさせようとしているのではないだろうか? だから青悟は八大の訴えを潰さなかったし、悌さまも無視しているのではないだろうか?

 

(ついでに弟君の派閥が八大に付いてると理想的なのかな。一緒に叩き潰して大勢を確立できる)

 もし弟君の連さま派が逆襲の一手としてバックに居たら?

そう思うと八大の強気も判る気はするのだ。最初は念のために顔見世に来て、大通連はいないしこちらは交渉しようとしている。ならガツンとぶん殴って、イザとなれば連さま派に頼れば良い。まあその派閥が実際に何かするとも思えないけど、八大がそう信じる分はタダだ。

 

もっともそこまで大きな話ではなく、僕を見て『噂の英雄ではない。儲けられる』と軽く見られただけの可能性もある。その場合は家同士の戦いに成れば疲弊する事も、負ける可能性も考えていないただの馬鹿者ということになるだろう。いずれにせよ青悟や悌さまからみて惜しい人物とも思えない。

 

(全部終わたら八大は隠居させて子供が成長するまで僕が代官ってとこかな? 子供が居なければ……僕と妹君の麗さんだっけ? その子供を領主にして緋家から代官を送るって感じかな)

 もちろんこちらが負けたり、そこまでいかずとも妥協する可能性はある。

傭兵どころか豪傑を抱えるこちらが負けるとは思えないし、負けそうならばそもそも青悟が仲介して止めるだろう。しかし連さま派が協力する場合は助っ人を送り込んで来る可能性はあるし、そもそもアンデッドが今年も大量に湧いたら戦いは中断する事になるだろう。

 

次に八大の狙いを考えてみる。

こちらが強大な英雄だったら困るので、最初は本当に様子見だったはずだ。場合によっては悌さま派に鞍替えして美味しい汁を吸おうとしたに違いない。僕に要求するのも高いレートでの交易……いや、こちらの生産した文物を分けてもらえば良いくらいの可能性すらあった。

 

「真摯な要求も無視しただけではなく甚だしい侮辱があり……ってどう考えても逆じゃない。で、勝ったら川のこっち側までよこせ。それが嫌なら示談金? いっそ清々しいな」

 訴状を見るとデタラメな事しか書いていない。

第三者が見ている訳でもないに、というかだからこそか。デタラメを並べてこちらへの不満を訴えかけている。裁判だとありえない内容だが、別に裁判を行うわけではないからコレで良いのだろう。川が境界線というのもいかにもありそうな話だが、実際には同じ時期に作られた開拓村なので怪しい所だ。

 

ただ貴族には決闘権というものがあり、要求が認められない場合はフェーデを挑んでそれが受け入れられるまで延々と嫌がらせができるのだ。勝手に占有して周囲を荒らし、決闘裁判に応じる様に求める訳である。要するにその流れに持ち込むための第一報であり、後に正当な行為であると主張する為の証拠造りの一環なのである。

 

「この件を裁くのは誰か判ってないんだろうな~。まあ決闘裁判だったら勝利した方が勝ちなんだから正統性は何でも良いって事かな」

 もしこちらが何も考えずに逆襲したら、セオリーを無視したこちらの問題になる。

そうなったら正式な裁判で裁かれるのはこちらで、いかに非道をしたのかを問われることになってしまう訳だ。まあ領地を防衛する分には構わないはずなのだが、大通連がいきなり出てきて抹殺すると後ろ暗い所があって暗殺したとか言われるのだろう。

 

だからこちらもセオリーに則って訴状への反論を用意し、反撃を準備しておくべきなのだろう。

 

「ええと、緋八大は被害が出たと言いながら具体的な内容をまったく示さず金銭を要求するものなり。当方が漁獲・林業に影響なきことを貴兄に先月送りし観察記録で例示し、この記録に偽りがないことを共に確認しようと述べたところ、そのようなはずがないと一方的に拒絶するものなり……」

 セールス商品なので当然観察記録は方々に送ってある。

荘園主仲間もそうであるし、水棲種族や緋家にだって送付してある。もし興味を示せば売ったり献上品として扱うつもりなので、虚偽があれば問題になるから嘘偽りは記載していなかった。

 

まあ八大はそんなことを知らなかったからだろうが、証拠というか証言を述べる為の物証は既にあるのだ。他の荘園主や領主が確認しそうな内容に関して、こんな感じで問題ないようにしていますよとセールスポイントを用意していたのだ。というか無ければエルフの領域に跨る河川の浚渫・護岸なんかしたくない。

 

