妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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勝算

 青悟に訴状を持たせてこっちから喧嘩を売り直すことにした。

事態の経緯を記載して殆ど同じ内容の文章を何枚か書いておくが、正統性以外のポイントは『戦力調整』と『戦場の選定』の交渉要請である。後は見届け人を呼ぶ気があるから『日時』も決めたいと書いておく。

 

訴状いわく、侮辱されたのはこちらであり緋八大の言う主張こそデタラメである。

それに対してこちらこそ決闘裁判による決着を申し出てるが、当方が遥かに有利なので、そちらが控えるならば戦力調整などの交渉に応じるという内容であった。

 

「せっかく有利なのにどうして手加減してあげるっていうの?」

「勝てるけど本当は戦闘したくないってアピールかな? まあボコボコにしても何の意味もないってのもあるけどね。後はお互いに数が増えると食料とか時間とかもったいないから」

 まあ交渉しても良いけど、しなくても良いという内容なのだ。

こうしておけば経緯を知っていると、『デタラメの訴えで嫌々戦闘を持ち掛けられた』けど、それでも余裕だから大人の態度を示したという形になる。

 

なお追加戦力を使わない条件は、相手も追加戦力を呼ばない事を前提としている。他にも交渉の種類は用意したが似たり寄ったりだ。完全に手加減するのではなく、お互いに使わない手段を設定するという意味に近いのだと双葉に説明しておく。将棋で言うと飛車・角の好きな方を落し合うという流れだろうか? 選ぶ戦術によって不要な駒を削りあうという感じである。

 

「例えば紅梓たちを呼んだらお菓子は食べられるし怪我させたら保証も居るし、援軍のおかげで勝ったらお礼も沢山いるでしょ? でも相手が援軍を呼ばない場合はこっちもエルフを呼ばないってことにすれば、相手の兵士は減るし必要なお礼も減るからね」

「そういう事ね。まあどっちにせよ名前を貸したお礼くらいは貰うけど」

 八大が連さま派を読んだら際限ないので、エルフを使って引き下がらせる。

もしそうならなかった場合は、エルフの領域を通って相手の村を直接攻めれば終わりだ。森を焼き討ちなんかできないし、かといって森の中で戦ったら死ぬしかない。相手が何人援軍を呼ぼうとも勝負にならないので、向こうからすれば絶対に呑まなければならない条件である。

 

こちらが勝ったとしても向こうの村に面している森をエルフの領域に組み入れ、代わりに僕が木材を貰う程度の条件になるので、まったく美味しくも何ともないのだが。

 

「異種族が戦いに介入する前例を作りたくないと思うから、この条件を出した時点で向こうは絶対に折れるだろうけどね。だから殆ど援軍や助っ人を呼び合う可能性はなくなった」

 八大の村の住人以外も呼ぶことができる。

しかしこちらも呼べる以上は、コッソリ援軍を送り込んだら大変なことになる。その場合はこっちも大通連を参加させても良いという事になるので、家臣と村人以外の戦力は禁止ということになるだろう。似た流れで決闘に代理人を呼ぶ話もおそらくはない。

 

戦力調整の項目を載せた時点で、際限のない援軍競争と言うオチはなくなったのだ。

 

「戦場を決めるのは本来、広過ぎる場所で戦うと相手の軍が何処に居るか判らないからやるんだよ。この場合は村を焼かずに中間で戦おうねって約束かな」

「でも放っておいてもそうならない? 私達も相手も村を焼いてもつまんないでしょ?」

「そうしない可能性もあるからだよ。何人かが隠れて忍び込むって可能性もなくはないし」

 組み入れた方の村に攻めて来るはずだが、入り口は三か所。

その全てを守るのはナンセンスだ。人数規模的に相手の援軍が無ければ気にすることもないが、その場合はゲリラ戦をやり合う感じになる。傭兵生活を送った僕らの方が有利だが、向こうも雇う可能性があるから無制限の戦いは無しにしたい。

 

こうしてお互いに戦力を最小限にし合うと、基本的には泥仕合になる。ただ投石器を始めとして色々武装を開発している分だけこちらが相対的に有利であり、この時点で負ける余地はないと言っても良いだろう。

 

