妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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会見相手の変更

 バリケードを設置することで、村を無事に開放した。

これで避難している人々を呼び戻しても大丈夫……という段階で少しだけ予定を変更することにした。

 

本来はこの村を拠点に徐々に広げ、一定の成果があがったところで依頼主の元へ報告に行く予定だったのだが……。

 

「これだけの成果が上がるんだったら、先に援助しておくべき所があると思うね。懸念を考えたら……できればじゃなくて必須レベルでの話」

「青悟さん、成果が上がり過ぎると何か問題なの?」

 貴族社会を見て来た青悟の言葉だけに嫌な物を感じた。

彼にはアンデッドの戦よりも、領主との約束を保証してもらう方が重要だった。その事は彼も理解しているはずだ。

 

つまりこの提案は放置すると依頼としては大成功だが、荘園主になる為の道筋としては失敗につながりかねないのだろう。

 

「用意してる証書自体は有効だよ。印章さえ押してくれれば後は問題ない。どれだけ考え込んだとしても、普通なら君たちほどの部下を持てるなら確保したいと思うはずなんだ。ただし……」

 

 印章と言うのはまんま印鑑の豪華版だ。

どんな貴族でその系譜はどうなのか、一目で判るような感じになっている。旗や盾の紋章以上に貴族の証を示すので、これを押して他人がやったと言い切るのは難しい。

 

だから証書さえ発行すれば、その後は簡単に領地を取り上げることは王家ですら難しかった。

 

「戦果を見て自分だけでも行けるなんて短絡しなければね。交渉の場すら開かれず、代理人が最初の報酬だけ持って来たら幾ら私でも何とも出来ないよ。そのルール自体は全く問題ないんだから」

「ちょっと違うけど功績を奪われるみたいな感じですね」

 この地方の領主は費用を抑えるために僕らを荘園主にしようとしていた。

騎士や傭兵隊長として土地を任せ、延々と魔物を退治させながらいずれは税金を得る。

 

そう考えていたはずなのだが、簡単に倒せるならば自分で退治して平和にしてから、縁故のある下級貴族を呼び寄せれば良いという話になりかねないとの事だった。功績を奪うわけでは無いが、荘園主の話自体を無かったことにするわけだ。

 

「まあアンデッドの被害を無くすだけならそうじゃろうのう」

「他にも居るには居るけど、苦労するのは確かにソレだもんね。その後どうする気か知らないけど」

 今回の作戦は確かに大戦果だったが、それはアンデッド専用でしかない。

使い勝手の良い傭兵から信用を失って今後の問題をどうする気かは知らないが、完全に平和にできるならば身内で固めた方が良いのは確かだ。

 

信用も大事な領主がそこまで悪辣な事をするかは別にして、部下の功績を奪う上司くらいならば枚挙にいとまがない。むしろ傭兵としてはよくあることだと懸念を抱くのも当然ではある。

 

「それでどうすべきなんですか?」

「領主殿の部下としての華々しい行動を、事実に先行させてしまうのはどうかなあ? 具体的に言うと領主殿の上……寄親って言う面倒見の上級貴族が居るんだけどね。その人の領地を援護しておくんだ」

「貴方の部下に言われて助けに来ましたって?」

「まあ嘘ではない……のかのう」

 貴族には派閥があるので、上の貴族は下の貴族の面倒を見る。

代わりに貴族集団としての権勢を発揮し、総合戦力の提供をより大きな形で王家に対して提示できる。これが寄親と言う慣習だ。

 

分かり易い爵位で言うとここの領主は伯爵で、僕らは騎士とか準男爵級として契約する予定だ。もし国と直接契約する場合は伯爵が寄親になるだろう。そして伯爵の寄親は侯爵みたいな上級貴族たちで、南領どころか国全体でも大きな権力と戦力を抱えている人というところだ。

 

