妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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第五部
北上作戦へと至る前に


 悌さまとの面会やら作戦立案など、一通りは上手く行ったが残念なこともあった。

場所は緋家の領地にある大きな屋敷を借りて謁見の間代わりに。名目に関して最初は預かっている緋八大の領地に関する事やら河川協会の話をしようとしたのだが、何時の間にか妹君と結婚する為の前準備の話になってしまっている。

 

お陰で双葉はブーブー言ってすねるし、こういう理由だとお土産を用意する必要もあるので面倒くさいことこの上ない。

 

「鶏の塩釜焼きと川魚の奉書焼きを幾らかお持ちしました。妹君がお気に召した方をメインの料理とする予定です。それと婚礼の前に特注の鏡台を二組ほど納めさせていただきます。それとは別に試作の『覗き鏡』です。暇潰しにでも」

「うむ。まずはコレを肴に一献と行こうではないか」

 簡単な万華鏡を用意したほか、ようやく届いた精製塩がお土産になった。

これで鳥を蒸し、あるいは紙に包んだ川魚を蒸し上げる。特に川魚はコンクリ製の池で暫く育て泥抜きをしたものであり、臭みを取り除くところまでやっていた。これでマズイとか言われたら困る。

 

まあ気に入ったから結婚式の当日に家臣全員分とか言われても困るわけだが。

 

「河川の管理は思ったよりも利権がありましたので、いずれ緋家の方が東西河川の総裁に収まられた方が良いと思います。それと緋八大の領地に関してもそれまでに軌道に乗せておきますね」

「黙っておれば良かろうに、その方は欲がないな」

「後から『身に過ぎているから領地を取り上げろ』と他の方に言われると困りますので」

 悌さまはともかく他の側近までそう思うかは分からない。

その辺も含めて殊勝に暮らして悪い事はあるまい。今ある利権に関しては、協会の運営を上手く回したりアンデッド対策に使う事で勘弁してもらおう。はたから見て多額の出費をしていると思わせて置き、その痛みは特にない……と言うくらいのバランスで僕は満足ができる。

 

こういう差配をできるとか、魔法のような手腕と思われること自体は面白いのだ。しかし後から問い詰められて処刑されたりせっかく作った領地を没収と言うのを避けたいとも言うが。

 

「……ふむ。この覗き鏡は面白いな。麗に持って行ってやりなさい。まだ試食をしているだろう」

「承知いたしました。御客人の前を失礼いたします」

 人数が居ると邪魔なので、万華鏡を理由に側近を遠ざける。

傍には七司と二広が居る為、それほど人が付いている必要もない。万華鏡を預けられた側近はその場を後にして部屋から出て行った。

 

おそらくは道中でどんな話をしただとか、どんな料理を僕が作らせたかなどを話して歩くだろう。まあ態の良い囮であり、噂造りの一環である。

 

「では本題と参るか」

「はい。兵装の方は七司殿に伝えた通り順調です。今年ならばそれなり、来年ならば確実に余裕を持って北上可能でしょう」

 用意した兵装は投石器・大型荷車・兵員輸送車両の三つ。

基本的には同じフレームの荷車を使用するが、上に何を載せるかで用途が違う。もちろん投石器は石を飛ばす為、大型荷車はバリケードの材料輸送。最後の兵員輸送車両は新作で、板の覆いを付けることでアンデッドが飛びつけない様に……そして『矢』が当たらないように出来ていた。

 

援護射撃で矢が当たっても問題ないようにという理由だが、人間との戦いにも当然転用できる。

 

「銀殿。兵の輸送用というが、そこまでする必要も無さそげな気がするのだが……何どのように用いるのだ?」

「二広殿。これは多くを揃えるのではなく、精鋭のみを一息に運ぶための物です。五百の内の百を載せるのではなく、五名から十名の勇士を疲れさせることなく彼方に運ぶ為です」

 現代で言うと機械化歩兵だっけ?

