妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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まずは治水から

 フェーデから暫くして再び人々が集まった。

それというのも川辺を扱う権利と通行税の問題、そして何よりエルフとの話し合いがあるためだ。五塀老人ほか流域の貴族や代官に加え近くではないが、交易に川を使えそうな連中も見物に来ている。

 

妙に話が広がってしまったが悌さまと青悟の裏工作だろう。ここで僕の知名度と立案能力を示そうという腹に違いない。

 

「結論から言うけど不要な立ち入りを禁止できるならという前提で、エルフも認めても良いわ」

「おお……」

 紅梓の言葉にまず周辺領主が安堵した。

最大の懸念であるエルフ族の領域通過。それを認められるならば行商人だけではなく大きな商人も呼び易いからだ。

 

「ただし利益を受け取る事よりも、勝手に立ち入らない保障を優先している事を覚えておいてね。それを破った者への対処をあたしたちに委ねることが前提なのを忘れないで欲しいわ。あんた達だっておエライさんの子弟が物見遊山で入り込んで来たら困るでしょ?」

「それはまあ……そうなのだが」

「なあ?」

 どこの領地も勝手に侵入するのは厳禁だ。見知らぬ人間は追い出すに限る。

しかし顔見知りならばザルになるのは良くあるし、相手によっては咎める訳にもいかないという事もある。もし悌さまとか連さまが狩りでも始めたら、近隣の村としては入って来るなとは言えまい。

 

「入るなと言われたら入りたがる人は一定数いるし、じゃあ見張り小屋を用意して見張っても『雨で難儀してるから泊めて欲しい』という状況まで見えるようだわ。それを断るのもなんだから最初から入るなと今まで言ってたわけ」

「では今更になって許可を出すのじゃ? 大きな利益と引き替えではないのじゃろ」

「そりゃね」

 紅梓の言葉に頷きつつも五塀老人が首を傾げた。

もっともな話だし断るというも判る気がする。エルフ族に理解の無い連中は疑問に思っているだろうが、近くに住んで居たら納得の出来る話なのだ。

 

だからこそ、今回どうして納得したかと言う事になる。エルフ族は通行税を取ることはせず今まで断って居たのだから。

 

「前に大規模な水害が起きたことがあるのよ。その対処を教えて欲しいのと、私たちだけで対処が無理なら、その工事に限って立ち入るのだという事を理解してから立ち入るなら認められるわ」

「ふむ。そういえばそんなことがあったのう」

 僕の領地やエルフの領域に山がある。

その周辺から渓流が湧き出し、八大の領地や五塀老人の領地に向かって合流しながら下っていくわけだ。長雨でも起きればその何処かで水害が出てもおかしくはない。

 

五塀老人にとってはそんなこともあったな……という程度であるが、長生きしているエルフにとっては何度も経験している事なのだろう。

 

「侵入者によって私達が傷つけられたりする可能性よりも、水害の方が危険でしょ? 今後にそんなことが起きなくなるなら侵入される事よりも対処すべき問題なの。その上で最初に戻るけど侵入者は私たちが対処……もちろん最初は警告から始めるけどね」

「そういう事ならば良いのじゃないのかのう」

「ではその権に関して僕から」

 周知と納得が終わった所で解説を始める。

話を持って行った時に予め聞いているので、事前に資料を用意して紙に書き込んでおいた。人数が多いので印刷技術が欲しく成ってしまったほどである。

 

それらの資料を配り対策とコンクリ製品のプレゼンを開始する。砂袋と小さなコンクリとオマケとして竹筒で作ったオモチャを、何セットか用意すれば万全だ。

 

「水害への対処はおおむね二つです。一つ目はみなさんもご存じである堤防。これは誰でも出来る代わりに根本的な対処になりません。そしてもう一つが水量を調節して圧力を下げる方法です」

「圧力?」

 まずはテーブルの上に砂袋とコンクリを置いた。

これは堤防を示し次々に積み上げて山なりにして視線を塞ぐ。しかし視線を全部遮ることはできずその限界も判り易い。突き崩せば一発なので耐久性だって低いと一目で判る。

 

そして圧力を説明するのに判り易いのは竹筒で造った玩具だ。何本かあるがサイズの違う穴を空けており、裏側を布で巻いた木を押し込めるようになっている。

 

「圧力と言うのは水の通り道の大きさだと思ってください。その説明に使いますが、水鉄砲と言うオモチャで穴の大きさが違います。見ててくださいよ……」

「おお、水が飛んだぞ!」

 タライに入れた水をキューっと吸い込み、宙に向かって押し込めば水が飛ぶ。

何だか分からないが興奮して居る者と、何の意味があるんだと全く理解して居ない者。そして圧力の意味を即座に理解してその利用方法を考え始めた者がいる。

 

