妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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決着とその向こう側

 貴族や騎士の一騎打ちという物は我儘を通す場ではない。

あくまで条件闘争の最終手段であり、条件を突き詰めた上で『決定権をこの戦いを委ねる』というものだ。特に定める要件が無ければ慣例に則ることが多いのだが……。

 

今回は緋八大の要求が過大過ぎた。事前に定めた決闘ならまだしも、フェーデに及んでいる最中に勝負の趨勢を分ける内容で挑むことはまずない。あっても泥仕合に成ったり他の参加者との腕前が隔絶し過ぎて、話にならない時に二人だけで終わらせようと申し出る程度だ。

 

「俺が勝ったらお前は貴族になるのを取り下げろ!」

「通例では追撃無しで捕虜即時釈放を伴う撤退ですが? それ以上に積み上げる場合はそちらの待遇が悪くなるだけですよ? それでも良ければ」

 もし最初の交渉で『お互いの貴族たる資格を賭けた決闘』としたなら何の問題ない。

しかし殆ど敗北が決まって、見届け人の裁定が降りる前に無理やり挑んだ場合は撤退条項となるのが慣例だった。『これ以上戦えばこちらは壊滅するが、そちらも少なからぬ被害を及ぶ』という理由で申し出るのが普通だからだ。それをフェーデなど何もなかったかのように決闘裁判を押し付けるのであれば、賭け金が高くなるのは当然だろう。負けそうなので仕切り直しましょうというのは虫が良すぎる。

 

もちろん決闘する事を最初に何も話し合っておらず、向こうがこちらの本陣まで切り込んで来ていれば状況自体が変わるので話は別だ。その場合は最初の取り決めに不備があるわけで、騎士の慣例である決闘条項に言及しない方がおかしい。負けているのではなく、道を切り開くために不利を承知で戦ったという言い訳ができるのだが……。

 

「戦えば勝敗が関わるのは騎士の常だ! どうして俺が他人の尻を拭わねばならん! 俺はまだ負けておらんかった!」

「貴方の味方をした人にとっては良い面の皮ですね。協力させられた挙句、身代金まで払わねばならないとか」

 一応は戦闘行為なので捕虜は殺されない代わりに身代金が必要だ。

鎧や馬を担保に解放し身一つで放り出した後は、金を持って来たら返すとか昔の物語で見た人もいるだろう。約束組み手の戦争で殺し合いをしないというのは、遡れば親戚一同が多い騎士・貴族間の慣例らしい。

 

友誼に基づいて参加したフェーデであろうとその条件は引き継ぐ。だから殺害を許可した決闘裁判以外では基本的に殺されるまではやらない。決闘裁判になったとしても、代理人アリとか戦闘ではなくチェスで勝負をつけるとか色々方法があるのである。

 

「まあまあ。そこまでにしておいてやっておくれ。代わりにワシの処の川辺を賭けよう。全部持って行かせる訳には行かんが、乗りつけて商売するも宿を借りるのも自由じゃ」

「それは五塀さんにとっては得じゃありませんか? 川を使った交易はしてないと聞きましたが」

「ここで頷けば、その話をエルフに持って行けるぞい?」

 何というか五塀老人は抜け目がない。

まるで八大の弁護をしたかのように見せて、こちらにも利益のある話を持ってきている。エルフが通行の許可を出さなければまるで意味がない上、許可を出したとしても護岸工事を僕がする必要があるだろう。だがエルフに話を持っていくにはこのくらいの前提条件が必要とも言える。

 

必要もないのに自分の領地を賭けたということで漢気は示せる。また今回の一件で色々と賠償をせざるを得ない場合でも、自分にとって得になる条件で折り合いをつけたのだからかなりのタマだ。しかも連さま派と僕をつながりつけたという意味でもタチが悪い。

 