「じゃあ、あの辺に看板とか立ててるのはその辺が理由なの?」

「そういう事だね。距離を測ってるから、どのくらいで戦いが終わるかも推測が付けられるよ」

 ちなみにこの計測はグレーゾーンである。

こちらは荷車に投石器を載せてる最中なので、測距射撃ができるからさ。戦ったらマーカーで位置を測って方向を変えてぶっ放せば終了だ。相手の上にバラバラと石が落ちてきて、散弾代わりに降ってくることになる。

 

見届け人と言うか見物人を呼ぶ気だというのは、悌さまに泣きつく為ではなく、新しい兵器を見せてアンデッドを倒すための北上戦に備えた物だった。大砲と言うよりは古代の攻城兵器を小さく運用し易くした物で、銅張鉄甲馬車よりは異質ではない筈だ。

 

「そもそも。土地に関しても八大の訴状じゃ川が境界だからこっちの岸まで寄こせとあったけど……。同じ時期の開拓村な上にアンデッドの跳梁もあるんでお互いに適当で、済ませてるはずなんだ。多分、探せば『お前の領地だからお前が討伐しろ』みたいな手紙を送り合ってると思う」

 組み入れた村はアンデッドに滅ぼされていた。

だからまとめて放り込んだ遺物の中に手紙がある可能性はあるし、無くても成立時期と地図を見ればどちらが正しいかは判りそうなものだ。訴状の内容に関して即座に反論できないのはその辺の怠慢と言えなくもないが……。

 

今回の件に関してこちらは詳細な資料を用意し、論拠を立てているのに向こうは特に何もなく声が大きいだけ。仲裁を行う者が向こうの味方であるとか、ボンクラで『喧嘩両成敗だから』などと言い出さない限りは正式な裁判になっても勝てる気はする。

 

(僕が若造だから何も知らないと思って、境界線を誤魔化すだけでも儲かると思ったんだろうなあ。もし川が全部の境界線だったら、討伐を要請してるっての)

 他にやることが多いし遺物は放り込んで確認して居ない物も多いのだが……。

川は直線ではないのでお互いの領域が混ざり合っている。向こうにとって境の部分もあれば、こちらにとって境の部分もあるだろう。しかし大部分は不明瞭なままでエルフの領域に跨っているのだ。中間地点は人間の領域の筈だがエルフの土地に近いし、アンデッドが跳梁跋扈してるからナアナアで済ませていた場所が過分にあると思われる。

 

ともあれその辺は遺物を片付けつつ戦いの趨勢が決まった後だろう。僕は目の前の問題に専念することにした。

 

 改めて現実的な計算をしてみる。具体的に言うと戦力の問題だ。

この世界の村は大き目の本村と、その周囲の山や谷に支邑が幾つかと言う構成になる。場所にもよるが本村が百から二百、支邑が一つ辺り十数名くらいで全部合わせて三百くらいになる計算である。

 

古い村の中には離れに家を建てて次男・三男が仮独立し、もっと人数が増えれば板を渡して茅を葺き、アーケード状にして収容人数を増やす。もちろん畑を分けてもらえない末っ子などは、村はずれに小さな家を建てて開墾したり、兄たちの世話になりながら代わりに畑を耕す小作人になる。

 

「双方ともに援軍は無しで開拓村だから村人も多い訳じゃない。こちらは二群あるけど片方は壊滅した村だし、総数が二百人前後で徴兵できるのは十数人から無理して数十人ってところはこっちも向こうも同じかな。普通は分散するから人口密度が低いのがネック……と」

 先の数は普通の村であり、初期の開拓村にはそんなに居ない。

八大の村もこちらの村も開拓村なので多寡が知れる数なのである。村人は全員が顔見知りで、出入りなんか無いから数世代の内に全員が親戚になるだろう。

 

疎開してて無事な本村は四方を山に囲まれた盆地にある事もあり、元から人数が多いわけではない。それが組み入れた村の方にも移動して働いているのだから、人口密度はかなり少ないように見える。発展性が大きいとも言えるが、現時点では八大が侮るのも仕方ないと言えるだろう。

 