「……悪くないんじゃないかな? 現段階で領主が僕らを不要と思っていない限り、無駄にはならないと思うし」

「えー! 遠出する必要があるんでしょ? スケジュールが長引くんじゃない?」

「どのみちご機嫌伺いに派遣と思うから同じだと思うよ」

 青悟が出した案の良い所は領主にとってもメリットがあるという事だ。

この時点で約束を反故にする気じゃない限りは『勝手な事をしおって!』などと怒ることはない。最終的に派遣されるというならば先にて押しに行っても問題なしい、予定を先に組んでいた方が急に言われるよりも対処し易いだろう。

 

デメリットは周囲からアンデッドを殲滅するスピードが遅くなる。少なくとも僕の荘園になる予定のエリアへ手を入れる余地はかなり減るだろう。

 

(開墾はともかく色々と手を尽くせなくなるのは痛いけど……でも危険がまだ残ってるって言う丁度良い理由になるか)

 城の縄張りを立派にしたり、風呂などの施設も揃えたい。

それらの作業が遅れるのは痛いが、周囲に魔物が溢れているという可能性は残り続ける。現状はかなりスムーズに行ったことだし、トントンに考えておけば間違いないだろう。

 

「これからの準備なんだけど、境界線の辺りで樹を伐採して加工。樹を取り過ぎない、見晴らしが良くなるレベルで抑えるってのはどうかな? どのみち梯子も減っちゃったしね」

 と言う事は欲張るよりも、頭を切り替えて使える時間を有効利用すべきだ。

となると、出遅れる分を今の内からフォローできる行動を残った時間に当て嵌めるべきだろう。

 

最低限の木材を調達し、それを重要な順に加工していく。

最優先で梯子、戸板や荷車は製材する余裕が無いので却下。ある物を利用して前回と同じ程度の作戦が組めるようにして、残りの樹はやはりバリケードにしておきべきだろう。

 

「ワシの方は構わんが?」

「そのくらいなら妥協できるわ。言わせてもらうなら端から採って行かなくても、間伐でも十分見え易くなるはずよ。それなら日当たりも良くなるから残った木にも良い事だし、魔物が森に入り込んだ場合でも分かり易いものね」

「じゃっそれで」

 残った時間で可能な事を割り当てていく。

作業が可能な人間は樹を弄ってもらうとして、残りの中で戦える人たちは交代で周辺を捜索。残念なことに何もできない人たちは訓練でもしておくしかない。

 

とはいえ訓練ばかりでは飽きるし、そもそも身に付かないから雑兵なのだ。むしろ工事にでも使うべきなのだが……時間的にはそれも出来そうにないので工夫する必要があった。

 

「よしっ。徴募された人たちは訓練の合間に堀でも掘ってもらおうか、一番早く掘った班にはご褒美を出すという事で」

「双羽く~ん。ちょっとばっかし穴を掘っても意味が無いんじゃあ?」

 青悟も民兵が物の役に立たないことは良く知っている。

だからこそ心配しているわけだが、かといって戦闘させる訳にも訓練漬けにするわけにもいかない。

 

そこで考えた作業が穴掘りだ。

樹を伐採して加工したり柵を組み上げるだけでもそれなりの力を必要とするが、穴を掘って土を移動させるだけならそれほど力は要らない。要はその穴と土をどう使うかだろう。

 

「アンデッド相手ならそんなに深さは要らないんですよ。滅多に膝を上げて歩いたりしませんしね。掘り返した土も含めてそこそこの高さになれば誘導することも足止めにもなります」

 ついでに言うと本来の意味での堀をグルっと巡らせる訳ではない。

この土地は盆地なので入り口付近……山と山の中間あたりで、森でも林でもない場所にちょこっとばかり掘るだけだ。もちろん街道筋には堀ではなく数少ない柵で対応しておく。

 

高さとしては大股ではないと上がれない程度。

それがある事で何もできない人間が逃げ出し、戦える人間がアンデッドよりも有利になる一瞬を稼げる。時間もないことだし、ひとまずはそれだけで十分だろう。

 

