妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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インフラの見積もりと大商人

 付いて来た商人は途中までは普通にしていた。

僕らの後ろを追随して邪魔にならぬよう、それでいて集団としての規模を保つ。要するに盗賊の類が警戒するレベルであり、もしアンデッドが湧いたら共同で倒せるレベルである。

 

それが奇妙な動きを見せたのは、旅の東限である緑林洞の調査を終えた時だ。

 

「ねえねえ。あの人たちまだ付いてくるよ?」

「そんな馬鹿な。僕らは引き返すんだよ。それなのに付いて来たら、彼らは何のために……」

 馬車の向きの問題で双葉が先に気がついたのだが、残念ながら事実だった。

もう訳が分からない。中央のスパイであることを覚悟はしていたが、それだってこんなあからさまな事はしないだろう。お役所仕事で付いてくるにしたって、最初に命令書と同行を認めさせるようなやり取りをするだろう。

 

それが判明したのはその夜、説明とセールスを兼ねてその人物がやって来てからだ。

 

「俺はキリー・ゲラルド。こっちで言うなら南商豪ってとこかな? まあ見ての通り大商人。未来のって意味なら南国一の大商人になる予定だ」

(こいつ……ダメな奴だ)

 何となく大通連に通じる豪快さと奔放さを感じる。

商人である以上は自嘲できるはずだが……『駄目だと言われてないことは何でもやって良い』とか言いそうな雰囲気が伺えた。僕が勝手に付いて来るのは構わないと言ったから、本当に勝手にしてるのかもしれない。

 

しかし大通連とこの男に共通することもあり、南国からこっちの国に渡ってきている連中は性格的に難のある奴ばかりなのかという偏見を抱いてしまいそうだ。

 

「それで……そのキリーさんが僕に何の用事で? 幾ら付いて来ても良いと口にしても、ずっと付いてくるつもりはないのでしょう?」

「話が早くて助かる」

 面倒くさいのとフランクなキャラに礼儀は要らないので単刀直入に聞いた。

こういうタイプは鏡写しに何でもやり返すことが多く、礼儀を口にしている間は礼儀を返して話が進まない。そして腹を探ろうとすると、晒しても良い反応しか返してくれない物だ。

 

まあ傭兵仲間の反応を思い出しながら対応しているので、こいつもそうとは限らないのだが。

 

「水棲種族の所であんたの商品を見たぜ。緋家のところで河川組合を設立したって話も聞いた。俺にはピーンと来たね。此処で商売の話が出来るってよ」

「ならその直感は外れかな。僕は別に物を売りに来たわけじゃないよ。仕事中だからね。まあ一緒にする商売のタネがなくはないけど」

 コンクリ製品でも見たのだろう。何タイプかサンプルを送って形状を選定した。

その時に使わなかった長方形のコンクリ製品を、波消しブロックではない使い道に使うからと船着き場に使用したらしいのだ。僕も同じような事に使っているし、何となく察することはできる。

 

それはそれとしてこの男はその製品が欲しい訳ではないだろう。もっと他にしたい話、あるいは前から思っていて僕を巻き込めば出来ると思った商売があるに違いない。

 

(ただの商品ならガラス製品なんだけど……。こいつ馬車を見ても何とも思ってないんだよなあ。大儲けとか恒常的な利益を考えるなら……インフラかな)

 夜になって挨拶に来たと言いつつこの男は周辺を物色していた。

その時に馬車そのものの造りは気にして居ても、透明度の高いガラスは気にしていない。まあ高炉があれば作れる品なので、似たような物を何処かで見たのかもしれない。

 

それを考えると水棲種族の所で整えた船着き場であったり、河川組合の関連で僕から何らかの大きなハコモノでも受注できると思ったのではないだろうか? 前世でもゼネコンとか儲かってたそうだし。

 

「へえ。どんなタネだい? できれば帳簿を付けるだけで済むような簡単な仕事だとありがたいんだが」

「んー。計算だけで終わる仕事じゃないけどね。そこから先は僕の裁量からは外れるから」

 ひとまず僕の関わってる任務に絡めてみよう。

その範疇ならば問題ないし、費用が生じるならば緋家への貢献と言う事に出来る。もし彼が才能があるなら仲良くなるのは良い事だし、最悪でも『証拠固め』に使えるだろう。

 

今回の任務は廃墟の視察ではなく、アンデッド探索のついでに中央の要請に乗って復興を目指しているフリをすることなのだから。

 