「あ、そうか。こういう時にエルフやドワーフがどう動くかも注目されてたのかもな。八大くんは良い仕事するなあ……エルフが見てたのを悪意的に考えたのかな。この辺は後で確認しとかなくちゃ」

 土地を取り上げられないために、エルフやドワーフと仲良く成っておいた。

イザというときに協力してくれるつながりがあるなら、周囲は警戒するし僕の荘園を通して彼らの力も借りる事ができるかもしれないからだ。もしかしたらその辺を確認するために周囲が八大を突いた可能性もある。

 

もちろんハッタリを多めに効かせるなら当然のように利用するべきだが、別に困ってないのであえてそうする必要もないだろう。剛盾に参戦を要請する場合と傭兵として雇われた場合の差を確認し、色よい返事をもらえなければ諦めても良いくらいである。そして紅梓がやってくるとしたらそろそろのはずだ。

 

紅梓自身に他意は無くても、エルフ族としては優位な立場で交渉できるのだ。参戦するか中立でどちらでもないというか、はたまた温室の研究なり冒険者として登録だけはしているエルフ達を引き揚げさせるか……そういう干渉をして来る可能性はあった。

 

 そして推測した通りのタイミングで紅梓がやって来た。

そろそろ青悟が大地母神の教会での職務を負え、帰ろうかと言うところである。これ以上後になると彼に渡す返書とかの内容を返られなくなるので、エルフが協力するにしても中立になるにしてもこのタイミングが一番都合が良いのである。

 

ただ想定外だったのは、紅梓だけではなくもう一人エルフの少女が居たことであろうか。

 

「青柳と申します。初めまして」

「銀二羽です。よろしくお願いしますね」

 伴っていたのはプラチナブロンドの一筋に青い染色を施した少女だ。

入れ墨も施してあるが紅梓より少ないので、もしかしたら紅梓よりも若いのかもしれない。あるいは単純に部族でのランクが班長と一般人みたいにワンランク下なのかもしれないが。

 

ともあれ初めてやって来るお客さんだし込み入った用件みたいなので、御菓子として雑穀を蜂蜜で固めたグラノーラモドキと果実の蜂蜜付けを出しておいた。

 

「紅梓さん。護岸工事の書類は読んでくれた?」

「読んだわよ。だからこうして新人連れてやって来てんでしょ」

 何だろう紅梓の意外に面倒見の良さというか……。

若作りのOLがお茶くみの新人を紹介するような感じは。どこかで見たデジャブだとするならばそんな感じだろう。

 

いずれにせよ新人と言うからには、これから顔合わせをする仲になるということだろうか。ということは少なくとも人員総引き揚げで脅すという事はなさそうなので助かった。

 

「あの数字は本当なの?」

「直ぐに判る嘘は吐かないよ。結界に関しては何を残すか次第で、認識の訓練が必要だけどね」

 資料は同じ物をエルフに送っている。

コンクリ商品のデメリットである、植物の育成や水なんかも遮断してしまう部分も書いておいた。そんな資料にワザワザ嘘を載せる必要はない。やるならデメリットも載せなければ良い話だしね。

 

その上でこの場合の結界とは、工事の際に水質保全を行った事である。川の流れから泥の汚れだけを防ぐ結界を造り、川下側に張ったのだ。物凄く狭い範囲なので長持ちするし……あえていうならば一時的に遮蔽壁を作り、岩と砂利を使った簡易濾過装置でもあれば結界なんか不要な程である。

 

「水の流れや魚に虫まで止めたら一瞬で崩壊したと思うね。でも大多数の水も生物も止めない、止めるのは泥の中の汚れだけ。だから魔力の消費は少ないって事かな。少なくとも僕の魔力が回復するまで保てたのは確かだよ」

 ここで紅梓と青柳の前にあるグラノーラモドキを指さした。

これを全て止めるための魔力だとする。全部止めると一瞬でこれだけ消費してしまう訳だ。しかしその中の一部、それも粉になっている雑穀だけを止めるならばそれほど消費しはしない。

 

保全能力を利用した結界の優れている部分は、見て居なくとも途中からは知覚できなくともオートで反応してくれることだ。最初に区別できないとまったく反応もしないが、魔力が保つ限り掛かり続けるのが利点であった。

 

「欠点と言うか気を付けなきゃいけない問題は?」

「絞る場合は自分が認識できないといけないし、近くの相手を指定したりする場合は移動で入れ替わる可能性が高い。絞れたとして無関係な対象はまったく排除しないし、逆に有用な部分に気が付かないと大変なことになる。この辺は慣れと知識の蓄積次第だけどね」

