妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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中間地点にある丘と丘に挟まれた小さな平原で戦う事になったが……。
開戦前にも策を使ってこられたのでこちらも肝が座った。陰険な策略は正面から粉砕する事にする。嫌味を言い合うのは馬鹿馬鹿しいが、かといって腹が立っても黙っているのは舐められっぱなしでつけあがらせる事に気が付いたからだ。
何が起きたかと言うと何時の間にか見届け人を二広に譲ったという話が出ていたのだ。五塀いわく八大への友誼ゆえに仕方なく参戦するが、それでは公正性が保てないので見届け人を変わるという建前だ。
「悌さまにお見せするつもりだったのですが、よく考えればお呼びするのは非礼でしたか。二広殿にはお手数をお掛けしまして申し訳ありません」
「いや、気にすることはない。対アンデッド用の武装と言う事なら家中の関心は高い故」
おそらくは二広が悌さま派になったので、援軍となるのを牽制したのだろう。
そればかりか中立役で仲立ちすると言っていた五塀までが参戦するとか、彼らのモラルはどうなっているのだろうか。まあ仲介役を譲ってはいけないとか、僕が呼ぶつもりだった見届け人を勝手に向こうが呼んではいけないという決まりはない。普通はそんな手段は採らないから、当たり前過ぎて気にしなかっただけだ。
それよりも腹が立つのは連中の一部が馬に乗っている事だ。取り決めは八大の村だけとか、あるいは下馬騎兵は移動したら装甲歩兵として降りるから騎馬ではないという建前なのかもしれない。
(……あるいは単純に『一部が暴走して』取り決め無視とかね。この手の戦いは『話が違う!』と取り決めが実行されなかったことが、新しい戦いのキッカケだったりするしなあ)
ここまで来て良い子ちゃんでいても仕方ないだろう。
平然とグレーゾーンを攻めて来るならばグレーゾーンで脅すことにする。それで引きさがらないならば、こちらも平然と実行に移すまでだ。
僕が先に文句をつけても『騎士が約束したことを疑うのか! ゲスの勘繰りだ』と切り返すだろうから、その前にグレーゾーンに踏み込んだからこちらも使うと示しておく。もちろん大義名分は用意してあるので、それが脅しとは言えないだろう。
「あそこに的を用意しましたのでご覧ください。まずは丘の上から砲撃します」
「うん? 荷車に何か……」
見えないように丘の上に隠しておいた投石器を前に出す。
砲撃する場合の距離と角度は、前もってうちの村と村の間で練習しているので問題ない。ただ投石器なんて物の命中精度が高い訳はないので、そこは大き石ではなくゴルフボールからソフトボール大の石を無数に投げる散弾形式にしておく。
まあ相手がアンデッドであり……もし使うなら人間相手だ。城を攻めるわけではないので、大きな岩を投げる必要もない。だいたい大きな投石器でもないしね。
「投石器か。確かに有効な兵装だが……よくもまあ小さくまとめたものだ」
「冗談ではないぞ! あんなものがあるなどとは聞いて居らん!」
「ご安心ください。殺傷性の高い石弓を使わぬ代わりに馬を使わぬと約定を定めております。あれは石弓に準じた危険性がありますでしょう? そちらが約定を破らない限り用いることはありません」
二広は感心していたが見慣れない顔の騎士が喚いた。
八大に協力する小領主なり荘園主なのだろうが、馬をつれてきているメンツの一人だ。先ほども推測したが約定なんか知らんと勝手に乗るか、途中の移動までは騎兵ではないと言い張るつもりだったのだろう。八大を睨みこちらを睨みどうしたものかという顔に変わっている。
もちろんグレーゾンの投石器をまともに使う気はない。どう考えても過剰な攻撃力で、当たれば何日も働けない者が出てくるはずだ。徴兵した農民など当たり所が悪ければそれだけで死ぬからね。
「聞いての通りあれは対アンデッド用の兵装です。その為に皆様にお見せしました。北上する際はあれを複数用意するつもりです。今のところはあの通り一つ切りですが、準備はしておりますので」
ここで重要なのは名目である対アンデッド戦を告げる事だ。
これで脅しを掛ける大義名分は立つし、二重三重に士気をへし折りにいった事に理由が出来てしまう。重ねて人間相手には『約定が保たれる限り使わない』と明言しているのだ。騎士が恐ろしいからどけろ、信じられないから離せなどとは言えまい。
ではこれが士気に影響を与えないか? と言えばそうでもない。約定を破る気だった連中はその気を無くすし、逆に投石器の援護があれば北上しての対アンデッド戦で楽に戦えると判ったはずだ。ここで僕を痛めつけて量産させない理由などない。そして何より……動員された農民たちはどう考えるだろうか?
