妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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予期せぬ仲裁者

 相手が戦力調整の交渉に乗って来たのは良いが……。

少しやり過ぎてしまったと気が付いたのは、余計な人間が増えていた事、そして返事を伝えたその瞬間から交渉をしようなどと前倒しを要求された時である。

 

八大は青悟の他にもう一人、貴族らしき老人を連れていた。この辺りの名士を知らずとも、それが緋家に属する貴族……おそらくは連さま派であることは容易に予想できた。これが驚かずにいられようか?

 

(こいつ負けて悔しいからって……泣きつきやがった!?)

 八大は自分だけではどうもできないと判断したのだろう。

あるいは老人の方で無理だと判断したのかもしれないが、先生とか親に『一発殴ったら三倍返しされた』と泣きつく不良みたいなものである。どこにメンツがあるのか教えて欲しい。

 

それはそれとして村の外であることもあるが、肝心の青悟も苦笑いするばかりで特に何も喋らない。この程度は何とかして見せろと言う事なのだろうか。

 

「……軽虎のシートは取らないこと。それと適当なタイミングで下げといて。まだ気が付かれたくない」

「ういっす」

 出迎えに行く前に六耕へ投石器を隠すように伝えておく。

流石に向こうの斥候に見られたくないからシートは被せておくが、もしこのまま本村である壱の村で話し合うと言う事に成ったらバレるのは時間の問題だろう。ここは文句を付けつつ時間を稼いで秘密兵器は隠しておくところだろう。

 

そういう意味では何処にでも駆けつけられるように弐の村の中央に置いておいて良かった。三圃式農業で分割して居るから不自然な位置ではないし、遠目ではシート越しに何があるかは判らないはずだ。

 

「あっ……勝手に入って来やがった。しかもジロジロとこっちの建物見てるし。仕方ないなあ」

 遠巻きに姿を見せ用件だけを伝えるのかと思たが……。

こちらが対応を決める前に、手を振りながらズケズケと入り込んで来る。使者だから狙撃されないと判ってるのだろうが、同時に偵察をするとか良い度胸である。

 

ひとまずこの段階で言えるのは、明らかに八大が当て馬でしかないと判った事だ。切り捨てても痛くない末端の駒とは言わないが、派閥に大きな傷が残らない程度の男なのだろう。哀れと言えば哀れだが、僕が何もできない場合は大きな利益を手にしたはずなので同情する気はない。そもそも奪われるのはうちだしね。

 

「緋五塀じゃ。主家に迷惑を掛けることもあるまい。この老人が交渉の見届け人ということで構わんじゃろ? 青悟君もおることじゃし」

「五塀さんも青悟さんもどちらかには肩入れしない、あくまで中立の立場と言う事でしたら構いませんよ」

 残念な事に緋家を名目にされると断り難い。

悌さまたちを呼ぶのはどうせ戦いの日なので必須ではないこともある。それに中立性が保てないことを強烈に主張すると、その事を理由に『八大の件とは別に』挑まれる可能性があった。

 

友誼によって八大に肩入れするのは無理でも、僕の断り方が失礼だったからという理由で決闘裁判と私闘を挑むことは問題ないからだ。そうなれば八大どころではなく、派閥全体を敵に回すことになるだろう。

 

「では本村の屋敷にご案内します。馬車を回しましょうか?」

「いや、寄る年波には勝てんでな。あそこの建物で話をしようじゃないか。まだ寒いし腰も悪いでな」

 五塀という爺さんは好々爺のフリして中々抜け目がない。

もし戦いに成れば簡易砦として利用する建物の一つを高所の場として指定したのだ。おそらくは中の構造や、煉瓦を何処まで使って建築しているかを今のうちに確認するつもりなのだろう。

 

作業小屋として使ってはいるが、まだ小麦などの収穫はないので空いているから申し分は無かったし、交渉の場として使うという理由では断れないのが痛い。

 

「フン。調度品の一つもない殺風景な部屋とはな。多寡がしれる」

「申し訳ありませんね。ここは作業小屋ですし精々が講堂として使うくらいですので。ここで交渉すると知って居たら机と椅子以外にも用意しておいたのですが」

 うちは木工を修練している者はいるが、売り物の為に小型のみに絞っている。

練習する意味でも飾り付ける意味でも何度も作る必要があるし、そもそも薪や建物自体に使うからタンスやなんかに回せる木は少ないのだ。

 

「これ。事を荒立てるでないわ。それに領主として見どころは色々あろうに」

「そういう訳では……」

 そっぽを向いているようで、五塀は別のモノを見ていた。

建物の構造がどの程度なのかを見た後は、数字と簡単なマークを教える記号表に目を向けて居る。文字や計算を無理に教えるのではなく、最低限の部分だけでも覚えさせる為の物だが……。

 