「もっとも本村を守る必要はないから、そうでもないんだけどね……後は向こうがどう攻めて来るか、かな」

 戦える十数人は全員を、向こうに集められる。

四方が山と言うのは守り易いという事であり、エルフやドワーフの領域もあるからまず突破されたりはしない。山の中で移動し易い場所は把握しているので、相手が山を通ろうとしたら即座に発見できるというのも大きいだろう。間に見張りを兼ねた休憩小屋があるので巡回する者が疲れると言う事もないしね。

 

普通は此処まで地形に詳しくはないし守り易くもないが……僕は和風の城を作るつもりだったので、地形の把握と建物での補強は当然のようにやっていた。

 

「戦えるメンツは組み入れた方の……そろそろ名前を決めなきゃ面倒だな。まあ向こうで作業してもらって、投石器で嵩ましと。主要な振り分けは今までと同じく、北口をメインに西の川に見張りってとこかな」

 仮に本村を壱として、向こうを弐の村とする。

弐の村は西に川があり、北と東に出入り口がある。その周囲に山は幾つかあるが壱の村ほどではなく、林やエルフの領域に連なる森に面していた。

 

この中で東口に回る前に捕捉できるので、メインで警戒すべきは北だろう。西の川は深くはないが渓流なので流れが早く、あの村が壊滅した理由の一つであり、八大の村が比較的に無事な理由でもある。そんな川をただの村人が簡単に渡って来れるはずがないので警戒はし易いのだ。

 

「西の川は見張りを置いて渡河ポイントを確認するだけでもいいかもね。測距射撃ってほどのレベルじゃないけど投石器を移動させられるし」

 援軍を呼ばない以上はどう頑張っても百名だ。

戦えない者を後ろに置いて、訓練した者を前に出してイキがるくらいだと思われた。それならば投石器を載せた馬車を弐の村の中央に置き、こちらの戦える者を北口に配置。あとは見張りを東西に用意しとくだけで十分だろう。

 

どちらかと言えば問題は回答を先延ばしにして北口よりも北部への道を塞ぎ、侯爵領からこちらに向かう水棲種族や人足から物資を奪われる方が困るくらいである。もっともそれをやるには何十日も畑仕事をさせずに街道筋に張り付けておく必要があるうえ、こちらに向かっているかもしれない大通連を刺激する可能性はあった。

 

「あ……人足たちもだけど、大通連に釘挿しとかないと。全部交渉決まった後で皆殺しにされても困る……」

 迂闊と言えば迂闊だが最近平和なのですっかり忘れていた。

専用鎧で釣って侯爵領で魔物退治させていたはずなので、そろそろ戻ってくるはずだ。私闘の真っ最中だがおそらくは余裕で片が付く筈なので、直通で戻ってこられたら大変である。

 

どうして敵対している領主の為に心配しないといけないのか。世の中理不尽だと思いつつ、手紙をしたためることにした。腹が立ったので大通連を止める内容であると同時に、さっさと返事をしないとこちらでも傍若無人な豪傑を止められないぞと八大に脅しを兼ねていると思ってもらえばいい。

 

交渉のテーブルに乗ると言って来たのは、手紙を送り届けて数日後のことであった。




 今回は勝算と基本戦術の解説回。
まあ籠城の準備している村が同規模の村に攻められても、そりゃ困りませんよね。
戦力調整で「エルフ抜きにするわ!」といってるのは奇襲での勝利を無くす代わりに
相手が無制限に援軍を呼ぶのを止める為です。後押している敵対派閥から来ると面倒なので。
また主人公側には豪傑が居る為、代理人アリの決闘をするとその時点で終了。
場所と日時を指定したの行儀のよい戦いをすると、投石器を使って終了というオチです。

●村の規模
 普通の村で200~300、大き目の村で500となります。
10分の1くらいは徴兵してもOkで、無理をすればその3倍くらい。
しかし動員すると畑仕事ができなくなるし、怪我すると困るのは同じですね。
今回の敵は小さな200人規模の村で、主人公は2つ村あるけど同じくらい。

それは壊滅した村を抱えているせいであり、相手の援軍を減らそうとしているのは
三方から攻められたら困るという計算になります。
(エルフが奇襲すれば一発で占拠できますが、確実でもないのでやらない)
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