妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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色々な作戦指導

 緋家西側の河川管理の協同組合を立ち上げて、意外な事が幾つもあった。

収入は初期配分が五割、残りは調整金と組合から出す任務の費用として残した。その折に借入金や担保の事も決定したのだが……。

 

貴族たちは躊躇なく金を借り入れ、代わりに周辺への見回り・討伐任務を受けていった。まあこれまで現金収入は多くなかったし、商人に借りるのも恥ずかしかったのだろう。

 

「しかし銀殿。私としてはこれほどまでに献金が増えるとは意外に思えるのですが」

「七司さんは真面目な御領主ですからね。半分は商人たちの期待だと思いますよ。基本的に見回りをしたり盗賊や魔物を討伐するのは義務ではありませんでしたから。安全への保証料と期待感と言うやつです」

 通行税以外にも商人たちからの自主的な献金があった。

見学に来ている緋七司が驚いて居るくらいの額だが、その使用は討伐任務や船付き場の整備を要望してる。商人たちにとっては河川を通る限りは安全が保障されることや、スムーズに取引できるのは大きい。

 

思えば地球でもチンギス・ハンなどの覇王へ商人たちが献金したのはシルクロードの通行をやり易くし、支配領域での商売を認めてもらう事もあったそうだ。それを思えば河川流域沿岸へ投資することは自分たちの為であるとも思われた。少なくとも侯爵領に負けてる経済圏が立て直せそうには見えるくらいの魅力が感じられたのだろう。

 

「僕が意外だったのは参加者たちがあれほどまでにアッサリ金を借り、資材の担保価格を下げることも受け入れたことですね」

「何かと手元不如意ですから。貴族と言う者は見栄が張ります。ゆえに家計はどこも火の車なのですよ。利子もないのであれば商人から借りて居るところは軒並に借り換えたのではないでしょうか」

 借入金には三段階のランクを設けた。

まず一年後に受け取る調整金の予想額までは無担保。次に木材や石材を相場価格の下で担保可能とした。これは不要な伐採による値崩れや水害を警戒したものだが、どうしても必要な場合は組合や余裕のある貴族が買い取れるようにする為だ。最後に領地になるがこれは最後の手段だと警告はしておく。

 

実際に組合で買い取り、僕の所からコンクリ製の階段やスロープ用資材と交換している。担保を取り上げるのは数年後の筈だが、直ぐに買い採れないかと打診があった為である。

 

「長期的に見れば損なのですが……。まあ利子を増やされるよりはマシですか。踏み倒すにしても外聞と言うものがありますしね」

「体面こそが貴族というものですからね。見栄えに金を使ったとしても、商人が立ち寄る様になれば税も増えるという見方もできはするかと」

 面白いのは見回りや討伐任務に名目を付けたら食い付きが違った。

自主的にやっているという仮定で、『協会の要請で増やす場合への代価』と言う事にしたら喜んでいたのだ。要するに領民を守る気はなくとも、誰かに低くみられるのは嫌なのである。

 

この時代は領民は財産であるが守ることは必須ではない。盗賊や魔物が出ても退治する義務はなく、領民が害されたら財産が減るかもしれない程度の認識だ。むしろ盗賊や魔物を倒せば善行と思われるのが近代に生きていた僕としては不思議だった。魔物に対して領地を守らないのは怠慢ではなく、あくまで戦時の経営判断と言う事らしい。

 

「ところで今回の訪問ですが……東の河川に面している者たちから頼まれたのです」

「向こうはドワーフの領域ですから、合理的な理由があれば認めるのでは?」

 説明会に話を聞くだけなら東側の領主も居た。

あの時は西側で協会を造りはしたが、興味はありそうな雰囲気だった。今回の成功を踏まえてその気になったか、あるいは向こうの商人たちにせっつかれたのだろうか?

