妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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中央南群と、その歴史

 南方鎮台のある城郭周辺の地域を南群と人は呼ぶ。

南領より北にあるのに南群というのは奇妙だが、中央から見て南と言う意味なので間違ってはいない。日本で言えば●●県●●市南区という程度の呼び名である。

 

そこは破壊された巨大な壁が残る街であり、大部分が燃え落ちてなお人々が暮らしている。正確には元の住人ではなく、平和になった後で逃げ込んできた人々であったり、僕らのような旅人であるのだけど。

 

「おっきな壁って何に対してなの?」

「元はこの街をグルリと囲んでたんだよ。この地方が昔は独立した王国で、ここが首都だった時代の名残だね。今から行く東領との境にある城も当時の物だけど、ここまでは大きくないかな」

 夜になって双葉が尋ねたのは、いわゆる総構えの城だ。

町全てをグルリと壁が囲み畑の一部もその中にあった。壁の外側には商品作物などが植えられていたという。

 

「当時は南領も中央もみんな敵対し合った群雄割拠時代でね。攻め寄せる敵を阻み、援軍の到着を待つまでこの壁は頼もしい味方だったろうね」

「でも結局負けちゃったんでしょ?」

 南群を収めた王様は時流を理解して居なかったそうだ。

東西の城を使って介入を防ぎ、あるいは同盟した諸侯が来る拠点とした。この城郭自体の防御も相当だから、援軍は基本的に間に合うから強気に出れる。周囲と疎遠にならなければ基本的に有利は覆らないと信じていたのである。

 

しかし成功体験に頼り過ぎるのは良くない。中央に大きな国……今のこの国が勃興した時、この周辺の国は一歩出遅れた。それどころか南の紅家や緋家が連合を組み、中央と強力な同盟を組んだことで同盟していた諸候すら敵に回ったのである。

 

「守ってばかりじゃ駄目って事かな。後は平和を願う皇帝陛下の御意向の賜物ってやつさ」

 まだまだやれると思っていた王と、戦いに飽きた周辺諸侯では対応が違う。

イザとなれば籠城で済む王様と、戦い続ければ疲弊していく諸侯の差は大きいのだ。強大な武力を見せつけられ、大義名分として平和による範囲を約束された諸侯では考えが違うのも当然だろう。

 

そして援軍が存在しなくなればどんなに強固な城もおしまいである。王は降伏しこの地は直轄地として南群と呼ばれるようになり、それ以降は紅家が南部の雄となったわけである。

 

「城壁が壊れてるのはその時じゃなくて、つい最近だけどね。魔王と魔族率いる魔物の軍勢が無茶苦茶やったんだ。アンデッドが湧き続けるのも関係してるけど、過去にこの辺りで戦いが起き続けたのも原因の一つだろうね」

 近年になってありえない程の災厄が襲って来た。

魔王と魔族率いる魔物の軍勢、その中には巨人族の生き残りも居たという。強力な上位魔法が飛び交い、巨人族の体当たりで城郭を囲む壁は破壊された。それでも壁に意味はあったのか、巨人族の中でも格下の殆どが討ち取られたという。元から生き残りの数が少なかったこともあり、巨人族の歴史はそこで終わっている。

 

いずれにせよこの周囲で多くの争いがあり、穀倉地帯を争って中央や西領方面と戦い続けたのは確かである。魔物によってこの地が呪われ、アンデッドが湧き出るようになったというのも不思議でも何でもなかった。

 

「あの……さしでがましいようですが、なんとか止められないのですか?」

「結界でという意味なら無理だよ。専門の神官が大規模な浄化術を儀式魔法や祭事として施すしかないと思う」

 エルフの青柳がおずおずと尋ねて来る。

この場合は保全能力で結界を張り、何とかアンデッドが湧かない状態を保てないかという質問だろう。しかし結界と言うものは魔力の浪費が大きく、発生を防ぐと言う方法では無理なのだ。

 

そういえば前に緋雁原で精霊を例として緋七司あたりに話したことがあるが、その時の例を元に少し説明し易く改変してみようか。

 

「まず何がアンデッドの発生に関与してるか特定できない。しょっちゅう戦ってる光の神の神官なら別として僕らじゃ理解するのも難しい。となると魔力が馬鹿食いする上、その原因が何処にあるかも判らないんだ」

「原因……ですか?」

「邪悪の気配とか負の生命力とか?」

 何が集まってアンデッドを存在させているかがまず判らない。

特定さえできればソレをピンポイントで封じれるかもしれないが、現状では『アンデッドは入って来るな』とキャンプ地に結界を敷くのが精々だ。それだって全魔力を動員しても、いつまで保つか怪しい所である。広ければ朝まで持つかも厳しいだろう。

 

そして封じる事が可能だったとして、邪悪な気配が別の場所で湧き出たら困るのだ。

 

「そういうのが都に集まっても困るでしょ? 最悪の場合、一か所に集中し過ぎて強力なアンデッドが生まれるかもしれない。噛みついた相手もアンデッドになるとか、特殊能力がなかったとしても巨大なアンデッドが出てくるかもしれない。巨人の死体だってその辺に埋まってるんだから」

「あ……」

 問題なのはここが穀倉地帯の南端でしかない事だ。

中央も西も穀倉地帯であり、そこで人々が争ったという事実は変わらないのだ。魔物たちは穀倉地帯を陥落させたときに、その全域で儀式を行っている。だからこそ何処かでアンデッドが湧き続けているのだ。