確か例文は労働条件のはずだ。労役で働いた日は本村の風呂に無料で入って良いとか、ノルマ以上に働いたら残業ポイントを付けて物々交換に応じるくらいの事が書いてある。言葉や数字を教えるたびに周知されるので、労働意欲を書き立てると評判だった。

 

(まったく。勝てる相手だと侮って居たら、余計な人間を引っ張り込んじゃってまあ。利用されてる事に気が付かないのかな……まあこの辺の情報を抜かれても困りはしないけどさ)

 こういった情報は他の荘園主とも共有している。

洞府の機能でうちだと効率よいだけで、他の荘園も同じ情報を持っているのだ。だから見られても困ることはないが、これだけ抜け者のない爺さん相手が向こうについていると思うと面倒くさかった。

 

そういう意味ではこちらの援護射撃をして欲しいところだが、残念ながら青悟の表情は変わらない。まあ彼から見れば上級貴族たちと比べて他愛ない相手ということなのだろう。経験値として食べる相手にしては少し渋いような気がする。

 

 そして本題の戦力調整が始まると途端に声が大きくなる者が居た。

もちろん八大のことだが『馬鹿は馬鹿役にやらせる』という言葉がピッタリあてはまる人間も珍しい。八大が怒鳴って五塀が宥めるというコンビネーションがなかなか面倒だった。

 

なにしろ表向きは仲裁役なので、適当な所で五塀老人が『じゃあそうしよう』と言ってしまえば例え話をしただけで僕が納得したことにされかねないことだ。

 

「とんだ恥知らずですな! 異種族の力を借りようなどとは」

「国勲や歴代のご先祖方を馬鹿にするのはどうかと思いますよ。皇帝陛下や大貴族の方々が異種族と手を携えた例は少なくないのですから。それに外国の勢力を引き入れるわけでもありませんしね」

 本当は『エルフの力を狩りたくないんだよなー。チラッチラ』とかやるはずだった。

しかし下手にそんなことを口にすると、『なら借りない方が良いね』とされてしまうので出来ない。しかないのでまずは嫌味を受け流しておく。

 

まずはお偉いさんが異種族と提携した例を挙げて代わり身。国内勢力であれば幾らでも例があるので、特に事例は述べずに問題ないとだけ口にする。

 

「俺が魔物だと言いたいのか!」

「そんなことは言ってませんよ。他にも例なら幾らでもあります。しかしお互いに援軍を呼ばないという協定はいかがですか? それならば僕が異種族を呼ぶ可能性もありません。そもそも僕と八大さんの問題ですしね」

「……ふむ」

 五塀老人は少し関上げる仕草の後、青悟に目を向けた。

一見意見を伺ったように見えるが、彼が僕に助け船を出しているのか確認しているのだろう。

 

生憎とそんな優しい人物ではないので現在進行形で僕が苦労しております。

 

「援軍ではない! 俺が侮辱されたことを我が事の様に怒りを覚えて、友誼を結んだ仲間が駆けつけてくれようとしておるだけだ!」

「それならば窮地に陥った僕を助けようと、友誼を結んだ仲間が駆けつけるのもおかしいことではありませんね。街道筋を跳梁して交通を妨げる者を通行人が排除することも」

 助けを求めたわけではない。そう主張する彼にこちらは素直に返した。

私闘で『悪いのは全てあいつだ、あいつの所へ行く奴が悪い。保証はあいつから貰え』と主張して害するのは一応罪ではない。だが同時にそいつに大して反撃することも罪ではない。

 

際限ない戦力拡張を行うと、八大は派閥の仲間を次々に呼べるが、こちらは僕と交渉して得る者が多いと思った連中が駆けつけて来ることが可能になる。数だけなら向こう側に理があり、場所と戦力だけならこっちの方が上だろう。

 

(ジリジリと時間を掛けられたらこっちの方が迷惑だけど……決着つかないとそっちの方が赤字になり易いんだけどなあ。そろそろ折れてくれないかな)

 こちらは水棲種族以外は自己完結できる。

経営してまだまだ一年程度の荘園に商人が買い付けに来たりはしないのだ。場合によっては割高になることを前提に、エルフの領域を通れるのでこちらは被害を抑えられる。しかし向こうは畑仕事ができないし、援軍を呼べば食料だって負担しなくちゃならないだろう。

 

「それとも人数制限を比率の利で考慮して掛けますか? 最大人数の多いそちらは多めで、こちらは少数。もちろん比率はお互いの納得できる割合で」

「それなら……。そんなことはせぬ!」

「コホン……いや、双方納得できそうだったのに残念じゃ」

 八大は人数比率を下げると、こちらが少数精鋭な分だけ有利なのに気が付かなかった。

五塀老人が乗り気なフリをして止めなければ、向こうが三十人でこちらが魔法を使えたり豪傑中心の十人とかできたのに残念である。そうなったら魔法での爆撃と弓の狙撃で追われたのだが。