 

とはいえ向こうはドワーフの領域に跨っているだけなので、話をすれば許可が出る可能性が高いのだが……。

 

「ドワーフと揉めた領主が居りましてね。悌さまに取りまとめをやれと命じられた事もあり何度か往復したのですが……」

「あちゃあ。彼らは大抵の事は許容しますが頑固ですからね」

 ドワーフ族は合理的な上、大抵の場合は名誉だのメンツにはこだわらない。

だが何かしらの問題を起こしてもめた時が大変だ。頑固な上にもめた相手が信用できないという情報を一族中で共有してしまう。一つ二つならともかく、複数の情報を検証して『こいつと関わるな』と回状が回ると初対面であろうと、その事を知っているからちょっとやそっとでは交渉自体に応じてくれないのだ。

 

つまりそいつが居る限りドワーフは『信用の置けない奴が加入するグループ』には許可を絶対に出さないわけだ。巡り巡ってどこかで必ず騙されるか誤魔化されると思っているのだろう。

 

「僕はドワーフと付き合いはありますが、仲裁できるとも思えませんよ? だいたい僕の顔で仲裁できたとして、何かあったら僕との取引も止まっちゃいますし」

「ああ、そこは問題ないですよ。問題を起こした領主は近々引退が決まって居ます。ただ再び信用を得るための試練として、幾つか準備を要求されたんです。その内の中に、銀殿の資料と偽造が難しい例の許可証を……と」

「ああ、あれですか」

 引退が本人の意思か、それとも周囲の共用かは置いておこう。

しかしドワーフは『信用の置けない相手をメンバーに加えた』事に対して、事後策を求めたのだろう。同じような事がたびたび起きてもらっては困るし、保証料を欲しいと言っているわけでもないのだから。

 

そこで要求されたのが、まともな運営と偽者業者対策を施した特別な許可証である。

 

「サンプルをお見せしますけど、同じ物は渡せないと伝えて下さい。東河川専用の形状と内容を用意すると言えば何のことか伝わります」

「それはありがたい。しかし専用の許可証ですか」

 僕が用意した西河川の許可証はガラスの額縁入りだ。

ラミネート加工をイメージして二枚のガラスで閉じている。大きくしないと不具合が出るので一回りか二回り位大きくして、エルフの木工職人が掘った木枠を嵌めて完成だ。

 

これを偽造するには和紙モドキと透明度の高いガラスを二枚。そしてエルフとドワーフの職人がそれぞれ必要になる。和紙モドキを使ってるのは基本的な文章を木版で刷り込み、対象者と発行者と許可ナンバーだけを後から手描きで入れるようになっていた。偽造自体は出来る奴もいるだろうが、そこまでして通行権を得る意味があるかは微妙である。

 

「こちらが協会運営で蓄積した経験と献金された推移などの詳しい資料です。そしてこれがサンプル品ですね」

「おお……」

 当面の間は僕が協会長と金庫番をやることになっている。

しかし毎年報告文章は送っているし、何年かごとに役職は交代するので準備が必要なのである。中世なのだから気にする人間も少ないとは思うが、明朗会計にしておいた方がスッキリするだろう。

 

数年後に『あいつは横領していた』などと言われるのは願い下げである。

 

「基本的な構造は同じですが、この外から見える部分と見えない部分を変更してお渡しすることになるかと思います。専用の物を用意するのは、予備の通行証が流出する可能性も踏まえてですね」

「そこまでしますか……。いえ、そこまでするからこそ、ドワーフ達が信用する条件にしているのですね」

 言いながら七司は資料の方に夢中だった。

どうせ後で同じ物を渡す訳だが、組合員を説得するのに役立った言い回しや文言などを特に眺めている。どうやら彼も向こうで相当に苦労しているらしい。まあ近衛兵であって貴族としての取りまとめ交渉はそれほど得意ではないのだろう。これも悌さまの側近ゆえの苦労と我慢してもらうほかはない。

 

