妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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参謀旅行

 馬車一台に隠せるだけの武装を用意して北東へ。

橙家の領地を目指し、僕らは移動することになった。後に残す黄三硯には兵員輸送車両を優先して作るように伝えている。

 

万が一、万鹿柵を北に越え東へ向かった場所にアンデッドの群れが隠されて居たら大変だからだ。その時は増援込みで数十名に過ぎぬ戦力で持ちこたえなければならない。

 

「これで何とかなりそうだ」

「殿はここに残られた方がありがたいのですがね」

「俺が殿を確実に守る。心配するな」

 領民として申し訳程度に居るだけではなく、黄三硯に続いて橙二尾を正式に登用した。

これまで対等の扱いでやや尊重してもらう程度だったが、殿呼びと改まった状態なので何だかこそばゆい。しかしこれからは公の席だけでも、上下の区別くらいはせねばならないだろう。

 

多少寂しいところもあるが、これも領主になった以上仕方ないのだと思っておこう。

 

「もし誰かに尋ねられたら、来年以降の『下見』だとでも言っておいて。あとは洞府をお願い」

「承知しております。あの御方の手を煩わせることなど決していたしませぬ」

 今回の道中は逆転の発想で中央の意向に従う場合のルートを下見することにした。

事前に地形を調査し、作戦の為に状況を把握するのは当然の事だ。だから表向きのコースは『Y』字であり、橙家やら緋家の縁戚である貴族の所に寄る本命のコースを合わせると『¥』マークのような感じになる。

 

そして洞府に居られるあの御方と言うのは当然、九天玄女さまのことだ。どうしてあの辺に重要施設が集めているのかも含めて、代官である黄三硯には神様の話をするつもりだった。しかし実際には、もう一歩進んだ対応を取ったのだ。自分でも会心の一策だと思っている。

 

『そういえば、僕の能力を強化できるって話でしたよね?』

『申したがなんぞ面白い使い道を思いついたのかえ?』

 ここに戻って来て暫くの頃である。神様が再び来臨した時に格が上がった時の話になった。

その時に決めかねていた能力の強化を決めたのだ。最初は結界の浄化だとか、認識できるようになった特殊な力を集めたり強化とか、普通に張り易くするとかエネルギー回収してリサイクルとか、夢と妄想だけは色々とあった。

 

しかし思ったのだがこれまで僕は神さまにお返しができていただろうか? 今回の件も先行投資のようなもので、本来はまだまだ先の話ではないかと思ったのである。そこで強化の使い道を別の対象に使う事にしたのだ。

 

『では娘々ご自身に、あるいは周囲の認識に働きかけることは可能でしょうか? この地に訪れた者たちに九天玄女さまのお姿とお声を伝えられるようにしたいのです」

『ホホホ。これは面白い事を言う。次に能力を格上げできるのは何時か判らぬ。わらわにソレを使うと?』

『はい。これは感謝の気持ちであり、同時に娘々の事を世間に伝え易くするためです。僕自身の為にもなりますので、追従でも気遣いではありませぬ』

 と、まあ存在力の強化または認識力のコントロールを選んだのである。

どちらであるのか僕には良く判らなかったがそれ以降、三硯たちにも紹介したら会う事が出来た。それまでは双葉に『今こんな感じでこんな話をされている』と伝えた位なもので、それも桃園の神様くらいの認識だった。それが誰も知らない概念だけの神様から姿と意思を持つ超存在に認識が変わったのである。

 

そしてこれは恩返しだとか僕のこだわりをスッキリする為であると同時に、やはり僕自身の為である。第一に神様の存在がハッキリとしていれば教義を広めるのもやり易くなるし、場合によっては僕以外にもアイデアを渡してくれることもありえるだろう。そして何より……。

 

(双葉とかいずれやって来る麗さんとかに説明し易くなるし、どっちが上とかいう戦争を見なくて済むんだよね。すっごい気が楽になった)