「……本当に使わぬのだな?」
「何度も申しております。そちらが使わない限り、使う事は論外です。五塀殿からもお聞きしておりませんか? 新開発の石弓を多数所持しております。使う気であれば最初から戦力調整などこちらから申し出はいたしません」
「グヌヌ……」
その男はこちらではなく八大の方を見ながら尋ね返した。
何らかの取引があり、馬の運用をせぬ方向に切り替えて良いと暗に聞いているのだろう。こちらはそしらぬフリをして、グレーゾーンに踏み込まぬ限り使わないと繰り返しておく。
それに対して八大の方は僕を睨むばかりで特に返答をしない。せっかく集めた援軍の士気が低下しているのは目に見えているし、馬を使うことでこちらの動揺を誘うのは作戦の内だったのだろう。咄嗟に変更してよいものか、それともここで言いがかりをつけて約束を反故にするプランに切り替えるかを決めかねていると思われた。
「もう良いじゃろう。使わぬとワシは聞いて居るし、サンプルとして借りた石弓も見せたであろう。それに数だけならばこちらが有利、恐れることもあるまいて」
「老公……」
「そういうことなら」
代わりに返事をしたのは五塀だ。八大の方は難しい顔をしていた。
というのも今回の問題は『騎士の裁量権』にあると言っても良い。騎士はそれぞれが独立した権利を持っている小領主であり、同胞の指示など基本聞く必要はないのだ。よく漫画の戦場で独断専行したり好き勝手な装備やら専用機を用いる奴もいるが、それはその辺の慣例に基づいている。
要するに馬を移動手段だからと判断するのも騎士の裁量、そんな命令を出す盟主など盟主ではないと勝手に乗るのも騎士の裁量権。もちろんそんなことをすれば約定を統制できなかった八大の名誉が下がるが、最初から連さま派の代理人なので問題はない。『奴は見限った』という事にすれば良いし、本当に見限る必要も無いからね。
「それに……もう小細工は打ち止めじゃろ?」
「攻撃手段に関してはそうですね。エルフも二人しか連れて来てませんし」
笑いながら油断のできない目をする五塀に笑い返しておいた。
正面からの打撃戦ならばエルフに奇襲をさせる意味はない。高い代価を払ってまでお願いする意味は薄いし、妥協で済ませた場合は持ち出しの方が大きくなるからだ。金一万枚を使って賠償金百枚を得ても赤字になるようなものだ。一万枚なんか払えないけど、森をエルフに渡したら将来的に一万では済むまい。
その上で攻撃以外の小細工は色々と用意しておいた。元から僕が対アンデッド戦で使っている方法なので、予習して居ないとか言われても困ってしまう。
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ようやく開戦と言うか、これから短時間で決着をつけるので準備時間の方が遥かに長い。
所詮は貴族同士の私闘なので開戦規模は小さく、しかも同じ寄り親を持つ貴族同士とあっては全力で殺し合う事もないので当然と言えば当然だ。
お互いに初期陣地は丘の上にあり、中央にある狭い平原をどれだけ確保したかで勝負が決まるというせせこましい戦いだった。
「二人しかエルフを連れてこなかった事を後悔するのだな!」
『僕は貴族に列せられるばかりですからね。費用効果も考えれるところをお見せしませんと』
お互いに嫌味を放ちながら開戦。
幾ら狭いからといってとうてい声が明瞭に届く位置ではない。体格と性格的に声の大きい八大はともかく、僕の方は魔法の補助でも無ければ無理だ。
その魔法を使ってくれてるのはこないだから居候している青柳であり、もう一人のエルフは当然ながら紅梓である。
「でも……良かったのですか? 部族の皆は協力しても良いと……」
「いいんですよ。そもそも勝負になりませんから」
青柳さんは紅梓と違って殊勝で謙虚なのが癒される。
性格なのだろうが色々とエルフ族の事を教えてくれるのは、きっとまだ外での経験がないのだろう。紅梓は迂闊なところもあるが口は堅いので、エルフ族の情勢など教えてくれないのだ。
しかし戦力が少ないのだが、作戦上問題ないので援軍は無用の長物だった。こう言っては何だがこれ以上を借りたら過剰戦力だし、費用も馬鹿にならないので遠慮しておいたともいう。
「勝負にならない……ですか?」