その後は手早く梯子で封鎖する訓練の他、発見する訓練に逃げる訓練。

戦闘訓練なんて激しい事をしないので脱落者はおらず、むしろ僕の指示にちゃんと従う訓練といえるだろう。その合間に堀を掘って回り、土砂を積み上げて行けばタイムアップだ。

 

 

「君たちが彼の言っていた優秀な兵たちだね? 今回はお世話になるよ」

「恐縮であります」

 いよいよ謁見だが……侯爵さまの笑顔こそ柔らかいが、その目は別に僕らを見てはいない。

傭兵崩れなんて上級貴族から見ればそんな物であろうし、この人にとって人間と言うのは中央にコネのある青悟だけだと口にしても今更驚きはしなかった。

 

だから唐突に行われた質問にみんな戸惑った。

隊長格であり荘園主候補だけが青悟に連れられて謁見していたのだが……。

 

「ところで契約して荘園を構えるのであったか。そこで君は何を為したいと思うかね?」

「よ、良い領地にしたいと思います!」

 近くに居た荘園主候補の傭兵が咄嗟にそう答える。

ウンウンと頷きはするが、あまり関心を持っていないのは明らかだ。及第点を口にしたわけでもなく機嫌も損ねた訳でもない。まるで書類にハンコ押すとか、ゲームのAボタンを押すかの如き姿だった。

 

「具体的には? 同じ目的の者はそちらも回答を頼むよ」

「沢山の収穫を……」

「自分は誰も死なない様にしたいと思います! 魔物も飢えも無くして!」

 そんな風に答えていくが、まあ想像の範囲だ。

おそらく僕も似たような答えをすれば、大過なく過ごすことができるのだろう。もし本当にただの荘園主で収まる気ならその方が正解であるはずだ。

 

しかし僕としては布教目的があるので、その内容を含ませておかねば後で何を言われるか分からないし、面白みもないと処断される可能性もあるだろう。少なくとも青悟は謁見までの間に、同様の事を済ませていると思われる。

 

「君は?」

「あまりにも何もない土地でしたので、文化一等の地を目指したいと思います。郷里も田舎でしたし、都会には憧れましたから」

 と言う訳でここは素直に目指すべきものを語っておく。

もちろん税金を搾り取って贅沢暮らしをしたい言う意味ではない。前世で味わった生活し易い環境こそが目的だ。

 

できれば本を手に入れて読書もしたいし、クーラーやヒーター備え付けの生活にも憧れる。ぶっちゃけ達成できれば、王都なんか目じゃないとすら思った。

 

「具体的には?」

「いつでもお風呂に入れて、長期保存した食材で美味しい物を作れるような場所です」

 侯爵さんの笑顔はそのままにスゥ……と目が細くなる。

どう考えても笑ってない表情だが、僕が贅沢をしたい愚か者かどうかを確認したのだろう。

 

以前から考えていた目的に現実味を持たせた回答をすると、眼鏡に叶ったのか侯爵さんは盛大に笑い始めた。

 

「ハッハッハ! それはいいな。我が家でも毎日は風呂に入っておらんよ。それに保存食で旨い物ねえ……。成功したらレシピの一つも贈ってもらおうかな」

「竣工には時間が掛かりますが、ご期待に添えれば幸いです」

 風呂と冷蔵庫。それが完成するだけでもこの侯爵さんは味方になってくれるかもしれない。

何しろ南領で一・二を争う上級貴族でも……いや、上級貴族だからこそ都会の生活には思いがある物だ。領地の方が安心できるし費用は掛からないが、都会の方が便利で料理は上手いのは当然の事。

 

それらが完成して技術の一端を献上してくれれば、王都に居る上級貴族にも負けないとでも思ったのだろう。侯爵さんからみれば居ないよりは居た方が良い部類には入れたのではないかと思う。




 と言う訳でサクサクと事後譚です。
これで書き溜めは終わりなので、次から一日一回を目指していく感じ。
次回はお風呂を作る話か、さもなければ転生前後の話のどちらかになるかと思われます。
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