そして穴のサイズが違う水鉄砲を噴射して、先ほどとは出の勢いが違う事を示してから説明を再開した。

 

「穴の違う水鉄砲はご覧いただきました。つまり小さい方が勢いが強いのです。なのでこの穴を広げるという行為を、川に応用することで洪水は非常に置き難くなります。具体的に言うと川幅を広げ、あるいは底を浚渫し、可能ならば水路で二本・三本と分散させていきます」

 紙の資料で全部説明も出来たが、全員が文字を読めるわけでもない。

加えて言うと全部説明する前に勝手に判断する者も居るし、だいいち全員分に数枚の資料を書くのが面倒くさすぎる。だから水鉄砲のパフォーマンスを示した上で説明することにした。

 

ちなみにリハーサルでは剛盾と大通連がかぶりつきで眺めまわし、何かの武器に使えないかとハッスルしていた。まあポンプ車を造れば薬剤なり油でも飛ばせるかもしれない。

 

「ではそれぞれの長所と短所を上げていきましょう。まず土やコンクリ……この練り石を積み上げていく方法は、一番簡単で安価です。しかし先ほど言った通り効果も薄く、魔物と隣り合わせの場所でもなければ費用を掛ける程の価値があるかと言われれば難しいでしょう」

「それならアンデッドの……いや、そうか」

 まずは判り易い堤防案から解説していく。

暇な時に土砂を積み上げ土手にすれば労役だけで済むし、コンクリ製品さえ買わなきゃ予算は掛からない。しかし水害が起きた時に何処まで確実に防いでくれるかといえばかなり疑問符が残るのは確かだ。仮にコンクリの壁を用意しても全ての堤防を強化できない。

 

そして現時点で一番意味を成すアンデッドを中心にした魔物対策ではあるが、これから平和にする作戦を建てるので無用とは言わないが効果が薄くなるのは確かなのだ。あくまで並行して行う補助事業と言えるだろう。

 

「次に川の浚渫ですが、深く広くすることで川を二倍にするようなものです。最も確実な方法ですが予算と手間が大きく違います。専門の職人と鉄製の農機具とか、あるいは魔法などの要因が無ければ採算が合いません。水害の多い東領や長寿のエルフ族でなければ判断が難しいかも」

 元の世界でも最終的に選ばれたのがコレだ。

場所にもよるが河原すら掘ることで二倍どころか三倍くらいにしてしまうと、その場所だけなら殆ど洪水は起きなくなる。ただ手間と予算も掛かる為、河川の拡張工事が主流になったのはだいぶ後の筈だ。

 

と言う訳でお勧めは折衷案である次の方法である。

 

「その点で水路を造るのが最も効率が高くてお勧めになります。その分だけ川の水量が確実に減りますし、農業用水として領地の経営にも使用できます。魔物対策と言う意味でも簡易的な堀に使えますのでバランス的にも優れているかと」

 こういってはなんだが水害ほど領主にとって微妙なモノはない。

万が一にでも起きれば凄まじい災害であるが、目の前の戦争や飢餓ほどに危険ではない。人間ならば生涯に一度も味合わない者もおり、どうして自分がそんな事の為に行動するべきなのか疑問視する者も居るだろう。実際に先ほどまではほとんどの者が話半分に聞いていた。

 

しかし農業用水や魔物対策としての水路と言えば話は変わって来る。畑に水は必要であるし、アンデッドなどは水路に邪魔されてな動きができなくなる為だ。そのこともあり一応話は聞いておくかと言う顔をし始めた者も居る。

 

「浅い水路は水が暖かくなるので作物が育ち易くなります。深い水路は魔物対策と水を保存出来るという安心感ですね。ただ中途半端ではあるので、心配ならば川辺に土を盛る方法と組み合わせると良いでしょう」

 おそらくエルフとドワーフは浚渫を選ぶだろう。

一度工事したらこの時代の感覚的にはもう水害の恐れが無くなる。エルフは寿命的にドワーフは合理的に考えてそう判断すると思われた。その上で貴族たちは何も工事しないか、水路を増やす程度だろう。

 

まあ他の領地の事だし治水が目に見えた効果を上げないのは確かだ。僕としてはうちの領地が持つ特色だと思って気にしないことにした。そしてここからはようやく川岸を護岸する話になる。




 と言う訳でエルフの許可が出たので川が使えるようになりました。
これから侯爵領まで一直線に移動する事も出来ます。
まあ何かできるかと言われれば、交通網が増えたというだけですが。
行商人とかはこれからの課題でしょう。
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