「老公。それでは……」

「悪いと思うならばお主も自分の処の川辺を賭けい。さすれば他の血筋に跡目を譲らんですむ。のう?」

「そうですね。僕もそこまで鬼ではありませんので」

 八大も領地のレイズをされて流石に顔色を悪くしている。

食えない爺さんだが正直な話、この条件は悪くない。下流域に大きな影響を与えられると判っているならば、エルフだって乗って来る可能性は高かった。彼女たちにとっても利益はあるかもしれないし、逆に利益が僕の方に多いと判ってから他の条件を呑ませることができるからだ。

 

そして何より、僕の血筋から領主をねじ込む気はないのだ。仮に八大の血筋を外すとしても、緋家の縁者から送り込まれる可能性があった。最悪のケースとしては次男の連さまが分家ということで強制的に放り出されてこちらを恨むことになったかもしれない。

 

「グヌヌ……老公がそこまでおっしゃるなら判りました。俺の処の川辺も賭ける! ここまでやる以上は乗って来るのだろうな!」

「僕の進退は緋家に預けます。敗着の結果、裁定で貴族に列するのは取り止めとなっても文句は申しません」

 これが荘園没収ならまだしも、貴族位は不要とも言える。

片腕にするつもりの悌さまには悪いが、ただの助言役でも問題ないだろう。警戒されて狙われる可能性を考えれば、貴族でない方がありがたいともいえるから頷かない理由はない。

 

後は妹君が嫁入りする話が消えてくれれば良いな~とか言いつつ、自陣に戻って取り決めを書類に起こすことにした。

 

 その後は二広と青悟が訪れて条件とコンディションの確認。

先の条件を含む一連の流れを話し合うと流石に二人も苦笑していた。良くも悪くも緋家には悪くない流れであるが、僕が勝つと負けるとでは大きく躍進の差が違うからだ。

 

僕が勝てば緋家にとってはめでたく後継者に対し忠実なNO.2が誕生。僕が負ければ連さま派が存在感を示して僕の名声はそこまで悪くない……という程度で止まるだろう。

 

「まったく面倒なことになったな」

「双羽くんは実に面白いねぇ。これで勝てる算段があるなら安心して見てられるんだけどさ」

「良く判ってますね。そんな物はありませんよ。一応ですけど」

 急に挑まれて混乱せず格好をつけて話を綺麗にまとめた。

それ以上でもそれ以下でもなく、僕の戦闘力そのものが変わったわけではない。武装も魔法もハッタリ掛けて脅したり相手の不躾さを助長しただけだ。交渉材料でしかないものを使って戦闘力が増したりはしない。

 

では勝率がゼロかと聞かれればそれは否だと言うほかはないのだが。

 

「へえ? 何か作戦でもあるとか? 魔法の剣を借りたり?」

「手近な所には『大通連』だけですし、ソレを借りる訳にもいかないでしょう。どっちかといえば彼の性格ですね」

「なるほど、驕りと焦りか」

 八大は僕を侮っているし後がない。

引き分けに終わってジャッジに持ち込まれたらそれだけで危ういとすら思っているはずだ。つまり彼が取る戦術は苛烈な攻撃による一方的な攻撃のみ。また彼の体格は大きい方なので、剣でラッシュを掛けるというよりは大仰な武器を使用するだろう。剣と剣の勝負ではない以上、彼がメイスや大剣の様な武装を躊躇う必要はないのだから。

 

牽制やフェイントを交える小刻みなラッシュや鋭い突きはおそらくあるまい。その辺は手堅くガードに回られると突破し難いのだ。多分、横薙ぎか縦の振り下ろしで大ダメージを狙ってくると思われた。

 

「ある程度をいなしてカウンターか。悪くない戦術だがそれでは死んでしまう可能性があるぞ? 滅多にない事とは言え大振りの攻撃を浴び続ければ起き得る話だ」

「それ以外に勝機はありませんからね。戦いが始まれば保険を掛けておくつもりではあります」

 おそらく八大は僕を殺しても良いくらいの勢いで迫るはずだ。

決闘であれば不慮の死は罪にならない。それこそ魔法戦士同士の戦いで手加減なんか出来ないだろうし、昔は殺しあっていたくらいなので『偶然』急所に当たる事を咎めるのも野暮なのだから。