移動手段を高速化し、歩くよりも安全にすることで高速で歩兵を展開するために使用する。どんなに強力な豪傑が居ても地形の確保なんかできない。これはそれを補うためにしようするものだ。

 

実際に使う時は軽装か重装かで登場人数が違うが、数台に分乗して優位地形を先に制圧することになるだろう。そこへ大型荷車でバリケードの資材を運び、防御陣地を設置して簡易砦を作るのである。もちろん人間との戦いに成れば、前線拠点の一つを高速で落すために使用することになるだろうけれども。

 

「北上作戦ではこれらの車両を円形に繋ぎ、徐々に前線を押し上げていきます。投石器で薙ぎ払い、そこへ兵員輸送車両に載せた精鋭が突っ込み、大型の荷車に載せたバリケード用の資材でグルリと壁を作ることになるかと」

「フェーデの時に使ったという戦術をもっと大きくやるのだな」

 幌馬車戦術を組めばアンデッドごときには負けたりしない。

何度も言っているがアンデッドの脅威は疲れが無く大量に湧くことなので、周辺を封鎖して人間の方が多い状態で戦い続ければ何の問題もないのだ。幽霊系や一部の強力な個体以外では負ける余地が無かった。

 

それらの展望と戦術をレポートにまとめアイズ・オンリーで焼却予定の資料に書いて回し読みをする。

 

「楽観は禁物ですがもはや勝ち負けの勝負ではないと思います。ここからは後に問題を残さないための戦いです」

「うむ。その為に大義名分は抑えておきたいものだ」

 予定が上手く行って陣列を組めれば負けないのだから、作戦の要点はそこではない。

陣列が組めないように風聞を立てられたり、男らしくないなどと良く判らない言い分で差し止められる方が問題だ。同様に『緋家、あるいは南領に謀反アリ』などと言い掛かりを付けられる事も問題だろう。

 

だから今回の相談ではその辺を急ぎ詰める必要がある。今年になったばかりのころは、荷車と戸板を増やせれば楽勝と思っていたのに、何の因果でこんなことになっているのやら。

 

「縁戚筋からの要請が使えない以上は、おおむね二つの方法になります。一つ目は王朝の指示によって南領全軍が北上する事。もう一つは『偶然』に異変を知って北上する事です」

「おそらくはこちらを軍に組み込みたいのであろうな」

 僕は魔物の洗脳を疑ったが、悌さま達は中央の陰謀を疑っている。

関を塞いで疲弊した地力回復に努めている以上は、大手を振って北上しようと思ったら縁戚の援軍に出るか、あるいは王朝が以前に出した命令に乗るしかない。前者が使えない以上は後者になるのだが……この場合は王朝の命令がダイレクトになってしまうのだ。

 

あちらを落とせこちらへ援軍と右往左往させられるのも問題だが、場合によっては軍監を付けられて『王朝軍はそんなことをしない、こうやれ』と行動規制を掛けられる可能すらあった。

 

「それでその『偶然』というのは何か心当たりがあるのか?」

「はい。我が領内に橙二尾という、滅びた貴族家から流れて傭兵になった者がおります。彼の願いであの辺りの様子を伺い、中央へ留学していた子弟を立てて家を復興する『計画』というのはいかがでしょうか? もちろん子弟が復興を望まなければ計画だけで済ませ、山ほどの書なり絵画などの望む物を集めて図書館なりで美術館で済ませるでべきでしょうが」

 うちの二尾は暇さえあれば巡回する程にアンデッドにトラウマがある。

話をしたら乗り気で、自分の名前で良ければ是非使ってくれとのことだった。貴族家に仕官した彼が墓参りに訪れるのは自然な話だし、元の領主家の忘れ形見が生き残っているならば、領地を回復できる可能性さえあれば動いてもおかしい話ではない。

 

実際にそうした過去例は昔からある話だし物語としては定番だ。小さきとはいえ中央貴族の橙家の子弟全員が全滅しているとは限らないので、一人くらいは生き残っていると思われた。

 

