妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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水害対策について一通り説明が終わったところで新しい資料を配布する。
これまで乗り気じゃなかった層も、河川を利用した船便の話になると目の色を変え始めた。
何が重要かと言って地方では交換経済の穴埋めとして貨幣が使われる程度である。通行料だとか産物を商人へ売ることで始めて現金を得ることができるし、使う事が出来るのだから。
「ではお待ちかねの河川通行の話に移りましょう。メリットは移動時間の短縮と輸送量の増加、そして税の話になります。総合的に利益が出るならば商人たちは陸路よりも河川を使うでしょう」
この時代は地形を買えるほどの工事は難しい。
それゆえに自然の形状こそが最初にあり、村だの領地だのなんだのはその後に出来た存在なのだ。それぞれの事情で複雑に別れる陸路よりも、河川を通った方がよほどに早い。
加えて下りへの流れに乗れば素晴らしい速度で移動できる。もしモンスターが現れても獣程度なら、下流に向かえば逃げ切れる可能性の方が高い。
「知っている人もいると思いますが、水の上では物が多く運べます。陸路で運ぶよりも木材や石材を運べるのはその為です。行きと帰りの帳尻を考えれば何らかの交易品を持って来ると思うので、塩や砂糖を安く手に入れることも可能でしょう。僕らが買わずともそれらを求めて陸路の商人も中継で来ますしね」
「「おお……」」
よほどに急ぐ商人で無ければ、こちらで売れる商品を持って来る。
町で買えば塩なら三倍から五倍くらい、砂糖だと十倍程度くらいの値段がするはずだ。利益確保もあるが途中で通行税も取られるからね。それを二・三倍の価格で買える上、向こうの方から持ってきてくれるのだ。これが美味しくない筈はない。領主は買わずとも御用商人が代わりに購入していくと思われた。
と、まあ。夢だけならば広がっている。夢を語るだけならば誰でもできるはずだ。ここからはデメリットや『そうならない』場合も含めて話をして行く必要があるだろう。
「問題なのは……」
「そう上手く行かん場合じゃろ? 領地に寄るとも税を払うとも限らん」
「その通りです。場所によっては対岸の領有権が違って、河川は境界線を兼ねてどちらでもない事になっている場合もあるでしょう。これまではアンデッドの害もあったので押し付け合っている所もあるかと」
フェーデの決着後、緋八大は隠居して次の領主が決まるまで暫定的に代官を任された。
既定路線ではあるがその時に向こうの領主館を調べると、案の状ながらお互いが押し付け合った手紙やら木の板に書いた下書きなどが残っていた。やはり八大が言う様にうちの川まで領地があったなどは誇大だったという訳だ。
それはそれとして向こうの領地ではアンデッド対策が徹底されておらず、うちの橙二尾が探して歩いたこともあって割りと僕らが受け入れられているというのが不思議であった。
「立ち寄る事に関しては通行税を高額にせず、宿代で回収する手もあります。一日で往復など幾ら船の方が早くとも無理ですから。あとは領地の特色次第ですね。正攻法で税を取るならそんなところです」
「正攻法? では裏技があると?」
「ええ、みなさんと提携できるなら話が変わってきます」
メリットがあれば商人だって利用するし、無ければ利用しない。
だから通行税を下げておけば陸路よりも選ぶ可能性の方が高い。仮に宿代でバランスを取るにしたって、どこかで宿泊する必要があるのは確かだ。基本的に野営で済ませるにしろ全てをそうする訳にもいかないので、ある程度は度丘の宿に泊まることになるだろう。
その辺を考えてまともな税額ならば水路の方が良い商人は水路を選ぶと思われた。問題があるとすれば『自分くらいは高くしても良いのではないか?』と考える強欲や、『隣は関係ない荷揚げしなくとも関係ない! うちに払え!』と強引に迫る領主である。
「単純に河川全ての領主が連合した組合を作って、そこがまとめて通行税を受け取る方式ですね。これならば仲の悪い領主同士がもめる事もありませんし、これまで組合自体が無かったので川では税を取って居なかったという理屈も通用しません。この場合は宿代は自分だけの儲け、または商人を寄らせるための方便ですね」
「その方法があったか!」
「確かにそれならうちの領地に寄らずとも……」
この案に即座に飛びつくのは産物が少ないとか、河川で領地が終わる領主だ。
そこを通るなら税金を払えとか、うちの領地で売る物が無いから寄る事もないだろうと悲観しているメンバーである。逆に渋い顔をするのは、むしろ産物に自身がある領主だ。そちらは逆に『なぜ通行税を頭割りする必要があるのか?』と言いたいだろう。金貨百枚もらえるかもしれないのに、五十枚で納得する奴は少ない。例え組合を造らねば商人が来ないとしても……だ。