 

もし下手に封印などしたら、別の場所に集まって強力なアンデッドが生まれるとか、そうでないにしても今まで以上のペースでアンデッドが湧くことすらあり得るだろう。

 

「植物で例える場合は、虫を寄らせなくしたら実が成らないとか、一か所に虫の群れが集中するとかね」

「なるほど。判りました。私も気を付けますね」

 今回の件は善意の申し出と言うよりは、参謀旅行の一環だ。

同じような起きた時に、どうすれば良いのかを考える為である。だから青柳も気軽に尋ねているし、間違えたことを反省するというよりは学習の一環として捉えていた。

 

「だから邪悪な力を浄化するお祭りの方が効率良いんだよ。植物と虫の例だと、虫の接近を止めるんじゃなくて花の香りを抑えるとかね」

「できるだけ自然に近い方法で……と言う事でしょうか」

 アンデッドの邪悪な力を恨みととらえるならば……まあ自然に近いということだろうか?

こればかりは何とも言えないが、まあ呼び寄せるエネルギーを霧散化させるという意味では同じだろう。

 

そんな風に話していた時、警備に当たっていた者から申し訳なさそうに声が掛かった。

 

「すみません。商人が我々の旅に同行させてもらえないかという申し出が……」

「僕らと? 真っ直ぐに都に行くわけじゃないと説明したの?」

「はい。そう申したのですが、途中まででも良いと」

 実のところ、ソレは珍しい話ではない。

行商人が集まってキャラバン化することで、護衛の数を増やそうというのは良くある話なのだ。キャラバンが構成されれば一人旅の者なども自然と近くで寝泊まりして、少しでも危険を避けようとする。ましてこの周辺ではアンデッドが何時湧いてもおかしくない。群れようとするのは当然だろう。

 

問題なのは本当に商人なのかということだ。スパイの可能性もあれば盗賊の可能性だってある。どこかの役人が身分を隠して使者を務めたという可能性もゼロではない。

 

(僕らの行先自体は調べようと思えば調べられる。この城郭跡に着いた時に情報収集はしてるしね。だからそこで聞きつけて理由にするならば簡単なんだ。だけど商人ではないとしたら……どっちだろう?)

 本物の商人が戦力を欲しているだけならば別に構わない。

途中まで引き連れて行って別れた後の責任は負わなければ良いのだ。キャラバン目当ての大きな盗賊団なんて聞いたことはないし、居たとしても剛盾や青柳が居るから何とでもなる。大通連は居ないが、だからこそ失礼な事をして決闘沙汰になる事もない。

 

問題は盗賊が僕らを襲うために装っている場合と、スパイか何かが情報を抜くために付いて回る場合である。

 

「僕らは主命があるので東河翠道までは入らない。緑林洞の辺りまでしか行かないけれど、それで良ければ勝手に付いてくる来るのは構わないと伝えて。挨拶とかも特に要らないから」

「判りました。そう伝えます」

 あからさまにホっとした様子だけど袖の下か何かを貰ってるのかな。

農民出身の民兵じゃあ仕方ない。咎めるのも気が引けるし彼が『そういう人間』かもしれないと心のノートに付けておくだけである。

 

一回くらいで人間の評価をするべきではないが、かといって性善説で機密に近づけるのも問題だ。

 

「翠道は判るけど緑林洞って? 洞窟の中に森でもあるの?」

「その昔、東領の方向に緑家という貴族家があってね。彼らが砦代わりに使っていた大きな洞窟があるんだよ。まあ貴族家といっても実際には傭兵みたいな暮らしだったらしいけどね」

 なんでもこの南群地方の王様と同盟を組んだ貴族だったらしい。

ここの王家に関しては名前が忘れ去られても、貴族家の方はしぶとく生き残ったこともあって名前が残っている。その勇名もあって似た地名が存在しており本来の故郷が緑林山、本拠地を滅ぼされても砦である洞に籠って戦い続けたことで名前が付き緑林洞と呼ばれているそうな。

 

ランドマークの地名が苗字になるこの国では、珍しく家の方が先にあったという例である。

 

「今回は境にあるお城を抜けて、その緑林洞で引き返す予定。周辺のアンデッドを確認しないと困るけど、そこから向こうは湧き出してないそうだからね」

 東領との結節点であるお城までは当然として、その緑林洞までは行ってみる予定だ。

浄化するにしろバリケードを作って封鎖するにしろ、砦遣いしていたならばそこまではいかないと周辺のアンデッド事情が分からない。もしそこにもアンデッドが湧いていれば浄化なり封印が必要だからである。

 

逆に安全な休憩所としてキャラバンが使っているならば問題ないだろう。さっさと引き返して西領との境まで行く事にして、引き返すべきだ。……どこかで橙二尾や紅梓と合流するスケジュールになっているので東に進み過ぎるつもりはない。

 

 

なお、先に結果を言ってしまうと基本的にこの計画自体は遂行された。

基本的なんて妙な前提になって言うのは、今回出逢った商人が面倒くさい奴だったからだ。商人は商人でも大商人と人は言う……。




 と言う訳で周辺の歴史を軽く説明して、それと絡めて地形の説明。
本来であればそこで終わるつもりだったのですが、それではつまらないのと
順風過ぎるのも逆境過ぎるのも面白くないので、迷惑な中立者と言うのが出てきます。
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