 悌さまの側近である七司が居るならするべきことはある。

当然ながら緋家の今後であり、特に北上作戦に関しての話だ。こちらはようやく資材の目途が立ち、用意できる兵装をリストアップすることが出来た。

 

後は縁戚のある貴族が援護をどのレベルで求めているか次第で作戦決行が何時になるかが判るだろう。

 

「木材の調達は何とかなりそうです。今年中に揃えるのは難しいですが、来年ならば確実に被害を押さえて進軍できる数がお約束できるかと。それ以上のペースだと緋家を経由しないと難しいですね」

 現時点では投石器が二、大型馬車が五というところだ。

うち単独だと木材の調達が限られ、協会経由で木材を持ち込むことで何とかなっていた。緋八大の村からも動員すればもう少し行けそうだが、今のところは反発が出ないように村の整備からやってるので難しい。

 

緋家から声を掛けて貰い近隣領主に資材を融通してもらう手もある。その事を伝えて近況の事を聞くことにしたのだ。

 

「それは喜ばしい限りですが……問題なのはあちらですね」

「何か問題でも? 確か援軍は不要との事でしたよね」

万鹿柵の砦周辺を奪回し、周辺に堀やらバリケードを造って閉鎖した。関所を通れば商人や旅人たちも普通に抜けれるので、うちの黄三硯も無事に往復している。

 

その折に『この封鎖で余裕が出来るから危険ならば援軍に行けるが?』という問いに対して『こちらは問題ない。地力回復に勤めてくれ』というような感じの返事が返って来たらしいのだが……。

 

「当時は本当に問題が無かったそうですよ。我々も関の周囲では蹴散らしましたし、圧力は相当に下がったはずです。しかし一向に返辞が変わらないのはおかしいと……」

「やせ我慢でもしているか……最悪、魔物に操られているのでは? あちらの家が壊滅する程の規模でアンデッドが増えればまた危険になるのではありませんか?」

 アンデッドは大量発生が無ければ基本的に恐ろしい相手ではない。

倒しても倒しても減らない敵と言うのが問題で、動作は緩慢だし基本的には脆い相手でしかない。

 

しかし疲れもしないし食料も不要と危険な要素はあるのだ。中央から西に広がる穀倉地帯は古戦場であり魔物の関与もあって、大量発生する可能性は常に存在していた。

 

「それも警戒して居ますが他の大貴族の関与も捨てがたく……。いずれにせよ救援要請を出せずにいるのではないかと言う疑いは存在しております。しかしコレを何とかするというのも付き合いの面で問題でして……」

「大貴族……中央や西領ですね」

 現在、この国を牛耳っているのは中央や西領の貴族である。

彼らは疎開しつつも権勢を振るっており、南領だけでなく周辺諸候に命じて魔物退治と奪回作戦をやらせようとしているそうだ。

 

それなのにどうして邪魔するのかと思わなくもないが……僕らが早々と万鹿柵を封じて、分断作戦で少しずつ奪回を目指している事に危機感を覚えたのかもしれない。もしかしたら南領だけで安全策を取るとか、あるいはそのまま発言権を確保しつつ周辺を制圧して領地に加えようとしているとか。その辺を警戒しているのかも。

 

「偵察隊……いえ班レベルで送り込むしかないですね。実力者の集団を送り込み、あくまで個人の冒険の範疇で見に行くしかないでしょう」

「それは危険ではありませんか?」

「貴族単位で動けないなら他に方法は無いかと。その上で精鋭チームとバックアップ・チームに別れ、援軍到着を待つくらいですね」

 あまり考えたくはないのだが、他に方法がないのであれば考慮は必要だろう。

できれば僕の出動は全体構想の立案と差配くらいで納めて欲しいものである。




 という訳で前からやってることと、最近やってることの指導です。
河川協会をコントロールして貴族間に御金を回しつつ、代わりに資材を徴収。
投石器とか色々作りながら、アンデッド対策の作戦も同時に立てろと言う話。
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