「有用な……ですか?」

 質問の内容は水質汚染ではなく、結界に関してだった。

この時点で紅梓というかエルフ族の考えは透けて見えたので、真摯に説明することにした。おそらくはエルフ族も木の杜なり森の杜を育てる気になったのだ、今回いる青柳という少女は多分巫女さん候補であろう。

 

これならば色々と便宜を図ってくれると思うし、神職仲間の後輩だと思えば親切にしておいて損はないはずだ。今度は果実の砂糖漬けを指さして説明する。

 

「温度を一定に保つ結界を張ったとして、気温が下がらないと花が咲かない種類の植物に掛けたら大変でしょ? 同じように虫から排除する結界を張ったとして、虫の中には実を結ぶ事を助ける種類のやつがいる。その辺を把握しておかないと大変ってことだね」

「なるほど……参考になります」

「ちょっと、私と態度が違うんですけど!」

「人徳と言うか、出逢って間もない人だからね」

 他にも皿を何種類か用意して、サイズやら重さで消費が変わると説明しておいた。

広ければ広くするほどに魔力の消費は激しくなるし、態勢を支える場合などは重量だって問題になる。元の状態とかけ離れるごとに魔力消費が跳ねあがるのだ。

 

ここで泥の話をして、消費を抑える例をもう一度上げておくことにしよう。

 

「さっきの泥の例だけど、実は綺麗にするだけなら岩と砂利、できれば布を挟めば濾過するのは簡単なんですよ。そこまでやれば結界に必要な魔力は殆どありません。砂利だけでもかなり減りますし、数日だけなら大きな岩を並べるだけでも違うんじゃないかな」

 とりあえず水質保全と結果の件はここまでだ。

青柳には神職が来た時の為に用意するつもりの資料から、雑稿を抜き出して読ませておく。

 

そして紅梓に緋八大からの訴状を見せエルフの態度を確認しておくことにした。

 

「こういう訳でうちに吹っ掛けられた喧嘩を買う気なんだけど、紅梓さんはどうする? 雇っても良いしエルフ族としてオブザーバー参加する手もあるね。もちろん積極的に参加して僕らが勝った時に何か要求する手もあるけど。もちろん参加しなくても問題ないよ」

「勝てる博打に相乗りするのは好きなのよね。まあ族長次第なんじゃない?」

 紅梓はこのタイミングで来てる段階で、殆ど答えは出たようなものだ。

周辺地形は完全に把握しており、エルフの領域を間に挟むから本村から攻め下れないだけである。焦点になってる川の周囲を固めて守っても良し、こっちが逆に攻め入っても良いだろう。

 

そして参戦に関して色よい返事を聞けたところで、青悟に渡す手紙に『戦力調整』の話し合いが必要かを載せておくことにした。戦力調整と言うのは兵力が劣った側が、何かの妥協条件と引き替えに相手方の戦力を減らす交渉の事である。騎兵を使わない代わりに弓を使うなとか、そういう感じの話し合いだと思って欲しい。

 

「剛盾さん。軽虎に投石器載せといてもらえる? 前に移動させるために小型化させたのがあるじゃない。用意しとけば荷車を動かすだけで遠距離射撃ができるからね」

「ホウ! 面白い使い方じゃのう! こりゃあ特等席で見んといけんわ!」

 裏でこういう悪巧みをしながら、八大の返事を待つことになった。




 と言う訳で状況把握と対策回です。
相手の思惑を推測し、適当にあしらう事になります。
まあ初回から防衛のために力を入れていますからね。
何処を見張ればどの程度の敵が来るか判ってるし、待ち構えれば最低でも互角。
工夫すれば工夫するだけ有利に立てると判ってるので、無茶な事を言い出す感じです。

●決闘権とフェーデ
 領主とかは元が豪族だったりすることが多いので、私闘を挑むことができます。
決闘裁判で勝った方が全部勝ちというルールの裁判を要求して、受け入れなかったら嫌がらせ。
普通は間に派閥とか、友誼を結んだ相手が絡んで来るので対等ではありません。
そこで
1:戦力を調整する。しなかったら好きに援軍呼んでいい、
2:場所と日時を決める。しなかったらゲリラ戦を挑んでもいい
3:基本的には挑まれた方が選択するが、条件の種類は挑む方が多めに提示する
(強い勢力も延々と戦うと疲弊するので、条件出して妥協し合う。普通は仲裁が入る)

と言う感じですね。
主人公は挑まれた方ですが、訴状を受け取った段階で挑み返した感じ。
「ワシの方から喧嘩売ったるわ。うちにはエルフもドワーフもおるぞ。
ワレんところのケツ持ち呼んだらんかい!」と言う感じですね。
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