「ええ。彼らは人数に任せてやって来るでしょうが、まとまりが無くてバラバラな上に士気が低いですからね。ホラ……あちらは全員が降り始めているわけでもない」
互いにジリジリと伺いながら丘を下っていた。
途中で石を投げたり剣やら槍で殴り合うが、鋭利な名刀は使わないし刺し殺したりというアグレッシブな戦いはしないだろう。
そして相手方の兵である大部分の農民は徴兵されているというのは同じだが、投石器を見てくじけているうえ『数が多いから自分くらいは戦わなくても良いかも』なんて考えているのが良く判る。僕だってこんな馬鹿馬鹿しい戦いなら真面目に戦いたくはなかった。せっかくアンデッド対策が成り立ったところなのである。
「指揮系統がばらばらな時、一番影響が出るのは魔法と装備の使い方ですね。と言う訳で攻撃魔法は不要ですので、先ほどと同じ魔法だけをお願いします」
「……判りました。それでよろしければ」
こちらが圧倒している点は、まず士気が高い事。
良く分からないうちに喧嘩をふっかけられ、自分たちはせっかく得た平和を守ろうとしている。加えて投石器と言う秘密兵器があれば、今回は使わずともアンデッド戦が楽になるのは判っている。そして何より、こちらの作戦を知って居るからというのもあるだろう。
最後に決定的なのは、こちらが魔法と装備を効率的に使うという事だった。
「そろそろ良い距離よ。走ったら戦えそうな雰囲気」
「ありがとう紅梓さん。向こうに到着したら風の守りだけ使って、後は監視お願い。弓は今回なくても良いので」
目の良い紅梓さんに戦場の監視をお願いした。
敵味方の移動速度でどのくらいの位置なのか、どこが優勢でどこが不利なのかを発見し易いのはありがたい。加えて言うともっと視認し易くなるので、こちらは快適に戦場を管理できる。
もうある程度分かったと思うけれど、魔法の使い道はこの辺に絞っている。紅梓さんは風の防御魔法で周囲を守り、青柳は風の魔法で声を必要な場所に届ける。こちらだけがオペレーターによって一方的に戦場をコントロールできるという訳だ。
「さて、みんな行こうか! 本陣を前に出す!!」
「「おお!!」
先に降りた屈強な男達ではなく……。
それほど闘い慣れていない数合わせの村人に声を掛けた。彼らが率先して行動してくれるほどに内の士気は高い。それだけ村を守ろうという意識が強く、かつ僕の立てた防御策が有効なのを知って居るからだ。
そして指示に従って本陣を構成する馬車と複数の荷車が一気に丘を降り始めた。
「本陣は中間位置に停止! 大通連たち遊撃隊は同じ位置で待機。荷車はいま前衛が居るところで停車して、戸板と梯子を降ろすよ!」
以前アンデッド相手に使った作戦の焼き直しだった。
荷車に戸板や梯子を載せて即席のバリケードを築くわけだ。今回は森だの林だのはないが、荷車が以前よりもガッシリしている上に台数あるのが大きい。この辺は改良して置いて良かったと言えるだろう。
そして指示に従って荷車たちが前線に到着し、そのままV字とV字を構成しつつお互いを繋いでW字のフォーメーションを作り上げる。完全に囲めば幌馬車戦術になるが、今回はあえてそうしないでおいた。
「戸板に隠れて投擲! 各チームはリーダーが狙った敵に集中! 当たらなくてもいいから怪我しないように!」
「はい!」
と言う訳で一方的な戦闘のスタートだ。
こちらだけに防御兵器があり、相手は盾を持っている騎士や戦士が何名か居る程度。どちらが石の投げ合いで有利かは素人でも判ろうものだ。
加えてもう一つ、馬車の上に紅梓さんが飛び乗った事である。
「紅梓さんは狙うべき場所を教えてくれればいいから。もし相手が集中してきた時だけ風の守りをそこに掛けてあげて。最優先は回り込む敵の主力だけどね」
「はいはい。それだけで良いならそうするけど……でも、なんだかそうなりそうね」
こちらにだけ防御壁があり、こちらにだけ管制塔がある。
ここまでやって負けるとかはあり得ない。突破することは不可能ではないが、それをするには固まる必要があるので、高い位置から把握したら集中攻撃をかければ済む話だった。
また風の守りで矢弾を反らす防御魔法を使っているので、強引に石投げ合戦をすれば100%こちらの勝利は揺るぎないだろう。