だからここからは、細かい調整とか費用分担とかの話になる。具体的に言うと何もない領主には最低限の利益を、元から売れる物がある領主には通行税以外のメリットを与えなければならない。
「税の分配に関しては船着き場の利用率次第で変更するとして、年が明けるごとにその年の負担でも調整するという考え方があります。売上が多かった領地の取り分が大きいのは当然としても、宿や倉庫などの資材や周辺の安全に協力した度合でも調整を掛けます」
「む……」
「それならば……」
まず組合への参加までは平等でも、全てを平等にしてはいけない。
何の負担もない領主にはフェーデに兵を出してもらうとか、宿屋ら倉庫を作る際に資材を出してもらう。その上で利用率の高い領地には多めに分配するという事で良いだろう。多く利用された場所が多く貰い、何もしていない場所も何かの役に立っているならば一応の不満は無くなる物だ。
重要なのは年が明けるごとに『どんな負担をしたか』という事をレポートにして提出すること。ちゃんと何かを請け負っているならば、基本的には文句は出まい。
「意味せんとすることは判る。夢があるのものう。しかし、しかしじゃ。元から税の回収に不安のない場所が乗る必要はあるまい? 例えばお主はそれで何を得る? ワシは何を得るのじゃ?」
「この方式でやる最大のメリットは組合による相互保証ですね」
僕の荘園は川の上流だし色々な産物を用意する。五塀老人は元から町だ。
放っておいても川の通行料を何かの形で確保できると言っても良い。僕の所ならばガラス製品なりコンクリ製品を買おうと思ったら、上陸して品定めをしないといけない。少なくとも通行税を払わないとは言わないだろう。同様に五塀老人の方も、町で売買する以上は儲けを稼ぐためにも必要なのだ。
「誰にとっても困るのは、『ある領地に入った途端に荷物の半分を寄こせ』と言われることです。そんな山賊まがいはありえないにしても、途中で法外な金額を要求されても困ります。また商人から見ても、行きと帰りで二度取られることもなく途中で値上がりすることもなければ計画を立て易いですから」
どれだけ良心的な経営をしても、馬鹿が居れば止まってしまう。
これに対して組合を経由するならば既に払った以上の金を取られることはなく、安定して商人がやって来るだろう。上流に居る僕はこの効果が大きいし、口には出していないがコンクリ製品などを護岸工事をする領地に売るというか交換することもできる。
五塀老人の方は確実に儲かるとは言えないが、川を使った商人が増えればソレを目当てに今まで以上の商人が町に訪れる事はあり得た。
「後は互いの名誉の保証と、資金の貸し借りですかね。偽者の組合が現れれば場合によって組合で、フェーデを行う際に兵を出して頂くこともあるでしょう。また組合から借りる場合は貴族間ですから、領地を担保に無利子で借金ができます」
「そういえば領地は売れぬが、貴族に一部を譲るのは可能じゃったか」
「キチンと借金を返してもらう事が前提ですけどね。できれば木材や石材くらいで抑えるべきですが」
この二つの話を同時に出すのは奇妙に聞こえるだろう。
だが偽者対策というよりは、組合が協力して兵を出す事、そして土地の担保を利用して借金をするという事には意味がある。商人に借りれば利子が膨らむこともあるが、組合ならば資金のストック次第でそんなこともない。貸し倒れになっても領地を没収できるので、商人の金貸しよりは健全なのだ。
なにしろ領地は国家であるとか上級貴族との契約であり、御恩と奉公の関係とも言える。好き勝手に売買することは許されないが、相手が貴族ならばフェーデによる決着で領土交渉が行われたのと同じ扱いに出来る。反故にされても単独の領主ではなく、貴族の連合なので発言力と証拠能力が破格なのだ。
「そういう事ならば話は別じゃな。ところで……河川に参加しておらぬ領主を参加させることは?」
「人足とか素材の提供などで商人たちが購入する資材が多いとかですかね。踏み倒された借金の借り換えは、河川組合以外に結成されることをお勧めします」
「それもそうだ。ハハハ」
どうやら五塀老人に金を借りて返さぬ領主も居るらしい。
昔から栄えている町の領主ともあれば、気苦労の一つもあるだろう。ひとまず勝手に名前を使われるのは困るが、組合を作って商人たちを呼ぶ計画自体はスタートすることになった。
と言う訳で通行税の話も終了。
次回以降、商人とかが現れたり、あちこちの船着き場を設営する話が普通になります。
まあ主人公の発言力と経済力がUPしたというだけですけどね。
この話は石田三成が領地の加増の代わりに、河川の通行税を貰って金持ちになった。
というネタを参考にしてます。当時は通行税がないけど、盗賊まがいの領主が居た。
その辺を取り締まって資金を自分の所に入れた……というネタですね。
(何かの小説で読んだネタなので、本当か史実かは知りません)