「もちろん橙家に限らず、同じような話が使えるならば何処でも構いません」

「……そうだな。こちらの話に乗る者ばかりとは限るまい。探すだけ探すとして、どのように偶然を探す?」

 話の筋として説明し易いネタを使ったが、別に他の貴族家でも構わない。

残念なことに悌さまの妹君の一人、爽さんが嫁いだ先は万鹿柵のこちら側だ。あの辺は領地と血縁がマダラに入り乱れているので判り難い。まあ嫁ぎ先から一人救出された爽さんを利用できるか、して良い気分かどうかは判らないのでこの話はここで終わるのが良いのだろう。

 

それはそれとして潜入計画だ。このまま行くと僕が管理することになるので手を抜いて死にたくないものである。

 

「まず橙家の例としますが、かの家は外れの方なので北上した後に東方へ向かいます。その後に緋家の用事で『余裕のある時に届けてくれ』と言われた進物でも送り届けるのはいかがでしょうか?」

「銀殿。主家の用事を後回しにするのはどうかと思うが……」

「二広。この場合は大義名分に過ぎぬ、見逃せ。まったくお主は硬いな」

 名前は知らないが緋家の縁戚筋は、北の盾でもあるので北西側にある。

だから橙家のある北東とは正反対だ。普段ならば主家の用事を片付けて、余裕があればついでに東まで移動するのが当然だろう。しかし今回は名目なので意味がない。いや、あの辺りを捜索したいのだからその方が都合が良いのだ。

 

それはそれとして中央のスパイなり、もしかしたらレベルで魔物が潜んでいる可能性がある。それを遠巻きに見つけるならば、直行すると警戒されるから即座に赴くのは問題があるのでこういうコースを計画したと言える。もっとも、もう一つ別の懸念もあるのだが。

 

「この過程で現在のアンデッドの状態は判ると思います。特に急ぐほどで無ければ地図を作りながら移動し、全体としては大義名分に使える貴族家の子弟を探しつつ戦力の充実を待ちます」

「そんなところか。問題は……既にアンデッドが溢れておる場合だな」

 中央の意向はおおむね判っている。

南領を操って西領を回復するか、さもなければアンデッドの大半を押し付けつけて後の動きを楽にするつもりだろう。

 

どちらにせよ上手く使われて南領を独り勝ちさせぬため疲弊させるようになっている筈だ。

 

「現時点で通行可能や連絡が行き来できる事を考えると、基本的には問題ないはずです。しかしどこかに誘導している可能性はゼロではありません」

「誘導だと?」

「ちょっと待って欲しい銀殿。そんな事が可能なのか?」

 この問いに関して僕はゆっくりと頷いた。

最初はここまでの話をするつもりはなかった。貴族の子弟ならば誰でも良いからだ。橙二尾のセンチメンタルな部分に関わるかもしれないし、橙家の子弟が望まない可能性も踏まえてあまり大袈裟にするつもりはなかった。綺麗ごとを言うつもりはないが、自分の負い目になるのは嫌だからだ。

 

しかし一つの可能性がこの話を……北東側に向かわせる。中央貴族が自分たちの安全もあってアンデッドを誘導し、余裕の出来た南領にぶつけるべく一か所に移動させている可能性だ。

 

「魔物なり邪法師の類を捕らえて『保存』しておけば楽ですが……もっと確実な方法があります。僕が敵を地形で誘導して倒したように、囮なりバリケードか何かで北東方面へ誘導してやれば良いのです。橙家を始めとしてあのあたりの貴族は壊滅してますから」

「その手があったか。悌さまこれは……」

「中央の利益にもなる。可能性は高いと言わざるを得ぬな」

 この懸念に関して悪い面も良い面もある。

悪い面は一か所に集められたアンデッドに向かって突き進むことになる。場合によっては黒幕の手で一気に開放されてしまう事もあるだろう。良い面としては現時点で多くの問題が北東に集まっているという可能性である。

 

こうして僕たちは当たって欲しくない懸念に対して真剣に取り組むことになったのである。




 と言う訳で新しい章になります。
貴族たちは疲弊から立ち直りアンデッドは楽勝でしょ?
なら別の問題をどうぞと言う感じ。
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