「汚いぞ! そこから出てこい!」
「僕の声をまた中継してくれる? 相図を出したら、声の対象を八大から周辺全体に調整をお願い」
『……僕がこの戦術を取るのは報告例を読めば一目で判ったはずです。ではどうして禁じる代わりに何かを妥協しなかったのですか? 戦力調整の場で可能だったはずです。そこで約定を結べば別の手段に切り替えていましたよ』
数に任せて攻めれば勝てると思っているから研究もしない。
ちょっと僕の戦闘例を確認すればこうなることは判っていたはずだ。緋雁原でも盾で守りながら大通連に攻撃を専念させたのだ。僕が防御シフトしながら戦術的勝利を目指すのは判り切った事だろう。
そもそも戦力調整は『使って良い手段』を合う場所ではない、良い勝負になる様に『使ってはいけない手段』を指定して封じ合うための場なのだ。そして『他の手段に切り替えた』と宣言しておくのは重要だった。
『……そもそも僕の目的は対アンデッドの作戦を確実にし、できるだけ被害を出さない事を目指しています。あなたがありもしない要求を突きつけなければ、今年の終わりには北上できてました。どうして同じ緋家に所属する我々が戦っているんですか!?』
「黙れ! 俺に立てついてどうなるか判っているんだろうな!」
青柳に合図を送りながらプロパガンダ工作に切り替える。
もはや戦いの決着はついているも同然だ。あとは少しずつ前進して狭い平原の要所を抑えるだけである。ガッタガッタの向こう側はそれだけでやる気を失うだろう。
それはそれとして舌戦の最中に向こうの一部が短気を起こして突出し始めたらしい。
「あっちからグルっとやって来てるわよ。中央にも何人か居るけどそこは石投げてれば終わると思うわ」
「了解。じゃあ終わらせようか。大通連は回り込んでいる連中をできるだけ怪我させないように。剛盾さんは念の為に大楯を構えて遊撃隊を守ってくれる?」
「ようやく出番かよ!」
「任せて置け」
こういってはなんだがお互いに援軍なしで、同じ人数でぶつかる方が困っただろう。
戦闘手段まで指定されては考える余地もないし、援軍一切禁止だったら大通連やエルフ・ドワーフといった面々の手助けも借りれないからだ。
問題なのはここで八大が信じられない暴挙に出てきたことだった。
「剣と剣の一騎打ちを挑む! この期に及んで断るまいな!」
「この期に及んで!? ならどうして無理にでも条件を付けて最初から挑まなかった! そうすれば僕もみんなも苦労しなくてすんだはずだ! ワザワザ援軍にきてくれた人たちだって、何の為に来たんだ! 負けそうになったから自分が勝てる戦いを挑む気か!」
「黙れ!御託はいい! 武具でも魔法でも認めてやるから男らしく自分で受けてみろ!」
こちらが前進を始め、向こうの主力が回り込みに失敗すると今度は一騎打ちに出て来た。
しかも無条件で自分有利な条件で、受けなければ男らしくないという。その上で手段を妥協し、それでも一騎打ちでの逆転を望む当たりどちらが男らしくないのか。
これを断るのは簡単だ。しかし……この後の展開を考えれば受けた方が無難ではある。負けたとしても僕の名声はあがるし、勝ったしても八大の名声は地に落ちる。何しろ負けている状態で『勝てたら撤退を認めろ、負けたら無条件降伏』というレベルの案件である。こちらが応じるだけでも何らかの妥協をもらえる状態なので、良い勝負をするだけでも良いのだ。
「僕が男らしいとか男らしくないとか言う以前に、貴方は貴族らしくない! もし僕が勝利したら隠居してもらおう! この条件が妥当かは、貴方ではなく貴方の援軍たちに判断してもらう。それでも良いならば受けよう!」
「何だと!言うに事欠いて!」
「その条件、緋五塀は認めようぞ」
「私もだ」
「オレも認める」
幾ら何でも八大のやり方は杜撰で強引過ぎた。
相手方の何人かが捕虜になったり怪我をしている事もあり、奴自身はともかく周囲は次々に受け入れていた。それだけ情勢は傾いていたということだ。
まあ僕が勝てるかは別なんだけどね。
と言う訳でアッサリ勝負がつきました。
こればかりは一話から戦う準備を繰り返していた側と、数の勝負に出た側の差ですね。
このストーリーの比重はどっちかといえば開発とか政治よりなので、戦闘は簡潔に。