 

しかし五塀老人が露骨に介入しそうになるとか、中立性は最初から気にしてないが八大の方も相当にじれてるな。まあ畑仕事を中断すると損害が出るのは向こうだもんな。

 

「ならばいっそ俺とお前との一騎打ちと言うのはどうだ? 貴様も領主ならば男らしく剣で決闘で片を付けろ」

「生憎と手前は作戦立案で名前を挙げましたから。それにどちらの訴状にも手段を一騎打ちでとは書いておりませんでした。一騎打ちをする場合は応じるだけでも何らかの譲歩を貰うことになりますね。最低でも魔法や武装を自由に選ぶ権利はないと」

「何だと、この卑……ぐぬぬ」

 剣での決闘というのは華だが別に決まり事ではない。

よく三種類くらいの決闘法を提示し、相手に選ばせるというのはそれ自体がフェーデの慣習に基づいている。訴状を出す方から複数種の決闘法を用意し、相手にどれでも良いと選ばせる度量を見せるモノだ。ちなみに勝負方法の中にはチェス類の遊戯もあったりするが、前世の分だけ僕はゲームが得意である。

 

しかしながら今回はお互いに想定外というか、嵌め殺す気であったためにそんな方法は例示していない。無理に要求すれば、交渉の席での言葉なのだから譲歩を迫られるのは当然だろう。

 

「あえて申しますがそうなれば最も得意とする方法で殺し合う事になります。これからアンデッド退治に向かって手を取り合う必要のある同胞ではありませぬか。傷つけ殺し合わない用に、この場で交渉しているのだと思います」

「グヌヌ……口の達者な小僧めが!」

 先ほどは侮辱になるので口を閉ざしたが、僕が若いのは見ての通り。

侮辱にならないギリギリで罵倒して来るとか料簡の狭い大人である。まあ一騎打ちの決闘に自身なんかないので、魔法とか武装というハッタリを利かせておいた。

 

僕がどんな魔法を覚えているか判らないので、離れながら攻撃魔法でも撃たれたら危険だとでも思っているのだろう。

 

「おおそうじゃ。アンデッド対策ではあちこちの者が世話になったそうじゃの。この老人にも一つ見せてくれんか?」

「あはは……そう来ますか。まあ良いですけど」

 露骨な肩入れだったが、あえて乗ることにした。

このままでは何のために交渉しているのか分からないので、物別れになって偵察された分だけ不利になるだけだ。しかも仲裁案を蹴ったとかありもしない宣伝をされそうなので、使う気の無い物を見せておくことにした。

 

軽く手を挙げて人を呼ぶと、用意だけはしたクロスボウを持って来させる。

 

「石弓の新型かの? しかし巻き上げ式では時間が掛かりそうなものじゃが」

「一つ用いるならなそうですね。三列用意して順繰りに撃ち込む予定になってます。作戦例はこんな感じですね」

 他の荘園主にも配ってる資料を見せる。

魔物対策用と銘打ったページであるが、紙の資料と言うこの辺では珍しい物にクレインクイン・クロスボウによる連続斉射作戦を記載したものだ。まあクロスボウの開発をした時に作ったものでもう古い内容なのだが。

 

「随分と物騒じゃのう。こんなものを人間に使う気かの?」

「そうならないように今、努力をしております。何らかの譲歩……例えば騎兵を使わないなどの条件が頂けるならば、殺傷性の高い武装はつかない協定に応じますよ」

 もちろん即座に肯定も否定もしない。

別に人間相手に弓を使ってはいけないというルールなどないので、こちらから否定はしない。ルールに基づいた戦争をするのだと仄めかして、戦闘自体を控えめにする。

 

そして飛び道具を見た時に怒り顔だった八大も、この辺の協定には前向きになった。

 

「では日時と場所については双方納得ということでいいですかね?」

「こちらが馬を使わぬのだからそちらも石弓は使うなよ」

「もちろんですとも」

 こうして私闘の規模は小さく成り、最大の懸案だったゲリラ戦に関しては妥協が持たれたのである。

地方の戦いでは付き物の『石投』に言及したが相手も使う気満々だったようで止められなかった。このままいけば投石器も問題ないだろう。できれば使わずに済ませたいものだが。




 と言う訳で主人公がやり過ぎた結果、相手に援軍モドキがやってきました。
敵に有利な仲裁者と言う、一番厄介な形式上の味方ですね。

●緋五塀
 数字の若い村・町は貴族家の運営に主要な場所。
貴族の名前は親が求める行動でもあるので、藩塀としての小貴族であることを示す。
既に老人なので、五の村は町に発展してる……要するに緋家の重鎮の一人。
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