「例えばそうだね。さっきの緑林洞を復旧させる場合の見積もりを出してくれるかな? 商人として資材の代金や人件費ごと受注する場合と、領主たちが労役で適当に済ませる場合と……商人目線での改築を組み込む場合。それが妥当ならば、この先の城とか南方鎮台に関しても頼みたいね」

「……おもしれえ。再建の見積もりと来たか。しかしただの金勘定だぜ?」

「情報料と考えれば効果はあると思うよ。それに……君だって計算だけで済ませる気なさそうじゃない」

 この世界に見積もりという仕事はない。

正確には見積だけで金を取り、その正確さと発展性などで工事を受注する仕事自体がない。基本的には城主などの施工主が勝手に決めて、領民やら職人たちはその通りに設計してその通りに建築するだけなのだ。

 

だけれど僕は前世の経験から見積もりを仕事だと言い切った。専門家の計算が出せるならば金貨を何十枚か払っても易いくらいだ。何しろソレは『証拠』に使えるのだから。

 

「そりゃあなあ……特に南方鎮台を俺ら商人の好きにして良いと言われたら心躍るなって言う方が無理だ。そのために献金しろと言われたらそりゃあ金を出す奴だっているさ。まずは見積だけでコネが作れるって言うならば、二つ返事でこの仕事を聞いても良いように『見える』。少なくとも俺以外の奴なら即答するぜ」

「じゃあ何で頷かないのかな?」

「一つだけ確認したいことがある。あそこの城、あんたならどんな利用法を出す?」

 労役ではないインフラは金になる。

その事を嗅ぎつければ動きたくなるだろうに、この男は鋭い。単に計算するだけだと意味がない事に気が付いているのだ。

 

僕は別に試したつもりはない。本当に見積もりという『証拠』を出してくれれば、僕らが中央の指示に従うつもりがあると見えるような材料として、ありがたく買わせてもらうつもりだった。

 

「模範解答が無いと駄目って? 抜け目がないなあ。……僕ならあの城はそもそも復旧させないよ。せいぜいが街道警備や周辺整備の労役用。あとは荷物を濡らさない為の貸し倉庫かな? 西の城は見てないから言えないけど、少なくともあそこの城が役目を終えているのは判るよ」

「良い答えだ。ならその仕事を受けるぜ。俺の意見を楽しみにしといてくれ。高く買わせてやるからよ」

 南群の歴史を振り返れば東の境にある城は必要だった。

ただしそれは過去形であり、現状では復旧させるほどの意味はないのだ。群雄割拠の時代ならば周辺諸侯の軍勢を抑え、同盟者の軍勢だけを招き入れるために有用だった。東領方面の貴族であったり、南群周辺の諸侯……滅びた橙家もそうだろう。そういう貴族を利用するには重要だったのだ。

 

しかし現在では曲がりなりにも一国の支配下であり、南からこの国を制圧する気でもない限りは不要である。街道と言う意味ならば中央を経由した方が道も整備されており、よほどに早く文物を売り買いしながら辿り着けるのだから。少なくとも交易で利益を出そうと思ったら、あそこに城なんか作ってその建設費用を負担するべきではないだろう。

 

「緑林洞が終わったら、あそこの城の見積もりもお願いね。ちゃんと払うから、無理して安めの見積もりを出さずに妥当な価格にしといて」

「あいよ。その辺はちゃんとつけとくさ。安物買いをされても困っちまう」

 証拠にしたいので見積もりはちゃんと出してもらう。

費用面で復旧する意味はない、むしろ魔族などに奪取されて周囲を席巻し、中央を伺う方が問題だと意見を提出する為だ。中央の意向に従って本当に軍を出すかは別にして、割りに合わないから中断したという言い訳は重要である。

 

それに……紅梓たちと合流すべく引き返している最中なのだ。不信感を抱かれない為にも、緑林洞だけではなく、あそこの城でも調査して時間を潰しておいて欲しい物であった。何しろこの男がスパイではないにしても、情報を売り物にしていないとは限らないのだから。




 と言う訳で色々と証拠を作るために活動中。
怪しげな商人に声を掛けられたので、そいつを逆利用して証拠固めに入った感じです。

本来は今回の商人、ただのモブx2だったのですよね。
しかしモブ商人が同行を申し出ている「もしやスパイか!?」というのはつまらなかったので
味方にも敵にもなる商人に昇格させてみました。
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