妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

64 / 118
南方鎮台とそのエリア

 通過点である万鹿柵は山が横に連なった様相をしている。

山の配置にも特徴が出るもので、うちの本村である壱の村は四方を囲まれた盆地である。これに対して万鹿柵は横に連なり、丁度左右に山々が見える辺りの中央部分に街道があるという構成。東西にブレはするものの『△❙△』という形が続いていると言う感じだ。

 

何も無ければさぞや通り易かろうに、砦が幾つか設けられ、今では関所やらバリケードが設置してあるので商人から見てたまったものではないだろう。それでアンデッドの大量湧きから守られているのだから、文句を付けようがないというのが事情を複雑にさせている。

 

「ここからは場所ごとに何かしらの役に立つ事や、守るべきナニカの為に考えていこうか。座学よりもフィールドワーク重視ってことだね」

「そうですね。では時々、紅梓姉さまと交代します」

 青柳へのレクチャーは保全能力および教義関連の二本立てでやっていた。

対象固定の保全と範囲への結界から始まる能力の使い方。何を信仰し、何を守るかと言った教義の設定。そしてそれらを実地で考えながら進んでいく。

 

それと同時に、外に出ているエルフの情報を固定させないでおくのが目的だ。紅梓はそのうち二尾と一緒に橙家方向へ偵察に出るので、影武者として青柳には歩きで着いてきてもらう事になる。

 

「出発前にも言ったけど僕らはこのまま北上して陥落している城を見て回る予定だよ。まずは東領との結節点までいくから『く』の字状に曲がることになるね」

「その間に私たちは東進して適当に見て回れば良いのね」

 今度は紅梓を乗せて説明会。基本的には既に話している情報の再確認だ。

僕らは囮であり、中央から命じられた話に乗る場合の下見として調査に行くのも本当。正確には城完全奪還と再築込みで、何処の道筋を封鎖して何処を確認すれば良いのかを見に行く。

 

当然ながら橙家のある方向にアンデッドを向かわせる場合は、その辺りに細工をして居るからだ。周辺の兵士たちを動員しているならば、不自然ではない様に『こちらには迎撃部隊が仕事をしている』とでも説明しているだろう。『南領で確立された手法だから、南領に任せれば問題ない』とでも言えば通ってしまうだろう。

 

「それでワザワザ交代したのは他に何か意味があるわけ? そりゃ歩くよりも楽じゃあるけど」

「うん。この辺りの地形が判って来たから怪しい場所を伝えておこうかと思ってね」

 万鹿柵を越えて南方鎮台のエリアに入った。

穀倉地帯の南端であり有事とあれば南領を抑えるべき場所だ。侯爵である紅家の領地よりも広いが、南領全体より遥かに狭いという微妙なサイズである。要するに南領が問題を起こしたら時間稼ぎをする場所だと言っても良い。独立経営が可能で財政も豊か……日本で言うと兵庫・岡山・広島、中国で言うと荊州辺りを思い浮かべてくれば判り易いだろうか?

 

ともあれ、この世界の公式地図は重要な地形は隠したり、距離やら方向をあえて間違えて記載するのが当然。正確に記した地図など軍事物資であり、所持しているだけで怪しまれることから、現地入りしないと詳細が分からないのである。それゆえにエルフメンバーのカモフラージュも兼ねて紅梓を馬車に乗せたのだ。

 

「鎮台の城郭跡を含めた街道の中心はまず関係ないから置いておくね。もし何かやってるとしたら、東領との境にある城跡、および西領との境にある同様の城跡付近……ここまでは良いよね?」

「何となくは判るわ。魔族の動きと連合軍の動きは凡そ一致してるしね」

 魔族はまず西側に現われた。当時の権力者である大公の領地を占領下に置いたのだ。

そのまま中央に雪崩込み南へ東へと軍を進めた。山がちな北を省いたとはいえ、普通ならば戦力が足りなくなるのは自明の理だ。そこで古戦場でもある穀倉地帯でアンデッドを呼び覚まし、あるいは他の地形でも現地の魔物を活性化させていったという。近い所で緋家の緋雁原などがそれにあたるだろう。その折に南方鎮台の首府である城郭、および東と西の境にある城が攻略され破壊された。

 

後に人間と異種族の連合軍が魔族の軍を打ち破り、南方鎮台や街道筋に居た魔物は『一応』は掃討されている。もちろん気が付かなかったり倒せない個体や、その後にも延々と湧き続けるアンデッドの様な例外もあるのだが。