 

では剣と剣のコンパクトな勝負だったら良いかと言うとやはり微妙な所だろう。それでは負ける可能性が高い上、殺そうと思えば突き刺せば良いのだから。

 

「その辺は勝負所だからボクとしては止められないのがつらいなあ。……それはそれとして、君の加護は判るかな? 判ってて強力なモノなら一応は報告し合うものだけれど」

「あー。激しく能力が変わる場合は重要ですしね。僕の場合は記憶も保全対象になってることかな? 思い出そうと思えば印象的な記憶は全部思い出せますよ」

 一騎打ちで有効な加護だと適正な勝負にならないかもしれない。

だからこういう場合は中立の相手に加護を教えて、強力なモノであれば調整したりするそうだ。まあ加護を調べてない者も多く、それほど重要視する項目ではないらしい。知っているメンツだと大通連や紅包さまが該当し、二広はその範疇にならないのが微妙な所だ。八大の能力も教えてもらえないので知らないか微妙なのだろう。

 

そういう訳で僕は加護が無いのに完全記憶能力に近いとだけ言っておいた。何もないのはおかしいし、かといって自覚症状がある内容など他にはない。正確には『僕の意識と記憶を保ってこちらに転生させる』という神様との契約だが、それは加護にあたるのだろうか?

 

 そんなこんなで一騎打ちを始める事になる。

簡単に場を整えて希望者と見届け人が観戦。僕は小剣・シールド・軽装鎧を鋼素材一式で揃え、八大の方は旧式の甲冑と大剣にメイスとダガーという古式のスタイルだ。

 

その様子に威圧感を感じつつも何とか勝機を見い出せていた。

 

「異論無ければここに決闘を執り行う」

「異論はない」

「異論はありません」

 二広を挟んで双方が平原にしつらえた決闘場で向かい合う。

もし騎馬の心得がある者同士だったらランスで突き合うのかな? と会場を眺めながら考えていた。騎士の何人かは僕の鎧に関心があるようだ。

 

対して八大の方は怒り顔をさらに赤くしてこちらを睨んでいる。鋼の鎧に対する嫉妬か、それとも甲冑を着てないことで馬鹿にされたとでも思ったのだろうか。兜のバイザーを降ろされたのでその後の変化は判らない。

 

「死んでも後悔するなよ小僧!」

「まともに取り合った事を後悔してますよ。最初の面会を断るべきでした」

 睨み合いながらそんな軽口を叩き合い緩やかに接近。

まっすぐ距離を詰める奴に対し、僕は斜めに右へ右へ移動し回り込んでいく。大型武器の使い手に対して正面からの戦闘は避けるべきだし、今回は蛇腹剣を使わないので遠距離を維持する必要はないからだ。

 

そして踏み込めば攻撃できる位置の手前でお互いに動き出した。

 

「しねい!」

「汝、波打ちて伝えることを禁ず!」

 予想通り大振りの一刀が僕を狙う。

予定通りに保全の術を限定使用し、シールドに対して衝撃のみを維持した。盾の耐久力は向上させてないので壊れる可能性はあるが、鋼なのでその可能性は薄い。むしろ衝撃を殺したことで僕が打撲傷で倒れる可能性の方が減った。

 

慣性もあるので軽く吹き飛ばされたが、衝撃は殺しているから骨にヒビすら入って居ない。向こうからは上手く衝撃を殺したと思うかもしれないが、実際には僕が軽いだけなので直ぐには気が付かないだろう。

 

「どうしたどうした! 魔法で攻撃できるならば使ってみろ!」

「生憎と僕の魔法は防御用なんですよ。自分と仲間を守るためのね!」

 正確には扱い難い上級魔法だが気にすまい。

大剣を振り回す八大の攻撃を避け、あるいは盾で防いで事なきを得る。本当は範囲指定で結界として使いたいが、それでは与えた魔力があっという間に尽きてしまう。途中で小剣なり軽装鎧にも掛けるとして、今はジっと我慢しながらカウンターを狙う。