 実にこれが重要な事なのだ。娘々に気を使う行動を浮気と見られなくなる。

更に『誰が女性の中で一番なのか?』という質問をされた時に、ハッキリと最も素晴らしい女性は恐れ多くも九天玄女様です! とハッキリ言う事が出来る。胃が痛むことが無くなるのは凄くありがたい。

 

ともあれそういう訳で三硯たち主要メンバーも娘々の事は知っているので、何かあっても洞府だけは守ってくれるだろうし、不意の来客が居てもあそこにだけは通さないだろう。

 

「万鹿柵まで暫く何も無いから、道中で色々と変化があった時に実地で教えて行こうか」

「はい、判りました。ご指導ご鞭撻をお願いいたしますね」

 馬車は最大四人乗れるが、下に色々と隠してるので今は三人。

僕と双葉とエルフの青柳さん。今回は参謀旅行というか、地形やらシチュに応じていろいろと保全能力の使い道を説明することになる。どうせ移動中は何もすることがないし、アンデッド対策に関しては殆ど対応が決まっているから、現地の地形でも見ないと立案しようがない。

 

それならばせっかくだし、弟子一号である青柳さんに説明することにしたのだ。まあ半分は結界能力と言うよりも、化学なんだけどね。

 

「じゃあまずはこの馬車に入ると、何ができるのか。思いついたことを言ってみて」

「そうですね。扉の開け閉めで鍵の代わりに出来ます。あとは……喋っている事を聞かせない事でしょうか」

「うん。良い応えだね」

 保全能力はあくまで基本状態の維持でしかない。

変化を抑えられるが、あまりにも当然のことは留めにくいのだ。だからパパっと思いつく鍵の代わりと言うのは、判り易い例ではあるが意味が薄い。そういう使い道をしたかったら、粘着性のある液体を扉に塗るとか言う工夫が必要と伝えつつもう一つの解説に移った。

 

この概念の解説は段階を挟むので、彼女が自分で気が付いているならば説明がし易いのだ。

 

「音は囲まれた場所では伝わり難い。だから馬車の中で使用すればかなり消耗を抑えられるし、そもそも他人から気が付かれ難い。馬車の素材を変えるともっと楽になるけど、何だったらカーテンを増やしても良いね。これは温度変化にも言える共通点かな」

「確かに狭い場所では変化が起き難いですね。氷室に冷却を掛けた時もそうでした」

 洞窟の一つをコンクリで加工して冷蔵庫にした。

空気が入るようにしたうえで、二重の扉で塞ぐことで温度の伝達速度を下げたのだ。青柳は冷却の魔法が使えたので中にも魔法をかけてもらったが、この二重扉の間と外にも使用してもらった。多重の寒い空間と障壁により、冷蔵庫がようやく完成したのだ。

 

今は冷却の魔法だけだが、もし将来に氷を作る上位魔法を覚えたらもっと確実な冷蔵庫もできるだろう。しかし今は氷を夏まで保存できることを喜ぶことにした。

 

「今の話だけどポイントは二つある。工夫を凝らせば消耗が抑えられる事。もう一つは他人に気が付れない事。神職がやる事じゃないけど、隠密行動にも使えるって事だね。皮と草の靴を造れば忍び足も簡単になるとか」

「既存の知識に縛られない、創意工夫が重要と言う事ですね」

 と言う訳で青柳は素直な子なので教え易い。

道中はこんな感じで思いついたことを説明し、アンデッド対策もまた地形を使ってバリケードのコストを下げている事。そして戦う必要が無いように工夫しているのだと判り易い例を示した。

 

こうして万鹿柵までは特に何事もなく進んでいく。スパイが入り込んでいる可能性が高いので、色々と話す事には注意しながらも調査旅行が本格的に始まったのである。




 と言う訳で短めですが北上作戦の為に移動中。
相手の思惑に乗って、相手が攻めさせたい場所の周囲を調査するという名目で移動しております。
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