 

「東への結節点にあった城は群雄割拠時代の物で、国家成立と共に街道が整備される前の城で今は不要ではある。だから奪還と周辺の掃討だけはしたけど、今でも周辺でアンデッドは湧いている筈なんだ。もしアンデッドの向かう先を誘導しているんだとしたら無理に倒さず、橙家のある方向へ向いた間道に流し込んでるだろうね。さっき通った万鹿柵とは別の形状で、山と山に挟まれた通り難い道へ」

 一口に道、山と山に挟まれた場所と言っても色々ある。

万鹿柵は広い街道を阻む場所であり、『△❙△』という形状だから、街道としても利用し易いし国道みたいな……馬車や荷車が何台も通れる太いラインであるとも言える。一方で全ての道がそうではなく、県道や市道レベルと成ればそうもいかない。馬車や荷車一台がやっとで、離合してすれ違うのも難しいという道の方が多いはずなのだ。

 

形状で言うと『∥❙∥』こういう感じで、山の傾斜もあるので実際にはかなり通り難い。そこへアンデッドを誘導してしまえば、ゆっくりゆっくりと向こう側へ向けて移動し続けるだろう。その向こうにバリケードでもあれば止まるし、谷ならば落下してしまうだろうけれども。

 

「さて、ここで問題なんだけどもしコントロールしてたら蓋の管理って重要なんだよね。谷に落ちる分は構わないけれど、人間なら使わないような別の道を通って元の場所に戻ったり、早めに発見されて掃討されても困るんだ。もし管理人が居るとしたら何処だと思う? 何処なら安心して寝てられるかな?」

「……山の上ね」

「正解」

 アンデッドそのものは窪地のような一段下がった場所にでも封じ込めるのが一番良い。

他の場所へ進む道をバリケードで封鎖すればよい訳だし、木製の壁ならば火矢でも放って燃やせばそれで済む。もしその行動を問い詰められても『大量のアンデッドを見かけたので周辺ごと燃やそうと思った』とでも言えばよいのだ。

 

もしそれが陰謀であるならば何処かで管理をする必要がある。中央の将軍なり貴族家の誰かが面倒くさがってるならば誘導だけして管理などしないだろう。そして周辺を観察して上手くコントロールするならば山の上が一番安全なのは僕が一番知っている。他ならぬ僕自身が確実な籠城策として一番最初にやったからだ。

 

「そいつらを発見したら倒しちゃえば良い訳?」

「ううん。むしろ発見したという事実を隠して欲しい。二尾が墓参りを済ませて戻る行程でアンデッドの行き先を発見。その後は無事に戻って僕に報告する……って流れだけ見守ってくれればいいかな。今の段階で見張りを排除する意味は無いから」

「了解」

 偶然を装って暗殺したとしても、どうせ管理人はまた派遣されて来る。

完全に排除するにはアンデッドをコントロールしている事ではなく、ソレが『陰謀の手段である』と認識されなければいけないのだ。そこまでやってしまうと相手にこちらの対応がバレて、別の手段に切り替えるなり、スパイや暗殺者を送られてくる可能性が高まるので避けたいところだ。

 

重要なのは『橙二尾による発見』と言う事実を覆い隠すために、彼を暗殺される方が困る。知って居る人間が殺されるのは嫌なものだし、大義名分的にも彼には無事に戻って報告してもらわなければならないのだ。

 

「という訳でしばらくしたら二尾が墓参りを申し出て来るから、その後をコッソリ護衛してもらえるかな? 必要なら最初の段階では姿隠しでも試してみるけど」

「誰に物を言ってるのよ。森の中を抜けるなら私が見つかるはずはないじゃない」

 この後で僕らがどういうコースと時間軸で動くかを説明。

何処で合流するかとか、何も変化が無くて陰謀が懸念である場合、怪しいけれど橙家の周囲まではギリギリで何もない場合など幾つかのパターンで作戦を詰めた。

 

二尾と紅梓たちの調査と、僕らが東領への結節点で行う調査。その二つを見比べてアンデッド問題と中央が陰謀を企んだ場合に対処する事になる。




 と言う訳で調査と言うか、その指揮ですね。
現地入りしたオフィサーがコマンド達に説明している感じ。
ただ森の中を行くエルフが味方なので安心感は高いのですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。