 

狙うべきは受け流すと見せかけて相手の腕と肩だ。甲冑を着ているから胴を狙っても攻撃は通じないし、牽制と疲労蓄積を狙って腕回りを中心に殴りつける。

 

「逃げ回るな!」

「逃げてるんじゃなくて隙を伺ってるんですよ! ホラ、そこ!」

 僕は右へ右へと回り込む動きを続けている。

そうすれば盾で防ぎ易く、相手の攻撃も横薙ぎになるしかないので予想し易い。下段で足を払ったり急所を狙おうと頭を殴ろうとすれば軌道が判り易いので避けることもできるからだ。

 

もちろんこんな動きが何時までも続く筈はない。奴だって対策するし作戦も変更するだろう。何よりカウンターがガンガン当たっているので、僕の胴体に大剣をぶち当てたいはずだ。相手がジレてきたところで、先ほどと同じ衝撃防御を軽装鎧のブレストプレート部分に掛けておく。

 

「これでおしまいにしてくれる! ヌウン!!」

「同感ですが、これを待ってました!」

 さて、ここからは詰将棋だ。

八大は体を小さく回して大剣を掲げて振り下ろしてきた。僕は盾で防ぎながら肩を内に入れ、被弾面積を抑えつつ盾が押し負けないようにする。そしてダッシュで内側に飛び込むのだが……。

 

その瞬間に八大は大剣を捨てて腰のメイスに手を伸ばした。もし兜のバイザーが降りて居なければ笑っていただろう。僕も予想はしていたが、あのタイミングで保全能力を奴の手と大剣に掛けることはできない。

 

「待っていたのは俺だ。小賢しい小僧めが!!」

「いいえ。予定通りですよ!」

 騎士の武装は様々だが予備武装はメイスと決まって居る。

相手の甲冑の上から殴りつけ、転がしたところに鎧下をまくり上げて短剣でトドメを刺すか、降伏を促すのが泥臭い騎士の作法とも言える。

 

それで僕の方はこの流れを予想していたのでメイスは頭に来ない限りは正直怖くない。盾を構えて頭を守りつつ、腕と足を『獲り』に行った。最初からこれが目標だったからだ。

 

「何? 甲冑組み手か!」

「違いますよ。柔道って言うんです!」

 重要なのは態勢を崩すことだ。

そもそも体育の選択授業で習った程度なので、綺麗な投げ技にはこだわらない。だが甲冑を着た相手ならば倒れたら立ち上がることは難しい。腕を取り腰を入れ、足を狩って転がしてしまえば僕の勝ちだ!

 

その状態で八大は咄嗟に僕の胴を殴りつけて来た。メイスで殴りつけて肺から息を出せば、肋骨が折れずとも体術は使えない。しかし僕の方は衝撃を殺しているので多少はのけぞったがそれだけだった。このタイミングで余計な色香を出した八大の負けである。

 

「ぬおお!? まだだ、まだ俺は負けて……」

「汝、大地より背を離すことを禁じる!」

 それでもまだ立ち上がろうとしたので姿勢の維持を強制した。

普通の人間に掛けてもいつか破られてしまうが、重い甲冑を着ている相手ならば楽勝だ。厚い装甲に頼って大ぶりな攻撃を当て、僕に派手な勝利をすることを狙った八大の自滅である。

 

「それまで! 勝者、銀双羽!」

 こうして一騎打ちは終了し僕の勝利でフェーデは終了したのである。

川の利用権利も手に入った事なので、エルフとの交渉やら護岸工事やらで忙しくなるだろう。




 と言う訳で一騎打ち込みで私闘の終了です。
作者の高校時代は体育で柔道どころかアーチェリーも選べる学校だったのですが
地域によっては柔道も高校は怪しいと思うので、片方だけにしておきました。
綺麗な投げを甲冑相手に決めるのは無理なので、泥臭く転がしただけであるため
柔道倣った事があるとか書かなくても、何とか押し倒したで良い気もしましたが一応。
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